かたいなか

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1/30/2024, 12:00:28 AM

「アプリ入れて330日くらい、連載風の投稿続けて思ったんだけどさ。多分、通年スパンの連載モノとこのアプリ、相性少し悪い、気がする」
「I LOVE」と言われても、「アイデア」だの、「アヤメ科」だの、あとパックご飯に家電製品しか思い浮かばぬが。某所在住物書きは頭をガリガリかきながら、これで少なくとも10度目の恋愛ネタに苦悩した。
4月か3月末あたりには「My Heart」なんてお題もあったが、もう、何を投稿したやら。

「3個程度のお題にまたがってて、1話1話独立したハナシとしても読める物語なら、長編投稿、無理じゃねぇと思うの。問題は数ヶ月前の投稿との繋がりよ」
物書きは話題を不得意なLOVEから離し、言った。
「なんでって?……過去参照方法がスワイプしかねぇから面倒。自社調べ」
キャラの通年使いまわしは確実に可能よ。問題は「今日は◯ヶ月前の物語の伏線回収です」なんよ。
物書きはため息を、それはそれは大きなため息を――

――――――

今日は、多くの地域で2月から3月並みの最高気温だそうですね。それでもさすがに、朝夕はどうしても寒い気がするのです。
今回は都内某所の某稲荷神社から、飲食的な意味でちょっとほっこり、不思議な子狐のおはなしです。
都内にしては深め深めの森の中、いつか昔の東京を残す神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておるのです。

最低気温5℃未満の朝、狐の一家の末っ子が、ふわわ、寒さで少し早めに起きました。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、絶賛修行中の子狐。
最近ようやく、人間のお得意様がひとり付いたところ。昨日もぺったん、稲荷のご加護と、狐の不思議なチカラがちょいと詰まったお餅を作って売って、お得意様にちょいちょい遊んでもらいました。
お家に帰ってぐーぐー、すぴすぴ。夢の中でもお得意様と鬼ごっこしていた子狐は、結果毛布とお布団が、おなかの上からログアウト。そりゃ寒いのです。

「寒いなぁ、さむいなぁ」
コンコン子狐、愛しの毛布に潜り込みますが、ちっとも暖かくありません。毛布の溜め込んだ熱が、長いログアウト時間のせいで、無くなってしまったのです。
「ホットミルクで、あったまらなきゃ」
あんまり暖かくない毛布の中に潜っていたって、人間より少し高めな狐の体温をもってしても、すぐに暖かくはならぬのです。
コンコン子狐、愛しの毛布から抜け出しまして、とてとてとて、とてちてちて。お台所に行きました。

今こそ、昨日お得意様が飲んでた(のを子狐が興味本位でペロペロした)ホットミルクを試しましょう。
大人な背伸びドリンク、ピリピリ味、ショウガのきいたジンジャーホットミルクを試しましょう。
あのカッコいい味の飲み物を、少し疲れた目をして、遠くを見ながら、ザンギョー云々ジョーシ云々、カッコいい呪文を呟きつつ、おなかに収めるのです。
それはそれは、カッコいいに違いありません。子狐、子供なので「カッコいい」を愛しておるのです。

「牛乳と、ちょっとのお砂糖と、あとなんだっけ」
朝ご飯の準備をしている大好きな大好きな母狐とおばあちゃん狐に、ちょっと牛乳を分けてもらって、
ふつふつ、ふつふつ。小ちゃな子狐用のお鍋で加熱。乳脂が焦げ付かないように、弱火はもちろん、砂糖もちゃんと、振りましょう。
「そうだ。ジンジャーと、シナモンだ」
砂糖が溶けて、牛乳が温まったら、某青い小瓶のジンジャーパウダーとシナモンパウダーを、
どれくらい入れれば良いか分からず、振り振り、フリフリ。ひとまず適当に投下しまして……

「わっ、からいッ!」
ぎゃぎゃっ!ぎゃぎゃぎゃっ!!
あんまり投下し過ぎたらしく、子狐、ピリピリ大量ジンジャーの効果で、一気に目が覚めました。
「おかしい、おかしい!おとくいさんが飲んでたミルク、カッコいい味だったのに!コレからいッ!」
ぎゃん!ぎゃん!
舌に残って取れないジンジャーのピリピリと、そのピリピリに打ちのめされて暴れる敗北は、子狐の愛する「カッコいい」から、随分離れておりましたが、
少なくとも、そのジンジャーのおかげで、体はポカポカ温まりましたとさ。 おしまい、おしまい。

1/29/2024, 3:27:08 AM

「このアプリ入れて最初のお題が、『遠くの街へ』だったのよな……」
まさか、2月に「近くの街へ」だの、「遠くの町へ」だの、そういう変化球来ないよな。某所在住物書きは今日も相変わらず、自分の執筆スタイルから何が書けるか、悶々に悩んでネット検索をさまよっている。
「街」と「町」は違うらしく、かつ、街の説明が各ページごとにゴチャゴチャ違う。
商店街、住宅街、街道に街頭。どの説明と、どの語句に基づいて街を書けば、楽に今回投稿分が終わるか。

「逆に『町』って、熟語少ない、ワケでもない?」
街に困ったら、町も調べよう。物書きは「町 熟語」に執筆のヒントを見出そうとして、
検索をかけた途端、「町」の字がゲシュった。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、早朝。
部屋の主を藤森といい、街に花と山野草あふれる雪国の出身で、ここ数年、例の感染症のために帰省をずっと見送っていたのだが、
国内での感染確認から4年、とうとう5年目に突入する泥沼と、なにより今回の題目が題目であったので、
過去の波の事例から、第10波の感染者数は2月末、3月上旬頃には減少に転じると賭け、予想し、
スマホで新幹線の予約を、取ろうとして、チケットの枚数で、悩んで首筋をかき、ため息を吐いていた。

職場で長い付き合いの後輩は、生粋の東京都民。
藤森のスマホに実家の花が、雪が送られてくるたび、あるいは藤森の部屋にクール便で到着した、田舎クォンティティーの野菜等々を分けてもらうたび、
「連れてって」と、何度も駄々をこねた。
本人は世辞でも社交辞令でもないと言う。
事実だろうか。多分事実だろう。五分五分の確率で。

はぁ。
ぼっちの部屋に再度、ため息が溶けた。
ひとりで勝手に帰省して、土産のひとつでも買ってきて、事後報告するのが無難なのだ。
――去年後輩にデカい借りさえ作らなければ。

(8年越しの恋愛トラブル、粘着質な加元さんとの縁を切れたの、完全にアイツのおかげなんだよな……)

詳細は過去11月13日投稿分だが、スワイプが酷く、至極、わずらわしい。
要するに理想押しつけ厨の元恋人に執着され、職場にまで押し掛けられた藤森に、トラブル解消のきっかけを与えたのが、何を隠そう、この後輩であったのだ。
五分の世辞を警戒して単独帰省を敢行して、実は本心が五分の事実の方だったとき、
土産を受け取った後輩の、心的温度はどこまで急降下、あるいは急上昇するだろう。

『せんぱぁい?』
目を細め、口角が上がっているようで実は唇一文字、瞳がちっとも笑っていない後輩を、藤森は容易に想像することができた。
『わたしね、何回も、先輩に、「先輩の街へ連れてって」って、言ったような気がするの』
くしゃり。
きっと藤森が購入したご当地菓子だの、小さな紙製の包装箱だのは、秒で握りつぶされるだろう。
『ところで、加元さんの件、私、先輩からまだ貸し、取り立ててなかった気がするの。
桜が咲く頃とか予定無い?先輩の親友の、隣部署の宇曽野主任も、誘っちゃって良いかなぁ』
わぁ。たいへん。

「……話題だけ振っておくか」
高解像度の後輩が、藤森の脳内でスマホをかかげて、グランクラス料金で座席を予約する。
さすがに現実になっては困るのである。
藤森は時計をチラ見し、モーニングコールの名目には丁度良い時刻であることを確認して、
それとなく、ただそれとなく、後輩にメッセージを、
送ろうと思い立って、しかし送信直後に思い直し、
わざわざ朝っぱらに変な話題を提示するより、昼の休憩中にしれっと話す程度で良いだろうと考え、
最終的に、スマホを通勤バッグに突っ込んだ。

その日の昼休憩で予定通り、藤森は帰省時の新幹線の座席予約について、それこそしれっとサラっと、後輩に話を出したのだが、
結果として、後輩の本心は五分の事実の方だったらしく、グランクラスの出費は見事に回避された。
今年の2月末から3月上旬頃、藤森は後輩とともに、故郷たる花と山野草あふれる雪国の街へ、帰省することになる。

1/28/2024, 2:35:13 AM

「バ▽ァリンしか浮かばん。以上」
相変わらず自分に対してベリーハードなお題が多い。某所在住物書きは某防災アプリで強震モニタをぼーっと見つめながら、しかしいい加減「優しい」のネタを探さなければならないので、ひとまず、テレビの情報に耳を傾けている。
「苦しい思いをした人は、その分優しくなれる」と聞いたことがある。ぶっちゃけ事実かどうかは知らぬ。

「だって優しさ、『優しさ』……?」
災害ボランティアは、優しさというより、使命感とか人を助ける正義感とかの方が多くないか?
物書きは防災アプリを閉じて、今回のお題をネット検索にかける。上位に出てきたのは同名の歌であった。

――――――

長いこと一緒に仕事をしてた先輩が、昨日、バチクソ疲れた様子で出勤してきた。
理由は悲惨で、先輩らしいっちゃ先輩らしい。
今まで楽な仕事だけやって、残りの面倒な仕事を全部部下に丸投げしてたゴマスリ係長が、
「次に不当な丸投げが見つかったらヒラに落とすからな」って職場のトップに言われて、
面倒な仕事も自分でやるようになったところ、
あんまりブランクがあり過ぎて、成果が成果で全部クソで、それを係長の仕事丸投げ先だった先輩が全部チェック&修正をかけたのだ。

おひとよし、といえばおひとよし。優しさといえば優しさ。先輩は「仕事を予定内の期間で終わらせるためには仕方無い」って言ってた。 まぁ優しい。

「よく考えてみろ」
翌日の東京は朝からなんか揺れた。
「ゴマスリしか特技の無い係長に、今からあの量の仕事をやらせてみろ。大惨事だぞ」
東京湾震源、最大震度4、マグニチュード4.8。
揺れで目が覚めて、先輩の「無事か」メッセで起きて、朝ごはん作る気力無かったから、先輩のアパートにご厄介になった。
いわゆる私と先輩の、生活費節約術だ。私と先輩で5:5想定で現金だの食材だの持ち寄って、先輩の部屋で2人分、一気に一緒に作ってもらうのだ。
先輩今日もよろしくお願いします。
「金曜日1日分の仕事だって、チェックと修正に数時間かかったんだ。それがずっと続いたら、終わるものも終わらないし、期限だって守れない」

「仕事できないのは、今までやってこなかったゴマスリの自業自得じゃん。放っといて、ヒラに落ちてもらえばいいじゃん」
「同じことを昨日、隣部署の宇曽野にも言われた」
「放っといた方が、最終的に絶対ウチの部署、安泰だよ。先輩の仕事量も減るよ」
「それも言われた。同感だが、同感だがなぁ……」

どうせ人事と往生際の悪いゴマスリとで、数週間モメるのがオチだ。そこに巻き込まれるのイヤだぞ私。
ウンザリしてそうな顔の先輩が、ぽつり。本音を呟いて、鍋の中身を私によそってくれた。

今日のメニューは、珍しく低糖質でも低塩分でもなく、先輩の実家のおばあちゃんの味だという、汁なし卵そうめん。あんかけみたいなトロトロ卵が、麺つゆとか和風出汁とかを、そうめんと一緒に混ぜ込んで、あったかいし優しい。
……なんかデジャブな味(なお何の味がどこでどのお店に引っかかってるかは不明な模様)

「おつゆ無いんだね」
「飲まずに捨てるスープの分の水道代も、それを沸騰させるための光熱費も浮く」
「節約に優しい」
「微々たる金額だがな。優しいといえば優しい」

昔々、物資の絶対量が少なかった頃の知恵さ。
先輩はそう言って、自分の分のそうめんをちゅるちゅる。懐かしそうに食べてる。
きっと、優しさあふれる、でもちゃんと節約志向で経済的なおばあちゃんだったんだろうな。
最初から核家族だった私は、ちょっとだけ、ホントにちょっとだけ、先輩をうらやましく感じた。

「作り方 is どうやって?」
「最小限の水と少しのマーガリンでそうめんを茹でて、麺つゆチョロリに顆粒カツオだしパッパ。水がほぼほぼ飛んだ頃、最後の予熱で卵ジャカジャカ。固まり過ぎない程度に」
「なんて?」
「ばあちゃんがそう言っていた」
「意外と、なんか、意外と……」
「残ったトロトロ卵に白米ドンで、ザカザカ混ぜたのも好きだった」
「はくまいください……」

1/27/2024, 1:31:26 AM

「『◯◯ミッドナイト』とか『ミッドナイト◯◯』とか、前後に言葉付け加えたら、ぜってー真夜中ネタ以外も書けるだろ、これ……」
一番最初に閃いたのが「湾岸」よな。読んだことねぇけど。某所在住物書きは「ミッドナイト」にアレコレ追加して、検索窓に語句を突っ込み続けた。
ミッドナイトと有名アニメ、ご長寿ソシャゲ、等々。
てっきり某カードバトル漫画あたりにミッドナイトドラゴンだの、ミッドナイトマジシャンだの居るだろうと思ったら、ヒットしたのは黒い淡水魚であった。

「ミッドナイトねぇ」
物書きは呟いた。寝落ちは何ミッドナイトだろう。

――――――

1月最後の土曜日の、真夜中な頃のおはなしです。
都内某所、某アパートの一室での、残業ミッドナイトなおはなしです。
部屋の主を藤森といいまして、金曜の仕事がクソ過ぎて、夜通しチェックと修正をしておったのです。

今まで役職と親戚関係にあぐらをかいていた上司、課長にゴマをスリスリするしか特技の無い係長、その名も後増利というのが藤森の部署におりまして、
長年自分の仕事を全部部下に丸投げして、楽な仕事だけして、ぐぅたら、なまけていたところ、
そのぐぅたらが、職場のトップにバレました。
今年度中にあと1度でもなまけたら、係長からヒラに落とされてしまうのです。
後増利あわてて真面目にお仕事。でも今までが今までだったので、周囲としては、不安しかありません。
これが、だいたい前回投稿分までの内容なのです。

ずっと後増利の仕事丸投げ先にされていた藤森。善意と不安な予感で仕事内容をチェックしたら、
わぁ。なんということを、してくれたのでしょう。
あれよあれよ、新人っぽいミスに昔々の仕様三昧。
これではその日終わらせるべきお仕事が、来月末まで遅れてしまいそうです。藤森それは困るのです。

隣部署の親友の宇曽野に、事情を話して後増利の成果を持ち帰り、藤森は晩ごはんも食べず夜通しでチェック&修正。残業ミッドナイトです。
実は宇曽野、職場でこの秘密を知る者は、藤森とその後輩1名のたった2人しかいませんが、なんと職場トップのお孫さん。
おムコに入って名字を変えて、万年主任の下っ端の目線で、悪い上司や困ってる新人がいないか、トップの代わりに目を光らせておるのです。
その宇曽野の居る部署の隣で堂々お仕事サボっちゃったんだから、そりゃ悪事はリークされるのです。
詳しくは3月23日投稿分参照ですが、スワイプが酷く、ただ酷く面倒なので、気にしてはなりません。

「宇曽野。うその」
デスクに顔を伏せて、疲労コンパイな藤森。この時間に起きてるらしい親友にチャットアプリで通話です。
「あしたの……いや、ひづけ、かわったか。
しごと、むだんけっきんしたら、そういうことだから、しょるいとデータ、へやまでとりにきてくれ」
横向いた弱々しい表情、虚ろな目。小さく開いた口からは、なにやら心か魂か、出てきちゃいけない尊厳がプカプカ、出てきちゃってる様子。
藤森の部屋に諸事情で遊びに来てる子狐、それが見えているらしく、前足でちょいちょい、おくちでカプカプ。楽しそうに遊んでいます。

『まともに仕事できないの、後増利の自業自得だろ』
スマホ越しの宇曽野、藤森のお人好しっぷりに、大きなため息ひとつ吐いて、言いました。
『あいつの問題なんだから、お前じゃなく、あいつに全部やらせちまえよ。その方が良い勉強にもなる』
それができたら、わたし、くろうしないよ。
藤森ポツリ反論しますが、声が小ちゃくて小ちゃくて、宇曽野には届きませんでした。

「あいつにしごと、やらせたら、ウチのぎょーむ、ぜんぶ、おくれるぞ」
『そしたらそれを理由に、じーちゃんが後増利を処分するから、逆にお前の仕事量も減って楽になるだろ』
「のちのち、じゃないんだよ。『いま』が、ヤバいんだよ。うその……」
『ひとまず寝ろ。一旦やすめ』

プカプカ、カプカプ。心ここに在らずな藤森。
それから最後のチカラを振り絞って仕事のチェック&修正を終わらせて、午前3時か4時あたり、ようやくベッドに入れましたとさ。 おしまい、おしまい。

1/26/2024, 3:16:23 AM

「安心っつったら、全然関係ねぇけど、某ゲーム会社製のヘリがパッと浮かぶのよ。アレは『安定と実績の』だっけ?『安心と信頼の』だっけ?」
まぁ、不安しかねぇわな。某所在住物書きはスマホのお題通知画面を見ながらぽつり。
相変わらず物語のネタが浮かばないまま、配信日翌日の正午を過ぎた。何を書こう。何が書けるだろう。

「……完全に年齢がバレそうだけど、そういや最近、『信頼と品質』『ロマン輝く』って、あんまり聞かなくなったような、気のせいなような……」
やべぇ。考えれば考えるほど、「安心と不安」からネタが離れてくわ。物書きはため息を吐き、ネットの検索枠に「安心と信頼 ヘリ 墜ちなかった例」と――

――――――

昨日に引き続き、今日も東京は極寒。フェイクか奥多摩あたりの出来事か知らないけど、「水たまりが凍ってる」って投稿も、2個3個。
私は見つけられなかった。ただスマホによると、奥多摩・西多摩あたりは、今日の最低気温が氷点下らしいから、きっと、多分、ホントに凍ってるんだと思う。

そんな都内の私の職場、私の部署の、今朝は静かにザワついて、一部はヒソヒソ、一部は目で会話。
上司へのゴマスリしか特技が無くて、自分に回ってきた仕事の大半を部下に丸投げしてたクソ係長、後増利が、自発的に自分で自分の仕事をしてるのだ。
こんなことってある、っていう。
不安しか無いでしょっていう。

「隣部署、宇曽野からのリークだ」
後増利から毎度毎度仕事を押し付けられてた常連、長い付き合いの先輩が、小声で情報提供してくれた。
「去年の、10月だか9月だか、もう忘れてしまったが、仕事丸投げがバレて厳重注意を食らっただろう」
新人ちゃんへのいじめ、新人いびりがバレて左遷させられたオツボネ係長の代わりに、今年度から私達の係長になった後増利。
以前から、ゴマスリ行為と仕事丸投げ疑惑は「暗黙の事実」として、ささやかれてた。
でも、みんな表立っては言えなかった。後増利の親戚が、ウチの職場のナンバー3の、妹さんの嫁ぎ先だから。いわゆる「告げ口したら、別にクビは飛ばないだろうけど、何があるか分からない」ってやつだ。

今まで親戚にあぐらをかいて散々楽して、係長職の給料ちゅーちゅーしてた後増利は、
去年の後半、親戚より偉いひとから、直々に、厳重に、口頭注意を食らった。
ウチのトップ、緒天戸だ。オテント様が見てたのだ。

「で、その厳重注意食らった後増利、最初こそ真面目なフリしてたが、最近またダラけてきただろう」
「うん」
「そのダラけてきたのが、また緒天戸にバレた」
「うん……」
「よって、来週から今年度末までの間に1度でも不当な丸投げが発覚した場合、係長からヒラに戻すと」

「安定と安心の『オテント様は見てる』だ」
「そうだな」
「……ゴマスリ、ちゃんと自分だけで仕事できる?」
「知らないな」

わぁ。形式上、自分の上司なのに、その上司の仕事してる姿が完全に不安でしかない。
ノートと向かい合ってキーボード叩いてるゴマスリ係長の背中を、チラチラ見てると、
他の同僚君・同僚ちゃんも同じく不安らしく、たまに、そっちと目が合う。
やっぱりみんな、考えることは一緒らしい。
日頃何もしてない、何もできない人が突然チートムーブしたり、無双したりするのって、きっとアニメとかゲームとか、ドラマとか、フィクションだけの専売特許なんだろうな。

「なんか夢が無い」
「なんだって?」
「……いや、ゴマスリなんかが、いきなり無双ムーブしても、全然ムネアツにはならない……」
「だから、なんだって?」

はぁ。 ため息ひとつ吐いた私は、数度首を小さく振って、自分の仕事に戻った。

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