かたいなか

Open App

「3月頃、『夢が醒める前に』ってお題なら書いた」
次は「こんな夢を見た」か。某所在住物書きは頭をガリガリ。スマホの通知画面を見る。
直接的な配信としては、「夢」は2度目である。
問題は物書きが別の投稿で散々に夢ネタを書き散らしていたこと。 すなわち、書くのが楽だったのだ。
どんな理不尽も「だって夢だもの」で解決するから。

「ゆめ……?」
え?こんな「夢小説」を見た、とか?とうとう二次創作デビューすんのか?物書きは再度息を吐く。
「それか『こんな理想を夢見ました』とか……?」

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室の、部屋の主を藤森というが、
今回の題目が題目なので、こんな夢を見た。
完全に非現実的な夢である。題目が題目でなければ、ゲームも娯楽小説もドラマも、漫画すらも疎い藤森には、見る余地も可能性も一切無い夢である。
舞台は森の中の廃墟。天井抜けて光さす広いエントランス。中央に2名がぽつん。ひとりは床に倒れ伏し、ひとりはその隣。見下ろし、突っ立っている。

『おのれ、おのれ。いまいましい』
倒れている方、藤森のそっくり顔が弱々しく呟いた。己を見下ろす相手を睨みつける余力も無い。
『この体だけでは飽き足らず、400年見守り育ててきた森と泉まで、私から奪うのか』
遠くから聞こえるのはチェーンソーと重機の駆動音。それから大樹倒れる末期の悲鳴。
『エネルギー確保の大義を振りかざし、利益をむさぼる人間ども。数年後数十年後、私の恨みと怒りと悲しみと、嘆きを思い知るがいい』
けほっ、 げほっ。
藤森モドキは小さく、それはそれは小さく咳込んだ。

……と、いう状況を、遠い場所からシラフの藤森が、いわゆる事務机とパイプ椅子の特別席で、
ポカン、の3字が相応しかろう表情で見ている。
なんだこれ。誰だアレ。
私モドキを見下ろしてる男は、私の親友の宇曽野に随分似ているが、何がどうして、こうなったのだ。
隣のパイプ椅子にちょこん、おすわりの子狐が、いわゆるドッキリに使われるような横看板を、前足で支え持ち藤森に見せた。

【しゃーないのです。
 夢ネタ、ほぼほぼ出し尽くしたのです】
くるり。看板が裏返る。
【新人チュートリアルの期間から醒める(3月)
 夢の中で仕事(4月) 登場人物の過去(6月)
「こういう夢を見ました」でオムニバス(6月)
 可能性としての予知夢モドキ(10月)
 なんかとりあえずエモいやつ←New!】
スワイプが面倒過ぎるので参照は推奨しない。

『恨むなら、俺だけを恨め』
藤森のポカンをよそに、題目が題目なので夢は続く。
ぐったり藤森モドキを見下ろす男が、ポツリ言った。
『この計画の最終決裁を通したのが、俺だ。
責任はすべて俺にある。最大限、環境と生態系には配慮する。可能な限り動植物の保護もする。
ただ、ここに発電所ができれば、2ヶ所の山と4ヶ所の平原湿原が、伐採や開発から守られるんだ』

許せとは言わない。お前とこの森の犠牲を無駄にはしないし、お前の恨みも怒りも俺が引き受けるから。
藤森の親友モドキの、懺悔か懇願にも似た言葉に、
藤森は、ただ困惑と困惑と困惑の視線を向け、
隣でおすわりする子狐は器用に前足を使い、号泣の素振り。【安心してください。夢でフィクションです】

そりゃ夢だろう。フィクションだろうよ。
藤森はため息を吐くばかり。
私、人外だったことも、400年生きたことも、妙な森の中の廃墟在住だった事実も無いよ。
そもそも山や平原、洋上や火山地帯ならいざ知らず、森の中に作る発電施設ってなんだ。
ただひとりを置いてけぼりに、藤森モドキと藤森の親友モドキの物語は進んで、終わって。
朝目を覚ますと、大きく首をかしげて一言。
「……は?」
何故あんな夢をみたのか、藤森は職場で数時間、考え続けておりましたとさ。

1/24/2024, 4:49:28 AM