かたいなか

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「神様、来たな、かみさま……」
神様はこのアプリ、3部作になるのよ。今月の「神様へ」と7月あたりの「神様だけが知っている」、それから「神様が舞い降りてきて、こう言った」なんよ。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、今回はどのネタで行くべきか途方に暮れていた。
前回はそのまま、丁度自分の持ちネタに「稲荷神社に住む子狐」というキャラが居たため、文字通り「神様」を登場させた。
「神様だけが」に関しては、同設定を利用して、「御神木だけが知っている」とした。
今回は、どうすべきか。

「いっそ二番煎じも可能なんよ」
物書きは言った。
「だって約360個前の、長文の投稿だぜ。スワイプなんか面倒で面倒で、できやしねぇ。
……ただ俺自身も過去記事参照クソ面倒だがな」

――――――

すごくリアルな夢を見た。
私は自分のアパートで寝てて、そこに、職場で長い付き合いの先輩がいつの間にかお邪魔してる。
その先輩は今どの部署で仕事してるか、どこに住んでるかも分からない、藤森っていう名前の先輩で、
今月の2月まで一緒に仕事してた筈の、雪国出身の花好きなひとだった。

『起きろ。寝坊助』
夢の中だから、先輩が自分の部屋に居るのも、全然変に思わない。
『私の故郷の、桜のイベントに行きたいと言っていたな。支度しろ。新幹線の始発に乗るぞ』

私がおととい、13日頃に先輩に、「先輩の故郷の桜を見たい」とか手紙を書いて、
その手紙を、先輩の居場所を知る稲荷神社の子狐ちゃん(子狐くんかも)に持たせたのを、
ひょっとしたら、神社の神様が見てて、「願いを叶えてやろう」って、そういうシチュエーションの夢を見せてくれてるのかも知れない、
と、「夢の中の私は」、考えた。

『昨今のインバウンドだの、5類移行だのの影響で、あそこに関しては観光客が激増してしまった』
夢の中の先輩は言った。
『平日、かつ桜のまだ満開でない今、行ったほうが人は少ないし、ゆっくりもできる。
有給休暇は既に申請済みだ。急げ』
実際に先輩の故郷の桜が、まだ満開じゃないか、そもそも咲いてないか、いっそ既に見頃のピークかは知らない。ニュースの桜前線見てない。

神様へ。そのへん、どんなモンですか。
先輩の口調も、仕草も、バチクソにリアルで、ほぼほぼ4K8Kの高解像度な夢だけど、
神様へ、その辺の設定は、反映されてるモンですか。


――『私の実家の一番近く、お前が先々月行った「あの公園」に関しては、最近の高温でようやく開花宣言、あるいは1〜2分咲きの頃だと思うが、』
夢の場面が変わる。
舞台は私のアパートから、新幹線の車内に移る。
『お前が行きたいと行った方に関しては、既にある程度、咲いて桜を楽しめる程度にはなっている』
新幹線の中で私は、冷たいお茶と駅弁を楽しんで、先輩からイベントの場所の予備知識をご教授頂いて、

なんでだろう、稲荷神社がご実家の、漢方医な旦那さんとお茶っ葉屋さんな奥さんが、
私達の座席の、通路越しの隣で、
膝に例の子狐が入ったキャリーケースを載せ抱えて、
すっごく穏やかな顔して稲荷弁当食べてる。
くぅくぅ、くっくぅくぅ。
子狐の幸せそうに歌う声が、先輩の解像度同様、バチクソリアルに聞こえた。

『早咲き、ソメイヨシノより先に咲く桜に関しては、だいぶ開いている筈だ。胴吹き桜も咲いている筈だから、桜の木の幹を、よく見てみるといい』
お隣さんのことなんて、夢の中の先輩は気にしない。
『どーぶき?どーぶきって、何?』
夢の中の私も、お隣さんのことを気にも止めない。

『年齢を重ねた桜は、枝ではなく、幹から花を咲かせることがある。私の故郷の桜では、よく見られる』
『キレイ?可愛い?』
『どちらかというと、ちょこんと咲いているから、可愛いに分類されるだろう』
夢の中の私と先輩は、ただふたりして、駅弁とお茶を楽しんで穏やかにおしゃべりをして、

『さぁ、そろそろ――』
そろそろ、降りるべき駅に着くぞ、
ってところで、
案の定、夢から覚めた。

――「……知ってた」
気がつくと、最高気温夏日の朝、ベッドの上。
「うん。夢だよね。知ってた」
丁度スマホのアラームが鳴って、それを解除して、
バッタン。再度ベッドに倒れ込む。
もう少しだった。たとえ夢の中だけど、もう少しで、桜のイベントに行った気分になれた。

「あのさぁ〜……」
神様へ。せっかくあそこまで、夢を見せてくれたなら、力尽きずに最後まで夢見させてください。
私は大きなため息ひとつ吐いて、
仕方無いから、その日の出勤の準備にとりかかった。

4/15/2024, 2:29:50 AM