かたいなか

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1/21/2024, 1:56:22 AM

「ごめん、今朝のトレンドのせいで、某緑色歌姫の『深海少女』しか思いつかねぇ」
海の底。前回も前回だったが、いつになったら己にとって、比較的書きやすいお題が出てくるやら。
某所在住物書きは某リアルタイム検索で確認していたSNSのトレンドランキングに、15年以上前初出である筈の単語を見つけた。
15年前の記憶とか。今頃多分海馬の底どころか、大脳皮質にすら残っちゃいねぇよ。多分。
物書きは深い、大きなため息を吐いた。

「海底ねぇ。マリアナ海溝?戦時中の沈没船?」
物書きは記憶の底をわっちゃわっちゃ引っ掻き回す。
「浅瀬の海の底を泳いでたタコなら見たことあるが、ぜってーそういう想定じゃねぇよな」
タコ焼き食いたくなってきた。物書きのネタも物語も浮かばぬ固い頭は、11時近辺ゆえに、食欲に傾く。

――――――

東京の今日は、雨だ。
皆「雨スゴい」とか「土砂降り」とか、「これが昼やむ予報とかおかしい」なんてポスってる。
さいわい、私は今日お休み。
低気圧のせいか低温のせいか、いつもの低速スタートのせいか知らないけど、ともかくガチの意味で体がダルくて、朝ご飯も昼ごはんも作れそうにない。
そこで、雪国出身で東京の寒さ程度じゃびくともしない職場の先輩のアパートに、自主避難、自主救急搬送をすることにした。
先輩、今日もごはん、お世話になります。

「先輩の実家は、今頃は雪?」
あったかい朝ご飯貰って、体が温まったおかげでちょっと動けるようになった私は、
先輩の部屋の窓から雨を見て、先輩の故郷の雪国を、ちょっと粗めの解像度で想像する。
「パウダースノー?粉雪?」

先輩の言う「極寒」、「真冬」を知らないから、私の想像の中の雪国は、全部静かで、奥多摩とか八王子とかに雪をドチャクソ降らせたカンジだ。
無風。多分曇天。歩道橋も広場も街路樹も、人差し指が全部埋まっちゃうくらい雪が積もって、
皆、モフモフでぬっくぬくなコートとマフラーと、それから帽子を付けて歩いてる。
空から降ってくるのは粉雪だ。夜はきっと綺麗だ。
照明で、積もってる雪と降ってくる雪が、双方照らされて、暗い中のシンシンとした降雪は、きっと海の底に落ちるマリンスノーだ。
白積もる海底の、元横断歩道のあたりに立って、音無くじゃんじゃか白落とす空を見上げて……

「指摘するのは非常に心苦しいが、天気図によると私の故郷も今、荒れ荒れの大荒れだ」

「えっ」
海底のマリンスノー終了のお知らせ。
先輩が食後のお茶タイムとして、耐熱ガラスのティーポットに、深い深い青色を淹れて持ってきた。
「雪か雨かは知らない」
タパパトポポトポポ。先輩が湯気立つ青を透明なティーカップに注いで、低糖質のチョコチップクッキーと一緒に私に差し出した。
「だが、少なくとも、強風と波浪の注意報が出ているのは確かだな」
先輩は言って、小さな15ccくらいの軽量カップから、ほんの少しだけ、明るい琥珀色を青に落とす。
段々上から青色が、下に向かって、紫に変わる。

「バタフライピーだ!」
「その仲間の、アンチャンというらしい。同じマメ科のハーブティーだ。ひいきにしている茶葉屋の店主が『賞味期限近いので買いませんか』と」
「私も紫やる」
「よせ。多分マズい」
「何入れたの」
「黒酢だ」

「そこ、レモン汁ポジション……」
「私の部屋にそんな小洒落た物を期待するな」

海底云々のノスタルジーは、これで我慢しておけ。
先輩はバチクソ少量の粒砂糖をつまんで、1粒、2〜3粒、4粒5粒。
深い深い青色に、味が変わらない程度の量で、パラリパラリ落としていく。
「あんまりよく見えない」
「それは申し訳ございませんでしたな」
青いお茶を海の底に見立てて、砂糖でマリンスノーを再現しようと、してくれたんだろうけど、
海に見立てた青はバチクソ深くて、砂糖の方も角砂糖とか氷砂糖とかでもないから、
マリンスノーモドキは目論見に反して、青に溶けて、カップの底に積もるようなことはなかった。

1/20/2024, 3:05:53 AM

「君に、『会いたくない』って人しか、いない……」

君に会いたくて、何を買うのか、どこに行くのか、
あるいは、誰を見たために、どれを見返したために、君に会いたくて仕方なくなるのか。
まぁ、シチュエーションは色々あるわな。某所在住物書きは昼飯の準備として、ぼっち用鍋で肉を煮込みながら、スマホで文章をポンポンポン。
不得意なお題の連続に、相変わらず苦戦している。
「昔々のクソ上司だろ、相互の中の隠れアンチだろ、『いやそれを俺に言われても』のモンカス。等々」

「君に会いたくて」が居るひとの、温かい話題をひとまず視察したい。しんみりした目で、煮込みを転がし、スマホに目を向ける。

――――――

まさかまさかの続き物。前回投稿分、都内某所の某稲荷神社で、雪国出身の人間が、
「閉ざされた日記」、1年で書くのをやめたメンタル管理用の日記を、タルタル麺だのタルタルタンメンだののレシピノートと勘違いされまして、
不思議な不思議な、言葉を話す子狐に、その日記、とられてしまいました。
狐が言葉を話すとか、バチクソ非現実的ですが、まぁまぁ、細かいことは気にしない。

さて。麺タルなる未知の料理を記している、と子狐が誤解しているA5サイズのメモ帳です。
「おいしいもの、いっぱい書いてるんだろうなぁ」
ひとまずザッと見渡して、一番美味しそうなものを、母狐に作ってもらおう!
コンコン子狐、自分のおうちである稲荷神社の、敷地内にある一軒家で、さっそく日記をご開帳!

「いでよ、めんタルタルたんたんめんのレシピ!」
1年で閉じられたメンタル管理用の日記、1ページ目の最初には、こう書かれていました。

 7月17日(日)
メンタル管理日記記録開始
午前:事務作業
午後: 同上
伝票集計入力にて、先輩の伝票に誤記載と記入漏れ
「先輩のミスに気づかなかった」ということで、こちらが叱責。入社数ヶ月の私を責める前に、まず基礎を教えてほしい。「伝票そのまま入力するだけ」とは?

「……めんたる、……かにて、の?」
コンコン子狐、狐なのに、宇宙猫状態。
ガキんちょなのです。まだ漢字が読めないのです。
でも、なんだかおかしいな。料理の名前はどれかしら。必要な食材とその分量はどれかしら。
料理の完成写真すら、貼っ付けられてないなんて。
これではどれが美味しい料理か、サッパリです。

「ととさん、ととさん。レシピ読んで」
分からないことは、分かる誰かに聞きましょう。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐は「麺タルの日記」を読んでもらうため、都内の某病院で漢方医をしている、けれど今日丁度お休みで家に居る、父狐に援護要請。
ここコンコンコン、コココこんこんこん。
子狐元気に鳴きながら、廊下を走り父狐を呼びます。
ととさん、ととさん。君に会いたくて、コンコン子狐は疾走中なのです。

「レシピ?」
自分の部屋で、普段飲みできる薬湯を、つまり陳皮と粳米と少しの蜂蜜でほっこり整えた生姜湯を、愛する母狐のために調合していた父狐。
「どれどれ、ととさんが、読んであげよう」
子狐から日記帳を貰って、表紙をめくると、
まぁまぁ、病院で漢方医として仕事するくらいです。
それが「麺タルのレシピ帳」ではなく、「メンタル管理の日記帳」だと、すぐに、ひしひし理解して、
すべて、察するのです。

「この日記の持ち主、今は、元気にしてるかい?」
父狐が優しく尋ねると、コンコン子狐、至極不思議そうな顔で、でも正直に頷きます。
「そう。良かった」
父狐、安心して、穏やかに言いました。
「元の場所に返してあげなさい」

「やだ。タルタルめん、たべたい」
「ととさんが、ちゃんと作ってあげるから」
「ととさん、おにく、炭にする。かかさんがいい」
「じゃあ、かかさんに頼んであげるから。これは元の場所に返しておいで。ね、いい子だから……」

1/19/2024, 3:46:06 AM

「『閉ざされた』『日記』って、どういう状況……」
前回は真冬に「木枯らし」、前々回は3部作チャレンジのごとく、「どうして」からの「この世界は」からの、「美しい」。そして今回が「閉ざされた日記」。
随分高難度なお題が続く。
某所在住物書きは、前回投稿分を投稿して約2時間後、アプリから配信された新しいお題にパックリ、開いた口が塞がらない。

アレか。閉鎖されたブログサービスサイトか。
それともIDやパスワードを忘れてログインできず、更新方法が絶たれたのか。
紛失か、喪失か、なにそれ難しい。
「毎日文章投稿してるアプリは、ほぼ日記……?」
閉ざされた日記って、何。物書きは繰り返した。

――――――

3月1日から投稿し続けてきたこのアカウントも、あと1ヶ月と10日程度ではや1年。
続けてきた日記モドキを、今の執筆スタイルで2年目突入するか、心機一転新シリーズを始めるか、なんならそれこそお題どおり閉じるか。
そろそろ考える必要のある物書きが、今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
母狐のお茶っ葉屋さんで看板狐のお仕事をしたり、自分で稲荷のご利益豊かなお餅を作って売り歩いたり。
餅売りの儲けは少ないものの、去年の3月3日頃から、人間のお得意様がひとり付きました。

そんなコンコン子狐が、おうちの庭を縄張り巡回、もとい、お散歩していたところ、
おやおや、子狐の餅売りのお得意様、まさしくその本人が、なにやら古い、A5サイズくらいのメモ帳を、その分厚いページをぱらり、ぱらり。
イスのかわりに置いてある、座り心地の良いヒノキに腰掛けて、それはそれは、懐かしそうな目をしておったのでした。

要するに、お金をくれるお得意様です。頭と背中と腹を幸福に撫でてくれるお得意様です。
子狐コンコン、尻尾をぶんぶん振り回して一直線!
お得意様に突撃して、膝に飛び乗り、服をよじ登ってぺろぺろぺろ!
エキノコックスも狂犬病もしっかり対策された安全な舌で、首だの顎だのを舐め倒しました。

「おとくいさん、おとくいさん!なに見てるの」
何ってそりゃ、今回のお題は「閉ざされた日記」ですから、日記には違いないのです。
子狐を膝上まで押し返して、お得意様、答えます。
「昔々上京してきた頃、1年だけ書いていたメモだ」
勿論、ちゃんと途中から白紙です。

「めも?」
「昨日、本を整理していたら出てきた。昔人間嫌いが酷かった頃、『メンタル管理にどうだ』と日記を勧められたんだが、書くことも見当たらなくて、結局その日食った飯の記録と、出会った美味いものの一覧に」
「めんたる?」
「田舎と都会の違いに揉まれて、やつれていた頃さ。結局続かず、1年で閉じた」

「麺タル!」
「待て。確実に何か勘違いしているだろう」
「タルタル、らーめん?れーめん?」
「Mental、心だ。チャーシュー麺だの担々麺だのの亜種じゃない」

「たんたんタルタルめん」
「なんだそのちょっと美味そうな新メニュー」

たんたん、タルタルたんめん、めんタルタルめんま。
コンコン子狐、子狐なので、メンタル管理が分かりません。心を整理するための日記帳を、なにかタンメンだの乾麺だの、美味しい麺類のメモと勘違いです。
子狐はメモが見たくて見たくて、仕方なくて、やっぱりお得意様の服をよじよじ。
あわよくば、その美味しい麺類を、一家のシェフ、板長、花板である母狐に、作ってもらいたいのです。

「麺タル、見せて、みせて」
「だから、麺でもタルタルでもない。メンタル管理用の日記だ。ただの記録でしかないし、有益な情報など何も無い。明日にはゴミ箱か可燃ごみの袋の中だ」
「ごみ、ダメ!タルタルたんたんタンメンみせて」
「あのな……?」
たんたんたん。たるたるたん。
1年程度で閉ざされた、途中から真っ白の日記帳は、稲荷の子狐に麺類のメモ帳と勘違いされて、
当分、だいたい5分と55秒くらい、狙われて甘噛みされて、引っ張られて、
最終的に、子狐が持ってってしまいましたとさ。
しゃーない、しゃーない。

1/18/2024, 8:25:24 AM

「からっ風なら分かるが、この真冬の時期に、『木枯らし』と言われてもなぁ……」
わぁ。高難度がやってきた。某所在住物書きは相変わらず途方に暮れて、ポンポン、今回投稿分の文章を打ち続けている。
「木枯らし」の意味は目を通した。タイトルに木枯らしがつく小説と、小説を原作とするドラマも調べた。
ショパン作曲の「Winter Wind」は日本で「木枯らし」と訳されているという。

「気象学は専門外だし、モンジローは世代じゃねぇし、音楽も知らねぇよ……」
何を、どう書けってよ、これ。
物書きは大きなため息を吐き、天井を見上げた。

――――――

こがらし【木枯らし・凩】
日本の太平洋側地域において、晩秋から初冬の間に吹く、強く冷たい北寄りの風のこと。
地域によって、期間や定義に僅かな差があるものの、
おおむね10月半ばから11月末の頃、西高東低の気圧配置の日に、北寄りかつ最大風速8m/s以上で吹く風をさして言う。

なお、似たものに「からっ風」がある。
こちらは関東地方などで、冬から春先にかけて、山を越えて吹いてくる風であり、冷たく乾燥している。


「じゃあ、今日吹いてるのは、木枯らしじゃなくてからっ風ってこと?」
「風の吹く向きによるがな」

職場で長い付き合いの先輩が、レンタルで借りてるロッカールームに本を置きに行くって言うから、私もついてってみた。
先輩のロッカールームは最近まで図書館だった。
去年の9月10月頃、それこそ木枯らしが吹く季節のあたりまで、本専用倉庫だった。
ものの2〜3ヶ月の間だけ、過去形だった。

雪国出身で東京に十数年住んでる先輩が、理想押しつけ厨な元恋人に、バチクソ酷く粘着されて、
Uターンを本気で考えて、一旦ここの倉庫の中身を全部実家に送っちゃったのだ。
しかも木枯らしが吹いてる間に、この理想押しつけ厨な元恋人との恋愛トラブルが、キッパリバッサリ、解決しちゃったのだ。
木枯らしからからっ風に変わる頃、Uターンの必要が無くなった先輩は、実家から、自分が送った大量の本を数回に分けて着払いで送り返してもらっていて、
で、今日、最後の本の段ボールが届いたから、レンタルで借りてるロッカールームに本を置きに行くと。

「からっ風と木枯らしって、地域限定だったんだ」
「なんなら木枯らし一号は、記憶が正しければ、もっと地域が狭かった筈だぞ。……東北と北海道で未発表だったかな?」
「それ『春一番』だって。春一番が北海道と東北除く全国で発表されてて、木枯らし一号は、東京と大阪だけって書いてる」

最後の本の段ボールには、「450〜499」って黒い太文字ペンで書いてて、
最初に目に入ったのが、『気象学豆知識辞典』っていう、カラー刷りで写真付きの本。
パッと開いたページの、右上に書かれてたのが、「木枯らし」の説明。
木枯らしって、日本海側では吹かないんだ。へー。

「……あ!」
「どうした」
「突発的に気になっちゃった、ことわざ!『ナントカとからっ風がどーとかこーとか』!」
「スマホで調べれば良いだろう」
「ことわざの本無い?天気の言葉だけ集めたやつ?」
「買った記憶が無い。辞書なら8類の棚だ」
「ハチルイ……?」

ハチルイって、なんぞ。
「450〜499」って書かれた段ボールからパッパさっさと、「4類」って目印が付いてる棚に本を突っ込んでる先輩は、
特にハチルイの説明をしてくれるでもなく、私をハチルイの棚に連れてってくれる様子もない。
「はちるい……8類?」
ここかな、って棚を見つけて、ザッと見たけど、その棚の本は4類に比べて、冊数が6分の1も無い。
少し退屈した私は、他の棚を行ったり来たりして、
5類の棚の、新品っぽい本を手に取った。

「『調理科学でみるズボラお菓子の作り方』?」
「なっ、おま、辞書は8類だ、何故5類にいる?」
「『心に寄り添うほっこりお茶菓子レシピ50』と、『料理下手でも作れる低糖質スイーツ』?」
「やめろ!いちいち読み上げなくていい!」

「先輩は別に料理下手じゃないと思う」
「そりゃどうも!」

1/17/2024, 3:38:09 AM

「前々回が『どうして』、前回が『この世界は』、それから今回が『美しい』。……実は三部作要請?」
いや書けねぇけど。今更前々回と前回に関係性持たせて、そこから今回に繋げるとか、無理だけど。
某所在住物書きはスマホの通知画面に大きなため息を吐き、ガリガリ、頭を抱えた。
このアプリにエモネタが多いのは理解していた。そのエモネタを書くのが不得意なのだ。

「美しいものの背景、美しいに味と書いて美味、あなたの美しいは私の地雷。……他には?」
わぁ。意外と思いつかねぇ。物書きは再度息を吐き、天井を見上げた。

――――――

塩味からの甘味からの塩味。美しい組み合わせだと思います。それはその辺に置いといて、昔々のおはなしです。完全に非現実なおはなしです。
◯◯年前の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の若狐が、前回投稿分でいうところの父狐。そろそろお嫁さんを探す時期になりました。
祭神のウカノミタマのオオカミ様が、「北に良き相手あり」とお告げをくださったので、
後のコンコン父狐、お告げに従い北上の旅です。
当時のコンコン若狐、お嫁さん探して北上の旅です。

「東京の狐のお嫁さん?私が?」
まずは近場を尋ねましょう。
狭山茶香る埼玉県、狭山の静かな茶畑で、コンコン若狐、美しい瞳の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は力いっぱい大きな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい瞳の狐、困った顔して言いました。
「私、優しい方より、広い茶畑を駆け回って悪いネズミを全部退治するような、持久力ある方が好きなの」
都内の病院で漢方内科の研修医をしている若狐、広い広い茶畑を見渡して、しょんぼり。
無理です。若狐、そこまで体力無いのです。
失意の中、コンコン若狐、また北上の旅なのです。

「私を、あなたの嫁にしたい?」
東京の真北といえばここでしょう。
風に稲穂そよぐ新潟県、庄内の一面金色な田んぼで、コンコン若狐、美しい声の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は頑張って綺麗そうな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい声の狐、困った顔して言いました。
「私、静かな方より、ドッサリ積もる雪を軽々片付けられるような、寒さにも雪にも強い方が好きなの」
都内の雪ほぼ積もらぬ神社に住む若狐、新潟の豪雪を思い浮かべて、しょんぼり。
無理です。若狐、雪片付けなどしたことありません。
意気消沈の中、コンコン若狐、更に北上の旅です。

山形のアメジストかエメラルドなブドウ畑を通り、秋田の絹の反物みたいな手延うどんを見ながら白神山地に入り、とってって、とってって。
コンコン若狐、北上と失恋を重ねに重ねて、とうとう本州最北の県までやって来ました。
ここまで55連敗。そろそろ気持ちがキツいのです。

「東京のあなたが、北国の私を嫁に、ですか」
雪降り積もる小さな霊場の山の中で、コンコン若狐、美しい毛並みの狐に会いました。
父親は、北海道と本州繋ぐトンネル伝って、長い旅してきた黒狐。母親は、小さな霊場を根城にする白狐。
親のどちらにも似てないけれど、その美しい毛並みは、雪氷まとってキラキラ光り輝いておりました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐はこれを最後と、一生懸命愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい毛並みの狐、困った顔せず言いました。
「東京からここまで来るあたり、随分辛抱強い方ですね。私は心の強さと柔軟さを好みます。
良いでしょう。あなたの嫁になってあげましょう」
都内某所の稲荷神社在住な若狐、ここにきてようやくニッコリ。55連敗のその先で、ついに、美しいお嫁さんと巡り合ったのです!
幸福と感謝でビタンビタン。尻尾をバチクソ振って、若狐、お嫁さんと一緒に東京へ帰ってゆきました。
それから都内の若狐は病院の漢方医として、北国の嫁狐は稲荷神社近くに茶葉屋を開いて、
酷い喧嘩も無く、双方浮気もせず、いつまでもいつまでも穏やかに、幸せに、平和に暮らしましたとさ。

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