かたいなか

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「先々週だったかな、空としては、『星空の下で』を書いたばっかりなんよ……」
6月の「あいまいな空」、7月の「星空」、9月頃の「空が泣く」、あるいは10月の「どこまでも続く青い空」。このアプリはともかく空ネタが多い。
都内と、ほんの少しだけ雪国を舞台に現代軸リアル連載風を書き続けているが、東京の空に「遠く」の「空」などあっただろうか。某所在住物書きは窓の外を見遣り、再度スマホのお題通知を見る。
港区や品川区、江戸川区あたりはどうだろう。たとえば、海浜公園のような?

「……奥多摩西多摩あたりも、確実に空はある」
物書きは考える。
「でも多摩は『星空』のためにキープしておきてぇのよ。『東京にだって美しい星空がある』って……」
重複しやすいお題は、空、雨、恋愛、等々等々。ネタが枯渇しないよう、引き出しは多めに持ちたい。

――――――

「春」がどこかに行っちゃったような温暖が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今日は晴れた都内某所、涼しい涼しい、森深き稲荷神社を舞台に、遠くの空の下の桜を思うおはなしです。

最近最近のおはなしです。雪降る田舎出身の、名前を藤森といいますが、最近あんまり暑いので、
春なのに木陰の涼など求めて、在来の花のたっぷり咲く稲荷神社に来ておりました。
だって、最高気温23℃など、藤森の故郷の晩春初夏。来週25℃予想が続くらしいですが、4月にそんな気温が襲来しては、藤森、溶けてしまうのです。
雪女か雪だるまみたいですね。

さて。その雪女か雪だるまみたいな藤森です。
食材の買い出しの前に、お茶っ葉屋さんでカラリ氷の涼しげな冷茶をテイクアウト。
そのお茶っ葉屋さんの店主の実家であるところの稲荷神社で、飲んでも良いと許可が下りまして、
涼しい木陰に腰を下ろし、ニリンソウにフデリンドウ、エンゴサクなんかを見渡して、
ふわり、穏やかに笑っておったところ、

くわー!くわぁー!くわうぅぅー!!
藤森の顔面目掛けて、稲荷神社在住の子狐が、郵便屋さんのポンチョを羽織って突撃してきたのです!
「おてがみ、おてがみ!お届けものです!」
しかもこの子狐、人間の言葉まで喋っちゃうから、さぁフィクション。
子狐の郵便屋さんに関しては、過去投稿分4月6日や5日あたりの作品でも取り上げていますが、まぁまぁ細かいことは気にしない。

「子狐、どいてくれ!あと私の髪など食っても美味くない!」
尻尾びたんびたん、甘え声くぅくぅ、藤森の髪をカジカジして毛づくろいのつもり。
子狐コンコン、随分藤森に懐いています。
それもそのはず。花と風と雨を愛する藤森、この稲荷神社にはよく来るのです。

子狐は藤森が稲荷神社の花を撮りに来るたび、突撃して、腹を見せて、背中も頭も撫でてもらって、
「おてがみっ!」
そして、こうして郵便屋さんのポンチョを着ているときは、藤森の後輩から預かった手紙を藤森に届けたり、逆をしたりするのです。
「手紙は分かった、分かったから!離れてくれ!」

なんとか子狐を顔から引っ剥がし、後輩からの手紙を受け取った藤森です。
「どれどれ。『拝啓先輩 今年ここ行きたい! 敬具』。……『ここ』?」
相変わらず手紙というより、グループチャットのメッセージに近い。藤森が封筒の中をよく見ると、1枚の便箋の他、カラーのチラシが畳まれて入っています。
「『これ』か」

それは、藤森の故郷の盛春を楽しむ、桜のイベントのチラシでした。
去年藤森の出身地を知り、今年の2月の帰省にちゃっかり同行して、雪とグルメと花を堪能した後輩です。
今度は藤森の故郷の桜を、東京より遅く涼しい薄桃色の氾濫を、スマホで撮りたいようです。

「あそこの桜は、たしか今……」
雪国出身の藤森、遠くの空へ、思いを馳せます。
藤森の故郷からは少し離れた、しかし同じ都道府県内のイベント会場であるそこは、子供の頃、藤森自身もよく連れて行ってもらった思い出の場所。
東京の桜は見頃のピークを過ぎましたが、遠くの空の下、故郷の桜の木は、今頃どうしているのやら。

「子狐おまえ、まぁ行かないとは思うが、仮に私が桜の故郷に帰省するとしたら、何か欲しいものは?」
後輩からの手紙を畳んで封筒に戻して、藤森、尻尾をぶんぶん振り回す子狐の背中を撫でました。
子狐は食べ物やらお花やら、何かの善良な匂いを感じたらしく、尻尾をびたんびたん、更に幸福に振り回して、藤森の頬という頬、鼻という鼻をべろんべろんに舐め倒しましたとさ。

4/13/2024, 4:01:54 AM