かたいなか

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10/31/2023, 2:27:14 PM

「理想郷、ウィキに一覧存在すんのな……」
エルドラド、シャングリラ、ニライカナイ。
カタカタカタ。脳内にパズルゲームの、玉を動かす幻聴響く感のある某所在住物書きは、しかし今回配信分のネタが欲しいので、ひとまず「理想郷」カテゴリの一覧を指でなぞっている。
「迷い家」は「どの」迷い家、マヨヒガであろう。

「酒もメシも娯楽も、なんも苦労せず手に入る場所がありゃ俺の理想郷だろうけど、ぜってー、暴飲暴食してりゃ体壊すじゃん」
理想郷で病気になるのは、ねぇ。物書きはスマホから顔を上げ、ニュース番組を観て、ため息を吐く。
理想は「理想」のままの方が良いのかもしれない。
「シンカンセンスゴイカタイアイスを車内で買って食うのは、理想郷……?」

――――――

ハロウィン当日の夕暮れ、都内某所の某職場。ブラックに限りなく近いグレー企業であるところのそこ。
その日たまたま3番窓口の業務となった女性が、ハロウィン独特の妙な仮装をしている男性に、ネチネチ談笑を強要されている。
あー、
はい、
何度も言ってますけど、仮装してのご来店は、ご遠慮いただいてるんですよ。
客の死角、業務机の上にある固定電話のプッシュボタン、「1」に人さし指と中指を、「0」に親指を確かにそえて、チベットスナギツネの冷笑。

チラリ、後ろを見遣って「最終兵器」に視線を送る。
目が合った隣部署の主任職、「悪いお客様ホイホイ」たる男性と、
その主任職の親友、窓口係と同部署の先輩が、
それぞれ、互いに頷き合い、席を離れた。
先輩はただ淡々と、フラットな感情の目。
主任職は仮装客に対し、それは、もう、それは。
良い笑顔をしている。

――そんなこんな、アレコレあってからの、終業後。
夜の某アパートの一室。

「やっぱり在宅ワークこそ理想郷だったわー……」
人が住むにはやや家具不足といえる室内で、しかし複数並ぶ小さな菓子を前に、例の窓口係が満面の笑みでチューハイをグビグビ。
精神の安全と幸福を享受している。
「自分のペースで仕事できるし。窓口であんなヘンな客の相手しなくて良いし。なにより先輩のおいしいごはん食べられるし」
久しぶりに見たわ。隣部署の宇曽野主任の、「悪いお客様はしまっちゃおうねバズーカ」。
そう付け足し吐き出したため息は、大きかったものの、不機嫌ではなさそうであった。

「で、その先輩が組み立てたスイーツのお味は?お気に召して頂けたか?」
プチクラッカーに、泡立て済みのホイップクリームを絞り、少しのスパイスをアクセントに振って、小さな低糖質キューブチョコをのせる。
「まぁ、所詮去年の二番煎じだが」
窓口係に言葉を返しながら、彼女のためにスイーツを量産するのは、部屋の主にして彼女の先輩。
名前を藤森という。
かたわらの、電源を入れたノートには、今日発生した「コスプレしたオッサンに当日の窓口係が粘着された事案」の、発生時刻と経緯と結果をまとめた、いわゆる報告書のようなテキストが淡々。

一応、揉め事といえば揉め事であった。
後日上司から説明を求められたとき、すぐそれを提出できるように、あらかじめ藤森がパタパタ、キーボードを叩いていた。

「あと10個くらい食べれば、夕方の悪質コスプレさんから食らった精神的ダメージ、回復すると思う」
「さすがに糖質過多だ。低糖質の材料使ってるからって、糖質ゼロじゃないんだぞ」
「だって、回復しなきゃだもん。スイーツは心を救うもん。先輩そこのカボチャペーストとクリームチーズ取って」
「私の話聞いてるか?」

もう10個、もう10個、おいやめろ。
擬似的で結果論的な、つまり「それ」と明確に意識しているワケでもないハロウィンホームパーティーは、あらかじめ購入していた菓子用の材料が無くなるまで、穏やかに、理想的に続きましたとさ。

10/31/2023, 5:32:45 AM

「『懐かしく思うこと』っつってもよ……」
パッとすぐには出てこないんだが?
某所在住物書きは迫る次の題目配信の刻限を前に、打開策を探してスマホをいじり続けている。
「アレか?『小学校の頃、遠足で◯◯に行ったとき、運悪く土砂降りだったね』とか?『修学旅行、ぶっちゃけ特に思い出無かったよね』とか?」
俺の執筆スタイルじゃ、書きようがねぇだろって。
物書きは呟き、他者の思い出をガッサガッサと漁っては、どうにも物語として組めず途方に暮れる。

「やっぱ俺、エモネタ、不得意よな」
一番難関だったネタ、今までで何があったっけ。
4月20日あたりの「もし未来を見れるなら」?
たいして懐かしがりもせず、物書きは昔の投稿作をスワイプで探す。

――――――

いつも一緒にランチ食べてる職場の先輩が、珍しく休憩室のテレビ画面を、じっと観てる。
「ポカン顔」がしっくり来る。いっそプチ絶望かもしれない。
なんだろうって気になって、私もテレビを観たら、東京の今年の11月に関するニュースだった。
「じゅうよねんぶり、」
先輩がポツリ呟いた。
「そういえば、上京最初の年の、11月……」
先輩は、雪国出身だ。
5月の夏日とか、晩春初夏の30℃とか、だいたい溶けて、ぐでんぐでんになってる。

つまり「東京は今年の11月、25℃以上の日が何日か続きます」って報道だった。

「懐かしい?」
雪国出身者じゃなくても、11月の夏日は正直驚く。
画面の週間予報には、26℃とか、25℃とか、秋にあるまじき数字がズラって並んでた。
それでも「11月の夏日は14年ぶり」って報道から、私も昔、ハロウィンの後の夏日を経験してた筈だった。
記憶にございません(事実)

「懐かしいものか。散々だった」
「やなことでもあった?」
「暑さにやられて、おまけに風邪までひいて」
「インフルは?大丈夫だった?」
「風邪が治った後でな」
「わぁ」

「これを懐かしいとは思わないだろう」
「納得」

弱ったな。夏物など、ほぼ整理し終えた後なんだが。
諸事情で、今月いっぱいで東京を離れる予定だった筈の先輩が、頭をガリガリかいてスマホを取り出した。
多分、すぐ買えて、かつ安めの、良さげな夏服でも探してるんだと思う。
「誰かさんが、『東京離れるの、待って』と言ってくれたお陰でな」
「だって恋愛トラブルの責任をさ、被害者の先輩がとって、田舎に引っ込むとかおかしいもん」
「事実だろう。私が居るせいで、この職場にあのひとが押し掛けて」
「出禁だもん。もう大丈夫だもん」

ため息ひとつ吐いて、スマホをポンポン操作して、ポケットにしまって。
ひいきにしてるお茶っ葉屋さんの子狐が、朝買ったティーバッグのオマケでくれたっていう、ひとくちサイズのポテトパンケーキを、ぱくり。
私も2個貰ったけど、おいしかった。子狐の冗談はよく分かんない。

「甚平でも買いに行く?新品のやつ、一緒に?」
「6月22日に、お前が『会計する』と言って、結局残高足りなくて私が払ったやつか?アレなら、まだ部屋にある」
「今回は私が払います、ちゃんとはらいますー」

10/30/2023, 1:10:18 AM

「ひとつの物語Aに主人公Bが存在したとして、
Aの『続編』ってことで『もう一つ』なのか、
主人公Bの相棒キャラC、『別視点』から見るか、
物語Aと時間軸はそのままで、『場所だけが遠く離れてる』物語Dのハナシか、
なんなら物語Aの中で語られてる物語D、つまり『劇中劇』のことか。
ひとくちに『もう一つ』っつっても、種類は多々、まぁまぁ豊富よな……」

俺が毎回投稿文の上下を「――――――」で区切るのも、「もう一つの物語」か。某所在住物書きは大きなあくび一つして、コーヒーを胃袋に流し入れた。
ほぼほぼ寝ていないのだ。ソシャゲの周回サポートが今朝で終わるから。
「その頭でハナシ考えるの?2個も?」
無理では?物書きはまたひとくち、コーヒーを飲む。

――――――

「もう一つの物語」。簡単そうで、なかなか攻めづらい気がするお題ですね。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、森の中にある某稲荷神社敷地内の、一軒家に住むのは化け狐の末裔。
人に化ける妙技を持ち、ネズミを食わず、キッチリ水道水を使うがゆえに、狂犬病ともエキノコックスとも無縁な、物語的に非常に扱いやすい善き狐です。
人の世で生活し、人の世で就職し納税し、あるいは子供を孫を育てながら、幸せに、仲良く、人々の営みを見続けています。

そんな化け狐家族の末っ子は、お花とお星様が大好きな食いしん坊。
星の形のお花が咲く場所、おいしい食べ物を食べられる場所は、そこそこ、知っているのです。
今日の都内は最低気温が11℃。換毛期真っ盛り、まだモフモフ冬毛の生え揃っていない子狐には、ちょっとだけ、朝夕がこたえます。
このままでは、コンコン子狐、寒くてこごえてしまいます。何かあったかいものを食べて体を温めようと、子狐はしっかり人間に化けて、最近都内に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店に向かいました。

去年の今頃、パンプキンポタージュとポテトのパンケーキが、とってもおいしかったのです。
あれを、今年も貰いに行こう。
子狐コンコン、ゾンビの仮装してる人にビビってめげそうになりながら、しょげそうになりながら、頑張って喫茶店を目指しました。
なんで最近、妖怪の仮装してる人が多いのかしら。
なんで最近、顔に絵の具塗ってる人が多いのかしら。

「それはね。明日が、ハロウィンだからよ」
チリンチリン。子狐が喫茶店の扉を開けると、涼し気なドアベルの音が、子狐を迎えます。
「日本のハロウィンは、私の故郷のとはだいぶ違うけれど、おかげで今の時期は私のような『本物』が歩いてたって、誰も気にしないの。皆、コスプレだと勝手に思ってくれるから」
さすがに魔法は人前じゃ使えないけれど、ね。
魔女のおばあさんは優しく、とても優しく笑って、コトコト煮え立つ魔女の小釜から、ポタージュをすくって子狐のスープジャーに入れてやりました。

「おばちゃんのおうちでは、明日、どうなるの?」
「さぁ、どうなってるかしら?」
「みんな、妖怪の格好してるの?みんなお顔、絵の具塗ってるの?」
「おみくじケーキが楽しいわ。それから、焚き火がとっても綺麗よ」

「たきび?」
「日本のハロウィンでは、焚き火もおみくじケーキも、やらないわね。別々の国、もうひとつのハロウィン、もうひとつの楽しみ方。私は良いと思うわ。迷惑さえ誰にもかけなければ。
ほら、あなたも」

はい。Treatsをいくつか、どうぞ。
スープジャーにフタをして、ちょっと大きめのランチボックスと一緒に、
魔女のおばあさん、子狐に料理を手渡します。
「もう一つのハロウィンを楽しんで」
子狐がランチボックスのフタを開けると、中にはいつか食べたポテトのパンケーキと、葉物野菜がシャキシャキしてそうなポテトサラダ、それからいくつかの甘くて幸せそうなお菓子が、たんと、たんと詰められておったのでした。

魔女と、子狐と、本場からかけ離れた「もう一つのハロウィン」の物語でした。
おしまい、おしまい。

10/28/2023, 2:21:50 PM

「丁度良いじゃん。10月29日、早朝4時半ちょい過ぎたあたりから、部分月食だとよ」
それこそ「暗がりの中で」、5時14分あたりに一番削れてるっつー月食を、観察してれば今回のネタ、ミッションコンプじゃね?
某所在住物書きはポツリ言って、しかし早起きの準備も天体観測の用意もせず、ぬっくぬくの毛布にくるまった。
早朝である。己は夜型である。食の最大だけ狙うにせよ、5時14分など起きられようか。

「『夜の』暗がりの中で見られる、次の月食は?」
朝とか聞いてねぇよ。物書きはネットに「次」を求める。しかし検索結果が提示したのは、29日の月食と、何故か2023年の部分「日食」であった。

――――――

子供の頃、自宅の廊下の暗がりはやたら怖いのに、布団にくるまった中の暗がりは妙に落ち着く気がしたこと、ありませんか、ないですか、そうですか。
なんて前置きはこのぐらいにして、今日はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしており、その内末っ子の子狐はお花とお星様と、キラキラしたものが大好き。
ビー玉、おはじき、押し花にしたお花、誰かが捨てたチャームにレジン細工等々、綺麗なものをお気に入りの宝箱に詰め、たまにそれらを広げてクロスで磨いては、ひとりほっこり、尻尾をビタンビタン。
それはそれは、幸せに暮らしておったのでした。

そんな子狐の最近のトレンドは、押入れの暗がりの中で見る、サンキャッチャーの光の万華鏡。
室内に飾って、太陽の光を受けて、キラキラ小さな虹をばら撒く飾り玉は、コンコン子狐の宝物です。
まだ暑かった夏の頃、8月7日かそのあたりに、猫又の雑貨屋さんで手に入れました。

そのサンキャッチャーが日光だけでなく、懐中電灯なんかでもしっかり光をばら撒くと、コンコン子狐諸事情で、学習してしまったからどうしよう。

「キレイ、きれい!」
今日もコンコン子狐は、宝箱からサンキャッチャーと、8月7日に諸事情で人間から貰ったLEDライトを取り出して、押入れの中に入ります。
光の当て方にコツこそありますが、水晶か金剛石のような飾り玉に、イイ感じに200ルーメンのスティックタイプが光を当てると、
上にも、下にも、右にも左にも、小さな虹の粒が溢れ出て、まさしく光の万華鏡の中に居るようです。

「あっちこっち、キラキラいっぱいだ!」
くるくるくる、飾り玉を回転させれば、光も一緒に回ります。
くっくぅーくぅー。ご機嫌子狐は尻尾をビタンビタン。鼻歌なんか歌ったりして、押入れの暗がりの中で光を楽しみます。
そのままコンコン子狐は、ごはんの準備ができて優しい母狐が呼びに来るまで、
暗がりの中で、サンキャッチャーを回して、光を当てて、それらを幸福に眺め続けておりましたとさ。

お宝のサンキャッチャーを押し入れに持ち込んで、暗がりの中で光を当てて遊ぶ子狐のおはなしでした。
その後作中のLEDライトの充電が切れて、充電の仕方を知らぬ子狐が、都内で漢方医として労働している父狐に「治して」と治療をせがむのですが、
お題の「暗がりの中で」とは別に関係無さそうなので、気にしない、気にしない。

10/27/2023, 2:57:49 PM

「紅茶だってよ」
アレだろ、日本の水とイギリスの水では硬度が違うから云々ってやつだろ?
某所在住物書きはネットにネタを求めながら、紅茶でも緑茶でもなく、単純に炭酸飲料を嗜んでいた。
コーラである。なお、紅茶のコーラ割りなるものが存在するらしい。
紅茶は知らぬ。芋焼酎のコーラ割りは美味であった。

「いつだったかな。国産茶葉の紅茶のペットボトル、某緑のコンビニで見つけてさ。アレは美味かった。
……香りはどうだったかな……」
記憶を掘り起こそうと、存在したかしないか思い出せぬ香りを追って、深く短く息を吸う。
無論、部屋の香りがするばかりである。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
デフォルトで設置されていた家具や家電以外、すべてが処理処分されたリビングは、ただダダっ広く、音が少ない。
部屋の主を藤森という。
元々の予定では、今頃既に部屋を解約し、管理人に引き渡して、10月末か11月初週まで、ホテル泊まりの予定であった。
東京から離れ、故郷の雪降る田舎に帰る算段であったのだ。

何故予定通りになっていないのか。
職場の後輩に計画がバレて、「行かないで」と懇願されたためである。
何故この妙ちくりんなシチュエーションが発生しているのか。
アプリの2個前、3個前のお題において、「この言葉で何書けってよ」の物書きが、苦し紛れかつ立て続けに、トンデモストーリーを投稿したためである。
過去作参照だがスワイプが非常にわずらわしい。
細かいことを気にしてはいけない。

「ホントに東京離れるつもりだったんだ……」
金曜の夜である。
食費節約のため、そしてなにより己の先輩の作る低糖質低塩分ディナーの御相伴にあずかるため、
藤森に東京脱出の中止を求めた例の後輩が、アパートを訪れたはいいものの、
退去のため、鍋等々、売っ払って処分した後である。そもそも調理ができない。

「すごい。珍しい。先輩が、出前頼んでる」
開いた口が塞がらぬ後輩。ほぼほぼ何も無くなった室内を見回し、ただ、驚くばかりである。

「お前が私に、『行くな』と言ったからだろう。本当なら今頃、適当にホテルを探して、そこから職場に通って、メシはバイキングだのルームサービスだのを食っていた筈なのに。それをお前があの日、」
「その袋詰めの2個入りアップルデニッシュ、デザート?私も食べて良い?」
「話を聞け」

タパパトポポトポポ。
仕方無しに急きょプチプライスショップで購入したティーポットから、同じく急きょ購入した紅茶の濃い赤琥珀色が、以下同文、カップに落ちる。
ふわり香り立つのはベルガモットのシトラス。
「先輩が紅茶淹れるのも珍しい」
後輩はカップを受け取り、鼻に近づけて、湯気をいっぱいに吸い込んだ。
スッキリする香りだ。こってりめの肉料理に合わせれば、きっと口の中をそのシトラスで、リセットしてくれることだろう。
たとえば自分と先輩の目の前にある、ちょっとお上品そうな鶏の照り焼き定食のような。

「ミルクが必要なら、一応冷蔵庫に少しある」
ため息吐いて、香りを吸って、ほんの少し口に含み即座に眉をしかめた後、藤森が言った。
「砂糖までは気が回らなかった。欲しければ、すまないが自分でなんとかしてくれ」

「和食に紅茶って、おもしろい」
竹製の割り箸を持ち、手を合わせ、いただきます。
後輩は真っ先に、出前の照り焼き定食の、付属たる味噌汁で口を湿らせた。

「当店、苦情は一切受け付けておりません」
そもそも物が無い状況だ。茶はそれで我慢してくれ。
藤森はぽつり呟き、少し舌が痛いらしく、再度ため息を吐いて紅茶のカップをテーブルに置いた。

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