かたいなか

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10/10/2023, 5:30:35 AM

「これ、同名の歌とか、その歌使ったアニメのハナシとかじゃねぇだろうな?」
某忍者アニメにせよ、デフォルメなロボットアニメにせよ、俺観てねぇし聴いてねぇから知らんぞ。
某所在住物書きは今回の題目を、その通知を見て頭をガリガリ掻いた。
今日も相変わらずだ。どこに着眼し、何をひねり、どう書くか見当がつかない。
「そういや、デマか誰かの持論か知らねぇが、『大人になって時間が早く感じるの、子供の頃よりココロオドル経験が少ないから』、みたいなのが……」
気のせいかな、事実かな。物書きは天井を見上げ、今日もため息を吐く。

――――――

3連休が終わって、仕事の1週間が始まった。
東京は昨日、どうしてこうなったってくらい突然気温が下がったから、私は慌てて、秋物を重ね着したり、晩ごはんをお鍋にしたり。
そんな3連休の次の日。火曜日。

「呟きックスのフォロワーがね、」
昨日より7℃くらい高くなったお昼、職場の休憩室。
「地方に、旅行に行ったらしいんだけど、たった1〜2年でガラっと変わっちゃったって」
長い付き合いの職場の先輩と、いつものテーブルに座って、お弁当箱広げて、コーヒー飲んで、
誰が観てるんだか、誰も観てないんだか分からないテレビのニュースをBGMに、おしゃべり。
「山と田んぼに癒やしてもらおうって、心躍らせてバスに乗ったら、目的地に着く前に現実に無理矢理引き戻されて、スン……ってなっちゃったって」

雪国の田舎出身っていう先輩。私のハナシに思うところがあったみたいで、アッ察し、みたいな顔してる。
「田んぼが埋め立てられて、観光客用の施設か飲食店でも増えていたか」
先輩が理由を当てにきた。
「それとも、ビルでも建った?」

「なんかね、街の中は、観光客が増えただけで、なんにも変わってなかったんだってさ」
「ふむ」
「自然が見たいのと、そこ生まれの文豪が出るアニメが好きなのとで、ほぼ毎年参拝してるらしいの」
「ふむ……?」

「山の上に、いつの間にか風力発電の風車がニョキニョキ生えてて、それ見えちゃったって」
「それ私の故郷ではないかな」

まぁ、まぁ。理由や事情は、電力会社側にも土地権利者側にも。色々な。だが景観や観光客としてはな。
先輩はそれこそ、うん……って顔して、自分のスープジャーを突っつく。
思うところが、すごくあるみたい。
「いい街だよ。花と草と、山野草しか無いけれど」
先輩がため息を吐いた。
「ただ、時代と、経済と、需要がな。どうしても。

ところでそんな辛気臭い話題より、それこそこういう、心躍る方はどうだ」

ぽん。
先輩がテーブルに、和菓子の紙包みを置いた。
開けてみろよ。
両眉少し上げた先輩に促されて包みを開いてみたら、中に入ってたのは、淡い色した大福3個。
桃色、白、若草色。白を手にとって半分くらい食べたら、中にミカンとホイップクリームと、それから、素朴で懐かしい味のこしあんが入ってた。

「昨日、ひいきにしている茶葉屋の子狐が、私の部屋に入ってきてな」
先輩はニヨリ笑って、スマホの画面を私に見せた。
「保護して世話した例として、店主から」
表示されてたのは、先輩が常連してるお茶っ葉屋さんの商品ページ。テーブルに置いてる桃色と白と若草色と、他にも数種類、優しい色がズラリ。
商品名は、「【新米入り】キツネの神社のコンコンフルーツ大福」。
1個、税込み555円。祈祷料込みだと5550円。

「景色が変わろうと、時代が『田舎』を崩そうと、」
先輩が、あったかそうな緑茶を、保温ボトルから紙コップに淹れながら言った。
「それでも、残るものは在ると、私は思いたいよ」
あんこの甘味を、緑茶のサッパリが奥に流していく。
555円か、5550円の方か知らないけど、
先輩から貰った大福は、週はじめの気だるい心をほっこり温めて、ちょっぴり踊らせてくれた。

10/9/2023, 5:44:58 AM

「お題に従って文章書く、っつー縛りからの『つかの間の休息』って意味なら、まぁ、こちとら自由に書かせてもらうがな」
どうせ書いたところで、自分の納得いくハナシは時間内に書けねぇし、投稿期限も残り数時間なんよ。
某所在住物書きは今朝の地震と津波に関する情報を、スマホとテレビで追いながら、先程まで書いていた文章を白紙に戻した。
誰が3連休の最終日に、防災に関する真面目ネタなど読みたいと思うものか。
「……文才欲しいわなぁ……」
ため息、頬杖、頭ガリガリ。今日も物書きは物語を書いて消して書いて、また消す。

――――――

昼の都内某所、某アパートの一室。
雨により急降下したままの気温を、その数値の結果を、窓越しに眺めながら、
薄い保温生地、いわゆる着る毛布のコートを羽織り、部屋の主が温かい緑茶を飲んでいる。
名前を藤森という。
値段<価値か、値段=異常かで有名な家具ブランド。最高グレードの保温性は、藤森の故郷、氷点下の風吹き付ける雪国で実証済み。
コレは確実に、良い買い物だった。
藤森は椅子に座り、毛布コートの性能に、あらためて満足して茶を飲んだ。

雨の東京である。防音防振の整った室内に、騒音だの喧騒だのはほぼ届かない。
ただ空が曇り、階下地上の人を車を街路樹を、等しく濡らしている。
3連休の3日目。十数時間後には外に出るなり、あるいは在宅ワークなり、また仕事が始まる。
今日はまさしく、明日に対する「束の間の休息」と言えよう。

「もうふ、あったかい、あったかい……」
見よ。静寂の室内、保温毛布の上では、ものを喋る子狐が団子になって暖を、

……「ものを喋る子狐」?

「おまえ、どこから入ってきた?」
休息終了のお知らせ。
静寂の室内、保温毛布の上で、不思議な不思議な子狐が、まんまる団子になり暖を享受している。
毛は雨でしっとり濡れ、ゆえに周囲の毛布の色が、わずかに濃い。

「おそと」
コンコンコン。
「エキノコックス・狂犬病対策済み」の木札を下げたこの子狐は、アパート近所の、森深き稲荷神社在住。
そして藤森が「お得意様」としてひいきにしている茶葉屋の、女店主がよく抱えている、いわば顔見知り。
こっくりこっくり、頭を揺らす子狐は、じき眠ってしまいそうなほど幸福に、目を閉じた。

何がどうなっているのか。
細かいことを気にしてはいけない。
どうせ多々投稿されている今回の題目の、ありふれた物語のひとつである。たまにこんなトンデモ展開が登場しても良かろう。

「そうじゃなくて。どうやって入ってきた。ドアの鍵は?いつもなら、お前がインターホンを鳴らして、私が鍵を開けてから、」
「さむかったの。つめたかったの」

あーあー。こんなに濡れて。こんなに濡らして。
藤森は子狐の首根っこをつかみ、フカフカのタオルに下ろして、くしゃくしゃポンポン。包んで優しく叩き拭く。
毛布は洗濯だ。アパート内のコインランドリーを使えば、なんとかなろう。

「タオルより、さっきの毛布がいい」
「我慢しなさい」
キャウキャウキャウ、キャウキャウキャウ。
遊んでもらっていると勘違いしている子狐の鳴き声は、ただ嬉しそうで、しかし眠そうで、
途中、コテン、突然電池が切れる。
「茶葉屋に保護の連絡を入れておくか……」
幸福に寝落ちた子狐を見下ろし、ため息を吐いて、藤森はまた、濡れた毛を拭く作業に戻った。

10/8/2023, 3:26:41 AM

「物理的な力を込めるか、なんかオマジナイ的な力にするかで、まず変わってくるんだろうな」
あと「声に力を込める」とか言うのもアリか。某所在住物書きは今回の題目の使い方を、あれこれ思案しながらポテチをかじった。

身体、祈願、声量。他には何があるだろう。加齢により固くなった頭では、奇抜なネタは時間がかかる。
「無難が安定かな……」
次の題目配信まで、残り6時間と40分程度。
物書きはネットの海に活路発見を頼り、ひとまず「力を込める」の検索結果を辿った。

――――――

3連休の真ん中。「そばの日」の都内某所、某アパートの一室。
食費および光熱費のシェアと節約を名目に、某ブラックに限りなく近いグレー企業の職員が、その先輩の部屋で、ふたりして昼食の準備をしている。

「キクザキイチゲだ」
「そういう名前だっけ」
「7ヶ月前、3月1日にお前に見せた花のことだろう。それなら、キクザキイチゲ。『追憶』の花だ」

雪国の田舎出身という、部屋の主、藤森。
後輩から花の名前を尋ねられ、答えながら小さめのすりこぎ棒で、同じく小さめのすり鉢をゴリゴリ。
実家から送られてきたソバの実を、力を込めて製粉し、蕎麦粉にしているのだ。
本日のランチは手作りガレット。蕎麦粉と食材は藤森が用意し、材料代の半分とすり鉢とすりこぎ棒を後輩が負担した。

「それめっちゃ疲れそう」
「ストレス解消に最高だぞ」
「ホント?」
「ノルマ反対。打倒悪しき昔のパワハラ。いい加減にしろクソ上司」
「わぁ。蕎麦粉が恨みにまみれてる」

室内は完全に最低限、最小限の家具家電のみ。
感情希薄なフィクションキャラクターの、希薄さを際立たせるために、その人物の居住スペースからベッド以外のオブジェクトをすべて撤去してしまう設定も多々見受けられるが、それに数歩〜十数歩迫る程度。

部屋を引き払おうと藤森が思えば、すぐにでも可能そうである。
事実、藤森はそれを今月末、実行しようと画策中である。
諸事情あってこの藤森、昔々の初恋相手から、8年逃げ続けたは良いものの、最近居住区がバレて、
その初恋相手に、職場に突撃訪問され、住所特定のため探偵まで差し向けられた始末。
『職場にこれ以上迷惑はかけられない』。
藤森は決断し、誰にも相談せず、すべてを心の内に秘めて行動した。
結果が、元々物の少なかった藤森宅の、更に生活感が希薄化した現状だった。

勿論それに気づかぬ後輩ではない。
ただ、藤森が自分からすべてを言い出すまで、後輩のよしみで待ってやっている最中である。

「私も蕎麦粉ゴリゴリしたい」
「お前もなにか、ストレスが?」
「どこぞの誰かさんが、全部自分ひとりで背負い込んで、なんにも私に言ってくれないから」
「なんだって?」
「なんでもないです。なんでもないでーす」

ふぁっきん初恋さん。
ふぁっきんストーカー数歩手前な初恋さん。
ふぁっきん昔先輩の心をズッタズタにしたくせに今更ヨリ戻そうとしてるストーカー数歩手前な初恋さん。
ゴリゴリゴリ。後輩は力を込め、すりこぎ棒を回す。
「……随分溜まってるな?」
気迫か怒気か、ただならぬ心の業火に、藤森は開いた口が塞がらぬ。
ただその業火の先に、よもや自分がいるのではと、静かに戦慄し、目を細めるのであった。

「大丈夫。先輩だけど先輩じゃないから」
「結局私じゃないか」
「だから、先輩だけど、先輩じゃないの」
「つまり私だろう」

「たしかにストレス解消なるね。コレ」
「んん……?」

10/7/2023, 4:39:12 AM

「丁度3月1日、アプリ入れて最初に書いたハナシに出した花の花言葉が、『追憶』だったわ」
犬泪夫藍(たのしいおもいで)、蕎麦(なつかしいおもいで)、それから菊咲一華(ついおく)。
まったく、過ぎたハナシと花言葉は相性が良いねぇ。某所在住物書きはネット検索を辿りながら呟いた。

マイヅルソウなどは「清純な少女の面影」だという。春咲く小さな花に、恋した誰かの「過ぎた日」を想起すれば、これでひとつエモネタが完成であろう。
「反対は『汚れっちまった野郎の行く末』?
……俺じゃねぇよ。誰だ無言で指さしてんの」
アプリのインストールから、はや220日。
過ぎた220日前を思いながら、今日も物書きは苦し紛れにネタを組む。

――――――

三連休初日。東京はこれから段々曇ってきて、連休最後の月曜日には、降水確率が80%って予報。
どこもかしこも、インフルがどうとか、発熱がどうとかで、薬局も薬の在庫が無いって聞いたから、
風邪貰ってきてもイヤだし、たまには部屋でおとなしく、出費節約でもしようと思って、
ひとまず自分の部屋の掃除を、

「あっ、」
しようと思って、積読置き場の本棚の、上を小さなパタパタホウキで叩いたら、
「やだ、懐かしい」
棚の上から、ピラピラ、10cm四方のワックスペーパーが数枚落ちてきた。

花の写真が薄くプリントされた、オリジナルのワックスペーパーだ。
昔々、数ヶ月前、具体的には4月18日、
私の職場の、雪国の田舎出身っていう先輩が、その紙に小さなキューブチョコを、キャンディーみたいに包んで渡してくれた。
チョコは当然、とっくの昔に食べちゃったけど、包み紙の方はどうしても捨てられなくて、
いつかキレイに飾ろうって、折り目を直して、そのまま放ったらかしてた。
「すっかり忘れてた。ここに置いてたんだ」

スミレ、フクジュソウ、カタクリ。それから名前を忘れちゃった黄色とか白とか、ともかく春の花がキレイな包み紙。
先輩は「どこで買ったか忘れた」って、平坦な表情でとぼけてた。
本当はわざわざ、プリントサービスやってる人に頼んで、作ってもらったんだ。
私が「先輩の故郷の花を見たい」とか、「故郷に行ってみたい」とか言ったから。

「……この花、なんて名前だっけ」
カサリ。
随分昔に過ぎちゃった、季節のわりに暑かった春の日を思いながら、懐かしく包み紙の数枚を見てたら、
白いタンポポみたいな、フクジュソウみたいな、名前を思い出せない花が目に入ってきた。

『私の故郷はね』
3月最初、1日に見せてもらった花だ。懐かしい思い出がもうひとつ、頭にふわり浮いてきた。
『雪が酷くて、4月直前にならなければ、クロッカスも咲かなくて』
昼の休憩時間、美味い低糖質ケーキを見つけたから奢ると手を引かれて、外出した先のオープンカフェ。
先輩は虚空を見たまま、故郷の春を語ってくれた。
『今頃はまだ、妖精さんも雪の中だ』

「春の妖精」。春の最初から咲き始めて、夏来る前に土の中に帰る花。数十種類ある内の、そのひとつ。
「追憶」を花言葉に持つ、白と青紫の花畑。
あの頃がなんとなく懐かしくって、プリントされた花を見ながら、ちょっとだけ、しんみりした。
この紙をくれた先輩とは、近々すぐ、会う予定だから、その時「あの花なんだったっけ」って、聞いてみようと思う。

10/6/2023, 1:58:22 AM

某所在住物書きは過去投稿分の題目を確認した。
「星」はこれで5度目、「夜」も含めれば10、「空」も含めれば15。1年365回出題される題目の、5%である。ソシャゲのガチャにおける最高レア排出率よりは高かろう。

「もうだいぶ、ネタ使い尽くしちまったのよな。
池に落ちる雨を夜空の星空に見立てるとか、花畑の黄色い花を星に例えるとか、5枚花弁の桜吹雪は流れ星にしたし。普通に夜空を見上げるネタは昔々とうに文章にしちまったし。そこからの『星座』か」
さて、面白くなってまいりました。物書きは天井を見上げ、途方に暮れる。
「現在の星座とピアノの鍵盤の数が一緒ってのは?……どう書けと?」

――――――

そういえば、冬の星座のオリオン座、ベテルギウスが「そろそろ爆発して無くなるかも?!」とか騒がれていましたが、
ネットによれば、最近、「まだ10万年くらいはどうも安泰かもよ」なんて分析結果が、出ているとか、気のせいとか。
というのは全然関係の無い、大粒の涙を星座に例える、苦し紛れをご用意しました。

法学疫学付け焼き刃なおはなしです。ほぼほぼフィクションでファンタジーなおはなしです。

時期は数ヶ月前、あの暑かった春から夏の頃。
都内某所の某稲荷神社に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
家族の中には末っ子の、コンコン子狐もおりまして、
子狐は狐ですが、ちゃんと白米と味噌汁と、よく加熱したお肉と野菜と山菜を食べるため、エキノコックスなんかへっちゃらです。
しかし子狐はイヌ科なので、狂犬病予防法第5条、同施行規則第11条の類推適用により、年1回、狂犬病ワクチンのお注射を、受ける必要があるとかないとか。

海外では、狐が狂犬病にかかり、安楽死の処置をされたというニュースがあるそうです。
自分がかからず、人間にうつさず、なにより法律で、そして物書きの「涙→星座」の苦し紛れのせいで、
父狐の「美味しいもの食べに行こう」の口車にのせられて、化け狐の対応もしてくれる動物病院へ、電車に揺られタタンタタン、子狐とうとうやって来ました。

「やだっ!注射やだっ!」
ギャンギャン。注射を準備する化け狸の獣医さんに、小狐は吠えて威嚇し、暴れます。
「ウカサマ、ウカノミタマのオオカミサマ!しもべの声をお聞きください!しもべをいじめる悪いやつを、どうかやっつけてください!」
ギャンギャンギャン。子狐は必死に、チカラいっぱい訴えますが、だーれも助けてくれません。
おお。規則よ。汝、法の名を持つ理不尽よ。
しゃーない。ワンコなら誰しも通る道です。多分。

わんわんわん、ギャンギャンギャン。
子狐があんまり泣くもので、そしてあんまり暴れるもので、大粒の涙が診察台に、パタパタ、ポタポタ、落ちてゆきます。
あっちに一粒落っこちて、こっちに二粒落っこちて、それらが天井のライトで照らされて。
そちらに涙の大三角、それから涙の北斗七星。
診療台に、落涙の星座がいっぱい、いっぱい。あらキレイ。

「ハイ大丈夫ですよー、すぐだからねー、泣かない泣かない頑張るよー」
キャン、キャン。小狐が吠え疲れ、おとなしくなると、とうとう細い銀の針が、小狐のおしりに……

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