かたいなか

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1/25/2024, 3:47:29 AM

「逆光、後光、光背、ハレー効果。他には……?」
逆光の反対、順光っていうのか。某所在住物書きはスマホの検索結果を見ながら、ぽつり。
「逆光」の類語と対義語と、そこから連想可能であろう言葉を、なんとか、かき集めようと懸命な努力を継続していた。
逆光である。主に撮影に関する用語であろう。生活環境でこれを意識する場面といえば、何があるだろう。

「ブロッケン現象、……は、逆光じゃなくて順光?」
後光っつったら、「御来光」、山とかで見られる神秘があるじゃん。物書きはふと、ひとつ閃いた。
「あっ。……はい。自分の背後から、日光……」
カメラネタ以外が書けるかもしれない。即座に検索をかけるも、原理を辿ると「逆光」の逆で――

――――――

とうとう東京でも、最低気温氷点下、冬日を観測した様子。一部天気サイトによると、奥多摩なんて、最低マイナス6℃だとか。
そんなこんな、今季イチバンの寒さらしい都内から、こういう「逆光」のおはなしです。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、前回、お題がお題だったせいで、昨日ヘンテコな夢を見たのです。
あんまりヘンテコ、妙ちくりんなので、夢見た藤森、起きて開口一発、「は?」だったくらいです。

その日午前、数時間、ひとしきり悶々した藤森。だけどアレコレ悶々したところで、お仕事はしなきゃいけないし、仕事すればお腹が空くのです。
しゃーない、しゃーない。
職場の時計が正午を告げまして、藤森、長年一緒に仕事してる後輩と、休憩室でランチです。
今日のメニューは、あったかフィッシュシチュー風。
ポタージュの粉スープに、クリームチーズひと切れ溶かして、半額カットサラダの野菜と、それから、半額刺し身の切り落としごっちゃ詰めを、ドンドと放り込んだのです。
サーモン、ワラサ、キハダにメバチ。1〜2個くらいホタテも入って、贅沢シチューになったのです。

おひとよし藤森、2人前の分量で作ってきたシチューを、1食150円で後輩にご提供。
後輩、今日の酷い寒さのせいで、お弁当を準備できなかったのです。お昼は何の味もしないおにぎり、たった1個の予定だったのです。

どうせそうだろうと思った。
藤森はせっせこシチューの具を、特にしっとり熱の入ったチーズまみれホタテを、みつくろって後輩のマグカップに入れてやりました。

「おさかな、意外と、ホワイトシチューにあう……」
おにぎりにちょこん、優しいシチューモドキまとったワラサをのせて、ぱくり。
サーモンともマグロとも違う、馴染み無いけど好ましい脂の余韻を、後輩、幸福に味わいます。
なにより寒い寒い寒波の日に、温かい食べ物が魂にしみわたるのです。
「ホタテもおいしい。ホタテのお刺身苦手だけど、これなら、普通においしい」

ここで、ようやくお題の「逆光」が登場。
ほっこりシチューモドキで満足のため息吐く後輩。
向かい合った先輩の背後から、柔らかい後光だの光背だの、あるいは逆光エフェクトだのが、さしているように見えました。

「それ、私がハゲてると言いたいのか」
「ハゲてないじゃん。全然、若年性でも部分でもないじゃん。でも先輩、後光か逆光さして見える」
「はぁ」
「仏かな。聖人かな」
「は?」

アパートにまします我等が先輩よ。雪国出身で寒さにバチクソ強い我等が先輩よ。
願わくは明日もお弁当作ってくれたまえ。願わくば寒暖差で体が動かない私を助けたまえー。
逆光エフェクトの柔らかくさす藤森に、後輩、目を閉じて合掌して、それから、おにぎりとお魚をパクリ。
藤森はそんな後輩に、小さくため息を吐くのでした。
おしまい、おしまい。

1/24/2024, 4:49:28 AM

「3月頃、『夢が醒める前に』ってお題なら書いた」
次は「こんな夢を見た」か。某所在住物書きは頭をガリガリ。スマホの通知画面を見る。
直接的な配信としては、「夢」は2度目である。
問題は物書きが別の投稿で散々に夢ネタを書き散らしていたこと。 すなわち、書くのが楽だったのだ。
どんな理不尽も「だって夢だもの」で解決するから。

「ゆめ……?」
え?こんな「夢小説」を見た、とか?とうとう二次創作デビューすんのか?物書きは再度息を吐く。
「それか『こんな理想を夢見ました』とか……?」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室の、部屋の主を藤森というが、
今回の題目が題目なので、こんな夢を見た。
完全に非現実的な夢である。題目が題目でなければ、ゲームも娯楽小説もドラマも、漫画すらも疎い藤森には、見る余地も可能性も一切無い夢である。
舞台は森の中の廃墟。天井抜けて光さす広いエントランス。中央に2名がぽつん。ひとりは床に倒れ伏し、ひとりはその隣。見下ろし、突っ立っている。

『おのれ、おのれ。いまいましい』
倒れている方、藤森のそっくり顔が弱々しく呟いた。己を見下ろす相手を睨みつける余力も無い。
『この体だけでは飽き足らず、400年見守り育ててきた森と泉まで、私から奪うのか』
遠くから聞こえるのはチェーンソーと重機の駆動音。それから大樹倒れる末期の悲鳴。
『エネルギー確保の大義を振りかざし、利益をむさぼる人間ども。数年後数十年後、私の恨みと怒りと悲しみと、嘆きを思い知るがいい』
けほっ、 げほっ。
藤森モドキは小さく、それはそれは小さく咳込んだ。

……と、いう状況を、遠い場所からシラフの藤森が、いわゆる事務机とパイプ椅子の特別席で、
ポカン、の3字が相応しかろう表情で見ている。
なんだこれ。誰だアレ。
私モドキを見下ろしてる男は、私の親友の宇曽野に随分似ているが、何がどうして、こうなったのだ。
隣のパイプ椅子にちょこん、おすわりの子狐が、いわゆるドッキリに使われるような横看板を、前足で支え持ち藤森に見せた。

【しゃーないのです。
 夢ネタ、ほぼほぼ出し尽くしたのです】
くるり。看板が裏返る。
【新人チュートリアルの期間から醒める(3月)
 夢の中で仕事(4月) 登場人物の過去(6月)
「こういう夢を見ました」でオムニバス(6月)
 可能性としての予知夢モドキ(10月)
 なんかとりあえずエモいやつ←New!】
スワイプが面倒過ぎるので参照は推奨しない。

『恨むなら、俺だけを恨め』
藤森のポカンをよそに、題目が題目なので夢は続く。
ぐったり藤森モドキを見下ろす男が、ポツリ言った。
『この計画の最終決裁を通したのが、俺だ。
責任はすべて俺にある。最大限、環境と生態系には配慮する。可能な限り動植物の保護もする。
ただ、ここに発電所ができれば、2ヶ所の山と4ヶ所の平原湿原が、伐採や開発から守られるんだ』

許せとは言わない。お前とこの森の犠牲を無駄にはしないし、お前の恨みも怒りも俺が引き受けるから。
藤森の親友モドキの、懺悔か懇願にも似た言葉に、
藤森は、ただ困惑と困惑と困惑の視線を向け、
隣でおすわりする子狐は器用に前足を使い、号泣の素振り。【安心してください。夢でフィクションです】

そりゃ夢だろう。フィクションだろうよ。
藤森はため息を吐くばかり。
私、人外だったことも、400年生きたことも、妙な森の中の廃墟在住だった事実も無いよ。
そもそも山や平原、洋上や火山地帯ならいざ知らず、森の中に作る発電施設ってなんだ。
ただひとりを置いてけぼりに、藤森モドキと藤森の親友モドキの物語は進んで、終わって。
朝目を覚ますと、大きく首をかしげて一言。
「……は?」
何故あんな夢をみたのか、藤森は職場で数時間、考え続けておりましたとさ。

1/23/2024, 12:40:15 AM

「7月23日近辺に、既に『もしタイムマシンがあったなら』ってお題、書いてんのよ……」
ネタの重複は日常茶飯事。雨系空系の類似語句に何度頭を抱えたことか。
「当時は、本音として別の気持ちがあるのを隠した上で、『そんなモンあったら博打で億当てて、クソな職場ともオサラバするわ』みたいなこと書いたな」
で、ほぼ半年後の今回、ほぼ同一のネタでひとつ書くわけだ。某所在住物書きは頭を抱えた。
タイムマシンからどう話を膨らませろというのだ。

「……これ以上重複しねぇよな?」
さすがに今後3度目の時間軸ネタとか来られたら、俺、詰むが。ガチで詰むのだが。
フラグめいたため息を吐き、物書きはスマホを見る。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、今日はその藤森の親友たる宇曽野という男が、客人として晩飯を共にしている。
テーブルの上には、本来藤森ひとりで食う予定だったものを、追加の野菜と肉とで、急きょ無理やり2人前にかさ増ししたメニュー。
焼き肉のタレを流用した、スタミナスープである。
宇曽野はそれを白米にのせ、つゆだくだくのスタミナ丼に仕立ててしまった。

「藤森。変なこと聞いていいか」
「なんだ」
「おまえ、もしタイムマシーンがあったら、」

「半年前、私の後輩にも聞かれた話題だ」
「俺からはまだだろう。……あったらお前、加元と会う前に戻りたいか?それとも上京自体しなかった?」

「どうだろうな」
いきなり聞かれても、面白い回答は言えないが。
藤森はそう付け加えると、幸福な甘じょっぱさのスープからキャベツと豚バラを取り出し、ぱくり。
加元とは、藤森の元恋人のこと。元カレ・元カノの、かもと。安直なネーミングはご了承願いたい。
理想押しつけ厨とも言うべき加元と、加元に執着され続けていた藤森との間には、つい最近まで、小さいながらも8年越しの恋愛トラブルが横たわっていた。
そのトラブルが去年、メタい話をすれば11月13日頃、ようやく決着したのである。

「ただ、そんな都合の良いものが有ったところで、私はどこまで行ったって『私』だ。
東京には来ただろうし、何度上京前に戻っても、毎回お前や加元さんと会って、加元さんに心をズッタズタにされて、11月にカタがついて。今日ここで、事前連絡も無しに来たお前と飯を食うだろうさ」
何も変わらないよ。多分。
藤森は穏やかにため息を吐いた。

「つまり何度も何度も俺に冷蔵庫のプリン食われて、その都度喧嘩して、ケロっと仲直りするワケだな」
「そもそもタイムマシンなど使わない、というハナシだ。それにその理屈、つまりお前、何度も何度も私の冬の里帰りのたびに、何度も何度も私の実家についてきて、あの氷点下と地吹雪に当てられて、風呂に緊急ダイブすることになるが。良いのか」

「風呂上がりのアイスが美味かったから構わん」
「……あのな?」
「そういや、あのホワイトアウトの夜の飯もスタミナ系だった。同じタレか?例のご当地の?」
「よく覚えてるなお前?」

そもそも何故タイムマシン云々なんて、そんな妙なこと、わざわざ聞くんだ。
ちまちま野菜を食いながら不思議がる藤森。
宇曽野は特に何の理由も意図も無い風で、だくだくのつゆの味が好ましかったらしく、追加の白米をじゃんじゃか投下している。
「そんなに食って、明日、胃もたれしないか?」
「お前が少食過ぎるんだよ」

予約も無く唐突に始まった親友ふたりの晩餐会は、メインを食い終えた後で茶が入り、
少量のクッキーだのチョコだのを楽しむ前に、
宇曽野がその日も藤森秘蔵のプリンを冷蔵庫から勝手に盗み出していたことが発覚し、
ポコロポコロポコロ、
漫画だのアニメだのよろしく、ひとしきり大乱闘の喧嘩を繰り広げた後、
ケロッと、いつの間にか仲直りして、終了した。

1/22/2024, 3:53:59 AM

「面接前夜、幸運にもチケット取れたライブだの何だの、クリスマス、バレンタイン……は夜じゃねぇか」
他には?某所在住物書きは、今日も今日とて何連続か、己の不得意とするお題に対してなんとか知恵を絞り出そうと、懸命な努力を継続していた。
「特別、と言われてもなぁ……」
物書きはため息を吐く。「特別」を感じづらい生活を続けて、十数年、数十年である。
何を書けというのか。カレーの日を題材とした、カレーキャラの特別な夜か。
とうとう二次創作デビューか、云々か。

「……そもそも1月22日って、何の日?」
ネタに詰まった物書きは、相変わらずネットの検索結果に救助を求める。

――――――

平凡な月曜日、通常営業の職場、いつもの休憩室とテーブル。
職場の先輩とコーヒー並べて、お弁当広げて、
悪い意味で特別になった昨日の夜のハナシを、つまり呟きックスのおセンシバグのことを愚痴りつつ、
多分誰かが観てるだろうテレビの情報番組をちょっとしたBGMに、ランチをもぐもぐしてる。

「スゴいよね。例の稲荷神社の子狐の画像上げても、おセンシの判定だよ」
今日の先輩のお弁当は、スープジャーに入った雑炊みたいなオートミール。
「呟きックス、子狐ちゃんが水着ロリだのショタだのにでも見えてたのかなって。化け狐ちゃんかよって」
クラッシュタイプ60gに、某てっぺんバリュのカツオ水煮ライトフレークと、某良品のミネストローネをブチ込んで、熱湯入れるだけ。
糖質40.7g。塩分相当量1.5g。
ゴマスリ係長から押し付けられた案件のせいで、ろくに弁当の準備もできなかったから、とりあえずレトルトとフリーズドライとオートミールをブチ込んだ、とのこと。
「ぐぅぐるの検索結果に出てきた西多摩郡の週間天気とか、木曜あたりが最低マイナス8℃だったから、それスクショして上げたら『刺激の強いコンテンツ』だって。どゆこと、って」

低糖質(たりない)。
超低糖質(ぜったいたりない)。
もっと食えって私のミートボール3個あげたら、お礼に味変用の半熟とろーりゆで卵と、間食用に持ってきたっていう小さなヘルシーお餅1個貰った。
逆にそれ食べてください。

「西多摩が氷点下8℃?」
ふーん。
先輩は何か記憶ライブラリに検索かけるように遠くを見ながら、スプーンでミネストローネ味のオートミールをすくって、ふーふーして、舌にのせた。
ちょっとおいしそう。いや多分おいしい。
でも極低糖質(かくじつにたりない)。
「なんとなく、少し、デジャヴだな。去年似たことが無かったか、『東京で氷点下2桁』のような?」

「言われてみれば。バズった気もする」
「それの類似だろうか。……私のスマホでは、木曜の西多摩は、最低氷点下3℃らしいが」
「ふーん」

「で、それをスクショして、投稿したところ、昨日の夜のバグで『刺激の強いコンテンツ』にされたと」
「そう。なんか、悪い意味で特別な夜になってて、そこそこ楽しかった」
「それはなにより」

おかずを渡して逆に貰って、
もっと食えとか、あまり運動しない私にはこれくらいで十分だとか、何とか。
昨日のバグった夜の話題もちょっと混ぜて、その日もお昼が終わった。
おセンシバグは、気がついたら元に戻ってたけど、
西多摩の四捨五入マイナス2桁は、結局事実かバグなのか、分からずじまいだった。

1/21/2024, 1:56:22 AM

「ごめん、今朝のトレンドのせいで、某緑色歌姫の『深海少女』しか思いつかねぇ」
海の底。前回も前回だったが、いつになったら己にとって、比較的書きやすいお題が出てくるやら。
某所在住物書きは某リアルタイム検索で確認していたSNSのトレンドランキングに、15年以上前初出である筈の単語を見つけた。
15年前の記憶とか。今頃多分海馬の底どころか、大脳皮質にすら残っちゃいねぇよ。多分。
物書きは深い、大きなため息を吐いた。

「海底ねぇ。マリアナ海溝?戦時中の沈没船?」
物書きは記憶の底をわっちゃわっちゃ引っ掻き回す。
「浅瀬の海の底を泳いでたタコなら見たことあるが、ぜってーそういう想定じゃねぇよな」
タコ焼き食いたくなってきた。物書きのネタも物語も浮かばぬ固い頭は、11時近辺ゆえに、食欲に傾く。

――――――

東京の今日は、雨だ。
皆「雨スゴい」とか「土砂降り」とか、「これが昼やむ予報とかおかしい」なんてポスってる。
さいわい、私は今日お休み。
低気圧のせいか低温のせいか、いつもの低速スタートのせいか知らないけど、ともかくガチの意味で体がダルくて、朝ご飯も昼ごはんも作れそうにない。
そこで、雪国出身で東京の寒さ程度じゃびくともしない職場の先輩のアパートに、自主避難、自主救急搬送をすることにした。
先輩、今日もごはん、お世話になります。

「先輩の実家は、今頃は雪?」
あったかい朝ご飯貰って、体が温まったおかげでちょっと動けるようになった私は、
先輩の部屋の窓から雨を見て、先輩の故郷の雪国を、ちょっと粗めの解像度で想像する。
「パウダースノー?粉雪?」

先輩の言う「極寒」、「真冬」を知らないから、私の想像の中の雪国は、全部静かで、奥多摩とか八王子とかに雪をドチャクソ降らせたカンジだ。
無風。多分曇天。歩道橋も広場も街路樹も、人差し指が全部埋まっちゃうくらい雪が積もって、
皆、モフモフでぬっくぬくなコートとマフラーと、それから帽子を付けて歩いてる。
空から降ってくるのは粉雪だ。夜はきっと綺麗だ。
照明で、積もってる雪と降ってくる雪が、双方照らされて、暗い中のシンシンとした降雪は、きっと海の底に落ちるマリンスノーだ。
白積もる海底の、元横断歩道のあたりに立って、音無くじゃんじゃか白落とす空を見上げて……

「指摘するのは非常に心苦しいが、天気図によると私の故郷も今、荒れ荒れの大荒れだ」

「えっ」
海底のマリンスノー終了のお知らせ。
先輩が食後のお茶タイムとして、耐熱ガラスのティーポットに、深い深い青色を淹れて持ってきた。
「雪か雨かは知らない」
タパパトポポトポポ。先輩が湯気立つ青を透明なティーカップに注いで、低糖質のチョコチップクッキーと一緒に私に差し出した。
「だが、少なくとも、強風と波浪の注意報が出ているのは確かだな」
先輩は言って、小さな15ccくらいの軽量カップから、ほんの少しだけ、明るい琥珀色を青に落とす。
段々上から青色が、下に向かって、紫に変わる。

「バタフライピーだ!」
「その仲間の、アンチャンというらしい。同じマメ科のハーブティーだ。ひいきにしている茶葉屋の店主が『賞味期限近いので買いませんか』と」
「私も紫やる」
「よせ。多分マズい」
「何入れたの」
「黒酢だ」

「そこ、レモン汁ポジション……」
「私の部屋にそんな小洒落た物を期待するな」

海底云々のノスタルジーは、これで我慢しておけ。
先輩はバチクソ少量の粒砂糖をつまんで、1粒、2〜3粒、4粒5粒。
深い深い青色に、味が変わらない程度の量で、パラリパラリ落としていく。
「あんまりよく見えない」
「それは申し訳ございませんでしたな」
青いお茶を海の底に見立てて、砂糖でマリンスノーを再現しようと、してくれたんだろうけど、
海に見立てた青はバチクソ深くて、砂糖の方も角砂糖とか氷砂糖とかでもないから、
マリンスノーモドキは目論見に反して、青に溶けて、カップの底に積もるようなことはなかった。

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