かたいなか

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12/11/2023, 5:34:16 AM

「某ポケモ◯の、第2世代だったかな、『あなたにとってポケ◯ンは友達?仲間?道具?』みたいな3択答えさせるイベントがあったんだわ」
7月に「友情」と「友だちの思い出」、10月に「友達」がお題に出て、次は仲間か。
某所在住物書きは相変わらず、ため息を吐いて小さな絶望を呟く。わぁ。今回も簡単そうで高難度。

「当時はガキだったから、普通に『仲間』選んだけど、今思えばさ、道具だってバチクソ大事なら手入れもするし長い付き合いになるし、定期メンテもするじゃん。意外と、意外と……」
考えてみろよ、職場の仕事道具と入れ替わり激しい仕事仲間、どっちが大事にされてるよ。道具だろ。
再度ため息を吐き、物書きがぽつり。
「まぁ屁理屈だけどさ」

――――――

今日も今日とて職場に行ったら、隣の隣部署で、「お世話になりました」とか「短かったね」とか、なんかしみじみしてた。
「去年入ってきた新人だそうだ」
デスクで先にキーボートパチパチしてた先輩が、モニター見つめたまま私に教えてくれた。
「これで何人減ったやら」

私達の職場は、限りなくブラックに近いグレー企業。知ってる人は知ってる。
知らない人は私同様何も知らずに入って、あの隣の隣部署の誰かみたいに、1年2年で体だの心だの壊して辞めてくことが多い。
年度ごとの営業ノルマは毎年キツいし、いわゆる自腹自爆は当たり前。
私の仕事仲間、同期、後輩も、今何人残ってるか全然分かんない。

これでも、職場環境は改善してきた方だ。
私達より長く勤務してる隣部署の宇曽野主任、つまり私の先輩の親友さんは言う。
今の緒天戸ってイケオジがトップになる前、十数年昔は、ちょっとセンシティブなことも実際あったって。
……今でも十分パワハラだのノルマ強要だの、おセンシだと思うけどな。どうなんだろな。

「つまり、昔は今以上に人材が『消耗品』だった、ということだ」
仕事「仲間」でも仕事「道具」でもなく、な。
先輩が付け加えて言った。
「道具の方がまだ、大事に扱われていたかもしれない。人間は壊しても次を入れるだけだが、備品は壊すとダイレクトに、買い替え費だの修理費だのとして、職場の損失になるからな」

お前だって、覚えがあるだろう?
先輩の偽悪的な、少し自嘲的なチラリ目は、昨年度末の某オツボネ係長のことを言いたそうに見えた。
それ言ったら先輩だって、4月、ゴマスリ係長に大量に仕事押し付けられて、それで体調崩して倒れかけたくせに。

「今でも十分、私達消耗品扱いされてる気がする」
「ごもっとも」
「私、多分ここより条件良い仕事見つけたらすぐそっちに移ると思う」
「だろうな」

「そのときは先輩も一緒に来て」
「何故そうなる?」
「だって先輩料理うまいもん。先輩とのシェアランチ、なんだかんだで結構生活費の節約にバチクソ貢献してるもん」
「それと私達の仕事事情は関係無い筈では?」

「私より宇曽野主任選ぶ説?」
「何故そうなる……?」

あーだこーだ。云々。
真面目な先輩を茶化してる間に、隣の隣部署の誰かさんは深々お辞儀して、自分の少ない荷物持って、
歩いてドア開けて、職場から消えてった。
それをじっと見てる奥の部署の多分中途採用さんが、
次は俺かなぁ
みたいな目をしてたけど、
他の人はそれほど、誰も、「隣の隣部署の誰かさん」のことなんて、気にしてないみたいだった。

12/10/2023, 5:17:07 AM

「手を、繋いで欲ほしい要望なのか、既に繋いでる状態を言ってるのか。どっちだろうな」
往年の「お手々繋いでお通夜に行けば」、元ネタの童謡があって、その替え歌大喜利だったのな。
某所在住物書きはスマホの画面を見ながら、今日の題目をどう書くか、相変わらず途方に暮れていた。
おそらく類語に、手を「握って」、「掴んで」等があると思われる。それらではなく、敢えて「繋いで」とする狙いはどこだろう。

物書きは頭をかき、天井を見上げて、
「『手錠で柱に』手を繋いで、とかなら、刑事ネタ行けるだろうけど、まぁ、俺の頭じゃ無理」
ひとつ変わり種を閃くも、物語を書く前に却下した。
「……そもそも『人間の手』である必要性は?」

――――――

もうすぐクリスマスとお正月。
東京も、あっちこっち年末商戦真っ只中で、液晶看板に雪が描写されてたり、いっそ本物の小さなモミの木とか店頭に飾ってあったり。
気の早い店員さんが、サンタコスでチラシ配布等々。
たまに見かけるのは、クリスマスプレゼントを親にせがんでる子供だ。
大抵はゲーム機とかスマホとかなんだろうけど、
今の時代にも、ショーケースにディスプレイされた大きなぬいぐるみを見て、「パパこれ買って」って、繋いでる手をぐいぐい引っ張る子もいるみたい。

ひとりだけ、猛烈に欲しい物があったらしくて、
親を一生懸命ゲーム屋さんまで、手を繋いで、強引に誘導してる子を見かけた。
イカかなぁ。それとも某RPGかなぁ。

「先輩、クリスマスプレゼントの思い出何かある?」
美味しいオートミール粥の専門店を見つけたから、って名目で、相変わらず日曜日も仕事の準備なんかしてる先輩をアパートから引っ張り出して、
最高気温19℃、体感気温21℃くらいの外に連れ出した正午近辺。
「そういうお前はどうなんだ?」
雪国出身の先輩には、12月の19℃は暑いくらいらしいけど、だからって引きこもってちゃ体に悪い。
「私全っ然記憶に無い。サンタさんそもそも信じてなかった気がする」
「私も子供の頃に関しては、覚えていないなぁ……」
途中先輩のアパート近所の、パンダ焼きならぬキツネ焼き、生地にお餅を使った外カリ中モチの小さいデフォルメ狐を買って、
もっちゃもっちゃ食べながら、専門店まで。

「子供の頃『に関しては』 is 何」
「お前も被害者だろう。去年のイブ。某オツボネ係長。新人いびりの被害に遭った新人が突然の退職。クリスマス当日に真っ白なままの当日期限なタスク」
「あっ。はい」
「最近やっと、次の職場に馴染めてきたそうだぞ。迷惑かけた詫びに、店舗に寄ってくれればLサイズのパンダ焼きを1個サービスすると」

「よし先輩今からちょっとそのお店行こうか」
「糖質過多。後日にしておけ」

今日くらい良いじゃん、チートデイ、チートデイ
体重増えて「先輩また低糖質ダイエットメニュー作って」、までが目に見えている。やめておけ
あーだこーだ、云々。
お餅生地のキツネ焼きをもっちゃもっちゃしながら、不服にほっぺた膨らませて、
私と先輩は、そのままオートミール粥専門店まで、別に手を繋ぐでもなく2人して歩いた。

12/9/2023, 4:18:16 AM

「『ありがとう』も『ごめんね』も、双方、単品でなら昔のお題で書いた記憶があるわ」
特に「ありがとう」、バチクソ長い文章のお題だった筈だが、はてさて十何字、何十字であったか。
某所在住物書きは数ヶ月前対峙した長文を懐かしみ、天井を見上げた。
「今回は、ありがとうと、ごめんねのセットか」

同時に出てくる状況など、ソシャゲのサービス終了告知とか、軽く何か誰かに面倒事を手伝ってもらった時くらいしか、思い浮かばぬ。
物書きは「平素より」から続く文章をネット検索にかけた。 何か、ネタが出てくるかもしれない。

――――――

私の職場に、予算5:5想定の割り勘で食材やら現金やらを差し出すと、低糖質低塩分のごはんを作ってくれる先輩がいる。

「平素より、藤森食堂をご利用頂き、まことにありがとうございます」

なんなら都合と予定が合えば、防音防振の整った静かなアパートで、シェアランチだのシェアディナーだのをしてくれる。
私に金を渡すより、同額でデリバリーを頼んだ方が何倍も美味いメシが食えるものを、
なんて先輩は言うけど、だって安いし低糖質低塩分だし、美味しいんだから気にしない。

「このたび、ご好評頂いております『低糖質パスタ』に使っておりました材料、『糖質半分パスタ』が『美味しくなってリニューアル』となりまして」

食材に、一部例外を除いて、低糖質と低塩分の両方を求める先輩のニーズはニッチだ。
カリウムやらリンやらで減塩のズルをしてない、
糖質も甘味料はステビアだか、ラカン……ラカンパネラ?だか、自然由来が絶対条件。
「砂糖そのものは良いの?」って聞いたことがある。
「砂糖は、正直に『甘い』と脳に申告するから良いんだ」、って言われた。
「人工甘味料のように、『甘いものが体に入ってきたのに、血糖値が上昇しない。おかしい』と脳を混乱させないから」、だって。
ふーん(分かんない)

で、そんな先輩のニーズを全部満たす商品は、何度も言うけどニッチだから、だいたい高いか、置いてるお店があんまり多くないか、
あるいは、出てもすぐ、消えたりリニューアルしたりとかして、こうなる。
先輩が作ってくれるシェアメニューから消えるのだ。

「このリニューアルに伴い、パスタの塩分量が約5倍となったため、まことに勝手ながら、メニューの提供を在庫限りで終了させて頂くことになりました。
多大なご迷惑をおかけしますことを、深く、お詫び申し上げます」

土曜日のお昼、先輩のアパート。
先輩が平坦な表情で、それこそスンッ……て目で、
今までのパスタが「今までのパスタ」じゃなくなることを、ちょっと、他人行儀風に。

「密林に、1キロ入りのやつ売ってるよ」
「そこを頼ったところで、メーカーが切り替えてしまったのだから、いずれ無くなる」
「美味しかったのに」
「更なるリニューアルにご期待ください、だ」

ぷぅ。 頬を膨らませる私を、
先輩は平坦な、ちょっと穏やかな目で見て、
「つきましては、」
右上に「全粒粉パスタ」って書かれてる袋を、私の前に出してみせた。
某業スーで見た気がする袋だ。ギリシャの国旗マークがついてる。
「当店のパスタ、在庫無くなり次第、材料をこちらへ切り替えた新メニューに移行致します」
先輩が言った。
「安心しろ。パスタ50グラムあたりの糖質量が15増えるだけだ」

「糖質量15ってどれくらい」
「某頂点バリュブランドの、糖質半分オフなミルクチョコ2袋。あるいは青コンビニのナチュラルブランド、マカダミアナッツチョコ3袋」
「15グラムおっきい。すごくおっきい」
「もしくは某一箱26枚入りハイミルクチョコ7枚」
「やっぱ小さい……」

12/8/2023, 4:23:20 AM

「随分前に、『狭い部屋』と『静寂に包まれた部屋』っつーお題なら出てた」
部屋シリーズもこれで3回目。
「部屋三部作」でも計画しておれば、かつ過去投稿分に容易にアクセス可能であったなら、
「狭い部屋」で導入部を、「静寂に包まれた部屋」で展開部を書き、今回の「部屋の片隅で」により幕引きができたものを。

「……何書いたっけ」
某所在住物書きは頭を抱えた。「部屋」のネタのストックは存在せず、このアプリは過去作にスワイプ地獄でしか辿り着けない。
「文章にタグ埋め込んで『過去作ジャンプ実装』、ぜってー俺の他にも欲しいと思ってるヤツいる……」
それとアンケート機能と広告削除オプション。
物書きは天井を見上げ、部屋の片隅でため息を吐く。

――――――

昔々のおはなしです。まだ年号が平成だった頃、約10年ほど前のおはなしです。
都内某所、某小さな安アパートに、花と山野草いっぱいの自然豊かな雪国から、心優しい田舎者が越してきました。
名前を附子山といいます。
数年後、2023年現在から見て8年前、諸事情あって、未婚ながら改姓して、藤森になります。
詳しいことは過去作7月22日あたり投稿分参照ですが、ぶっちゃけ辿るのがバチクソ面倒。
細かいことは気にせず、おはなしを進めましょう。

「ぱいか?」
さて。当時まだまだお金が無くて、節約に節約と節約を計4枚くらい重ねて、日常1週間をコツコツ周回しておった附子山です。
「豚バラ軟骨煮込み用?」
食材の買い出しに近所のスーパーマーケットを訪ねたところ、見慣れぬお肉の半額が、ひとつ、残っておりました。
豚バラ軟骨だそうです。別名をパイカといいます。
消費期限、明日の昼だそうです。
すごく安いのに、そこの嫁様もあの夫様も、誰も一度も手に取らない、視線に入れない。

何故でしょう。 骨が固いからです。
「軟骨」など社交辞令。「煮込み用」こそ事実。
こやつは圧力鍋や炭酸水、重曹等の手助けが無ければ、普通鍋で5時間程度煮込まないと、固くて固くて骨が食えぬのです。
上京したばかりの自炊初心者な附子山、その社交辞令が分からなかった。

「なんだろう?随分、大きい」
そうです。4日前のお題、12月4日投稿分、己の未来の後輩が豚バラ軟骨の固さを知らず買ってきた、アレのいわゆる過去エピソードです。
「鶏軟骨みたいなものかな」
鶏軟骨の唐揚げイメージで、附子山パイカをお買い上げ。半額豚バラ軟骨を、200グラム入り1パック、買い物カゴに入れまして、
「良い物を手に入れた」なんて、何も知らぬまま、ちょっぴり笑顔などして。

部屋の片隅で試しに1個、小さな塊を煮込んでようやく、パイカの「パイカ」に気がついた。
「か……ッ!」
軟骨が、固いのです。鶏軟骨の比じゃないのです。
煮込めど煮込めど20分、30分、
1時間煮込み続けても崩れない。
附子山、ようやく理解しました。
長時間煮込まなければいけない強敵だから、皆半額でも手に取らなかったのだ。

「これが、『豚バラ軟骨』……」
どうしよう。この固い固い骨っコが、まだ約160グラムあるのです。
「どうする、どうすればいい……?」
骨の周囲の肉は美味いが、この骨っコはどうしよう。
自炊初心者の附子山、固い固い白を見つめて、部屋の片隅で口をパックリ。開いた口が塞がらない。
ただ途方に暮れるばかりです。

最寄りの肉屋に駆け込んで、コレコレ困ったと事情を話し、「パイカはじっくり煮込んで5時間」と攻略法を、サクサクほっこり焼きたてコロッケ2個購入で聞き出しまして、
附子山がその日晩ごはん用に買ったパイカは、翌日の昼食になりましたとさ。
おしまい、おしまい。

12/7/2023, 9:41:04 AM

「上下逆って意味の『逆さま』が、多分出題者の『コレ書いて』なんだろうな」
ただ「真っ逆さま」って書けば、何か誰かが落ちるハナシもできそう。落下は既に2回出題されてっけど。
某所在住物書きは、過去のお題「落下」と「落ちていく」の投稿内容を確認しようとして挫折している。
「落ちていく」は数日前。「落下」は何ヶ月前?

「逆の『逆さま』と、落下の『真っ逆さま』と、あと他には……?」
他には、「逆さま」の3文字から引き出せるアイデアは無かろうか。物書きは首を傾け、更に傾け、
なかなかネタが降りてこず、今日も途方に暮れる。
「親より先に子供が亡くなることも『サカサマ』って言うらしいが……それはそれで、書きづらいか」

――――――

最近最近の都内某所、某アパート。
部屋の主を藤森というが、晩飯の準備のために、
コトコト、ことこと。少し大きめに切られた豚バラ肉を、トマトベースのスープで煮込んでいる。
ここにソースとバターを加えれば、なんとなくそれっぽい味のするビーフシチュー風。
肉はビーフではなくポークだし、バターも高騰につきそもそも未購入、ゆえに安売りしていたクリームチーズの代替品などで代用の予定。
まがい物だが構わない。所詮自分用。
上手くいけば食費節約レシピのひとつに、失敗してもひとりで食えばよろしい。

どんな味になるのやら。
パラパラパラ。藤森は個包装されたチーズのひとつを小さくちぎり、砕いて、鍋の中へ。
クリーム色は順次、濃い赤に真っ逆さま。
静かに煮立つ泡に当たり、底へ底へ沈んでいく。
「食えれば良いさ。食えれば」

防音防振設備完備のアパートに一人暮らしの藤森。
先月8年越しの恋愛トラブルにようやく決着がつき、心に余裕と平穏が戻ってきたところ。
8年間、ずっと己を追ってくる初恋相手を警戒して生きてきたが、今はもう夜逃げの心配をせずとも良い。
急な家具家電整理と、迅速な東京脱出が、人生設計から消えた藤森。8〜9年前の初恋を知る前より、少しだけ幸福に、楽観的に生活できるようになった。

パラパラ、パラパラ。
トマトと少しのチーズとソースを内包したとろとろスープに、今度は乱切りニンジンが真っ逆さま。
ジャガイモと追加投入のタマネギがそれに続く。
「……コショウと七味は、さすがに違うか」
はてさて、ルーを使わぬビーフシチュー風、どんな味になるのやら。
藤森は少し笑い、火を中火から弱火に切り替えて、
先ほどからピロンピロン、ダイレクトメッセージの到着を通知するスマホを手に取り、ロックを外した。

『突撃!先輩の晩ごはん!』
最初に何が送られてきたかは知らないが、ともかく藤森の目に飛び込んできた最新分は上記の一文。
職場の後輩だ。たしか今日、随分遅く残って仕事をさせられていた筈である。
藤森は瞬時に鍋を見た。
あいつに「これ」、食わせて、大丈夫か……?

『今日はやめておけ。晩飯で実験していて味の保証ができない』
『だってあのゴマスリ係長、私にもどっさり仕事押し付けてきて、さっきやっと終わったばっかり』
『なら牛丼屋でもうどん屋でも、好きなところに行け。ビーフシチューモドキの、「モドキ」にすらなっていない可能性のあるものしか作っていない』

『ハローわたし後輩。今あなたのアパートの前でビーフシチューに歓喜してるの』
『やめておけ と 言っている のだが』

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