「想いを詰め込んだDMが未読か送信不可、
バチクソ怒ってる相手に何度も謝罪と説明を繰り返すが全然伝わってない、つまり心に届いてない、
何時間も前から行列に並んだけど、自分の購入の番まであと2人ってところで届かなかったケーキ。
……『届かぬ』にも『想い』にも、色々あるわな」
個人的な実体験としては、「『こういうハナシを書ける物書きになりたい』って目標の同業は居たが、『目標にしてます』って想い、メッセージは、届けるつもりも予定も無い」ってとこかな。
某所在住物書きは今回配信のお題をネット検索しながら、ヒットした同名の歌の歌詞とサムネイルを見て呟いた――サジェストによればドラマもあるらしい。
観たことはない。
「電波の関係でDMが届かない、ってシチュは、なかなか書きやすそうだな」
物書きはひとり小さく頷いた。
「来年用に、ネタとしてストックしとくか……」
なお大抵そのストックは忘れられ、記憶から消えるらしい。「未来に届かぬ」ということで、今回のお題に少しは合致しているかもしれない。
――――――
早朝にトレンドが荒ぶった火曜日だった。
某キャリアの3G終了を見届ける投稿の横で、大っ量の「寝る前」がどうの、「助けが必要」がこうの。
投稿アカウントが、全員全部漢字ばっかり、っていうワードもあった。ブロックリスト提供あざすです(どうせブロックしてもすぐ次のゾンビさんが来る)
……呟きックス、今からでも遅くないから元の呟きアプリに戻らないかな(届かぬ想い)
で、そんなこんなの火曜日のお昼前。
ウチの支店は普段、あまりお客さんが来ないけど、
その日に限って、いつもに比べれば、チラホラ来客の姿があって、常連さんは支店長と一緒にお茶飲んだりお菓子食べたり。
そのお菓子が絶品だ。ウチの従業員の付烏月さん、ツウキさんお手製のプチまんじゅうだ。
あんバターに、あんホイップに、あんチーズ。勿論普通のあんこ味もある。
全部に1枚ずつ、桜の花びらが乗っかってる。桜の塩漬けっていうらしい。
東京の桜はもう結構散っちゃったし、最近春らしくない20℃超えばっかりの日々だけど、
桜の花びらを1枚くっつけたおまんじゅうは、確実にお客さんの目と舌を楽しませてた。
「ぶっちゃけ、作るの『は』、好きなんだよねぇ〜」
私のデスクに茶托と湯呑みをコトリ置いて、少しだけ申し訳無さそうな付烏月さんが言った。
「作るじゃん、作り過ぎるじゃん、独りじゃ全部は食べられないじゃん。……おすそ分けで持ってきて『美味い』って言ってもらえるからまた作るじゃん」
湯呑みの中にはアイスな緑茶。2個の氷が涼しい。
「堂々巡りだけど、まぁまぁ、この裏事情はお客さんにも支店長にも届かなくてイイよね」
一緒にバチクソ小さいけど、高級うな重に乗っかってる飾りの葉っぱみたいなのが浮いてる。ナニコレ?
「付烏月さん、湯呑みに浮いてるコレ、うな重の葉っぱみたいなの何」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「で?ツウキさん」
「木の芽だよん。山椒の葉っぱ。春の味覚と香り」
「ふーん」
「天ぷらにしてお塩振ると美味しい」
「マジ?!」
「山椒味噌も美味しい。今日お弁当に入れてきたから、ちょっとおすそ分けしたげる」
「あざすです附子山さん!」
スーパーで買うと少し高いし量が多いけどね。
お茶に入れると簡単にフレーバーティーになるから、余っちゃったら、丁度良いよね。
付烏月さんは追加情報を提示しながら、自分のデスクでノートのスリープを解除して、カタカタパチパチ。
自分で淹れた山椒入りのアイス緑茶を飲みながら、
昼休憩まで残り数十分のラストスパートをしてる。
(天ぷらと、味噌か)
湯呑みに口をつけ、日本茶の若葉色を喉に通すと、山椒の若葉のジャパニーズシトラスが鼻に抜けた。
湯呑みの中の氷が動いて、涼しげで、耳に心地良い。
(……チューハイよりはビールかな)
付烏月さんお手製の桜プチおまんじゅうを1個貰って、桜と山椒を一緒に楽しみながら、
だけど氷の音と「天ぷら」と「味噌」のせいでどうしてもお酒が頭から離れなくなっちゃって、
まぁ、まぁ。
そういう食欲、そういう勤務時間外のリクエスト、そういう想いは、誰にも届かない方が良い、と思った。
4/16/2024, 3:15:32 AM