かたいなか

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2/2/2024, 3:39:31 AM

「第一印象は『思い出の◯◯』、例のカードだけど、振り子モンスターなカードもあるのな……コブラ?」
9月23日頃に「ジャングルジム」ならお題に出てたわ。某所在住物書きは某カードゲームのデータをスワイプで確認しつつ、今回投稿分のネタを探していた。

何年乗っていないか分からぬブランコ。振り子運動を比喩として使えば、暖寒暖な昨今の気温差、気温の乱高下を物語として落とし込めるかもしれない。
あるいはソシャゲのブランコ乗りキャラか、もうすぐ公開から2年の某映画、宇宙人2名の公園会談か。
「ぶらんこ……?」
ポツリ。物書きがお手上げよろしくお題を呟く。
何を書けと。 どのように書けと。

――――――

都内某所、某茶葉屋近くの静かな公園、夜。
近所のアパートに住む、名前を藤森というのだが、
ブランコにひとり腰掛け、子狐1匹抱きしめて、その子狐に頬だの鼻だのをベロンベロン舐め倒されている子供を、近くもなく遠くもない距離から見ている。

子狐は藤森と目が合うたび、
ぎゃっ、ぎゃん、ぎゃん!
二声三声威嚇して、また子供を慈しむように舐める。
ランドセルを背負った、小学校低学年と思しき少女だか少年だかは、泣いているらしい。
時計を確認すれば、もうすぐ22時。ブランコから一歩も動こうとせず、肩を震わせている。

「藤森です。子狐、見つけました」
スマホを取り出し、電話をかける。
「ただ、連れて帰れそうにないので、『無事で、安全な場所に居ます』とだけ」
失礼します。 言って通話を切ろうとした藤森が、あらためて子狐の方を見ると、
どこから取り出したやら、器用に前足でドッキリ風の横看板を持ち、こちらに向けている。
看板にはただ5文字。
【あと5ふん】

「……あと5分したら帰るそうです」
藤森は小さなため息を吐いた。

――時は少々さかのぼる。
公園近くの某茶葉屋は、女店主が近所の稲荷神社に住まう神職の家族。看板猫ならぬ看板子狐が、たびたび店内を巡回している。藤森は茶葉屋の常連である。
その日の仕事帰り、茶葉屋へ寄ったところ、
店主から、「夜のお散歩から帰ってこない子狐を、ちょっと探してきてほしい」との依頼。
報酬は稲荷の米麹で作られた甘酒と、その甘酒を使用した生チョコ2箱。しめて税込み5555円。
日頃世話になっている店からの要請である。断る理由も無く、藤森は子狐の捜索を始めた。

子狐が毎度毎度姿を見せる藤森の部屋にはおらず、
では子狐の実家の稲荷神社の森の中で、長い昼寝の続きでもしているかと思えば、外の寝床は空っぽ。
「猫又の雑貨屋」なる雑貨屋にも、「本物の魔女が店主」という噂の暖かいカフェにも居ない。
心当たりをあちこち探して、気がつけば、1時間以上歩き回ってもうすぐ22時。

向こうの公園に、ブランコに座っている者がある。
ふと見た光景が気になった。
よくよく見れば、子狐を抱えている。

『こぎつね、』
いつもであれば、呼べば尻尾を振り常連たる藤森に突撃してくる子狐が、その日に限ってひと目見るなり、
ぎゃん、ぎゃん!
子狐なりの精一杯で、藤森を威嚇するのである。
児童の保護要請のため、110番しようとすれば、よりいっそう、子狐ギャンギャン。大声で吠えた。
『子狐。分からないのか、私だ』
ぎゃん!ぎゃん、ぎゃん!
『店主が心配している。一緒に帰ろう』
ぎゃぎゃっ!ぎゃぎゃぎゃん!

『こぎつね……』
ため息を吐き、どうすべきか途方に暮れて、
そして、物語冒頭へ至るのである。

店主に子狐発見の一報と、「あと5分」の意向を伝え、公園から離れた藤森。
結局あの子供は誰で、何がどうで、何故ブランコに座っていて、いかにして子狐が彼/彼女の頬なり鼻なりをベロンベロン舐め倒すことになったのか、
藤森が知ることは、ついぞ無かった。

2/1/2024, 5:10:49 AM

「約340日程度アプリ続けてきて、それを旅路と想定するなら、『果て』に習得したのって、見てて不快に感じる広告動画の強制終了方法よな」
Bluetooth機器の接続ないし切断、音量調節ボタンを押してそこから設定画面に入りアプリを終了、いっそ一旦スマホの再起動。
文章投稿アプリで得た一番の有用技能が、よもや広告動画を誤タップせず、安全に終了させる方法とは。
約1年前の自分など、考えもしなかっただろう。
ため息ひとつ吐き、某所在住物書きはスマホを見た。

カウントダウンとともに映し出されているのは、ありふれたゲームアプリの下手くそプレイ映像。
この程度なら我慢できる。30秒待てる。
何故12歳以上対象アプリで20歳以下アウト系を見せられているのか。
「買い切りの広告削除オプション、はよ、はよ……」
再度、ため息。物書きはポツリ呟いた。

――――――

2月だ。2月の東京は、明日から冬の寒さだ。
ウチの職場の、ゴマスリしか特技の無い、面倒な仕事を全部部下に丸投げしてたゴマスリ係長が、突然2月いっぱいで退職することになった。
理由は簡単で、自業自得。
自分の仕事を自分でやってないことがバレて、「次にお前、不当に部下に仕事丸投げしたら、ヒラに戻すからな」ってお叱り食らって、
1月末からちゃんと、自分の仕事を自分でやるようになったんだけど、結局、全然続かなかった。

去年の3月にオツボネ前係長の新人イジメがバレて、4月からオツボネの代わりにゴマスリが来て、
今年は、そのゴマスリのサボりがバレる。
激動だ。私の職場の、私の部署の、係長人事に関しては、確実にこの1年間、山あり谷ありの旅路だった。

「そういえば先輩も今年、結構激動だったよね」
「激動?私の例の、元恋人とのトラブルのことか?」
「それ。ふぁっきん元恋人さん」

2月最初の昼休憩。誰が電源入れたか分からないテレビモニターは、情報番組のなんか美味しそうなグルメ映像を流してる。
いつも通りのテーブルに、いつも通り職場の先輩と座って、いつも通りお弁当広げて。
別に理由も目的も意図も無いおしゃべりをして、
いつもは缶コーヒーのところ、今日はペットボトルの紅茶を飲む。

「だって7月に再会して、8年越しだったんでしょ?先輩は会いたくないのに、向こうが粘着してきて?」
「9月に職場にまで押し掛けてきて、お前にも職場にも直接的な迷惑がかかって。
そこで私が10月末、アパートを畳んで実家に引っ込もうとしたとら、お前が『行くな』とゴネた」
「結果11月にスッパリ縁切れて、良かったじゃん」

他にいつもと違うのは、先輩が私に、米麹甘酒入りのレアチーズケーキをシェアしてくれたこと。
なんでも昨晩、近所の稲荷神社の子狐にジンジャーホットミルクをご馳走したら、親御さんから同額相当のお礼として貰ったとか。
ふーん(同額のチーズケーキというパワーワード)
……「親御さん」?(もしかして:飼い主さん)

「たしかに、激動といえば激動な旅路の、1年だったような気もする」
チーズケーキ食べて、紅茶に口をつけて。ぽつり、ぽつり。先輩は遠いどこかに視線を置いて呟いた。
「『いつも通り』がテンプレートの日常なのにな。
係長が2度も変わって、8年前に私をSNSでこき下ろしていたあの人とバッタリ会って、追われて」

はぁ。 先輩は小さなため息ひとつ吐いて、また紅茶に口をつける。
「その旅路の果てが『コレ』だと、もう少し早く、なんなら最初から、分かっていればなぁ」
で、再度ぽつり。先輩はどこかを見続けて、でも表情は多分、穏やかだった。

「『旅路の果てが「コレ」』 is 何」
「別に。『コレ』は『コレ』だ。『いつも通り』さ」
「どしたの。しんみりしちゃったの。エモなの」

「チーズケーキ、もう1個食うか」
「たべる……」

1/31/2024, 8:24:11 AM

「『届かぬ想い』ってネタなら、4月頃に1回書いてたわな……」
そろそろ、書きやすいお題、かもん。
某所在住物書きは「届けたい」の4字に苦戦して、書いた物語を消しては書き直し、消しては書き直し。
最終的に、次のネタ配信まで残り2時間をきったあたりで、ようやく無理矢理にこじつけた。

最初は職場の後輩に、先輩の実家から防寒着が届く物語。それから雪国出身者のアパートに、その親友から忘れ物が届くハナシ。
今朝の気温の高さに半袖を着たモンスターカスタマーがご来店な茶番も書いたが、20行で力尽きた。
「好意をあなたに届けたい」?ウチは恋愛ネタを書いてないのだ。
「……次回も書けねぇネタだったら、今度こそ、ホントにお題無視でひとつ投稿しちまおうかな」
物書きは頭をかかえ、暗い窓の外に目を向けた。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、デスクでキーボードに指を滑らせ、翌日の仕事の準備をしている。
パタタタタ、パタタタタン。防音防振の行き届いたぼっちの室内に、打鍵の音が小さく響く。
ため息を吐いて、茶をひとくち。
後ろを振り返ると、

「おいしい。おいしい」
物言う子狐が1匹、前足で器用にマグカップを支え持って、ちうちう、ちうちう。
ジンジャーのきいたホットミルクを飲んでいる。

尻尾で床を高速ワイパーする様子は、至福の感情表現の極致。よほど好ましいのであろう。
「おかわり!」
キラキラ光る瞳で藤森を見つめ、子狐コンコン。
見つめられた方が再度、ため息を吐いている。
これで4杯目だ。何杯飲み干すつもりだろう。

物言う子狐は稲荷神社の在住。週に1〜2回、稲荷のご利益豊かな餅を作って、藤森の部屋に売りに来る。
藤森は餅売り子狐唯一のお得意様。
昨日は小さな大福餅を5個売って、テーブルの上にあったジンジャーホットミルクの匂いをかぎ、ぺろぺろ。結果、全部飲み干した。
その味をどうやら気に入ったらしい。珍しく2日連続で部屋を尋ねてきた子狐は、
部屋に入るなり開口一発、「昨日の、ちょうだい」とコンコン。目を輝かせたのである。

丁度、今月賞味期限のジンジャーパウダーの消費先に困っていた藤森。
軽い気持ちで、牛乳を火にかけ、ジンジャーを振り、シュガースティックでかき混ぜた。

はいどうぞ、いただきます、おかわり。
はいどうぞ、いただきます、おかわり。
稲荷の子狐に届けたホットミルクは計4杯。
いっそ大鍋にリットル単位で作って、それをテーブルに届けてやろうかと、思い始めたとか、さすがにそれには牛乳が足らぬとか。

タン、タン。
ノートの電源を落とし、その日の仕事を終えた藤森。
どこにこの量のホットミルクが収まっているのやら、子狐の幸福に膨れたおなかをじっと見て、小さく首を振り、3度目のため息を吐いた。

「子狐。こぎつね」
「なあに」
「作り方、教えてやろうか」
「キツネ、おうちで作った。からかった。おいしくない。おとくいさん作って。いっぱいいっぱい作って」
「多分ジンジャーの入れ過ぎだ」
「ちがうもん。おとくいさんが作らないと、おいしくないんだもん。きっとそうだやい」
「こぎつね……」

一緒に作ろう。 やだ。
お前の家にレシピ届けようか。 やだ。
子供らしいヤダヤダ問答が続いて、藤森が根負けして、仕方がないのでもう1杯だけ作ってやって。
今月賞味期限のジンジャーパウダーと冷蔵庫内の牛乳を全部使い切ったジンジャーホットミルクを、子狐はぺろり飲み干して、
満腹になったらしく、その場で電池が切れてご就寝。

最終的に、子狐は2枚合わせハーフ毛布にくるまれ、ホットミルクのレシピを書いたメモと一緒に、
子狐の実家であるところの稲荷神社、その敷地内の一軒家に、優しく届けられることとなった。
子狐のジンジャーホットミルクのトレンドは、その後3日4日続いて、パッタリ、突然終わりましたとさ。
おしまい、おしまい。

1/30/2024, 12:00:28 AM

「アプリ入れて330日くらい、連載風の投稿続けて思ったんだけどさ。多分、通年スパンの連載モノとこのアプリ、相性少し悪い、気がする」
「I LOVE」と言われても、「アイデア」だの、「アヤメ科」だの、あとパックご飯に家電製品しか思い浮かばぬが。某所在住物書きは頭をガリガリかきながら、これで少なくとも10度目の恋愛ネタに苦悩した。
4月か3月末あたりには「My Heart」なんてお題もあったが、もう、何を投稿したやら。

「3個程度のお題にまたがってて、1話1話独立したハナシとしても読める物語なら、長編投稿、無理じゃねぇと思うの。問題は数ヶ月前の投稿との繋がりよ」
物書きは話題を不得意なLOVEから離し、言った。
「なんでって?……過去参照方法がスワイプしかねぇから面倒。自社調べ」
キャラの通年使いまわしは確実に可能よ。問題は「今日は◯ヶ月前の物語の伏線回収です」なんよ。
物書きはため息を、それはそれは大きなため息を――

――――――

今日は、多くの地域で2月から3月並みの最高気温だそうですね。それでもさすがに、朝夕はどうしても寒い気がするのです。
今回は都内某所の某稲荷神社から、飲食的な意味でちょっとほっこり、不思議な子狐のおはなしです。
都内にしては深め深めの森の中、いつか昔の東京を残す神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておるのです。

最低気温5℃未満の朝、狐の一家の末っ子が、ふわわ、寒さで少し早めに起きました。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、絶賛修行中の子狐。
最近ようやく、人間のお得意様がひとり付いたところ。昨日もぺったん、稲荷のご加護と、狐の不思議なチカラがちょいと詰まったお餅を作って売って、お得意様にちょいちょい遊んでもらいました。
お家に帰ってぐーぐー、すぴすぴ。夢の中でもお得意様と鬼ごっこしていた子狐は、結果毛布とお布団が、おなかの上からログアウト。そりゃ寒いのです。

「寒いなぁ、さむいなぁ」
コンコン子狐、愛しの毛布に潜り込みますが、ちっとも暖かくありません。毛布の溜め込んだ熱が、長いログアウト時間のせいで、無くなってしまったのです。
「ホットミルクで、あったまらなきゃ」
あんまり暖かくない毛布の中に潜っていたって、人間より少し高めな狐の体温をもってしても、すぐに暖かくはならぬのです。
コンコン子狐、愛しの毛布から抜け出しまして、とてとてとて、とてちてちて。お台所に行きました。

今こそ、昨日お得意様が飲んでた(のを子狐が興味本位でペロペロした)ホットミルクを試しましょう。
大人な背伸びドリンク、ピリピリ味、ショウガのきいたジンジャーホットミルクを試しましょう。
あのカッコいい味の飲み物を、少し疲れた目をして、遠くを見ながら、ザンギョー云々ジョーシ云々、カッコいい呪文を呟きつつ、おなかに収めるのです。
それはそれは、カッコいいに違いありません。子狐、子供なので「カッコいい」を愛しておるのです。

「牛乳と、ちょっとのお砂糖と、あとなんだっけ」
朝ご飯の準備をしている大好きな大好きな母狐とおばあちゃん狐に、ちょっと牛乳を分けてもらって、
ふつふつ、ふつふつ。小ちゃな子狐用のお鍋で加熱。乳脂が焦げ付かないように、弱火はもちろん、砂糖もちゃんと、振りましょう。
「そうだ。ジンジャーと、シナモンだ」
砂糖が溶けて、牛乳が温まったら、某青い小瓶のジンジャーパウダーとシナモンパウダーを、
どれくらい入れれば良いか分からず、振り振り、フリフリ。ひとまず適当に投下しまして……

「わっ、からいッ!」
ぎゃぎゃっ!ぎゃぎゃぎゃっ!!
あんまり投下し過ぎたらしく、子狐、ピリピリ大量ジンジャーの効果で、一気に目が覚めました。
「おかしい、おかしい!おとくいさんが飲んでたミルク、カッコいい味だったのに!コレからいッ!」
ぎゃん!ぎゃん!
舌に残って取れないジンジャーのピリピリと、そのピリピリに打ちのめされて暴れる敗北は、子狐の愛する「カッコいい」から、随分離れておりましたが、
少なくとも、そのジンジャーのおかげで、体はポカポカ温まりましたとさ。 おしまい、おしまい。

1/29/2024, 3:27:08 AM

「このアプリ入れて最初のお題が、『遠くの街へ』だったのよな……」
まさか、2月に「近くの街へ」だの、「遠くの町へ」だの、そういう変化球来ないよな。某所在住物書きは今日も相変わらず、自分の執筆スタイルから何が書けるか、悶々に悩んでネット検索をさまよっている。
「街」と「町」は違うらしく、かつ、街の説明が各ページごとにゴチャゴチャ違う。
商店街、住宅街、街道に街頭。どの説明と、どの語句に基づいて街を書けば、楽に今回投稿分が終わるか。

「逆に『町』って、熟語少ない、ワケでもない?」
街に困ったら、町も調べよう。物書きは「町 熟語」に執筆のヒントを見出そうとして、
検索をかけた途端、「町」の字がゲシュった。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、早朝。
部屋の主を藤森といい、街に花と山野草あふれる雪国の出身で、ここ数年、例の感染症のために帰省をずっと見送っていたのだが、
国内での感染確認から4年、とうとう5年目に突入する泥沼と、なにより今回の題目が題目であったので、
過去の波の事例から、第10波の感染者数は2月末、3月上旬頃には減少に転じると賭け、予想し、
スマホで新幹線の予約を、取ろうとして、チケットの枚数で、悩んで首筋をかき、ため息を吐いていた。

職場で長い付き合いの後輩は、生粋の東京都民。
藤森のスマホに実家の花が、雪が送られてくるたび、あるいは藤森の部屋にクール便で到着した、田舎クォンティティーの野菜等々を分けてもらうたび、
「連れてって」と、何度も駄々をこねた。
本人は世辞でも社交辞令でもないと言う。
事実だろうか。多分事実だろう。五分五分の確率で。

はぁ。
ぼっちの部屋に再度、ため息が溶けた。
ひとりで勝手に帰省して、土産のひとつでも買ってきて、事後報告するのが無難なのだ。
――去年後輩にデカい借りさえ作らなければ。

(8年越しの恋愛トラブル、粘着質な加元さんとの縁を切れたの、完全にアイツのおかげなんだよな……)

詳細は過去11月13日投稿分だが、スワイプが酷く、至極、わずらわしい。
要するに理想押しつけ厨の元恋人に執着され、職場にまで押し掛けられた藤森に、トラブル解消のきっかけを与えたのが、何を隠そう、この後輩であったのだ。
五分の世辞を警戒して単独帰省を敢行して、実は本心が五分の事実の方だったとき、
土産を受け取った後輩の、心的温度はどこまで急降下、あるいは急上昇するだろう。

『せんぱぁい?』
目を細め、口角が上がっているようで実は唇一文字、瞳がちっとも笑っていない後輩を、藤森は容易に想像することができた。
『わたしね、何回も、先輩に、「先輩の街へ連れてって」って、言ったような気がするの』
くしゃり。
きっと藤森が購入したご当地菓子だの、小さな紙製の包装箱だのは、秒で握りつぶされるだろう。
『ところで、加元さんの件、私、先輩からまだ貸し、取り立ててなかった気がするの。
桜が咲く頃とか予定無い?先輩の親友の、隣部署の宇曽野主任も、誘っちゃって良いかなぁ』
わぁ。たいへん。

「……話題だけ振っておくか」
高解像度の後輩が、藤森の脳内でスマホをかかげて、グランクラス料金で座席を予約する。
さすがに現実になっては困るのである。
藤森は時計をチラ見し、モーニングコールの名目には丁度良い時刻であることを確認して、
それとなく、ただそれとなく、後輩にメッセージを、
送ろうと思い立って、しかし送信直後に思い直し、
わざわざ朝っぱらに変な話題を提示するより、昼の休憩中にしれっと話す程度で良いだろうと考え、
最終的に、スマホを通勤バッグに突っ込んだ。

その日の昼休憩で予定通り、藤森は帰省時の新幹線の座席予約について、それこそしれっとサラっと、後輩に話を出したのだが、
結果として、後輩の本心は五分の事実の方だったらしく、グランクラスの出費は見事に回避された。
今年の2月末から3月上旬頃、藤森は後輩とともに、故郷たる花と山野草あふれる雪国の街へ、帰省することになる。

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