かたいなか

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12/16/2023, 2:09:45 AM

「北東北と北海道はもう降ってて、今20℃超えしてる地域でも、これから降雪の可能性アリな県が一応あるんだっけ?」
南西が夏、中央が多分晩秋か冬、北東が真冬。
どこ基準で「雪を待つ」かで、意味合いが違ってくるんだろうな。某所在住物書きはスマホで調べ物をしながら、ぽつり。
積雪多い雪国は(丁度そこ出身の設定にしているキャラが持ちネタに居るのだが)、毎年毎年の雪片付けで、いっそ目の敵にすらしている方々も居そうだ。
彼らに「雪を待つ」気持ちは有るだろうか。

「……今年は待ってる人も居るんだろうな」
ぽつり。物書きは再度呟く。
なんといっても今年は猛暑で、今月も温暖である。

――――――

とうとう12月も中頃。
ホットココアが……美味しいんだか、暑くてまだアイスでも良いくらいだか、なんなら鍋すらまだ遠いのか、分からない昨今いかがお過ごしでしょうか。
「雪を待つ」がお題とのことで、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社は、不思議な不思議な化け狐の一家が仲良く暮らす、不思議な神社。
引くおみくじは、そこそこよく当たり、買うお守りも少しご利益多めです。
そんな稲荷神社には、善き化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中の、末っ子子狐がおりまして、
ぺったんぺったん、週1〜2回、不思議なお餅を作って売って、人間を学んでおったのでした。

そんなコンコン子狐は、ひとりだけですが、人間のお得意様がおりました。
雪国出身、メタい話をすると過去3月3日投稿分でファーストコンタクト、藤森という人間です。
子狐の作る餅は不思議なお餅、心の傷も毒も疲れも、ぺったり絡め取って癒やしてくれるので、
この藤森、コンコン子狐のリピーターなのです。

そのお得意様、藤森が、このたび神社にお参りに来て、こんなことを言いました。
「子狐。おまえ、リンゴは食えるのか」
コンコン子狐、まんまるおめめを輝かせました。
果物です。お供え物です。
狐はああ見えて雑食性でして、お肉の他に、タケノコも果物も大好きなのです。

「リンゴ、りんご!たべる!」
「待て。今じゃない。待て、待……、……ステイ!」

藤森いわく、それは、「雪室リンゴ」、あるいは「雪中リンゴ」なるもののことでした。
「最大産地の青森はじめ、秋田や山形、長野でも、つまり複数の積雪地域で作られているものだ」
尻尾ブンブン、おめめキラキラで突撃してくる子狐を、藤森なんとか押さえながら言いました。
「雪が降って、積もってからの話になるが、その中にリンゴを埋めて冬の終わりに掘り出すと、埋める前とまた違った甘さのリンゴになる。
実家の母が、今年自家製に挑戦するらしくてな。日頃餅で世話になっているから、どうだと思って」

「雪!いつふるの?いつ、つもるの?」
雪も大好きなコンコン子狐。振ってる尻尾が完全に扇風機かハイスピードメトロノームです。
東京から一歩も出たことがない子狐、雪国の雪がいつ降るか、いつ積もるのか、さっぱり分かりません。
でも、雪が降れば、どうやらセッチューリンゴなるものが、どっさり食べられるようです。
「雪自体は、もう降っている。必要量積もるのも、時間の問題だろう」
藤森は言いました。
「雪中リンゴを取り出すのは、まだまだ先の話だ。
……ともかく、食えるんだな。分かった」

スマホをポケットから取り出して、ポンポン何かメモをして、数度頷いてまたポケットにしまって。
「期待はするなよ」
藤森、お賽銭して帰る前に、ぽつり言いました。
「なにせ、今年は暖冬だ」

コンコン子狐、子供なのでダントーを知りません。
でも、ともかく、「雪が降ればセッチューリンゴが食える」と、しっかりガッツリ学習したようです。
「雪、ゆき!」
子狐コンコン、セッチューリンゴを食べたことがありません。東京に雪降らぬ今から既に、楽しみで、楽しみで仕方ないのです。
「雪、まだかなぁ、明日かなぁ!」
尻尾をブンブン振りながら、なんならぴょんぴょん跳ねながら、気持ちがフライング気味な子狐は、雪国の雪を待つのでした。
おしまい、おしまい。

12/15/2023, 4:26:27 AM

「都内某所のイルミがヤバいハナシはSNSで見た」
クリスマスの影響か、イルミっつったら冬ってイメージが強いわ。某所在住物書きはスマホの画面を見ながら呟いた。あの場所のイルミは、一体全体どうしてそうなったのか。
「そういやイルミって、何年前から日本でメジャーになったんだろうな?」

LED電球、コンピュータ制御、プロジェクションマッピングとの連携。
「イルミネーション」も昔々に比べれば、規模にせよ明るさにせよ、随分進歩・変化したといえる。
「で?」
カキリ、カキリ。物書きは首を傾けた。
「何書けって?イルミ見てイチャつくカップル?」

――――――

某流星群の極大日、夜の都内。某商店街。
今日も今日とて己の職場で、ブラックに限りなく近いグレー企業の構成員として、商品ノルマを捌いたり上司の理不尽に付き合わされたりしていた女性が、
仕事帰り、今夜の飯を何にしようと、
ふらりふらり、歩いている。

あっちの店の肉が高い、こっちの店の野菜が安い。
魚は販路云々の危機と聞いた気もするが、そのわりに値段は下がってない、気がしないでもない。
「でもイナダは覚えた。ブリの進化前」
今日もさしてお買い得は無いし、安定の冷食とモヤシとウィンナーと、さっき買った卵で目玉焼きかな。
商店街を飾る白に青、無数のイルミネーションを見上げながら、彼女は自宅のアパートへ帰るまでの寄り道を、それとなく楽しんだ。

(そういえば先輩、今夜は流星群がどうとか)

雪国出身、時折生活費節約のためにシェアランチ、シェアディナーを共謀する職場の先輩を思い浮かべながら、光る壁、輝く樹木の更に上を見る。
流星の極大日である。夜遅くから未明にかけて、時と条件さえ揃えば、1分間に約1個の流れ星が、一応、見込めるという。
コツは光の無い、広い視野を確保できる場所で、よくよく暗闇に目を慣らし、空を見上げること。
更に条件を突き詰めたいなら、空気による揺らぎの少ない、山や高所が望ましい。

まぁ、そもそもの話として、天気が。
(どうせ来年も見れるらしいし)
天の雲のせいか、地上の光の影響か、空はただ黒い。
(先輩の故郷なら、キレイに見えたのかな)
空の流れ星はザンネンだけど、地上のイルミだって、ほら、負けてないでしょ。
彼女は小さなため息をひとつ吐き、少し空を見渡し、家路へと一歩踏み出そうとして、

ガツン、
つま先が縁石に当たった。
「あッ……」

つまづいた。
引き伸ばされた時間の感覚の中で彼女は理解した。
アドレナリンとコルチゾールがドッパドッパ溢れ出て、「お前さっき卵買ってなかった?」と問う。
記憶が勝手に掘り起こされて、「そういえばおととい、不思議な茶っ葉屋さんの店主さんから『明後日足元に気をつけて』って言われたよね」と今更言う。
ヤバくない?
せっかく買った卵、まだ高いのに、全部割れない?
ダメじゃない?

タッ、トッ、タ。
彼女は瞬時に、かつ本能と己の金銭事情に従い、
買い物袋を抱きしめ一歩二歩三歩よろけて、
気合の四歩目で、執念により、踏みとどまった。
わぁ。わたし、がんばった。

早鐘打つ心臓と呼吸を整え、大きな息を吐き、
今度こそ、イルミネーションが照らす家路を歩く。
(足元注意、大事……)
商店街の白と青は、それら一部始終を見下ろし、光を投げている。

12/14/2023, 2:10:40 AM

しくじった。今回配信の題目に対し、テレビ視聴したニュースからネタを閃いた某所在住物書きは、瞬時に己の前回投稿分に思い至った。
流星群である。前回投稿分で、登場人物に「明後日足元に気をつけて」と言わせている。
「明後日」ではなく「明日」としていれば、星屑落ちるのを「愛が落ちてくる」などとバチクソ強引にこじつけてしまえば、
真っ暗な夜の中、星を見上げて歩いていたら「足元」が、など、ポンポンポンと楽にハナシが書けたのに。

「『愛』を、『注ぐ』って、なに……」
アレか。植物に愛情もって水でも注げってか。
物書きは自室を見渡す。視線の先には己の背丈より忌々しくも高くなりやがった植物がひとつ。
「……うらやましくねぇもん」

――――――

私の職場に、つい最近まで恋愛トラブル真っ只中だった、雪国出身の先輩がいる。
「先輩のアレ、まさしく『恋と愛』だったと思うの」
「『恋と愛』?」
「恋は下心、愛は真心」
「私が下心?」
「違う違う。加元さんが下心」

さかのぼること約10年前、先輩の初恋相手を加元っていうんだけど、語れば長いし胸くそ悪い。
ともかく、昔々加元が先輩の容姿に惚れて、だけどその加元がバチクソ性格悪くて、
自分のSNSの裏垢別垢で、「あの趣味と性格が解釈違い」だの、「低糖質料理得意は地雷」だの、
あーだこーだ、云々。
それで縁切った先輩が8年間逃げ続けて、
このほど、具体的には11月13日、
しつこく粘着して、ストーカーになりつつあった加元を、先輩がやんわり、口頭で直接フった。

あれから、丁度1ヶ月。
加元が私達の職場に押し掛けてくることも、先輩にDM送ってくることもなくなって、
先輩はようやく、「夜逃げによる突発的な家財整理を考える必要が無くなったから」って、
アパートの家具だの家電だのを、すぐ処分できる最低限最小限のやつから、部屋相応のちょっと大きいものに買い替えた。

「加元さんは、先輩の顔とスタイルに惚れて、『アクセサリーとしての恋』を欲しがったワケでしょ?」
「どうだろうな?」
「だけど先輩は、恋を欲しがった加元さんのコップなりジョッキなりに、真心なり誠意なりの、愛を注いでしまったと。……なんか、そんな気がする」

「つまり?」
「先輩が加元の恋の暴力と毒牙にかからなくて良かったと思いました。マル」
「はぁ」

恋の需要に対して愛を注いでしまった、か。
先輩は片眉を少し上げて、小さく数回頷いて、
浅い、短い、ため息をひとつ吐いた。
「なるほどな」
先輩は言った。
「加元さんもそうだったが、私自身も、解釈違いをしていたワケだ」

「いや、先輩のソレ、多分私達の世界では、『解釈違い』じゃなく『すれ違い』って言うと思う……」
「何故だ?『恋』のコップに、故意に類似の『愛』を注いでいたなら、それは解釈相違では?」
「その解釈じゃないの。それも解釈だけど、多分加元が言ってた『解釈』は、その解釈じゃないの」
「ん?」
「だから、先輩のソレは『解釈違い』っていうより『すれ違い』とか、単に『勘違い』なの」

「んん?」
「うん……」

12/13/2023, 6:58:18 AM

「恋と愛で『下心と真心』、ことわざなら『魚心あれば水心』、類語なら『核心と中心』……他には?」
題目そのまま、「心と心」でネタが浮かばぬなら、言葉を少し足してしまえばよろしい。
某所在住物書きは硬い頭をネット検索でごまかしながら、アレはどうだ、コレはどうだの列挙と却下を繰り返している。

「……そういえば」
物書きは閃いた。
「心が付く食べ物あるじゃん。『点心と心太』……」
点心は容易に「テンシン」と読めるのに、「心太」と書かれても「トコロテン」に辿り着けないのは自分だけであろうか。

――――――

昨日の昼休憩中、職場の休憩室で観た情報番組で、
職場の先輩がよくお世話になってるお茶っ葉屋さんのゆず餅が紹介されてた。
稲荷神社のご近所。エキノコックスも狂犬病も気にしなくて良い看板狐がいるお店だ。
そのゆず餅、どうも冬至の期間限定品、かつ稲荷神社で収穫したゆずを使った、数量限定品らしくて、
味が気になった私は、今日のお昼休憩と時間休を使って、お茶っ葉屋さんに、行ってみることにした、
が。

「いらっしゃいませ」
結構メジャーな情報番組で取り上げられて、
そこそこ人気あるタレントさんが番組内で看板狐を撫でてたのに、
店舗は放送前と全然変わらず、お客さんが居ない。
「お得意様の、後輩さんですね。存じております」
よくある「番組で紹介されました!」みたいなポップのひとつも無ければ、ロケ中に撮った写真が飾ってあるわけでもない。
「なにか、お探しですか?」

店内には、いつもの女店主さんと、店主さんに抱えられて尻尾ブンブンお目々キラキラの子狐だけ。
放送前後で、何も、ひとつも、変わってない。
それが、私にはすごく不思議に見えたし、
なにより店主さんの言葉が不思議だった。

「昨日のテレビ、観たんですけど、」
「それはそれは。ありがとうございます」
「そのわりに、お客さんが、なんというか」
「『少ない』?ごもっとも。
『狐に化かされて』辿り着けないのでしょう。なにせここは稲荷の茶葉屋。狐は会う人間を選びます」
「はぁ」

「子狐が言うております。『点心お餅と心太風わらび餅買って』と。『今朝頑張って作った』と」
「狐、しゃべるんですか」
「勿論。ほら、言うております。『点心と心太、心の傷と心の疲れに効くから買って』と」
「はぁ……」

稲荷神社のひとが経営してる茶っ葉屋さんだから、不思議系神秘系がコンセプトなのかな。
ハテナマークがポンポン湧いてくる私は、だけど時間休のタイムリミットもあったから、
ひとまず勧められた小さい点心セットと心太風わらび餅と、それから例のゆず餅を貰って、ひととおり看板狐の子狐を撫でくり回して、お会計。
得意先である先輩の後輩、ってことで、オマケに心太風わらび餅の試食を店内で食べさせてもらった。

(……普通にわらび餅、おいしい)
番組に取り上げられるだけあって、それから先輩がヒイキにしてるだけあって、
きな粉と黒蜜付属のわらび餅は美味しいし、
たしかに、日頃の疲れがよく抜ける心地もする。

「お買い上げ、ありがとうございます。またのご来店お待ちしております」
わらび餅を食べ終えて、お店から出ようとしたら、
「あぁ――それから、ひとつだけ」
茶っ葉屋の店主さんが、また不思議なことを言った。
「明後日は、どうぞ『足元にお気をつけて』」
やっぱり不思議系、神秘系がコンセプトなのかな。
私は一応会釈だけして、お店から離れた。

その後、仕事終わって夜になってから、点心と心太風わらび餅の追加が欲しくなって、再度茶っ葉屋さんに行こうとしたけど、
どういうわけか、うまくお店を見つけられなかった。

12/12/2023, 4:31:57 AM

「4月最初か3月の終わりあたりに書いたのが『何気ないふり』ってお題だったわ」
3月4月、どっちだったかな。某所在住物書きは大きく口を開けて、右アゴが地味に痛むのを、それこそ「何でもないフリ」のようにしていた。
4日前と8日前に物語に登場させた豚バラ軟骨、ネット情報で「5時間煮込まねば固い」と豪語されていたものを、先日精肉店で見つけたのだ。
試しに食ったが納得の歯ごたえ。久方ぶりのアゴの酷使で満足にあくびもできぬ。
日頃の不摂生露呈の瞬間であった。

「当時もたしか書いたと思うが、何でもない、『フリ』ってどんなフリだろうな」
おお、いたいいたい。気にしない。
物書きは右アゴをさすり、今日もネタに苦心する。

――――――

いつもの職場、いつもの火曜日、いつものお昼。
休憩室のテーブルに、お弁当広げてコーヒー置いて、誰が電源入れたとも知らないテレビモニタの情報番組をBGMにして、長いこと一緒に仕事してる先輩と一緒に昼ごはん食べてたら、
その先輩が、コーヒー飲みながらテレビに視線をやった瞬間、
ポカンと目を点にして、
テレビを二度見三度見して、
四度見あたりで、コーヒーを吹きかけて、むせた。

「ごふっ、ごほっ!っッぐ、」
「どしたの先輩」
「くっ、……ぅ、ぐ……!」
「ねぇ大丈夫、救急車呼ぶ?ハイムリック?」

とんとん、とんとん。
左手で口を押さえて額にシワ寄せてる先輩の肩を、なんとなく叩く。
生理現象で顔赤くして、少しだけ涙にじんでる先輩が、ちょっとカワイイ。
大丈夫、もう大丈夫。
先輩は険しい顔のまま、右手を挙げて、ヒラヒラ。
やっぱカワイイ。

「ねぇねぇ。どしたのって」
「別に、何でも、……ごほっ」
「何でもって、何でもないワケないでしょって。テレビ三度見くらいしたでしょって」
「……、……げほっげほっ」

先輩、一体何を見たんだろう。
テレビに視線を向けてみると、お昼の情報番組は、
先輩のアパート近所の稲荷神社の、そこの家族が近くで開いてるお茶っ葉屋さんが映ってて、
お散歩ロケっていう名目のタレントさん数名が、女店主さんの抱えてる子狐をワシャワシャ撫でてた。
テロップには「神秘!オキツネ様がいる稲荷神社とお茶屋さん」。先輩がヒイキにしてるお店だ。

で、
よく見ると、タレントさんに撫でられてる子狐が、
ドッキリみたいな小さい横看板前足で持ってて、
そこに、店主さんの書く綺麗な字で、こう書いてた。
【イエーイ おとくいさん みてるー?】
くるり。横看板が裏返る。
【冬至のゆず餅セット、追加ご購入待ってます】

子狐と、目が合う。
正しくは、事前収録された映像の中の子狐が、カメラ目線になってるだけ。
でもなんとなく、リアルで目が合ってる気がする。
子狐ちゃん宣伝上手ですねぇなんて、タレントさんが言ってるけど、あんまり耳に入ってこなかった。

「別に、あそこの常連など、私の他にも」
げっほげっほ、まだ少しむせてる感のある先輩が、喉をさすりさすりして、口元をハンカチで拭いてる。
「それに、もうすぐ冬至だ。季節商品の宣伝には丁度良いだろうさ」
何でもない。本当に、これは何でもない。
そもそもアレは子狐の字じゃない。店主の字だ。
繰り返す先輩だけど、フリってのがすぐ分かる程度には、なんかアワアワしてそうだった。

「この子狐、たまに先輩のアパートに来るよね」
「そうだな」
「夏に稲荷神社のおみくじ引きに行ったとき、先輩の顔めがけて両手両足広げてダイブしてきたね」
「そうだな」

「冬至のゆず餅セット?」
「神社で収穫したゆずを使っているらしい。数量限定だとさ。先週の日曜日、ゆず茶と一緒に買った」
「私も食べたい」
「……『ご新規さんも待ってます』だとさ」

こほっ。
小さく咳をした先輩が、コーヒーをひとくち。
再度テレビを見たら、女店主さんのかかえる子狐が、新しい看板を掲げてた。
【ご新規さんも、ゆず餅ご購入待ってます】
【数量限定のため、品切れにご注意ください】

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