「今年なら、『夏と冬は一緒に来ることがあります』とか、『冬は一緒にアイスクリームを食べましょう(夏日)』とか、書けるんだろうな」
先日その夏日を観測した某県、昨日最低気温氷点下だってな。某所在住物書きはテレビに映る某高校用教育番組をチラ見して、二度見した。
タイトルは「日本のバイオーム」。某サンドボックスゲームしか思いつかないが、そういえば昔々はこのバイオームがアップデートごとに安定しなかった。
それこそ、冬と一緒に、別の環境・別の季節が突如同居したことも。
VIT△版が更新終了となってから離れたが、今あのゲームはどうなっているやら。
「……冬ねぇ」
物書きは天井を見上げた。
「まぁ、クリスマスは、今年もぼっちよな」
別に寂しくはない。
――――――
職場の先輩が先日風邪ひいて、念のための療養で今在宅ワークにしてて、私がその先輩のお見舞いに行ってお昼ご飯にししゃも食べてたら、
その間に、ウチの部署のゴマスリ係長、上司にゴマスリばっかりして部下には自分の仕事押し付けまくってるクソ係長が、
先輩より少し前に、実は微熱出して、喉の違和感云々で、それでも構わず職場に来てました、
って事実が、同部署のお仲間ちゃんから、DMでこっそり、もたらされた。
当の本人は、今日その不調をこじらせて欠勤。
どうやら、先輩はゴマスリから風邪をうつされて、とばっちりを食らった格好だったらしい。
「それでも、先輩はすぐ治って、元気だよね」
何か裏技でも使った? 食後の焙じ茶貰って、あったかいそれを飲みながら、先輩に聞いた。
先輩が「焙じ茶製造器」って言いかけて、毎度すぐ「茶香炉」って訂正するジャパニーズアロマポットで、熱入れた茶葉で淹れたやつだ。
一度、先輩が諸事情でそれを処分しようとしてて、私が「捨てるくらいなら私にちょうだい」って言ったことがあるやつだ。
……よく見ると、いつもよりキレイになってる。
洗ったのかな。
「そういえばお前、私の故郷の雪だの花だのを、見たいと言っていたな」
お鍋とお茶碗拭きながら、先輩は話題を逸らした。
「お前には先月・先々月、加元さんのことで随分世話になった。3月の最初、実家に顔を出す予定だが、ついてくるか」
加元。かもとさん。
先輩の元恋人で、8年間先輩を追っかけ回してた粘着さんで、8〜9年前先輩の心をズッタズタに壊した、理想押し付け厨。
居住区バレた先輩が夜逃げのために、家財家電を整理して、茶香炉も手放そうとした理由で元凶。
11月13日頃、先輩はようやく、この加元との縁を完全に切ることができた。
私の「言い出しっぺ」がきっかけだけど、先輩はなぜか、それでも私に恩を感じてるらしい。
「どうだろう。その……、今年の冬は一緒に、たとえば、茶でも飲みながら、雪の公園の散歩でも」
別に、ただの花と山野草と、雪しか無い、今の時期は真っ白なだけの田舎だ。面白くも何ともないが。
先輩はあきらかに、私から視線を外して、そっぽ向きながら、ごにょごにょした。
「3月の最初って、冬?」
「私の故郷では冬だ。雪は大量に残っているし、最高氷点下も多い」
「さい『こう』、ひょうてんか」
「1月2月よりはマシだ。ホワイトアウトと路面凍結が酷いから。3月なら、比較的安全に雪が見られる」
「ほわいとあうと、ろめんとうけつ」
「冬だろう」
「ふゆだ」
どうだ。冬は、一緒に。
先輩はお鍋とお茶碗を片して、視線逸らしながら、小さな声で、返事を期待してない風に私に言った。
「まとまりの無い話、目的・結果の無い話、バラバラした話、要領を得ない、まとまりが無い、しかと定まらない、どうでもいい……」
『取り留めも無い』、と書くのか。
某所在住物書きは、今回の題目の、そもそもの意味をネットで調べて気がついた。
俺の執筆スタイルそのまんまじゃねぇか。
「……いや、一応、3月1日の初投稿から、連載風の続き物モドキは貫いけるけどさ。けどさ」
結局、ストーリー進行なんざ、天気と空と年中行事とエモネタで大半を占めてるっぽいこのアプリの、出題されるお題によるから「しかと定まらない」ところはあるし。
物書きはカキリ、小首を鳴らし傾ける。
「で、今日はその、毎日投稿してる『とりとめもない話』に、拍車でもかけろって?」
――――――
私の職場の先輩が、春から数えて、今年2度目の風邪をひいて、なんか知らないけど1日で治ったらしい。
風邪は、仕方無い気がしないでもない。
今東京はインフルとか子供の感染症とかが増えてるらしいし、なにより、私達の職場も休む人がチラホラ少しずつ増えてきてた。
めまいで一回、パッタリ部屋で倒れたらしいけど、「インフルエンザや新型コロナでなかっただけマシ」とか何とか、先輩は個チャで言ってた。
風邪にしたって、1日で治るとか、不思議過ぎる。
絶対、熱が下がったから仕事できるもんの法則だ。
それか実は風邪じゃなくて、私みたいに、寒暖差とかホルモンバランスとかで突然一気に体調崩したんだ。
先輩はソロでバチクソ仕事ができる分、自分ひとりだけで、何でもやり過ぎちゃうから。
仕事しごとシゴト。
シゴトムシな先輩が、どうにも心配。
病み上がりで在宅ワークしてる先輩のアパートに、書類届ける名目で、ちょっと様子を見に行ってきた。
「来るなら来ると、早めに言えば良いものを」
心配も何のその、先輩は部屋でピンピンしてて、普通にパソコン使って仕事してた。
「悪いが、私ひとりで昼飯を食う予定だったから、完全に簡単なものしか無いぞ」
なんならお昼ご飯の準備もできるくらい、すごく元気にしてる。「風邪ひいた」とは何だったのか。
本当にひいたの?なんで1日でここまで治ったの?
「先輩の風邪、実は風邪じゃなくて酷い体調不良だった説、無きにしもあらず?」
「お前に言ったところで、信じちゃもらえない」
じゅーじゅー、ぱちぱち。キッチンでししゃもを焼きながら先輩が言った。
「少なくとも、先日熱が出て、夜までに下がって、今日このとおり、というのは事実だ」
まだ部屋までししゃもの匂いは届いてないけど、
かわりに、小さな1合炊きの炊飯器が、ごはん炊けましたって白米の香りをフワフワさせてきた。
「信じるか信じないかなんて、聞いてみないと、そんなの分かんないもん」
「おまえ、ししゃもは何で食う派だ。辛子マヨネーズか?塩レモン?バター醤油?」
「はいはい先輩の得意技。話題変更。唐突にフってくる『目的も結果もどうでもいい話』」
「今回のは『どうでもいい話』ではないだろう。
で?何で食う?ソースは中濃しか無いが?」
「ぜんぶ」
パチパチパチ。ぱちぱちぱち。
私が先輩の風邪の真相を聞いて、先輩がとりとめもな味つけの話ではぐらかして、
その間に、ししゃもが5匹10匹、順番に焼けてく。
申し訳程度の野菜要素は消費期限当日の半額サラダ。
結局ししゃもの方は辛子マヨ醤油が至高だったけど、
先輩の風邪と治りの謎は正解不明なままだった。
「風邪ネタは昔書いたのよ。3月22日、『二人ぼっち』ってお題だったわ」
懐かしいな。あれからもうすぐ8ヶ月だってよ。
某所在住物書きは「風邪」をネットやら己の部屋の本棚やらで調べていた。
「かぜ」と読めば、いわゆる普通感冒であるが、「ふうじゃ」と読めば漢方の領域に入るという。
風の邪気なるものが原因で、発熱や発汗、頭痛や鼻汁、のどの痛み等々があらわれるとか。
「どっちにしろ、『風邪』になるのな」
物書きはため息を吐いた。
「つまり俺の場合風邪ネタ2回目、いや3回目?」
そういえば先月のお題に、「微熱」があった。
――――――
先日まで、あんなに暖かかった東京。しかしどうやら予報によると、土曜の最低が1℃だそうです。
夏日の過剰在庫も、ようやく捌き終えたかしら。なにはともあれ、今日はこんなおはなし。
昨日投稿分から続く、不思議な子狐と雪国出身な上京者のおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社に不思議な子狐がおり、不思議なお餅を作って売って、善良な化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中。
子狐にはたったひとり、人間のお得意様がおりまして、名前を藤森といいました。
この藤森の実家が自家製雪中リンゴを春に(田舎クォンティティーでどっさり)送って寄越すそうで、稲荷神社に住まう狐一家に、「どうだ」。
これが前回の要約です。
コンコン子狐、藤森がリンゴをくれるというので、母狐のもとへ飛んで跳ねて、それを伝えにゆきました。
「稲荷神社に心からの供物とは。感心な人間です」
母狐は言いました。
「丁度良い。これから、今以上に風邪が悪さを始めるでしょう。リンゴの見返りに、風邪に効く餅を作っておやりなさい」
そうしよう、そうしよう!子狐コンコン、母狐の言いつけに従って、さっそくお餅を作り始めました。
――「……妙に、さむいな」
それから数時間後の藤森はといいますと、神社近くのアパートに、戻ってきまして夕飯用に、安売りからの値引きでなかなか良い価格となった豚バラ軟骨を、
コトコト、ことこと。小さめのお鍋の弱火でじっくり煮込んでおりましたところ、
寒気と、少しの喉の違和感に気付きました。
新型コロナウイルス感染症の初期症状、複数存在するその中に、悪寒と喉の違和感はよくみとめられます。
「しまった、こぎつね!」
少し前まで、感染症対策にマスクこそしていたものの、至近距離で子狐と会話をしていた藤森。
油断した、と思いました。
やってしまったと後悔しました。
すぐさま備蓄の検査キットの封を切り、脇下より幾分か正確と聞いた気がする舌下体温計を口に含み、
どうかせめて、愛玩動物への感染事例も存在するコロナの方ではありませんようにと、
祈りながら、子狐住まう稲荷神社の、連絡先を調べようとクルリ振り返ったその矢先、
「くっ……ぅ!?」
ふわり。風邪特有の浮遊感とめまいを起こし、
藤森、バッタンその場に倒れてしまいました。
「うそだろ、どうしてこんな、一気に」
どうしてこんな、一気に体調が悪化したのか。疑問に思う藤森。体が言うことを聞きません。
そうこうしているうちに、母狐に言われてお餅を作っておった子狐が、葛のツルで編んだカゴにお餅をどっさり詰めて、
アパートの厳重ロックもセキュリティもなんのその、藤森の部屋に入ってきました。
「おとくいさんが、たおれてる」
うつる可能性がある。近寄るな。すぐ戻れ。
子狐案じて言う藤森の言葉も知らんぷり。
クンカクンカくんか、くんくん。子狐は自慢の鼻を近づけて、藤森の吐息を、頬の皮膚を、その匂いの変化を調べます。
「風邪だ、風邪だ!」
コンコン子狐、カゴからお餅を取り出しました。
稲荷の加護と狐のまじないを両方振って、都内で漢方医として労働している父狐の監修のもと、
人間が未だ辿り着かぬ「普通感冒の特効薬」を、まさに母狐の言いつけで、子狐作っておったのです。
「なづけて、『風邪引きさんスペシャル』!」
葛根湯根拠の食材と、不思議な狐のチカラによって、これを食べればたちまち元気!
さぁ、食べなされ、食べなされ。子狐はさっそく藤森のクチをこじ開けて、子どもの握りこぶしくらいの大きさのお餅を、そのままズッポリ――
「ぐ、が……っぐ!(こぎつね、せめて、水!)」
「おとくいさん、よく噛んで、よくかんで」
「うぐっ……!(噛 め る か !)」
藤森、なんとかお餅を飲み込みまして、結果その日の夜のうちに、風邪がすっかり治りましたとさ。
おしまい、おしまい。
「北東北と北海道はもう降ってて、今20℃超えしてる地域でも、これから降雪の可能性アリな県が一応あるんだっけ?」
南西が夏、中央が多分晩秋か冬、北東が真冬。
どこ基準で「雪を待つ」かで、意味合いが違ってくるんだろうな。某所在住物書きはスマホで調べ物をしながら、ぽつり。
積雪多い雪国は(丁度そこ出身の設定にしているキャラが持ちネタに居るのだが)、毎年毎年の雪片付けで、いっそ目の敵にすらしている方々も居そうだ。
彼らに「雪を待つ」気持ちは有るだろうか。
「……今年は待ってる人も居るんだろうな」
ぽつり。物書きは再度呟く。
なんといっても今年は猛暑で、今月も温暖である。
――――――
とうとう12月も中頃。
ホットココアが……美味しいんだか、暑くてまだアイスでも良いくらいだか、なんなら鍋すらまだ遠いのか、分からない昨今いかがお過ごしでしょうか。
「雪を待つ」がお題とのことで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社は、不思議な不思議な化け狐の一家が仲良く暮らす、不思議な神社。
引くおみくじは、そこそこよく当たり、買うお守りも少しご利益多めです。
そんな稲荷神社には、善き化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中の、末っ子子狐がおりまして、
ぺったんぺったん、週1〜2回、不思議なお餅を作って売って、人間を学んでおったのでした。
そんなコンコン子狐は、ひとりだけですが、人間のお得意様がおりました。
雪国出身、メタい話をすると過去3月3日投稿分でファーストコンタクト、藤森という人間です。
子狐の作る餅は不思議なお餅、心の傷も毒も疲れも、ぺったり絡め取って癒やしてくれるので、
この藤森、コンコン子狐のリピーターなのです。
そのお得意様、藤森が、このたび神社にお参りに来て、こんなことを言いました。
「子狐。おまえ、リンゴは食えるのか」
コンコン子狐、まんまるおめめを輝かせました。
果物です。お供え物です。
狐はああ見えて雑食性でして、お肉の他に、タケノコも果物も大好きなのです。
「リンゴ、りんご!たべる!」
「待て。今じゃない。待て、待……、……ステイ!」
藤森いわく、それは、「雪室リンゴ」、あるいは「雪中リンゴ」なるもののことでした。
「最大産地の青森はじめ、秋田や山形、長野でも、つまり複数の積雪地域で作られているものだ」
尻尾ブンブン、おめめキラキラで突撃してくる子狐を、藤森なんとか押さえながら言いました。
「雪が降って、積もってからの話になるが、その中にリンゴを埋めて冬の終わりに掘り出すと、埋める前とまた違った甘さのリンゴになる。
実家の母が、今年自家製に挑戦するらしくてな。日頃餅で世話になっているから、どうだと思って」
「雪!いつふるの?いつ、つもるの?」
雪も大好きなコンコン子狐。振ってる尻尾が完全に扇風機かハイスピードメトロノームです。
東京から一歩も出たことがない子狐、雪国の雪がいつ降るか、いつ積もるのか、さっぱり分かりません。
でも、雪が降れば、どうやらセッチューリンゴなるものが、どっさり食べられるようです。
「雪自体は、もう降っている。必要量積もるのも、時間の問題だろう」
藤森は言いました。
「雪中リンゴを取り出すのは、まだまだ先の話だ。
……ともかく、食えるんだな。分かった」
スマホをポケットから取り出して、ポンポン何かメモをして、数度頷いてまたポケットにしまって。
「期待はするなよ」
藤森、お賽銭して帰る前に、ぽつり言いました。
「なにせ、今年は暖冬だ」
コンコン子狐、子供なのでダントーを知りません。
でも、ともかく、「雪が降ればセッチューリンゴが食える」と、しっかりガッツリ学習したようです。
「雪、ゆき!」
子狐コンコン、セッチューリンゴを食べたことがありません。東京に雪降らぬ今から既に、楽しみで、楽しみで仕方ないのです。
「雪、まだかなぁ、明日かなぁ!」
尻尾をブンブン振りながら、なんならぴょんぴょん跳ねながら、気持ちがフライング気味な子狐は、雪国の雪を待つのでした。
おしまい、おしまい。
「都内某所のイルミがヤバいハナシはSNSで見た」
クリスマスの影響か、イルミっつったら冬ってイメージが強いわ。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら呟いた。あの場所のイルミは、一体全体どうしてそうなったのか。
「そういやイルミって、何年前から日本でメジャーになったんだろうな?」
LED電球、コンピュータ制御、プロジェクションマッピングとの連携。
「イルミネーション」も昔々に比べれば、規模にせよ明るさにせよ、随分進歩・変化したといえる。
「で?」
カキリ、カキリ。物書きは首を傾けた。
「何書けって?イルミ見てイチャつくカップル?」
――――――
某流星群の極大日、夜の都内。某商店街。
今日も今日とて己の職場で、ブラックに限りなく近いグレー企業の構成員として、商品ノルマを捌いたり上司の理不尽に付き合わされたりしていた女性が、
仕事帰り、今夜の飯を何にしようと、
ふらりふらり、歩いている。
あっちの店の肉が高い、こっちの店の野菜が安い。
魚は販路云々の危機と聞いた気もするが、そのわりに値段は下がってない、気がしないでもない。
「でもイナダは覚えた。ブリの進化前」
今日もさしてお買い得は無いし、安定の冷食とモヤシとウィンナーと、さっき買った卵で目玉焼きかな。
商店街を飾る白に青、無数のイルミネーションを見上げながら、彼女は自宅のアパートへ帰るまでの寄り道を、それとなく楽しんだ。
(そういえば先輩、今夜は流星群がどうとか)
雪国出身、時折生活費節約のためにシェアランチ、シェアディナーを共謀する職場の先輩を思い浮かべながら、光る壁、輝く樹木の更に上を見る。
流星の極大日である。夜遅くから未明にかけて、時と条件さえ揃えば、1分間に約1個の流れ星が、一応、見込めるという。
コツは光の無い、広い視野を確保できる場所で、よくよく暗闇に目を慣らし、空を見上げること。
更に条件を突き詰めたいなら、空気による揺らぎの少ない、山や高所が望ましい。
まぁ、そもそもの話として、天気が。
(どうせ来年も見れるらしいし)
天の雲のせいか、地上の光の影響か、空はただ黒い。
(先輩の故郷なら、キレイに見えたのかな)
空の流れ星はザンネンだけど、地上のイルミだって、ほら、負けてないでしょ。
彼女は小さなため息をひとつ吐き、少し空を見渡し、家路へと一歩踏み出そうとして、
ガツン、
つま先が縁石に当たった。
「あッ……」
つまづいた。
引き伸ばされた時間の感覚の中で彼女は理解した。
アドレナリンとコルチゾールがドッパドッパ溢れ出て、「お前さっき卵買ってなかった?」と問う。
記憶が勝手に掘り起こされて、「そういえばおととい、不思議な茶っ葉屋さんの店主さんから『明後日足元に気をつけて』って言われたよね」と今更言う。
ヤバくない?
せっかく買った卵、まだ高いのに、全部割れない?
ダメじゃない?
タッ、トッ、タ。
彼女は瞬時に、かつ本能と己の金銭事情に従い、
買い物袋を抱きしめ一歩二歩三歩よろけて、
気合の四歩目で、執念により、踏みとどまった。
わぁ。わたし、がんばった。
早鐘打つ心臓と呼吸を整え、大きな息を吐き、
今度こそ、イルミネーションが照らす家路を歩く。
(足元注意、大事……)
商店街の白と青は、それら一部始終を見下ろし、光を投げている。