かたいなか

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「前々回が『どうして』、前回が『この世界は』、それから今回が『美しい』。……実は三部作要請?」
いや書けねぇけど。今更前々回と前回に関係性持たせて、そこから今回に繋げるとか、無理だけど。
某所在住物書きはスマホの通知画面に大きなため息を吐き、ガリガリ、頭を抱えた。
このアプリにエモネタが多いのは理解していた。そのエモネタを書くのが不得意なのだ。

「美しいものの背景、美しいに味と書いて美味、あなたの美しいは私の地雷。……他には?」
わぁ。意外と思いつかねぇ。物書きは再度息を吐き、天井を見上げた。

――――――

塩味からの甘味からの塩味。美しい組み合わせだと思います。それはその辺に置いといて、昔々のおはなしです。完全に非現実なおはなしです。
◯◯年前の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の若狐が、前回投稿分でいうところの父狐。そろそろお嫁さんを探す時期になりました。
祭神のウカノミタマのオオカミ様が、「北に良き相手あり」とお告げをくださったので、
後のコンコン父狐、お告げに従い北上の旅です。
当時のコンコン若狐、お嫁さん探して北上の旅です。

「東京の狐のお嫁さん?私が?」
まずは近場を尋ねましょう。
狭山茶香る埼玉県、狭山の静かな茶畑で、コンコン若狐、美しい瞳の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は力いっぱい大きな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい瞳の狐、困った顔して言いました。
「私、優しい方より、広い茶畑を駆け回って悪いネズミを全部退治するような、持久力ある方が好きなの」
都内の病院で漢方内科の研修医をしている若狐、広い広い茶畑を見渡して、しょんぼり。
無理です。若狐、そこまで体力無いのです。
失意の中、コンコン若狐、また北上の旅なのです。

「私を、あなたの嫁にしたい?」
東京の真北といえばここでしょう。
風に稲穂そよぐ新潟県、庄内の一面金色な田んぼで、コンコン若狐、美しい声の狐に会いました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐は頑張って綺麗そうな声で、愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい声の狐、困った顔して言いました。
「私、静かな方より、ドッサリ積もる雪を軽々片付けられるような、寒さにも雪にも強い方が好きなの」
都内の雪ほぼ積もらぬ神社に住む若狐、新潟の豪雪を思い浮かべて、しょんぼり。
無理です。若狐、雪片付けなどしたことありません。
意気消沈の中、コンコン若狐、更に北上の旅です。

山形のアメジストかエメラルドなブドウ畑を通り、秋田の絹の反物みたいな手延うどんを見ながら白神山地に入り、とってって、とってって。
コンコン若狐、北上と失恋を重ねに重ねて、とうとう本州最北の県までやって来ました。
ここまで55連敗。そろそろ気持ちがキツいのです。

「東京のあなたが、北国の私を嫁に、ですか」
雪降り積もる小さな霊場の山の中で、コンコン若狐、美しい毛並みの狐に会いました。
父親は、北海道と本州繋ぐトンネル伝って、長い旅してきた黒狐。母親は、小さな霊場を根城にする白狐。
親のどちらにも似てないけれど、その美しい毛並みは、雪氷まとってキラキラ光り輝いておりました。
このひとこそ、私のお嫁さんに違いない!若狐はこれを最後と、一生懸命愛を叫びました。
美しいあなた、私のお嫁さんになってください!

すると美しい毛並みの狐、困った顔せず言いました。
「東京からここまで来るあたり、随分辛抱強い方ですね。私は心の強さと柔軟さを好みます。
良いでしょう。あなたの嫁になってあげましょう」
都内某所の稲荷神社在住な若狐、ここにきてようやくニッコリ。55連敗のその先で、ついに、美しいお嫁さんと巡り合ったのです!
幸福と感謝でビタンビタン。尻尾をバチクソ振って、若狐、お嫁さんと一緒に東京へ帰ってゆきました。
それから都内の若狐は病院の漢方医として、北国の嫁狐は稲荷神社近くに茶葉屋を開いて、
酷い喧嘩も無く、双方浮気もせず、いつまでもいつまでも穏やかに、幸せに、平和に暮らしましたとさ。

1/17/2024, 3:38:09 AM