かたいなか

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「第一印象は『思い出の◯◯』、例のカードだけど、振り子モンスターなカードもあるのな……コブラ?」
9月23日頃に「ジャングルジム」ならお題に出てたわ。某所在住物書きは某カードゲームのデータをスワイプで確認しつつ、今回投稿分のネタを探していた。

何年乗っていないか分からぬブランコ。振り子運動を比喩として使えば、暖寒暖な昨今の気温差、気温の乱高下を物語として落とし込めるかもしれない。
あるいはソシャゲのブランコ乗りキャラか、もうすぐ公開から2年の某映画、宇宙人2名の公園会談か。
「ぶらんこ……?」
ポツリ。物書きがお手上げよろしくお題を呟く。
何を書けと。 どのように書けと。

――――――

都内某所、某茶葉屋近くの静かな公園、夜。
近所のアパートに住む、名前を藤森というのだが、
ブランコにひとり腰掛け、子狐1匹抱きしめて、その子狐に頬だの鼻だのをベロンベロン舐め倒されている子供を、近くもなく遠くもない距離から見ている。

子狐は藤森と目が合うたび、
ぎゃっ、ぎゃん、ぎゃん!
二声三声威嚇して、また子供を慈しむように舐める。
ランドセルを背負った、小学校低学年と思しき少女だか少年だかは、泣いているらしい。
時計を確認すれば、もうすぐ22時。ブランコから一歩も動こうとせず、肩を震わせている。

「藤森です。子狐、見つけました」
スマホを取り出し、電話をかける。
「ただ、連れて帰れそうにないので、『無事で、安全な場所に居ます』とだけ」
失礼します。 言って通話を切ろうとした藤森が、あらためて子狐の方を見ると、
どこから取り出したやら、器用に前足でドッキリ風の横看板を持ち、こちらに向けている。
看板にはただ5文字。
【あと5ふん】

「……あと5分したら帰るそうです」
藤森は小さなため息を吐いた。

――時は少々さかのぼる。
公園近くの某茶葉屋は、女店主が近所の稲荷神社に住まう神職の家族。看板猫ならぬ看板子狐が、たびたび店内を巡回している。藤森は茶葉屋の常連である。
その日の仕事帰り、茶葉屋へ寄ったところ、
店主から、「夜のお散歩から帰ってこない子狐を、ちょっと探してきてほしい」との依頼。
報酬は稲荷の米麹で作られた甘酒と、その甘酒を使用した生チョコ2箱。しめて税込み5555円。
日頃世話になっている店からの要請である。断る理由も無く、藤森は子狐の捜索を始めた。

子狐が毎度毎度姿を見せる藤森の部屋にはおらず、
では子狐の実家の稲荷神社の森の中で、長い昼寝の続きでもしているかと思えば、外の寝床は空っぽ。
「猫又の雑貨屋」なる雑貨屋にも、「本物の魔女が店主」という噂の暖かいカフェにも居ない。
心当たりをあちこち探して、気がつけば、1時間以上歩き回ってもうすぐ22時。

向こうの公園に、ブランコに座っている者がある。
ふと見た光景が気になった。
よくよく見れば、子狐を抱えている。

『こぎつね、』
いつもであれば、呼べば尻尾を振り常連たる藤森に突撃してくる子狐が、その日に限ってひと目見るなり、
ぎゃん、ぎゃん!
子狐なりの精一杯で、藤森を威嚇するのである。
児童の保護要請のため、110番しようとすれば、よりいっそう、子狐ギャンギャン。大声で吠えた。
『子狐。分からないのか、私だ』
ぎゃん!ぎゃん、ぎゃん!
『店主が心配している。一緒に帰ろう』
ぎゃぎゃっ!ぎゃぎゃぎゃん!

『こぎつね……』
ため息を吐き、どうすべきか途方に暮れて、
そして、物語冒頭へ至るのである。

店主に子狐発見の一報と、「あと5分」の意向を伝え、公園から離れた藤森。
結局あの子供は誰で、何がどうで、何故ブランコに座っていて、いかにして子狐が彼/彼女の頬なり鼻なりをベロンベロン舐め倒すことになったのか、
藤森が知ることは、ついぞ無かった。

2/2/2024, 3:39:31 AM