かたいなか

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12/4/2023, 4:52:02 AM

「5月と8月に似たお題があったわ。『さよならを言う前に』と『昨日へのさよなら、明日との出会い』ってやつ」
まぁ、エモネタと天候ネタと時期ネタが多いこのアプリだもんな。「さよなら」ってだけでちょっとエモいもんな。
某所在住物書きは、過去作でどのような「さよなら」を書いたか思い出そうとスマホをスワイプし、途中面倒になって、努力を放棄した。
約4か月前と7か月前である。どれだけ下に潜っても潜ってもたどり着かぬ。根気の敗北であった。

「『さよならは言わないで◯◯と言われた』とか、
『さよならは言わないで指文字で示した』とか、
『さよならは言わないで無言で微笑んだ』とか、
他には……?」
ま、エモネタ不得意な俺には、どれも難しいわな。物書きはガリガリ首筋を掻き、天井を見上げた。

――――――

最近最近の都内某所、某職場、昼休憩中の休憩室。
同部署の先輩と後輩のタッグが、同じテーブルで向かい合い、座っている。
先輩の雪国出身者、名前を藤森というが、浅いため息ひとつ吐いて、テーブルに弁当包みを、その中のスープジャーを、上げる。

「おー。これが」
後輩はジャーのフタを開け、深く香りを吸い、
「これが私が買ってきちゃった、テツパイポー……」
感嘆の声を吐いて、即座に藤森に訂正された。
「パイカだ。鈍器ではない」

――物語は前日の夜までさかのぼる。

『5時間?!』
『鶏と違って、豚バラの軟骨は固い。圧力鍋や炭酸水、重曹を使えば時間を短縮できるが』
『さすがパイプ』
『パイカだ』

生活費節約の一環として、週に数回、シェアランチやシェアディナーをしている。
予算5:5想定で、食材や現金を持ち寄り、調理して、結果低出費で済み双方金が浮く。
提案したのは数年前の後輩。調理担当が藤森だ。
その夜後輩はスーパーマーケットで、見慣れぬ「豚バラ軟骨」なる部位を見つけた。
鶏軟骨なら知っている。豚バラ軟骨とは何か。

やすい。デカい。
深く考えず、深く調べず、それこそ鶏軟骨の唐揚げのイメージで、後輩は豚バラ軟骨のパックを買い物カゴに入れた。
先輩ならば、これを美味いメインディッシュに変えてくれるだろう。

再度明記する。「豚バラ軟骨」である。
ネット情報によれば、可食レベルに骨を柔らかくするには、普通鍋による煮込みで5時間を要する。

『私も昔一度、知らずに買って、晩飯ではなく翌日の弁当になった。上京してきて最初の年だったな』
どうしよう、5時間とかナニソレ夕食より夜食、
「メインディッシュ不在でシェアディナー不成立です。さよなら」は言わないで。ゼッタイ言わないで。
あわあわ慌てる後輩に、藤森は言った。
『明日の弁当にするか?お前のコレも?』
その日のシェアディナーは、肉も魚も使わぬ健康的な精進料理となった。
すなわち半額野菜と木綿豆腐を用いた、コショウと微量の塩の優しい、コンソメベジスープに。
あるいはそこに低糖質麺を投入した、煮込み塩野菜ラーメンに。

――と、いうのが昨晩。

「オーソドックスに、醤油とみりんの甘辛煮風だ」
昼休憩中の休憩室。最初のジャーを後輩に渡し、自分用のもうひとつをテーブルに上げながら、
後輩の紙コップに、タパパトポポトポポ。
ゆず皮香るほうじ茶を注ぎ、藤森が言った。
「これに懲りたら、食材で冒険する際は、少し対象を調べてからにするんだな」

「わかった」
濃い琥珀色に染まった骨は、そこにくっついた肉は、箸で割るに柔らかく、口に入れて素直に崩れる。
「食材で冒険する時は、先輩に頼ることにする」
はぁ。幸福にため息を吐き、先輩から貰ったほうじ茶を喉へ流し入れると、ゆずの清涼感が甘辛煮風のこってりを払った。

12/3/2023, 6:15:48 AM

「アレか、右手で左目隠して右向いてちょっと左見るポーズ系のネタか」
もっとストレートに言うなら、「光闇双方持ち合わせてて、その狭間で苦しんでる」みたいな。
それなんて某狩りゲーのゴマちゃん。某所在住物書きは十数年の過去を懐かしみ、
「……まぁ、不得意よな……」
そして、バックグラウンドで自動周回させているソシャゲを捌きながら、次回の題目配信時刻までに間に合うよう、なんとか文章を打ち続けていた。

はっちゃけてしまえば楽なのだ。
カッコイイを、さらけ出してしまえば簡単なのだ。
書いてるうちに恥ずかしくなるから、書いても書いても、すぐ白紙に戻るのである。

「光と闇の狭間で、はざまで……」
さて、何が書けるだろう。何を書けというのか。
物書きに残された時間は、4時間をきっていた。

――――――

最近最近の都内某所、師走の斜陽。
雪国出身の上京者、藤森が、今晩用の食材を調達するため、馴染のスーパーマーケットとドラッグストアと、その他諸々をハシゴしていた。
景色の赤色補正と影の傾きから、今が日中と夜間の狭間、夕暮れ時であることは明白。
日暮れ時刻はまだまだ早まるだろう。
今月の22日が冬至。今まさに、闇が光を前倒しに押しやっている最中なのだ。

昔々はこの光闇の狭間を、すなわち夕刻を、
「逢魔が時」と呼んだとか使い方が少し違うとか。

「ゆず茶の試飲?」
そんな夕刻、藤森が半額野菜と値引き魚と、少しの乾燥昆布と防災備蓄用のバランス栄養食数箱を手に入れた帰路、
ふらり、ひいきにしている茶葉屋に寄ったところ、
子狐抱きかかえる女店主に、声を、かけられた。
「今月22日が、冬至ですので」

「ゆず湯は、よく聞きますが」
きゃうきゃうきゃう、きゃうきゃうきゃう!
藤森をお得意様と学習している子狐。店主の腕の中から飛び出さんばかりに吠え甘え、前足と尻尾を暴れさせている。
「ゆず、茶?」

「ほうじ茶と、和紅茶と、川根茶です」
届いていないのに首を伸ばし、藤森の鼻を舐めようと舌を出す子狐を撫でながら、店主が言う。
「茶葉に少しだけ、私の実家の稲荷神社で採れたゆずの皮を混ぜてありまして」
採れるゆずの量が少ないので、限定品なんです。
なかなか面白い味がしますよ。店主は穏やかに、そして意味ありげに、ニコリ、笑った。

「子狐が言うております。『ゆず餅買って』と。『ゆず餅も美味しい』と」
「子狐が、ですか」
「言うかもしれませんよ。今は逢魔が時。耳を近づければ、ひょっとしたら、もしかしたら。ほら」
「はぁ」

ひとまず己の目当てとしていた茶葉を購入し、試飲を再生紙由来のコップにひとつ、入れてもらった藤森。
ホットの和紅茶である。
ゆずのピールが小さく数片浮かび、ふわり、特徴的なシトラスが香った。
(そういえば、アールグレイにも、ベルガモットが)
あれも、ゆずと同じ柑橘系、ミカン科だったか。
豆知識を思い出した藤森は、なぜか妙に納得して、コクリ。斜め上を見上げ、ゆず香る和紅茶を飲み干す。

「ごちそうさ……ま?」
語尾が上がったのは店主のせい。
温かなため息ひとつ吐き、藤森が視線を戻した先で、
「今ならゆず茶1種類と、セットで」
お安くしますよ。
子狐を左手で抱える店主が、いつの間にか別の手で、小さな餅の6個入った箱を、チラリ。
抱かれた子狐のキラキラ輝く光の目、店主と子狐の狭間で鎮座する餅。
子狐と餅より高い視線から静かに笑う店主の瞳には、穏やかな宵闇が潜んでいたとか、いないとか、気のせいだとか。

12/2/2023, 4:58:58 AM

「昨日も昨日だったが、今日も今日で、書きたいものと読みたいものの乖離……」

『久しぶりに会った肉親の、己に金銭によって礼をする態度を見て、しんみりする。
「あぁ、自分たちは、いつの間にか、対価で確実に感謝が見えなければアリガトウも伝わらない距離まで、離れてしまっていたのだ」』

という物語を思いついたものの、書き手の己は書きたいが、読み手の己には胃もたれが過ぎる。
某所在住物書きはうんうんうなり、深い溜め息を吐いた。要するに理想と理想の両端が、その距離が離れ過ぎているのだ。
読みたいと書きたいの積集合が迷子とはこのこと。
「距離、きょり、……三角形の点PとQ……?」
とうとう頭が沸騰し始めた物書きは――

――――――

都内某所、某職場のとある終業時刻。
やー終わった。疲れたごはんごはん。
土曜日特有、かつ独特な、客を入れぬ事務作業だけの午前中限定業務。
正午きっかりで作業を終了し、背伸びに大口のあくびを添え、緩慢に己のポケットをまさぐった女性は、コードレスイヤホンを取り出し耳元に近づけて、
「……あるぇ?」
スピーカーが、己の意図せぬタイミングで、すなわち己の耳からまだ十数センチ離れた距離で、
すでに、シャカシャカ音漏れを発している事実に、数秒固まった。

コミックやアニメのコメディーシーンよろしく、目が点だ。途端フリーズの解除された彼女はイヤホンをデスクに放り投げ、瞬時に起立して椅子を後方に押しやり、
胸ポケット、
腰ポケット、
スラックス、
内ポケットの順に、バッ、バッ、バッ、ササッ。
キレのある動きと布擦れの音で、隣に座る同僚を瞬時かつ継続的にポカンせしめた。

「わたし、スマホ、どこやったっけ」
無論、自分の、プライベート用端末のこと。
緊急事態発生である。予想が正しければ、彼女のスマホは数時間、無駄にバッテリー残量を消費していたことになる。
充電今残り何パーセント?!

「最後に使ったのはいつだ」
良くない予感に血の気が引いている女性の顔を、その蒼白具合を、
彼女と長年共に仕事をしている先輩、藤森のジト目が観察している。
「何で使って、誰の目の前で、どこに置いた」

「それが分かってたら苦労しないって」
ブリーフケースをひっくり返し、アンティークブックデザインのシークレットボックスを開けても、目標物を発見できなかった後輩。
床に落とした可能性を閃きデスクの下に潜って、
「………いっッたぁ!」
出てくる際、盛大に後頭部をぶつけた。
「あー、もう、ツイてない」

憐れな隣席の個人的同僚を、一緒に探してやるため席を立った職業的同僚は、
向かい席の乾いた咳払いに呼ばれ、
すなわち藤森がチラチラ見ている視線、その向こうをつられて見遣って、
気付き、注視し、メガネをズラして二度見して、
小さく数度頷き、席に戻った。

何故隣部署の主任が己の席で彼女のスマホを振り、『わすれもの』の口パクをしているのだ。

後輩による懸命の捜索は続く。
来客用のソファーの隙間、たまに落書きしてバレる前に消すホワイトボード、先輩が慣習惰性で世話をしている観葉植物の植木鉢。
「土曜日だもん」
後輩は言う。
「遠い距離は移動してないから、確実に、近くに」

そうだね。「確実に、近くに」あるね。
「遠い距離」じゃないね。
ジト目の藤森と、ニヨニヨイタズラに笑う隣部署の主任とを交互に見ながら、
スマホ捜索継続中の隣人を見る同僚は、くちびるを真一文字に、きゅっ。
「おい、宇曽野」
藤森が隣部署の主任を、つまり己の親友を呼んだ。
「分かっているとは思うが……」
大丈夫大丈夫。安心しろ。
そもそもパスワードを知らん。
主任は万事心得ている様子で、ぷらぷら右手を振り、
こっそり、後輩の目につきやすい、違和感も不自然も無く近い距離のテーブルへ、
彼女のスマホを、パタリ置いた。

12/1/2023, 2:17:40 AM

「バチクソ書きたいと思ったハナシがあんの」
「書きたい」と「読んでほしい」はゼッテー違うけど。某所在住物書きはため息を吐き、天井を見た。

「主人公は雪国出身の上京者で舞台は夢の中。
昨今の再生可能エネルギー発電の流行で、そいつの田舎の広い平原に、風力発電気が大量展開すんの。
トップがしんしんと雪積もる中『これで税収が増えて、子供にお金を回せる!』って泣いて万歳。
一緒にプロジェクト進めてきた関係者が『泣くなよ』ってもらい泣きしながら背中を叩くが、
それを見てる主人公、勿論風力のメリットも必要性も、田舎の財政も知ってるけど、消えていく『絶滅危惧種残る、花と草木にあふれた故郷の景色』が悲しくて、ひとすじ涙。
絶滅危惧と自然の象徴たる狐が主人公の涙をペロペロ舐めて、まるでそれが……っていう」

何故書かないか? 物書きは視線を前に戻した。
「書き手の俺は書きてぇが読み手の俺は読むの面倒」

――――――

職場で「そもそも例年の冬とは」、「去年の冬は」の議題が、昼休憩に提出された日より少し前。具体的には約6日、11月25日頃のこと。
都内某所、某アパートの一室の、部屋の主を藤森といい、遠い雪国の出身で、
その藤森の故郷は、電力需要と再生可能エネルギー発電の流行に乗り、昨今風力発電事業に参入。
今晩はその、己の故郷の美しき地平線を、巨大な風車が十数機、百数機と埋め尽くす夢を見た、気がした。
泣いたと思う。藤森は頬の濡れを知覚する。
たしか泣いたのだと思う。藤森は回想する。

ところで何故その己の頬を、
ピチピチペロペロペロ、
子狐が胸の上あたりに陣取って舐めているのだ。
おかげで目が覚めた瞬間眼の前に狐である。

「おまえ、毎度毎度、どうやって入ってくるんだ」
ぎゃぎゃぎゃっ!ぎゃっぎゃっ!
腹をつかまれ抱き上げられて、じたばた暴れ尻尾をぶんぶん振り回すウルペスウルペス。
藤森とは顔馴染み。
アパートの近所、不思議な稲荷神社に住まう子狐で、神社の近くの茶葉屋の看板狐だ。
首には「エキノコックス・狂犬病対策済」の木札がさがり、プラプラ。
安全なネコ目イヌ科である。善良なキツネ属である。
「アパートだぞ。セキュリティーもしっかりしているタイプだ。鍵だって二重、最大三重にしてある」

狐の呪術か何かでも使っているのか?この現代に?
大きなため息ひとつ吐き、藤森が子狐を膝の上に、すなわち某アタタカイで有名な毛布の上に下ろすと、
子狐は怒涛の勢いで小さなあんよを動かし、藤森を登って、再度頬を舐めようと懸命な努力を開始した。

おお、非現実よ。非日常よ。汝、モフモフの冬毛に衣替えを果たしたコンコンよ。
なんだこれは。なんだその物語展開は。
「泣かないで」のお題に対する苦し紛れです。
細かいことは気にせず読み飛ばしましょう。

「涙、美味いのか」
ペロペロペロ、ペロペロペロ。
首を伸ばし、鼻を近づけ、感情と塩味の結晶であろう滴の跡を、何度も何度も舌でなぞる子狐。
「それともアレか、『泣くな』の気遣いか」
夢の中で同じことを、同じ気遣いを誰か何かにされた心地がしないでもない。
藤森は再度ため息を吐いた。
「………まさかな?」
ひとまず今日は、念入りに顔を洗わねばなるまい。

時計を見れば、妙な時刻に起こされたらしく、日の出前。ただシャワーを浴びるには良い頃だし、なんなら浴槽に湯も張れるだろう。
妙な夢見と感情のリセットには丁度良い。
「せっかくの朝風呂だ。お前も入れてやろう」
藤森が子狐を撫でると、子狐は途端ピタリ涙の賞味を止め、身の危険を感じた野生動物の勢いで藤森から飛び降り、即座に、距離を離した。

11/30/2023, 7:02:55 AM

「つい10日くらい前に書いてたのよ。『冬になったら』って。冬ネタ」
やはりこのアプリ、季節ネタと恋愛ネタとエモネタ、それから行事ネタでほぼ過半数説。
某所在住物書きはポテチをかじりつつ、スマホで文章を打つ片隅、サ終間近のソーシャゲームをオート周回していた。
最終章クリア特典にガチャ石約10連分が手に入るキャンペーンは今日まで。今日ってあと何時間?!

「ソシャゲ走ってお題投稿走って、明日師走か……」
本日最高16℃予想の東京も、明日になれば同11℃、最低5℃の急降下。
冬である。冬の筈だ。少なくとも、最低気温は。

――――――

今年の東京の冬は、週間天気の数字と店舗のクリスマス商戦広告から、つまり視覚から始まった気がする。
気温は上がって下がって乱高下するし、デマかホントか知らないけど、都内のどこかで数個だけ、桜が咲いたって聞いたような、別の県だったような。
あんなに遠くに見えてた冬が、いざ始まる数日前に、いきなり目の前に「私です」って出てきた。

明日、最低5℃らしい。最高気温も、低いらしい。
冬だ。あんなに11月に20℃とか何とか言ってたのに、東京でも、冬がはじまった。
多分(なお今年は暖冬の模様)

「たしかに今年は、『多分』と言いたくもなるな」
職場のお昼。休憩室のいつものテーブル。
誰が観てるとも聴いてるとも知らないテレビの情報番組、東京の過去の大雪に関するコメントをBGMに、
今日も、長いこと一緒に仕事してる先輩と、お弁当広げてホットコーヒー持ってきて、
コンビニのクリスマスケーキ、去年より高い気がするとか、明日から3日くらい最低5℃だってとか、
いろいろ、別に深い意味もなく、冬のおしゃべり。
「そもそも例年の『冬のはじまり』が、最近私は、どうも迷子になってしまっているんだが。お前どうだ」

トポトポトポ。
寒さと気温差とその乱高下にバチクソ弱い私と違って、最低どころか最高気温にマイナスが付いてやっと片眉1ミリ上げるか上げないかくらいの先輩が、
つまり雪国出身な私の食の救世主が、
「作り過ぎたから」って、生姜と少しコショウのきいたオニオンスープを分けてくれた。
「例年の、冬の、はじまり?」
スープを受け取って、喉と胃袋とおなかを温めて、ため息を吐く。おいしい。

「そもそも、去年の冬、どんなだったっけ」
先輩の問いに答えようとして、唇開いて視線そらして、頭の中の冬という冬を掘り起こそうとしたけど、
先輩の「例年の冬のはじまり」が迷子なように、私も最近の「11月に20℃」とかのせいで、やっぱり「冬」が迷子。
そらした視線の先には、誰が観てるとも聴いてるとも知らない情報番組。
◯年前の、5センチ6センチ雪が積もった東京の映像が映ってて、少し溶け気味の雪道を車が走ってた。
……多分これは「例年」じゃないと思う(多分)

「先輩も冬が迷子で、私も冬が迷子」
「そうだな」
「どうだったっけ。画像何か残ってる?去年の冬?」
「お前は?」
「多分何も撮ってない。先輩は?」
「参考になるようなものは撮っていない」

「冬ってなんだっけ」
「ノルマ過密地帯。クリスマスケーキ。おせち。少し進んで恵方巻き。私達の年間ノルマも、そろそろ」
「それ言っちゃダメ。言っちゃダメ……」

冬のはじまりのハナシから、そもそもの例年の冬の記憶を通って、ノルマ反対の云々へ。
あとは週末のイベントとか、最近見つけたカフェのバニラフラペチーノとか、昨日半額で勝ち取ったお刺身用のブリを背徳的に焼いてみたのとか新鮮で美味かっただろうとか。
なんでもない話題でごはん食べて、なんでもない話題でスープ飲んで、
その日のお昼も、いつもどおり平凡に終わった。

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