「ススキお題にしてハナシ書いた日に、北海道だの北日本だので降雪だとさ」
11月だもんな。寒くもなるよな。某所在住物書きは題目配信の通知画面を見ながら、テレビ画面から流れるニュースの音声を、それとなく、聞くでもなく。
「そういや『飛べない』っつーより、『飛ばない』翼かもだが、ネットの某質問箱で『北海道にペンギンいますか』ってのを見つけたわ」
まぁ、水族館にはいるだろうな。野生に関してはアレだけど。物書きはポツリ呟いた。
「他に飛べない翼っつったらダチョウにヤンバルクイナに?機械部品のファンとかフィンとか言うのは『翼』やら『羽』やらって訳して良いの?」
――――――
職場の先輩のアパートで、シェアランチの準備を丁度してたところで、
先輩のスマホがピロン、DM到着の通知をして、
画面見た先輩が緊張したように、何か決心したように、固く、小さく、唇の片端を吊り上げた。
「お前が言い出しっぺのイベント、場所と日時が決まったぞ」
「『私言い出しっぺのイベント』?」
物価高騰やら実質賃金低下やら、色々お金がかかる昨今、「どうせ1人分作るのも2人分作るのも一緒だから」の節約術は、すごく助かってる。
私が5:5想定で半額分の食材と現金差し出して、
先輩が残り半分の食材と電気代と等々使って、コスパよく料理を作ってくれる。
今日のシェアランチは、半額オニオンレタスと手羽元を使った、オートミール入りのコンソメスープ。
ちょい足しに、黒胡椒入れるって言ってた。
「明日の夜。このホテルの中のレストランだ」
先輩が、届いたDMの画面を私に見せてくれた。
「失敗したら、おそらく今日か明日が、私とお前の『節約食堂』最後の営業日になる」
表示されてたホテルは、隣の隣の、そのまた隣の隣あたりの区の、朝食ビュッフェがすごく美味って口コミの所だった。
「けっこう、おたかい、ホテルのようですが」
「私の前職だ。といっても、居たのはせいぜい1年半程度、担当も客目につかない雑用だったが」
「ファッ?!」
「ここで、加元さんに会った」
加元。かもと。
8年前、先輩に惚れて、先輩の初恋を奪って、先輩が惚れ返したら「解釈違い」だの「地雷」だのイチャモンつけてこき下ろして、先輩の心を壊したひと。
先輩はこのひとを傷つけ返したくなくて、なんにも言わずに縁切って、自分から遠くへ飛んで逃げた。
そしたら図々しく先輩を追ってきて、「もう一度話をさせて」、「ヨリを戻して」って粘着してきた。
先輩の現住所特定のために、後輩の私に探偵までくっつけてきた。
地雷で解釈違いなら、先輩のこと、放っといて遠くで自由に飛ばせてあげれば良いのに。
先輩が何も言わないのを良いことに、先輩が優しくて、お人好しなのを良いことに、
加元は先輩を、8年間、ずっとぐるぐる巻きに縛りつけてる。
飛べない翼にしちゃって、どこにも行けなくしてる。
で、私は先輩に言ったわけだ。
「先輩自身のためにも、加元さんに自分の気持ちをハッキリ言って」って。
……そしたらそこそこリッチなリッチホテルのレストランで先輩が因縁の相手と別れ話の最終決戦することになったでござる。
どうしてこうなった(私が言い出しっぺです)
「明日、加元さんに、ここで会ってくる。
会ってハッキリ、8年前傷ついたことと、もうヨリを戻す気も無いことを、伝えてくる」
「私も行く」
シェアランチの手伝いをしながら、つまりコトコト弱火のコンソメスープをぐるぐるかき混ぜながら、
私はイベントの元凶として、先輩に言った。
「来ても面白くないぞ。気分が悪くなるだけだ」
先輩が答えた。多分、事実だと思った。
恋愛トラブルの終点、決戦場にエントリーして、きっと大乱闘するわけだから。
「先輩のこと焚きつけたの、私だもん。私も行く」
でも、なんとなく、私もその大乱闘に立ち会って、結果を見届けなきゃいけないような気がした。
断じておいしいビュッフェ食べたいからじゃない。
「もの好きだな……」
先輩はそんな私を見て、深い深いため息を吐いた。
11/12/2023, 2:20:15 AM