かたいなか

Open App
10/21/2023, 2:30:01 PM

「声が枯れる、かすれる理由は、声の出し過ぎで喉が炎症を起こすからなのか。へぇ」
ガキの頃のぼっちカラオケくらいしか経験ねぇな。
某所在住物書きはガリガリ頭をかき、ネタ探しの前に、声枯れそのものの仕組みをネットに問うた。
登場人物に大声を出させ続ける必要があるらしいが、
ここで、物書きは己の不得意のひとつに気付いた。
キャラにシャウトさせ続けるの、俺、苦手だったわ。

「他に声が枯れる原因は?」
他のネタを探して、物書きはネット検索を続ける。
「風邪による炎症に、ポリープにガンに、加齢?
風邪が書きやすそうだけど、風邪ネタなんざ、半年以上昔の3月22日にとっくに使っちまったが……?」

――――――

不思議な夢を見た。すごくリアルな夢だ。
私は都内の地下鉄の某ホームに居て、時計の時刻を見る限り、どうやらそろそろ終電らしかった。
私から少し離れた所で、大きめのキャリートランクひとつを道連れに、職場の先輩が電車を待ってる。
『8年前もこうして、終電飛び乗って逃げたんだね』
その先輩に、高めの男声とも、低めの女声ともとれる、中性的な声をかける人がいた。
『やっと会えた。附子山さん』

それは、先輩の初恋さん。たしか加元っていう名前。
加元さんから先に先輩に惚れたくせに、
鍵もかけてないSNSの別垢で、先輩を「解釈違い」、「地雷」、「頭おかしい」ってボロクソにディスるだけならいざ知らず、
そのボロクソを見つけて先輩が縁切って逃げたら、「ヨリ戻そう」って追っかけてきた。

8月28日、私達の職場に、「話をさせて」って押しかけてきたのは強烈に覚えてる。
その後何度も何度も職場に来て、「附子山さんに取り次いで」って言うものだから、9月12日かその近辺で、出禁になっちゃった。
なんなら先輩の現住所を特定するために、後輩の私に探偵まで雇ってぶつけてきた。
わぁ。嫌な夢。
って、思ってたら、私のそばに不思議な子狐がいて、
その子狐が、なにやらドッキリみたいな、こちら最後尾みたいな、横長看板掲げてることに気付いた。

【この未来は速報値です】
くるり。横長看板が裏返る。
【今後出題されるお題の内容により、変更となる可能性があります】
なにそれ意味不明。

『私はあなたの、解釈違いなのだろう』
夢の中の、ドチャクソに解像度高い先輩は、数年一緒に仕事してる中で一度も見たことないような、
額と、鼻筋にシワを寄せて、まるでオオカミが威嚇するような、静かで強い拒絶の表情をしてる。
『今更その解釈違いと、ヨリを戻そうなどワケが分からないが、』
夢にしたって、本当に、初めて見る先輩だ。先輩は自分を「人間嫌いの捻くれ者」って言うけど、こんな徹底的に、誰かに「嫌い」を見せたことは無かった。
『そんなに欲しいなら、私など、くれてやる。その代わり今後、私の親友と後輩に、一切手を出すな』

ダメだよ先輩!
夢の中の私は叫ぶけど、夢だからなのか何なのか、先輩に全然声が届かない。
加元のところに行っちゃダメ!
結構、頑張って叫んでるつもりだった。なんなら声が枯れるまで叫び続けたつもりだった。
でも加元さんはニヤリ笑って、先輩の腕に指添えて、
『やっぱり附子山さんは、その顔でなくちゃ』
すごく、すごくイイ顔で笑った。
『やっと戻ってきた。私の解釈一致の附子山さん』

【己の職場と、何より親友と後輩を、解釈押しつけ厨加元の迷惑から守るため、本当に「附子山」は自分を加元に差し出してしまうのか?!】
終電に乗る先輩と加元さんを、見送るしかできない夢の中の私に、子狐がまた横長看板を見せてきた。
【ゆけ、後輩ちゃん!先輩を解釈押しつけ厨の魔の手から救い出し、胸くそ悪い未来を回避するのだ!】
なんか先輩、何かの物語のさらわれヒロインみたい。
多分目が点になってるだろう私に、子狐はまたくるり、看板を裏返した。

【※この先の未来予測を視聴するには別途プレミアムお餅の購入が必要です】

わぁ。なにそれ。なんでお餅。
私の口があんぐり開いたとこで、変な夢は終わった。

10/21/2023, 2:42:03 AM

「ケンカの『始まりはいつも』プリンの取り合い、秋の『始まりはいつも』花粉症、逆転劇の『始まりはいつも』誰々。いくらでもアレンジは可能よな」
なんなら「寿司食う始まりはいつもマグロから」とか。「思い出の始まりはいつの日も雨」みたいな某歌詞モドキも、書けるかどうかは別としても。
某所在住物書きは久しぶりの自由度高そうな題目に安堵して、しかしスマホではソーシャルゲームなど、余裕こいてプレイしていた。
そういえば、ガチャのすり抜けによる最大級の落胆の「始まりはいつも」、まずSSR確定演出からだ。

「……物欲センサーの始まりって、どこからだろう」
イベント周回して、ランクを上げて。物書きは貯蓄中のガチャ石に対し、どうせ溶けるとため息を吐く。

――――――

ようやく最低気温が、最低気温だけが、秋を取り戻し始めてきた感のある、最近最近の都内某所です。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、お星様とお花が大好き。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、不思議なお餅を売り歩いて、絶賛修行中です。
今夜は、子狐唯一のお得意様情報によると、明日の明け方までの間で、オリオン座流星群が見頃を迎えるとのこと。コンコン、昼間から子狐、楽しみです。

「おほしさまは、たしか、暗くて、高い場所がイチバンよく見えるんだ」
昔々、父狐から教えてもらったトリビアを思い出して、子狐その場所を探します。
夏の頃、正確には7月8日の過去、まっくらな場所を探しに東京の街を歩いたこともありますが、
森深く、いつか昔の東京を残す「実家」、すなわち稲荷神社が一番暗いと、子狐、学習しておりました。
「どこで、おほしさま見よう。どこが良いかな」

コンコン子狐、東京から一歩も出たことがないので、満天の星も美しい大流星雨も見たことありませんが、
ご近所の中で一番暗い神社の森に、一縷の望みを託します。
一番空が広く見える場所を求めて、とてとて、ちてちて、秋晴れを見上げながら歩いていると、
「こーよー!こーよーだ!」
ほんの5〜6枚、ちょっと色が変わっただけではありますが、
神社の庭の木の1本、そのうちの日のよく当たるあたりの、葉っぱが黄色くなっているのを見つけました。

紅葉です。
「葉っぱ、欲しいなぁ、ほしいなぁ」
コンコン子狐、流星雨そっちのけで、やっと見えてきた秋の証明をどうやって取りに行こうと、くるくるくる。円を描いて歩き、考えます。

秋の始まりは、いつも過去形です。
いつの間にか、それは始まっているのです。
雪降る田舎出身のお得意様は、「雪国の春は目に見え、秋は肌で分かる」と言います。
でも一応いっちょまえに都会っ子、都会っ狐の子狐にとって、秋も冬も、春も、始まりはいつも、「始まってた」、なのです。

その分、「それ」を思いがけず見つけたときの、
幸福な驚きと、喜びと、達成感と優越感といったら!
子狐にとっては、美味しいお肉にも、旬のキノコにも、ちょっとリッチなお魚にだって勝るのです。

「登れば、取れるかな」
最終的にコンコン子狐、小ちゃな体と、まだまだ幼い爪で、少しだけ色づいた秋の葉っぱを取りに行こうと画策します。
意外と知られていないか、結構常識か不明ですが、実は狐はイヌ科のわりに、木登りできるのです。
なお、降りるのも得意とは限りません。

「こーよー、こーよー、葉っぱ欲しいなぁ」
今年最初の秋を、宝箱に収めたいけれど、木登りした後がどうにもならぬ。
くるくるくる、くるくるくる。
稲荷神社の子狐は、紅葉した葉っぱを見上げながら、ぐーぐーおなかが空いて我慢ならなくなるまで、考えて、歩いて、悶々しておりました。

季節の始まりに、いつもその「始まり」を手に入れたくなる子狐のおはなしでした。
おしまい、おしまい。

10/20/2023, 1:47:21 AM

「個人的に、『すれ違い』つったら、某3DSゲーム機の某すれ違い機能が第一印象なんよ」
発売日、2011年だったのな。某所在住物書きは感嘆のため息を吐き、携帯ゲーム機の電源を入れた。
昔々のドット絵ゲームの移植版、とっくにサービス終了したソーシャルゲーム、猫ゲーにパズルゲー。
思えば懐かしい思い出が、プレイの可不可問わず、保管されている。

「改造クエストとか懐かしいわ」
当時やり込んでいた狩りゲーは、「すれ違い」によって、本来取得し得ないデータが紛れたり、いちいち手動で消したり。
懐かしい。ただ懐かしい。物書きは昔々に思いを馳せて、再度ため息を吐いた。
「戻りてぇなぁ。皆でマルチで狩りしたあの頃……」

――――――

唐突にお肉食べたくなって、某最大バリュだかトップ価値だかのスーパーに、値下げの鶏肉探しに行ったら、店内で職場の先輩とすれ違った。
向こうは私に気付いてなかったみたいで、挨拶も何もなく、お菓子コーナーに消えてっちゃった。

いっつも低糖質・低塩分メニューばっかり作ってる先輩が、普通のお菓子を見に来るなんて、珍しい。
お肉コーナーの巡回もそこそこに、半額豚バラブロックをカゴに入れて先輩のとこに行ってみると、
右手で口元を隠して、左手に持った袋をじっと見て、額に少しシワ寄せる先輩が、何か長考してた。

「先輩。せーんぱいっ。何買うの」
「ただの下見だ。お前、どうせ今年も私の部屋に、ハロウィンの菓子をたかりに来る予定だろう」

「去年のアレは面白かったから、私、たまに自分で作って食べてる」
「クラッカーは意外と塩分糖分が詰まっているから、ほどほどにしておけよ」

先輩が手に持ってたのは、ここのオリジナルブランドの、プチクラッカーだった。
「去年、これにホイップクリーム絞っただろう」
先輩が言った。
「さすがに今年、二番煎じは飽きるかなと」
別に、美味しかったから、飽きる飽きない気にしないけどな。私は少しだけ、首を否定に傾けた。

去年のハロウィンの話だ。
職場の先輩が、当日即興クオリティーで、チャチャッと材料買ってチャチャッと作ってくれたのが、プチクラッカーで作ったスイーツだった。

「アレね、七味普通に美味しかった」
「そりゃどうも」
「ワサビ、ツンと来たけど、しょっぱかった」
「食塩入りだったからな。あの、おろしワサビのチューブは」

100円の塩味クラッカーに、甘さ控えめホイップクリームを絞って、
そのホイップの上に低糖質な小さいキューブチョコを置いたら、できあがり。
いわゆるデザートカナッペとか、そういうやつ。
味変に、ホイップに七味振ったり、ジンジャーパウダー振ったり、シナモンもアリっちゃアリだった。
クラッカーの塩っ気と、チョコ&ホイップの甘さ、それからピリっとした七味だのジンジャーだのが、面白く混ざってたのはよく覚えてる。

ちゃんと事前予約を入れていれば、故郷の田舎からイタズラクッキーを取り寄せていたものを。
先輩は当時、ちょっとだけ楽しそうに言ってた。
見た目が完全に炭みたいなクッキーらしい。
なにそれ。

「プチタルトのタルト台に、カボチャだの紫芋だので色付けしたホイップを絞るのも考えたんだが」
「タルト台 is なんで?」
「ディップボウルの代わりだ。クッキーだから、使い終わったら食えばいい。食器を洗う手間が省ける」
「例の炭クッキーをディップするの?」
「……食いたいのか、炭クッキー?」

お前も物好きな食いしん坊だな。
先輩はゆっくり、優しい大きなため息を吐いて、プチクラッカーの袋を棚に戻して私から離れた。
「今年はちゃんと、アルコールも用意しといてよー」
背中向けて鮮魚コーナーの方に歩いてく先輩に声を放ると、
検討だけはしてやる、って意味なのか、単なる別れの挨拶なのか、先輩はプラプラ、右手を振った。

10/19/2023, 5:13:11 AM

「『秋』はねぇ、先月2回遭遇してるのよ。22日付近の『秋恋』と、26日あたりの『秋🍁』と」
3度目の秋ネタである。前回と前々回はどのような物語を書いていただろうと、某所在住物書きは己の過去投稿分を辿った。
「秋」は「秋なのに翌日が猛暑予報」、「秋恋」は恋愛の恋して振って恋してのガチャを書いたらしい。

「他に『秋』は?さすがに『サツマイモ』はお題じゃ出てこないよな?」
秋雨、秋風、秋明菊はそもそも花ネタ動物ネタの少ないこのアプリだから無いか。
物書きは次の「秋」にそなえて、ひとまず可能性の高そうな単語を並べた。

――――――

10月も残り2週間を切った都内某所、某職場。
昼休憩の休憩室で、同部署内の先輩後輩コンビが、
片や弁当箱を広げ、片やスープジャーを開けて、アイスコーヒーを飲みながら談笑している。
「秋だよね?」
「その質問は今日の気温についてか?」
BGMは他者の雑踏と、誰が観ているとも分からぬニュース番組の音声。
隣の隣部署の主査が舌を火傷したらしい。男性の大きな悲鳴が、休憩室に驚きと苦笑を届けた。

後輩のスマホによれば、今日の最高気温は25℃。
夏日である。じき、11月である。
例年の「秋」はどのような暑さ涼しさであったか。
飲み物は?服装は?もうオータムコートを羽織っていただろうか?

「なんか、季節感分かんなくなっちゃった」
後輩が弁当のミートボールをフォークでさした。
「今、10月後半だから、秋だよね。今日は晴れてるから、秋晴れ、だよね。
……秋晴れの日に夏日って何だろうって」

「安心しろ。あと1ヶ月2ヶ月もすれば、ちゃんと冬になってこの暖かさが恋しくなる」
まぁ、向こうのゴマスリさんは、もう色々「寒さ」が厳しいようだが。
チラリ別のテーブルを見遣って呟く先輩は、スープジャーのリゾット風オートミールをひとすくい。
「ちゃんと、恋しくなるかなぁ……」
先輩の視線の先を確認した後輩は、すぐ意味を理解して、数度頷いた。
上司へのゴマスリが得意科目の後増利係長が、ひとりポツンと、コンビニ弁当を突っついていたのだ。

先々週、自分の仕事を部下に丸投げしまくって、その成果だけ横取りしていたのがトップにバレた。
直々に厳重な口頭注意を受けたことが、多くの人の知るところとなり、
結果、肩身が狭くなって、今やぼっち飯である。
別に「かわいそう」とも感じないのは、この先輩後輩コンビが、仕事丸投げと横取りの、そもそもの被害
者であったから。
後輩からすれば、ざまーみろ以外の何物でもない。
気温はさておき、まさしく澄み渡る秋晴れの心地であった。

「なんか急にゴマみそ担々麺食べたくなってきた」
「確かに急だな。私に作れと?」
「いっぱいゴマ入れて。ゴマスリして」
「低糖質パスタと糸こんで良ければ」
「担々パスタは新鮮初遭遇……」

ところで後増利係長の更迭は云々、そういう話は届いていない云々。
話題は夏日の秋晴れから、後日の夕食昼食、それから既に秋風北風で凍えていそうな上司へ。
今週の仕事も、残り1〜2日。日曜は最低11℃の予想だ。

10/18/2023, 4:22:24 AM

「5月9日あたりのお題が『忘れられない、いつまでも。』だったな」
前回は香炉の香りをネタにして、「忘れそうになった頃、また特定の場所から香ってくるので、いつまでも忘れられない」って構成にしたが、普通に今回のお題にコピペしても全然バレなそうだわな。
某所在住物書きは己の過去投稿分を辿り、一度ニヤリ閃いた。「ズルができる」。
問題は、地道に根気よく5ヶ月分辿ればそのズルがバレること。

「ガキの頃、某シマウマ社の香るボールペンが流行して、その香りはなんか、忘れずに覚えてるわ……」
記憶ネタの第2ラウンド。今回は何が書けるだろう。物書きはふと思い立ち、机の引き出しを開けた。

――――――

昔々のおはなしです。まだ年号が平成だった頃、2010年のおはなしです。
春風吹く頃、真面目で優しい田舎者が、雪降る静かな故郷から、東京にやってきました。
今は諸事情あって、名前を藤森といいますが、当時は附子山といいました。
人間嫌いか厭世家の捻くれ者になりそうな名字ですが、気にしません、気にしません。

「すいません。ご丁寧に、道案内までして頂いて」
これからの住まいとなるアパートへの、行き方がサッパリ分からぬ附子山。
たまたま近くに居た都民に助けを求めたところ、「なんなら一緒に行ってやる」との返答。
後に、附子山の親友となるこの都民、宇曽野は、ウソつきそうな名字ですが、とても良心的な男でした。

「地下鉄の乗り方は」
興味半分、退屈しのぎ四半分に、親切残り四半分で、ナビを引き受けた宇曽野。
「大丈夫か、それとも、説明した方が?」
宇曽野は婿入りの新婚さん。この日も愛する嫁のため、外回りの用事やら手続きやら、なんなら重い物の買い出しなど、しに行く最中でありました。

「ちかてつ……」
附子山の表情が、不安なバンビに曇ります。
「地下鉄は、迷路だの、迷宮だのと聞きました。私でも、乗れるものでしょうか」
ぷるぷる。あわあわ。バンビな附子山がはぐれて、迷わぬよう、宇曽野が手を引き、地下鉄の駅へ。
初めて無記名電子マネーカードを購入し、初めてカードにチャージして、初めてキャッシュレスで改札を通る附子山は、宇曽野には完全に興味の対象で、なにより嫁への土産話のネタでした。

「これが、都会の改札か……!」
購入したばかりの無記名カードを掲げ、キラリ好奇の瞳で、それを見上げ眺める附子山。
「便利だなぁ。私の故郷の鉄道に導入されるのは、何年後だろう」
この日見た光景が、駅のライトに照らしたカードの光沢が、今回のお題、「忘れたくても忘れられない」に相応しく、善良かつ美麗な記憶として……
残った、ワケではなく。
お題回収はその10分後。附子山が初めて乗った地下鉄車内で発生しました。

満員の車内で財布から目を離した附子山が、ほぼ当然の如くスリに遭いまして。

「おいお前。今スっただろう」
犯行現場をガッツリ見ていた宇曽野が、次の駅で降りようとする犯人の手をギリギリねじり上げ、
「ボケっとしてる田舎者から盗るのはラクだ、と思ったか?ぇえ?」
抵抗し暴れて、逆ギレで殴りかかってくるのも構わず、附子山の目の前で、盛大な窃盗犯確保と暴漢制圧を始めてしまったのです。

「あの、その辺に、してあげても、」
ポカポカポカ、ポコポコポコ。
一度は拘束から離れ、逃走をはかった窃盗犯。
警察か消防署員か、なんなら自衛隊員でもしているのか、まぁ実際は、どれでもないのですが、
それを疑うくらいの手慣れっぷりで、宇曽野はそいつに追いつき組み付き、ねじり倒し、ハイ確保。
バンビな附子山はバンビらしく、ただおよおよオロオロするばかり。

「都会は、悪いことをすると、こうなるのか……」
駅員が駆けつけ、警察が到着する頃には、窃盗犯はもうぐったり。
悪者をやっつけた宇曽野の達成感的笑顔と、悪事がバレてやっつけられた窃盗犯の満身創痍こそ、
今回のお題、「忘れたくても忘れられない」記憶として、なかなか強烈に、残ってしまったのでした。
おしまい、おしまい。

Next