かたいなか

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「バ▽ァリンしか浮かばん。以上」
相変わらず自分に対してベリーハードなお題が多い。某所在住物書きは某防災アプリで強震モニタをぼーっと見つめながら、しかしいい加減「優しい」のネタを探さなければならないので、ひとまず、テレビの情報に耳を傾けている。
「苦しい思いをした人は、その分優しくなれる」と聞いたことがある。ぶっちゃけ事実かどうかは知らぬ。

「だって優しさ、『優しさ』……?」
災害ボランティアは、優しさというより、使命感とか人を助ける正義感とかの方が多くないか?
物書きは防災アプリを閉じて、今回のお題をネット検索にかける。上位に出てきたのは同名の歌であった。

――――――

長いこと一緒に仕事をしてた先輩が、昨日、バチクソ疲れた様子で出勤してきた。
理由は悲惨で、先輩らしいっちゃ先輩らしい。
今まで楽な仕事だけやって、残りの面倒な仕事を全部部下に丸投げしてたゴマスリ係長が、
「次に不当な丸投げが見つかったらヒラに落とすからな」って職場のトップに言われて、
面倒な仕事も自分でやるようになったところ、
あんまりブランクがあり過ぎて、成果が成果で全部クソで、それを係長の仕事丸投げ先だった先輩が全部チェック&修正をかけたのだ。

おひとよし、といえばおひとよし。優しさといえば優しさ。先輩は「仕事を予定内の期間で終わらせるためには仕方無い」って言ってた。 まぁ優しい。

「よく考えてみろ」
翌日の東京は朝からなんか揺れた。
「ゴマスリしか特技の無い係長に、今からあの量の仕事をやらせてみろ。大惨事だぞ」
東京湾震源、最大震度4、マグニチュード4.8。
揺れで目が覚めて、先輩の「無事か」メッセで起きて、朝ごはん作る気力無かったから、先輩のアパートにご厄介になった。
いわゆる私と先輩の、生活費節約術だ。私と先輩で5:5想定で現金だの食材だの持ち寄って、先輩の部屋で2人分、一気に一緒に作ってもらうのだ。
先輩今日もよろしくお願いします。
「金曜日1日分の仕事だって、チェックと修正に数時間かかったんだ。それがずっと続いたら、終わるものも終わらないし、期限だって守れない」

「仕事できないのは、今までやってこなかったゴマスリの自業自得じゃん。放っといて、ヒラに落ちてもらえばいいじゃん」
「同じことを昨日、隣部署の宇曽野にも言われた」
「放っといた方が、最終的に絶対ウチの部署、安泰だよ。先輩の仕事量も減るよ」
「それも言われた。同感だが、同感だがなぁ……」

どうせ人事と往生際の悪いゴマスリとで、数週間モメるのがオチだ。そこに巻き込まれるのイヤだぞ私。
ウンザリしてそうな顔の先輩が、ぽつり。本音を呟いて、鍋の中身を私によそってくれた。

今日のメニューは、珍しく低糖質でも低塩分でもなく、先輩の実家のおばあちゃんの味だという、汁なし卵そうめん。あんかけみたいなトロトロ卵が、麺つゆとか和風出汁とかを、そうめんと一緒に混ぜ込んで、あったかいし優しい。
……なんかデジャブな味(なお何の味がどこでどのお店に引っかかってるかは不明な模様)

「おつゆ無いんだね」
「飲まずに捨てるスープの分の水道代も、それを沸騰させるための光熱費も浮く」
「節約に優しい」
「微々たる金額だがな。優しいといえば優しい」

昔々、物資の絶対量が少なかった頃の知恵さ。
先輩はそう言って、自分の分のそうめんをちゅるちゅる。懐かしそうに食べてる。
きっと、優しさあふれる、でもちゃんと節約志向で経済的なおばあちゃんだったんだろうな。
最初から核家族だった私は、ちょっとだけ、ホントにちょっとだけ、先輩をうらやましく感じた。

「作り方 is どうやって?」
「最小限の水と少しのマーガリンでそうめんを茹でて、麺つゆチョロリに顆粒カツオだしパッパ。水がほぼほぼ飛んだ頃、最後の予熱で卵ジャカジャカ。固まり過ぎない程度に」
「なんて?」
「ばあちゃんがそう言っていた」
「意外と、なんか、意外と……」
「残ったトロトロ卵に白米ドンで、ザカザカ混ぜたのも好きだった」
「はくまいください……」

1/28/2024, 2:35:13 AM