「都内某所のイルミがヤバいハナシはSNSで見た」
クリスマスの影響か、イルミっつったら冬ってイメージが強いわ。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら呟いた。あの場所のイルミは、一体全体どうしてそうなったのか。
「そういやイルミって、何年前から日本でメジャーになったんだろうな?」
LED電球、コンピュータ制御、プロジェクションマッピングとの連携。
「イルミネーション」も昔々に比べれば、規模にせよ明るさにせよ、随分進歩・変化したといえる。
「で?」
カキリ、カキリ。物書きは首を傾けた。
「何書けって?イルミ見てイチャつくカップル?」
――――――
某流星群の極大日、夜の都内。某商店街。
今日も今日とて己の職場で、ブラックに限りなく近いグレー企業の構成員として、商品ノルマを捌いたり上司の理不尽に付き合わされたりしていた女性が、
仕事帰り、今夜の飯を何にしようと、
ふらりふらり、歩いている。
あっちの店の肉が高い、こっちの店の野菜が安い。
魚は販路云々の危機と聞いた気もするが、そのわりに値段は下がってない、気がしないでもない。
「でもイナダは覚えた。ブリの進化前」
今日もさしてお買い得は無いし、安定の冷食とモヤシとウィンナーと、さっき買った卵で目玉焼きかな。
商店街を飾る白に青、無数のイルミネーションを見上げながら、彼女は自宅のアパートへ帰るまでの寄り道を、それとなく楽しんだ。
(そういえば先輩、今夜は流星群がどうとか)
雪国出身、時折生活費節約のためにシェアランチ、シェアディナーを共謀する職場の先輩を思い浮かべながら、光る壁、輝く樹木の更に上を見る。
流星の極大日である。夜遅くから未明にかけて、時と条件さえ揃えば、1分間に約1個の流れ星が、一応、見込めるという。
コツは光の無い、広い視野を確保できる場所で、よくよく暗闇に目を慣らし、空を見上げること。
更に条件を突き詰めたいなら、空気による揺らぎの少ない、山や高所が望ましい。
まぁ、そもそもの話として、天気が。
(どうせ来年も見れるらしいし)
天の雲のせいか、地上の光の影響か、空はただ黒い。
(先輩の故郷なら、キレイに見えたのかな)
空の流れ星はザンネンだけど、地上のイルミだって、ほら、負けてないでしょ。
彼女は小さなため息をひとつ吐き、少し空を見渡し、家路へと一歩踏み出そうとして、
ガツン、
つま先が縁石に当たった。
「あッ……」
つまづいた。
引き伸ばされた時間の感覚の中で彼女は理解した。
アドレナリンとコルチゾールがドッパドッパ溢れ出て、「お前さっき卵買ってなかった?」と問う。
記憶が勝手に掘り起こされて、「そういえばおととい、不思議な茶っ葉屋さんの店主さんから『明後日足元に気をつけて』って言われたよね」と今更言う。
ヤバくない?
せっかく買った卵、まだ高いのに、全部割れない?
ダメじゃない?
タッ、トッ、タ。
彼女は瞬時に、かつ本能と己の金銭事情に従い、
買い物袋を抱きしめ一歩二歩三歩よろけて、
気合の四歩目で、執念により、踏みとどまった。
わぁ。わたし、がんばった。
早鐘打つ心臓と呼吸を整え、大きな息を吐き、
今度こそ、イルミネーションが照らす家路を歩く。
(足元注意、大事……)
商店街の白と青は、それら一部始終を見下ろし、光を投げている。
12/15/2023, 4:26:27 AM