かたいなか

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「風邪ネタは昔書いたのよ。3月22日、『二人ぼっち』ってお題だったわ」
懐かしいな。あれからもうすぐ8ヶ月だってよ。
某所在住物書きは「風邪」をネットやら己の部屋の本棚やらで調べていた。
「かぜ」と読めば、いわゆる普通感冒であるが、「ふうじゃ」と読めば漢方の領域に入るという。
風の邪気なるものが原因で、発熱や発汗、頭痛や鼻汁、のどの痛み等々があらわれるとか。
「どっちにしろ、『風邪』になるのな」

物書きはため息を吐いた。
「つまり俺の場合風邪ネタ2回目、いや3回目?」
そういえば先月のお題に、「微熱」があった。

――――――

先日まで、あんなに暖かかった東京。しかしどうやら予報によると、土曜の最低が1℃だそうです。
夏日の過剰在庫も、ようやく捌き終えたかしら。なにはともあれ、今日はこんなおはなし。
昨日投稿分から続く、不思議な子狐と雪国出身な上京者のおはなしです。

最近最近の都内某所、某稲荷神社に不思議な子狐がおり、不思議なお餅を作って売って、善良な化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中。
子狐にはたったひとり、人間のお得意様がおりまして、名前を藤森といいました。
この藤森の実家が自家製雪中リンゴを春に(田舎クォンティティーでどっさり)送って寄越すそうで、稲荷神社に住まう狐一家に、「どうだ」。
これが前回の要約です。

コンコン子狐、藤森がリンゴをくれるというので、母狐のもとへ飛んで跳ねて、それを伝えにゆきました。
「稲荷神社に心からの供物とは。感心な人間です」
母狐は言いました。
「丁度良い。これから、今以上に風邪が悪さを始めるでしょう。リンゴの見返りに、風邪に効く餅を作っておやりなさい」
そうしよう、そうしよう!子狐コンコン、母狐の言いつけに従って、さっそくお餅を作り始めました。

――「……妙に、さむいな」
それから数時間後の藤森はといいますと、神社近くのアパートに、戻ってきまして夕飯用に、安売りからの値引きでなかなか良い価格となった豚バラ軟骨を、
コトコト、ことこと。小さめのお鍋の弱火でじっくり煮込んでおりましたところ、
寒気と、少しの喉の違和感に気付きました。

新型コロナウイルス感染症の初期症状、複数存在するその中に、悪寒と喉の違和感はよくみとめられます。
「しまった、こぎつね!」
少し前まで、感染症対策にマスクこそしていたものの、至近距離で子狐と会話をしていた藤森。
油断した、と思いました。
やってしまったと後悔しました。
すぐさま備蓄の検査キットの封を切り、脇下より幾分か正確と聞いた気がする舌下体温計を口に含み、
どうかせめて、愛玩動物への感染事例も存在するコロナの方ではありませんようにと、
祈りながら、子狐住まう稲荷神社の、連絡先を調べようとクルリ振り返ったその矢先、
「くっ……ぅ!?」
ふわり。風邪特有の浮遊感とめまいを起こし、
藤森、バッタンその場に倒れてしまいました。

「うそだろ、どうしてこんな、一気に」
どうしてこんな、一気に体調が悪化したのか。疑問に思う藤森。体が言うことを聞きません。
そうこうしているうちに、母狐に言われてお餅を作っておった子狐が、葛のツルで編んだカゴにお餅をどっさり詰めて、
アパートの厳重ロックもセキュリティもなんのその、藤森の部屋に入ってきました。

「おとくいさんが、たおれてる」
うつる可能性がある。近寄るな。すぐ戻れ。
子狐案じて言う藤森の言葉も知らんぷり。
クンカクンカくんか、くんくん。子狐は自慢の鼻を近づけて、藤森の吐息を、頬の皮膚を、その匂いの変化を調べます。
「風邪だ、風邪だ!」
コンコン子狐、カゴからお餅を取り出しました。
稲荷の加護と狐のまじないを両方振って、都内で漢方医として労働している父狐の監修のもと、
人間が未だ辿り着かぬ「普通感冒の特効薬」を、まさに母狐の言いつけで、子狐作っておったのです。

「なづけて、『風邪引きさんスペシャル』!」
葛根湯根拠の食材と、不思議な狐のチカラによって、これを食べればたちまち元気!
さぁ、食べなされ、食べなされ。子狐はさっそく藤森のクチをこじ開けて、子どもの握りこぶしくらいの大きさのお餅を、そのままズッポリ――
「ぐ、が……っぐ!(こぎつね、せめて、水!)」
「おとくいさん、よく噛んで、よくかんで」
「うぐっ……!(噛 め る か !)」
藤森、なんとかお餅を飲み込みまして、結果その日の夜のうちに、風邪がすっかり治りましたとさ。
おしまい、おしまい。

12/17/2023, 1:50:51 AM