かたいなか

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「某ポケモ◯の、第2世代だったかな、『あなたにとってポケ◯ンは友達?仲間?道具?』みたいな3択答えさせるイベントがあったんだわ」
7月に「友情」と「友だちの思い出」、10月に「友達」がお題に出て、次は仲間か。
某所在住物書きは相変わらず、ため息を吐いて小さな絶望を呟く。わぁ。今回も簡単そうで高難度。

「当時はガキだったから、普通に『仲間』選んだけど、今思えばさ、道具だってバチクソ大事なら手入れもするし長い付き合いになるし、定期メンテもするじゃん。意外と、意外と……」
考えてみろよ、職場の仕事道具と入れ替わり激しい仕事仲間、どっちが大事にされてるよ。道具だろ。
再度ため息を吐き、物書きがぽつり。
「まぁ屁理屈だけどさ」

――――――

今日も今日とて職場に行ったら、隣の隣部署で、「お世話になりました」とか「短かったね」とか、なんかしみじみしてた。
「去年入ってきた新人だそうだ」
デスクで先にキーボートパチパチしてた先輩が、モニター見つめたまま私に教えてくれた。
「これで何人減ったやら」

私達の職場は、限りなくブラックに近いグレー企業。知ってる人は知ってる。
知らない人は私同様何も知らずに入って、あの隣の隣部署の誰かみたいに、1年2年で体だの心だの壊して辞めてくことが多い。
年度ごとの営業ノルマは毎年キツいし、いわゆる自腹自爆は当たり前。
私の仕事仲間、同期、後輩も、今何人残ってるか全然分かんない。

これでも、職場環境は改善してきた方だ。
私達より長く勤務してる隣部署の宇曽野主任、つまり私の先輩の親友さんは言う。
今の緒天戸ってイケオジがトップになる前、十数年昔は、ちょっとセンシティブなことも実際あったって。
……今でも十分パワハラだのノルマ強要だの、おセンシだと思うけどな。どうなんだろな。

「つまり、昔は今以上に人材が『消耗品』だった、ということだ」
仕事「仲間」でも仕事「道具」でもなく、な。
先輩が付け加えて言った。
「道具の方がまだ、大事に扱われていたかもしれない。人間は壊しても次を入れるだけだが、備品は壊すとダイレクトに、買い替え費だの修理費だのとして、職場の損失になるからな」

お前だって、覚えがあるだろう?
先輩の偽悪的な、少し自嘲的なチラリ目は、昨年度末の某オツボネ係長のことを言いたそうに見えた。
それ言ったら先輩だって、4月、ゴマスリ係長に大量に仕事押し付けられて、それで体調崩して倒れかけたくせに。

「今でも十分、私達消耗品扱いされてる気がする」
「ごもっとも」
「私、多分ここより条件良い仕事見つけたらすぐそっちに移ると思う」
「だろうな」

「そのときは先輩も一緒に来て」
「何故そうなる?」
「だって先輩料理うまいもん。先輩とのシェアランチ、なんだかんだで結構生活費の節約にバチクソ貢献してるもん」
「それと私達の仕事事情は関係無い筈では?」

「私より宇曽野主任選ぶ説?」
「何故そうなる……?」

あーだこーだ。云々。
真面目な先輩を茶化してる間に、隣の隣部署の誰かさんは深々お辞儀して、自分の少ない荷物持って、
歩いてドア開けて、職場から消えてった。
それをじっと見てる奥の部署の多分中途採用さんが、
次は俺かなぁ
みたいな目をしてたけど、
他の人はそれほど、誰も、「隣の隣部署の誰かさん」のことなんて、気にしてないみたいだった。

12/11/2023, 5:34:16 AM