かたいなか

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11/16/2023, 2:29:48 AM

「動物ネタ、このアプリ、珍しいよな……」
5月11日あたりの「モンシロチョウ」に、8月22日あたりの「鳥のように」。たしか「鳥かご」なんてお題もあったが、この3個しか記憶に無い。
某所在住物書きは慌てて、今回投稿用にと事前に用意していた文章を書き直しにかかった。
ガチャ爆死の心境である。やはり事前準備からの、最後の数行にお題を付け足して終了なスタイルは、完全にギャンブルであった。

もう止めよう。懲りた。物書きはため息を吐いた。
「で、こねこ……?」

――――――

飼い猫の写真を見ていると、瞳にせよ毛色にせよ、「子猫の頃はこの色だったのに、今コレだもんな」なこと、ありませんか、そうですか。
未だに近所の子猫に写真を撮らせてもらえない物書きが、こんな苦し紛れのおはなしを思いつきました。

最近最近の都内某所、「猫又の雑貨屋さん」という名前のお店に、自称人間嫌いの捻くれ者が、職場の後輩と一緒に、買い物に来ておりました。
「いや、本当は、もっとキッパリ言うつもりだったんだ。カンペだってそういう風に用意していた」
「はいはい」
「信じていないだろう。本当だ。証拠もある」
「はいはい」

捻くれ者は、名前を藤森といいました。
詳しいことは前作や、過去作9月13日あたり参照ということで丸投げして、
要するに藤森、諸事情あったのです。
執着強い解釈押し付け厨に惚れられまして、心をズッタズタにされまして、
それで区を変え職を変え、縁切って逃げたら「勝手に逃げないで」の、「もう一度話をさせて」です。

9月14日、近所の稲荷神社でパンパンかしわ手を叩き、神様に決意表明のお参りをりして、
その覚悟を神様が聞いちゃったか、狐のイタズラか。
このほど、先日、無事一応、初恋相手とのトラブルに、藤森勝利で決着が、ついてしまったのです。

てっきり相手がゴネて無理矢理復縁させられると、
思ってばかりだった藤森。今のアパートを引き払う準備を、全部、整え終えてしまっておりました。
つまり、自分で買ったものを全部処分して、部屋をデフォルト家具のデフォルト配置に戻してしまっておったのでした。
勝っちゃったからどうしよう。一度処分してしまった家電と家具を、また新しく買い直しましょう。

「悪縁断絶、おめでとうございます」
リメイク着物のかわいい服を来た女の子が、にゃーにゃー、藤森に接客します。
「新生活セット、シーズン外でお安くなってます」
どうして藤森の背景を知っておるのでしょう。
女の子いわく、にゃーにゃー、稲荷神社の末っ子子狐に聞いたそうです。
稲荷神社の末っ子子狐とは、なんでしょう。
細かいことは気にしないのです。
「お部屋の物を全部買い直すなら、オススメですよ」
にゃーにゃー、にゃーにゃー。
女の子は慣れた様子の営業笑顔で、ごろにゃん右手を頬に当て、お金カモンな招き猫ポーズをしました。

「しっかりした子だね……」
着物の女の子に店内を案内してもらいながら、藤森の後輩、言いました。
「『猫又の』雑貨屋さんだからかな、ちゃんとコンセプト守って接客してるし。手慣れてるし」
女の子から「稲荷神社の狐」のワードが出て、非常に思い当たるところのあった藤森。
後輩に冗談めいて、自分の見解を言おうとしますが、
途端女の子と目が合いまして、言葉を引っ込めます。

「猫又の雑貨屋さん」の店員さん、かわいいリメイク着物の服を来た女の子は、
ごろにゃぁん、ちょっと暗い含み笑いの瞳で、藤森のことを見ておったのでした。

猫又の雑貨屋さんで、女の子がにゃーにゃー接客するおはなしでした。
どこにお題の子猫が居たかは、まぁ、まぁ。にゃーにゃー。多分ご想像のとおりでしょう。
おしまい、おしまい。

11/14/2023, 11:07:38 AM

「秋風、吹いたか吹かないか曖昧な状態で、今冬をひしひし感じてるって地域、今年絶対あるよな……」
某所在住物書きは今日配信の題目を見ながら、天井を見上げ、ため息を吐いた。

昨日、「事前に9割、投稿文を完成させておき、その日配信された題目は文章の最後に据える」という手法で、だいぶ楽をした物書き。
今回も同じ手を使い、パッと数行だけ加えて後はソシャゲの周回をしようと、
思っていたら、「秋風」である。どう組み込めと。
「秋風、あきかぜ……、……まぁ、冷たい、よな?」
この執筆方法、楽な時は楽だが、酷い時はとことん酷い。物書きは再度息を吐き、頭を抱えた。

――――――

職場の先輩の初恋が、やっと、片付いた。
8年前、解釈押しつけ厨な初恋さんに、SNSで「解釈違い」だの「地雷」だのって、鍵無し別垢で散々ディスり倒されて、その投稿を見ちゃって、
だけど相手を傷つけ返したくなかった先輩は、当時何も言わず、何も伝えず縁切って失踪した。
そんな先輩ともう一度やり直したいって、初恋さんが執着して、先輩を追っかけてきて。
このほど、8年前自分が傷ついたことと、もう恋仲に戻る気が無いことを、
先輩の前の職場、初恋相手と出会った「始まりの場所」、某ホテルのレストランで、
やっと、相手に、面と向かって言うことができた。

『あなたとヨリを戻す気は無い』
『それでも話をしたいなら、恋人でも友達でもなく、地雷で解釈違いな他人として、また会いましょう』
別れたいんだか違うんだか、随分曖昧だったけど、
相手を過度に責めず、拒絶せず、事実と妥協案で組まれた先輩の言葉は、
自称人間嫌いで、実際は優しくてお人好しな、先輩そのもののように聞こえた。

初恋相手は名前を加元っていうんだけど、
加元は先輩の話を聞いて、数秒、しばらく黙って先輩を見て、大きく息を吸って、吐いて。
何か怒鳴りたそうにしてたけど、周囲のお客さんと、多分同僚な従業員を見渡して、断念したらしくて、
すごい形相で、先輩と私のことを見て、
足早にレストランから出てった。

あれは絶対、「自分何も悪くありません」の目だ。
呟きックスの鍵無し垢に、今日の気に食わないことを、「解釈違い」、「地雷」ってポスる目だ。
8年前、先輩の気に食わないところをディスり倒した時みたいに。
先輩の心を自分で傷つけて、自分から先輩が縁切る理由を作った時みたいに。

「あっけなかったね」
私はため息を吐いて、
「なんか、まだ執着してそう。一応気をつけてよ」
先輩に話しかけたけど、
先輩はじっと、人混みに紛れて見えなくなるまで、
加元の背中をまっすぐ、黙って見続けて、
すっかり見えなくなってから、静かに目を閉じて、一粒だけ涙を落とした。

終わったんだ。
少なくとも区切りはついたんだ。
先輩の8年越しの恋愛トラブルが、やっと、すごく突発的だったけど、一旦片付いた。
やっと先輩は本当の意味で、加元から自由になれた。

「そろそろ、何か食べよっか」
先輩の初恋の結末を見届けた私は、テーブルの上にあるメニューをめくって、
まぁ、まぁ。そもそもリッチなホテルのリッチレストランだから、覚悟はしてたけど、
値段設定に、口が、ぱっくり開いた。
わぁ(ラーメンがラーメンの値段じゃない)
しゅごい(「季節飾る花と安らぎのサラダ」 is 何)

「……まかない茶漬け定食が、高コスパで美味いぞ」
先輩はちょっと泣きそうな、でも「一応ひと区切りついた」って穏やかさで、ぎこちなく笑った。
「ところで、現金を下ろしてきても、いいだろうか。
こういう結果になると、思っていなかったんだ。てっきり私の方が押し負けるとばかり」

ポケットに手を入れて、取り出したのは、
少しのお札だけ挟んだマネークリップと、残高ちょっとな決済アプリの画面が表示されたスマホ。
先輩の顔が、少し綻んだ。
「ご覧のとおり、私の懐は今秋風が吹いているんだ」

11/13/2023, 10:19:13 AM

昨日の間に今回の配信分を書き、9割完成させていた某所在住物書きは、祈る心地で19時を待った。
その日配信の題目を、物語最後に書き加えるためだ。
作業は龍の目に瞳を描き入れるようで、祈りはガチャのSSR確定演出ですり抜けに怯える心地。
どうか、無機質なエモネタだけは、来ませんように。

「来た……」
バイブが19時の到来と、今日のお題の到着を告げる。物書きが引いたSSRは――

――――――

最近最近の都内某所、某ホテルの夜景映えるレストラン、平日の夜。
自称人間嫌いの捻くれ者、藤森と、その職場の後輩が、3人用の予約席に隣り合って座っている。
約束の時刻まで、残り数分。彼等は未だ顔見せぬ「もうひとり」、加元を、理由あって待っている。

8年前、恋人同士であった藤森と加元は、
加元が藤森の気に食わぬ部分を、「地雷」、「解釈違い」とSNSで呟き倒し、
藤森が、鍵かけぬ別垢裏垢のその剥き出しを発見。
何も言わず、伝えず、ただ失踪して今まで逃げ続け、
今年の7月19日頃まで、片や隠れて片や探した。

過去散々こき下ろした藤森を、それでも執着強く見つけ出して、「もう一度話をさせて」と迫った加元。
藤森は今度こそ、2人の縁を断ち切る覚悟であった。
同席の後輩は加元の暴挙に巻き込まれた被害者。
藤森の現住所を特定するため、加元が雇った探偵に数日つきまとわれたのだ。

「緊張してる?」
藤森の後輩が隣の席から、藤森の左手に己の右手を重ね置いた。僅かに、震えている。
「分からない」
返答は平坦で、抑揚に乏しい。
だた酷く乾く舌と唇を湿らせようと、手を伸ばし、

「附子山さん!」
グラスに触れる直前、聞こえた声に背筋を凍らせた。
加元だ。「附子山」とは藤森の旧姓。加元と付き合っていた頃の名である。
「やっと会えた。突然居なくなって、心配したんだよ。会いたくて、ずっと探してた」
中性的な、低い女声にも、高い男声にも聞こえるそれは、ぬるりぬるり、藤森の心に潜り込もうとする。

私も今日、あなたに話したいことがあって。
事前に用意していたカンペを、藤森はポケットから取り出そうとするものの、ストレスの過負荷により指が言うことを聞かず、うまく紙が掴めない。
「……あの、」
トンと跳ねたのは、心臓か、声か。舌先から一気に血流の引いた藤森に、加元が、何食わぬ顔で尋ねた。

「ところで隣のひと、だれ?」

途端、藤森は理解した。
加元は、後輩のプライバシーに実害を与えておきながら、謝罪もせず、シラを切るつもりなのだ。
全部自分の知らぬこととして、埋め隠す算段なのだ。
そうか。あなたは、そうだったんだ。
藤森の震えは、ここに至って、完全に止まった。

「誰ってあんた、あんたでしょ!私に」
私に探偵ぶつけて、先輩の住所特定しようとしたの!
客多い店内でブチギレ直前の後輩を、
サッ、と左手を出し、藤森が制した。

「あなたの、8年前の投稿を見た」
加元をまっすぐ見据え、藤森が静かに声を張った。
「個人の感想なのは分かる。でも、『実は優しいとか解釈違い』、『雨好き花好きは地雷』、『あたまおかしい』、……そういうことを、公開アカウントで言う人だと、8年前気付いて傷ついた。
私だけならいざ知らず、あなたは、部外者である筈の私の後輩にまで危害を加えた」
チラリ、一度だけ横を見遣る。
視線合った後輩は、苛立ちの炎を燃やし続けていたものの、瞳が確かな力強さで、藤森に訴えている。
言ってやれ。8年前言えなかった全部を、自分の本当の気持ちをぶちまけてやれ!

「あなたと、ヨリを戻す気は無い。私にとって、あなたはもう『平然と他者を害する人』でしかない。
それでも私と話をしたいなら、どうぞ。恋人でも友達でもなく、『附子山』でもなく、
『地雷で解釈違いな赤の他人』として、いつか、どこかで。また会いましょう」

11/12/2023, 1:10:04 PM

「『次回のお題が何であれ、次のハナシはこんな展開にします』って、決めて今回のハナシ書くのは、まぁまぁ、スリルあるわな」
某所在住物書きは某国民的探偵アニメの、某昔々のスリルでショックで云々なオープニングを久々に聞きながら、下手をすれば明日「スリル」どころでは済まないような物語を、コツコツ、組んでいる。
題目によっては、大コケし得る。場合によっては初めての奥の手、「お題無視」をきる必要性に迫られる。
それはいわば、ギャンブルに近い采配であった。
この物書きの、今まで通してきた執筆スタイルが、つまり3月1日の初投稿から続く、連載風だったから。

「爆死しませんように、しませんように……」
物書きは今日の投稿分を書き終え、天井を見上げた。ソシャゲのガチャの爆死は得意分野だが、このアプリではどうだろう。

――――――

先輩のアパートで、生活費節約術なシェアランチを一緒に食べてたら、
ポツリ、先輩が珍しく、自分のことを話してくれた。
「『藤森』は、私の父方の実家の姓なんだ」

藤森。藤森 礼(ふじもり あき)。
先輩の今の名前。
8年前までの先輩は、附子山 礼(ぶしやま れい)。
名前は「礼」の読み仮名を、「れい」から「あき」に変更しただけ、
名字は説明がすごく長くなるけど、法律に則した、公的に認められてる手続きを踏んだ。
7月19日だったか20日だったか、先輩は一度、私に先輩の「名前」のからくりを、教えてくれたことがあった。

先輩には8年前、加元っていう初恋相手がいた。
加元は自分から先に先輩に惚れたくせに、いざ先輩が惚れ返した途端、解釈押し付け厨の本性を出した。
鍵もかけてないSNSの別垢で、「コレ解釈違い」、「ソレ地雷」って、先輩をディスり倒して、
先輩はそれがつらくて、悲しくて、心がすごく傷ついたけど、加元を傷つけ返したくはなくて。
だから、名前も、住所も、仕事もスマホも全部変えて、加元の前から姿を消して、この区に来た。
加元に何も言わず。何も伝えず。
先輩には、そんな昔話があった。

「改姓改名のことは、勿論両親に話した。何日も、何日も説明して、相談して。
父は私のUターン含めて他の道も探してくれて、母はなんだかんだで最初から私を許してくれていた。『まるでスパイ映画みたい』と私を茶化して。
『藤森 礼』になって最初の1ヶ月はスリルそのものだったよ。なにより私自身が、自分の『名前』に慣れていなくて、何度も『旧姓旧名』を名乗りそうになったから。
……けれど、お前も知ってのとおり、8年前『何も』伝えなかったせいで、加元さんが今年の夏職場に何度も押し掛けたり、色々、お前にも職場にも、酷い迷惑をかけてしまったワケだ」

「なんでその話を私に?」
「何故だろう。私もよく、分からない」
「明日その、8年前先輩の心をズッタズタにした人と会うから?会って、全部話しても、もし先輩を諦めなかったら、加元さん道連れにして故郷の雪国に帰るつもりだから?」
「そうだな。……そうかもしれない」

安心しろ。お前にも職場にも今後一切危害を加えないように、加元さんにはしっかり釘をさすから。
先輩はそう付け足して、私を安心させるための、ちょっと形式的な笑顔を見せた。
「じゃあ明日、加元さんが無事先輩のこと諦めてくれたら、お祝いになんか奢って」
私はそんな形式的を、知らんぷり。
先輩がよそってくれたランチを、激安手羽元がゴロッと入ったオニオンコンソメスープを受け取って、
ぱくり、まず手羽元の1個にかぶりついた。

11/12/2023, 2:20:15 AM

「ススキお題にしてハナシ書いた日に、北海道だの北日本だので降雪だとさ」
11月だもんな。寒くもなるよな。某所在住物書きは題目配信の通知画面を見ながら、テレビ画面から流れるニュースの音声を、それとなく、聞くでもなく。

「そういや『飛べない』っつーより、『飛ばない』翼かもだが、ネットの某質問箱で『北海道にペンギンいますか』ってのを見つけたわ」
まぁ、水族館にはいるだろうな。野生に関してはアレだけど。物書きはポツリ呟いた。
「他に飛べない翼っつったらダチョウにヤンバルクイナに?機械部品のファンとかフィンとか言うのは『翼』やら『羽』やらって訳して良いの?」

――――――

職場の先輩のアパートで、シェアランチの準備を丁度してたところで、
先輩のスマホがピロン、DM到着の通知をして、
画面見た先輩が緊張したように、何か決心したように、固く、小さく、唇の片端を吊り上げた。
「お前が言い出しっぺのイベント、場所と日時が決まったぞ」

「『私言い出しっぺのイベント』?」
物価高騰やら実質賃金低下やら、色々お金がかかる昨今、「どうせ1人分作るのも2人分作るのも一緒だから」の節約術は、すごく助かってる。
私が5:5想定で半額分の食材と現金差し出して、
先輩が残り半分の食材と電気代と等々使って、コスパよく料理を作ってくれる。
今日のシェアランチは、半額オニオンレタスと手羽元を使った、オートミール入りのコンソメスープ。
ちょい足しに、黒胡椒入れるって言ってた。

「明日の夜。このホテルの中のレストランだ」
先輩が、届いたDMの画面を私に見せてくれた。
「失敗したら、おそらく今日か明日が、私とお前の『節約食堂』最後の営業日になる」
表示されてたホテルは、隣の隣の、そのまた隣の隣あたりの区の、朝食ビュッフェがすごく美味って口コミの所だった。

「けっこう、おたかい、ホテルのようですが」
「私の前職だ。といっても、居たのはせいぜい1年半程度、担当も客目につかない雑用だったが」
「ファッ?!」
「ここで、加元さんに会った」

加元。かもと。
8年前、先輩に惚れて、先輩の初恋を奪って、先輩が惚れ返したら「解釈違い」だの「地雷」だのイチャモンつけてこき下ろして、先輩の心を壊したひと。
先輩はこのひとを傷つけ返したくなくて、なんにも言わずに縁切って、自分から遠くへ飛んで逃げた。
そしたら図々しく先輩を追ってきて、「もう一度話をさせて」、「ヨリを戻して」って粘着してきた。
先輩の現住所特定のために、後輩の私に探偵までくっつけてきた。

地雷で解釈違いなら、先輩のこと、放っといて遠くで自由に飛ばせてあげれば良いのに。
先輩が何も言わないのを良いことに、先輩が優しくて、お人好しなのを良いことに、
加元は先輩を、8年間、ずっとぐるぐる巻きに縛りつけてる。
飛べない翼にしちゃって、どこにも行けなくしてる。

で、私は先輩に言ったわけだ。
「先輩自身のためにも、加元さんに自分の気持ちをハッキリ言って」って。
……そしたらそこそこリッチなリッチホテルのレストランで先輩が因縁の相手と別れ話の最終決戦することになったでござる。
どうしてこうなった(私が言い出しっぺです)

「明日、加元さんに、ここで会ってくる。
会ってハッキリ、8年前傷ついたことと、もうヨリを戻す気も無いことを、伝えてくる」

「私も行く」
シェアランチの手伝いをしながら、つまりコトコト弱火のコンソメスープをぐるぐるかき混ぜながら、
私はイベントの元凶として、先輩に言った。
「来ても面白くないぞ。気分が悪くなるだけだ」
先輩が答えた。多分、事実だと思った。
恋愛トラブルの終点、決戦場にエントリーして、きっと大乱闘するわけだから。

「先輩のこと焚きつけたの、私だもん。私も行く」
でも、なんとなく、私もその大乱闘に立ち会って、結果を見届けなきゃいけないような気がした。
断じておいしいビュッフェ食べたいからじゃない。
「もの好きだな……」
先輩はそんな私を見て、深い深いため息を吐いた。

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