「『次回のお題が何であれ、次のハナシはこんな展開にします』って、決めて今回のハナシ書くのは、まぁまぁ、スリルあるわな」
某所在住物書きは某国民的探偵アニメの、某昔々のスリルでショックで云々なオープニングを久々に聞きながら、下手をすれば明日「スリル」どころでは済まないような物語を、コツコツ、組んでいる。
題目によっては、大コケし得る。場合によっては初めての奥の手、「お題無視」をきる必要性に迫られる。
それはいわば、ギャンブルに近い采配であった。
この物書きの、今まで通してきた執筆スタイルが、つまり3月1日の初投稿から続く、連載風だったから。
「爆死しませんように、しませんように……」
物書きは今日の投稿分を書き終え、天井を見上げた。ソシャゲのガチャの爆死は得意分野だが、このアプリではどうだろう。
――――――
先輩のアパートで、生活費節約術なシェアランチを一緒に食べてたら、
ポツリ、先輩が珍しく、自分のことを話してくれた。
「『藤森』は、私の父方の実家の姓なんだ」
藤森。藤森 礼(ふじもり あき)。
先輩の今の名前。
8年前までの先輩は、附子山 礼(ぶしやま れい)。
名前は「礼」の読み仮名を、「れい」から「あき」に変更しただけ、
名字は説明がすごく長くなるけど、法律に則した、公的に認められてる手続きを踏んだ。
7月19日だったか20日だったか、先輩は一度、私に先輩の「名前」のからくりを、教えてくれたことがあった。
先輩には8年前、加元っていう初恋相手がいた。
加元は自分から先に先輩に惚れたくせに、いざ先輩が惚れ返した途端、解釈押し付け厨の本性を出した。
鍵もかけてないSNSの別垢で、「コレ解釈違い」、「ソレ地雷」って、先輩をディスり倒して、
先輩はそれがつらくて、悲しくて、心がすごく傷ついたけど、加元を傷つけ返したくはなくて。
だから、名前も、住所も、仕事もスマホも全部変えて、加元の前から姿を消して、この区に来た。
加元に何も言わず。何も伝えず。
先輩には、そんな昔話があった。
「改姓改名のことは、勿論両親に話した。何日も、何日も説明して、相談して。
父は私のUターン含めて他の道も探してくれて、母はなんだかんだで最初から私を許してくれていた。『まるでスパイ映画みたい』と私を茶化して。
『藤森 礼』になって最初の1ヶ月はスリルそのものだったよ。なにより私自身が、自分の『名前』に慣れていなくて、何度も『旧姓旧名』を名乗りそうになったから。
……けれど、お前も知ってのとおり、8年前『何も』伝えなかったせいで、加元さんが今年の夏職場に何度も押し掛けたり、色々、お前にも職場にも、酷い迷惑をかけてしまったワケだ」
「なんでその話を私に?」
「何故だろう。私もよく、分からない」
「明日その、8年前先輩の心をズッタズタにした人と会うから?会って、全部話しても、もし先輩を諦めなかったら、加元さん道連れにして故郷の雪国に帰るつもりだから?」
「そうだな。……そうかもしれない」
安心しろ。お前にも職場にも今後一切危害を加えないように、加元さんにはしっかり釘をさすから。
先輩はそう付け足して、私を安心させるための、ちょっと形式的な笑顔を見せた。
「じゃあ明日、加元さんが無事先輩のこと諦めてくれたら、お祝いになんか奢って」
私はそんな形式的を、知らんぷり。
先輩がよそってくれたランチを、激安手羽元がゴロッと入ったオニオンコンソメスープを受け取って、
ぱくり、まず手羽元の1個にかぶりついた。
11/12/2023, 1:10:04 PM