「声が枯れる、かすれる理由は、声の出し過ぎで喉が炎症を起こすからなのか。へぇ」
ガキの頃のぼっちカラオケくらいしか経験ねぇな。
某所在住物書きはガリガリ頭をかき、ネタ探しの前に、声枯れそのものの仕組みをネットに問うた。
登場人物に大声を出させ続ける必要があるらしいが、
ここで、物書きは己の不得意のひとつに気付いた。
キャラにシャウトさせ続けるの、俺、苦手だったわ。
「他に声が枯れる原因は?」
他のネタを探して、物書きはネット検索を続ける。
「風邪による炎症に、ポリープにガンに、加齢?
風邪が書きやすそうだけど、風邪ネタなんざ、半年以上昔の3月22日にとっくに使っちまったが……?」
――――――
不思議な夢を見た。すごくリアルな夢だ。
私は都内の地下鉄の某ホームに居て、時計の時刻を見る限り、どうやらそろそろ終電らしかった。
私から少し離れた所で、大きめのキャリートランクひとつを道連れに、職場の先輩が電車を待ってる。
『8年前もこうして、終電飛び乗って逃げたんだね』
その先輩に、高めの男声とも、低めの女声ともとれる、中性的な声をかける人がいた。
『やっと会えた。附子山さん』
それは、先輩の初恋さん。たしか加元っていう名前。
加元さんから先に先輩に惚れたくせに、
鍵もかけてないSNSの別垢で、先輩を「解釈違い」、「地雷」、「頭おかしい」ってボロクソにディスるだけならいざ知らず、
そのボロクソを見つけて先輩が縁切って逃げたら、「ヨリ戻そう」って追っかけてきた。
8月28日、私達の職場に、「話をさせて」って押しかけてきたのは強烈に覚えてる。
その後何度も何度も職場に来て、「附子山さんに取り次いで」って言うものだから、9月12日かその近辺で、出禁になっちゃった。
なんなら先輩の現住所を特定するために、後輩の私に探偵まで雇ってぶつけてきた。
わぁ。嫌な夢。
って、思ってたら、私のそばに不思議な子狐がいて、
その子狐が、なにやらドッキリみたいな、こちら最後尾みたいな、横長看板掲げてることに気付いた。
【この未来は速報値です】
くるり。横長看板が裏返る。
【今後出題されるお題の内容により、変更となる可能性があります】
なにそれ意味不明。
『私はあなたの、解釈違いなのだろう』
夢の中の、ドチャクソに解像度高い先輩は、数年一緒に仕事してる中で一度も見たことないような、
額と、鼻筋にシワを寄せて、まるでオオカミが威嚇するような、静かで強い拒絶の表情をしてる。
『今更その解釈違いと、ヨリを戻そうなどワケが分からないが、』
夢にしたって、本当に、初めて見る先輩だ。先輩は自分を「人間嫌いの捻くれ者」って言うけど、こんな徹底的に、誰かに「嫌い」を見せたことは無かった。
『そんなに欲しいなら、私など、くれてやる。その代わり今後、私の親友と後輩に、一切手を出すな』
ダメだよ先輩!
夢の中の私は叫ぶけど、夢だからなのか何なのか、先輩に全然声が届かない。
加元のところに行っちゃダメ!
結構、頑張って叫んでるつもりだった。なんなら声が枯れるまで叫び続けたつもりだった。
でも加元さんはニヤリ笑って、先輩の腕に指添えて、
『やっぱり附子山さんは、その顔でなくちゃ』
すごく、すごくイイ顔で笑った。
『やっと戻ってきた。私の解釈一致の附子山さん』
【己の職場と、何より親友と後輩を、解釈押しつけ厨加元の迷惑から守るため、本当に「附子山」は自分を加元に差し出してしまうのか?!】
終電に乗る先輩と加元さんを、見送るしかできない夢の中の私に、子狐がまた横長看板を見せてきた。
【ゆけ、後輩ちゃん!先輩を解釈押しつけ厨の魔の手から救い出し、胸くそ悪い未来を回避するのだ!】
なんか先輩、何かの物語のさらわれヒロインみたい。
多分目が点になってるだろう私に、子狐はまたくるり、看板を裏返した。
【※この先の未来予測を視聴するには別途プレミアムお餅の購入が必要です】
わぁ。なにそれ。なんでお餅。
私の口があんぐり開いたとこで、変な夢は終わった。
10/21/2023, 2:30:01 PM