かたいなか

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「個人的に、『すれ違い』つったら、某3DSゲーム機の某すれ違い機能が第一印象なんよ」
発売日、2011年だったのな。某所在住物書きは感嘆のため息を吐き、携帯ゲーム機の電源を入れた。
昔々のドット絵ゲームの移植版、とっくにサービス終了したソーシャルゲーム、猫ゲーにパズルゲー。
思えば懐かしい思い出が、プレイの可不可問わず、保管されている。

「改造クエストとか懐かしいわ」
当時やり込んでいた狩りゲーは、「すれ違い」によって、本来取得し得ないデータが紛れたり、いちいち手動で消したり。
懐かしい。ただ懐かしい。物書きは昔々に思いを馳せて、再度ため息を吐いた。
「戻りてぇなぁ。皆でマルチで狩りしたあの頃……」

――――――

唐突にお肉食べたくなって、某最大バリュだかトップ価値だかのスーパーに、値下げの鶏肉探しに行ったら、店内で職場の先輩とすれ違った。
向こうは私に気付いてなかったみたいで、挨拶も何もなく、お菓子コーナーに消えてっちゃった。

いっつも低糖質・低塩分メニューばっかり作ってる先輩が、普通のお菓子を見に来るなんて、珍しい。
お肉コーナーの巡回もそこそこに、半額豚バラブロックをカゴに入れて先輩のとこに行ってみると、
右手で口元を隠して、左手に持った袋をじっと見て、額に少しシワ寄せる先輩が、何か長考してた。

「先輩。せーんぱいっ。何買うの」
「ただの下見だ。お前、どうせ今年も私の部屋に、ハロウィンの菓子をたかりに来る予定だろう」

「去年のアレは面白かったから、私、たまに自分で作って食べてる」
「クラッカーは意外と塩分糖分が詰まっているから、ほどほどにしておけよ」

先輩が手に持ってたのは、ここのオリジナルブランドの、プチクラッカーだった。
「去年、これにホイップクリーム絞っただろう」
先輩が言った。
「さすがに今年、二番煎じは飽きるかなと」
別に、美味しかったから、飽きる飽きない気にしないけどな。私は少しだけ、首を否定に傾けた。

去年のハロウィンの話だ。
職場の先輩が、当日即興クオリティーで、チャチャッと材料買ってチャチャッと作ってくれたのが、プチクラッカーで作ったスイーツだった。

「アレね、七味普通に美味しかった」
「そりゃどうも」
「ワサビ、ツンと来たけど、しょっぱかった」
「食塩入りだったからな。あの、おろしワサビのチューブは」

100円の塩味クラッカーに、甘さ控えめホイップクリームを絞って、
そのホイップの上に低糖質な小さいキューブチョコを置いたら、できあがり。
いわゆるデザートカナッペとか、そういうやつ。
味変に、ホイップに七味振ったり、ジンジャーパウダー振ったり、シナモンもアリっちゃアリだった。
クラッカーの塩っ気と、チョコ&ホイップの甘さ、それからピリっとした七味だのジンジャーだのが、面白く混ざってたのはよく覚えてる。

ちゃんと事前予約を入れていれば、故郷の田舎からイタズラクッキーを取り寄せていたものを。
先輩は当時、ちょっとだけ楽しそうに言ってた。
見た目が完全に炭みたいなクッキーらしい。
なにそれ。

「プチタルトのタルト台に、カボチャだの紫芋だので色付けしたホイップを絞るのも考えたんだが」
「タルト台 is なんで?」
「ディップボウルの代わりだ。クッキーだから、使い終わったら食えばいい。食器を洗う手間が省ける」
「例の炭クッキーをディップするの?」
「……食いたいのか、炭クッキー?」

お前も物好きな食いしん坊だな。
先輩はゆっくり、優しい大きなため息を吐いて、プチクラッカーの袋を棚に戻して私から離れた。
「今年はちゃんと、アルコールも用意しといてよー」
背中向けて鮮魚コーナーの方に歩いてく先輩に声を放ると、
検討だけはしてやる、って意味なのか、単なる別れの挨拶なのか、先輩はプラプラ、右手を振った。

10/20/2023, 1:47:21 AM