かたいなか

Open App

「逆光、後光、光背、ハレー効果。他には……?」
逆光の反対、順光っていうのか。某所在住物書きはスマホの検索結果を見ながら、ぽつり。
「逆光」の類語と対義語と、そこから連想可能であろう言葉を、なんとか、かき集めようと懸命な努力を継続していた。
逆光である。主に撮影に関する用語であろう。生活環境でこれを意識する場面といえば、何があるだろう。

「ブロッケン現象、……は、逆光じゃなくて順光?」
後光っつったら、「御来光」、山とかで見られる神秘があるじゃん。物書きはふと、ひとつ閃いた。
「あっ。……はい。自分の背後から、日光……」
カメラネタ以外が書けるかもしれない。即座に検索をかけるも、原理を辿ると「逆光」の逆で――

――――――

とうとう東京でも、最低気温氷点下、冬日を観測した様子。一部天気サイトによると、奥多摩なんて、最低マイナス6℃だとか。
そんなこんな、今季イチバンの寒さらしい都内から、こういう「逆光」のおはなしです。
某アパートの一室の、部屋の主を藤森といいまして、前回、お題がお題だったせいで、昨日ヘンテコな夢を見たのです。
あんまりヘンテコ、妙ちくりんなので、夢見た藤森、起きて開口一発、「は?」だったくらいです。

その日午前、数時間、ひとしきり悶々した藤森。だけどアレコレ悶々したところで、お仕事はしなきゃいけないし、仕事すればお腹が空くのです。
しゃーない、しゃーない。
職場の時計が正午を告げまして、藤森、長年一緒に仕事してる後輩と、休憩室でランチです。
今日のメニューは、あったかフィッシュシチュー風。
ポタージュの粉スープに、クリームチーズひと切れ溶かして、半額カットサラダの野菜と、それから、半額刺し身の切り落としごっちゃ詰めを、ドンドと放り込んだのです。
サーモン、ワラサ、キハダにメバチ。1〜2個くらいホタテも入って、贅沢シチューになったのです。

おひとよし藤森、2人前の分量で作ってきたシチューを、1食150円で後輩にご提供。
後輩、今日の酷い寒さのせいで、お弁当を準備できなかったのです。お昼は何の味もしないおにぎり、たった1個の予定だったのです。

どうせそうだろうと思った。
藤森はせっせこシチューの具を、特にしっとり熱の入ったチーズまみれホタテを、みつくろって後輩のマグカップに入れてやりました。

「おさかな、意外と、ホワイトシチューにあう……」
おにぎりにちょこん、優しいシチューモドキまとったワラサをのせて、ぱくり。
サーモンともマグロとも違う、馴染み無いけど好ましい脂の余韻を、後輩、幸福に味わいます。
なにより寒い寒い寒波の日に、温かい食べ物が魂にしみわたるのです。
「ホタテもおいしい。ホタテのお刺身苦手だけど、これなら、普通においしい」

ここで、ようやくお題の「逆光」が登場。
ほっこりシチューモドキで満足のため息吐く後輩。
向かい合った先輩の背後から、柔らかい後光だの光背だの、あるいは逆光エフェクトだのが、さしているように見えました。

「それ、私がハゲてると言いたいのか」
「ハゲてないじゃん。全然、若年性でも部分でもないじゃん。でも先輩、後光か逆光さして見える」
「はぁ」
「仏かな。聖人かな」
「は?」

アパートにまします我等が先輩よ。雪国出身で寒さにバチクソ強い我等が先輩よ。
願わくは明日もお弁当作ってくれたまえ。願わくば寒暖差で体が動かない私を助けたまえー。
逆光エフェクトの柔らかくさす藤森に、後輩、目を閉じて合掌して、それから、おにぎりとお魚をパクリ。
藤森はそんな後輩に、小さくため息を吐くのでした。
おしまい、おしまい。

1/25/2024, 3:47:29 AM