かたいなか

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10/3/2023, 2:30:28 AM

「エモネタ多い気がするこのアプリだけど、何気に『奇跡』とか『運命』とかは、3月から今までならコレが初出だったのな……」
まるで、何度も引いてSSRは揃った常設ガチャの、何故か1枚だけ出てこないSRのようだ。某所在住物書きは過去投稿構分を辿り、今まで一度も「奇跡」が出題されていなかったことに気付いた。

「俺としては『もう一度奇跡』なんざ、10年前の例の、『あと一度だけ』から始まる歌と、それこそソシャゲのリセマラよ。
必要SSR2枚抜き。確率約0.05%が2枚。ほぼ奇跡じゃん。……『奇跡をもう一枚』よな」
まぁ、結局挫折して妥協したけど。物書きはポツリ、呟いてスマホをいじる。

――――――

酷い低確率のポジティブな現象が、己のまったく期待せぬ状況で発現することは、「奇跡」と評しても良いのではなかろうか。

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
部屋の主を藤森というが、朝食と、スープジャーに詰めて職場へ持っていく昼食としての、オートミール入りのポトフを、

「……何を入れた……?」

作ったのは良いものの、
仕事で少し蓄積し始めた疲労と、それに起因する寝ぼけ眼で調理して、
そろそろ使い終わるであろう調味料を、処分のためにポイポイ目分量で投入したところ、
これが藤森の味覚に超絶ヒット。
「コンソメと、コショウは確実に入れた。
……どれだけ?どの程度?」
藤森は、後日同じ味を再現したくて、懸命に調理工程を思い出そうとするが、
「コレ入れれば美味い」をつまんで振って、落として入れて。入れた種類はギリギリ分かっても、入れた分量が出てこない。

「……しちみ?」
スープをひとさじ、すくって味見用の小皿へ。
舌にのせた黄金色は、入れた記憶のない少々のスパイスを伴っていた。

諸事情により、10月末で部屋を引き払おうと考えている藤森。
キッチンの調味料を今月で使い切り、退去時の荷物を軽くしようと画策している。
他者に提供する料理であればいざ知らず、それこそ丁寧に丁寧を重ねた調理と調味にもなろうが、
自分ひとりで食うものなど、それこそ自分ひとりが納得できればそれで良い。
そろそろ無くなりそうな粉があれば優先的にブチ込み、あと1回使えば容器を捨てられる顆粒があれば問答無用で放り込む。

それが今回は良くなかった。
分量不明と分量不明が、煮込んだ野菜と肉の出汁に対して、ああなってこうなって、どうなって。
一部カオスなランダム要素。これを忠実に再現するのは、まさしく「奇跡」の2字であろう。
なにより寝ぼけた頭と、「所詮自分単独」の大雑把で作ったメシとあっては。

「だめだ。わからない」
分量不明と分量不明。それから野菜と肉とオートミール。この確率的奇跡をもう一度。
藤森は悩んだが、結局時間内に解は得られず、
味覚の幸福とレシピの悶々が午前中ずっと残る結果となった。

昼休憩、イタズラに藤森のポトフをひとくち盗んだ、長い付き合いの後輩は、
「メッッッチャ奥の奥に、メッッッチャかすかにウスターソースの味がする」
と申告したが、
そもそも藤森の今のキッチンに、ソース類の在庫は無い筈である。

10/1/2023, 2:44:12 PM

「たそがれ、たそがれ……ねぇ」
「黄昏」、「誰そ彼」とか書くらしいが、LEDだの液晶だの大量展開してる東京じゃ「誰そ」なんて言うこと少ねぇ気がするわな。某所在住物書きは言った。
似た題目として、4月の最初頃に「沈む夕日」なら遭遇していた物書き。同名でBGM検索をして、「沈む夕陽」、某有名探偵アニメがヒット。無事爆笑した経緯がある。

「アレの劇場版第一作目、たしか環状線の爆弾回収、たそがれ時だったな」
実際、現実世界じゃ有り得ないシチュエーションで、管制室のシーンも観る人が観れば指摘箇所満載らしいが、俺はああいうの、好きだったよ。
物書きは昔々に思いを馳せ、今日もため息を吐く。

――――――

10月だ。
最高気温はまだ数日、夏日が続くみたいだけど、最「低」の方がやっと下がってきた。
明日の21℃予報を区切りに、向こう1週間以上、都の最低気温はずっと20℃未満の予想。
来週3連休の最後、月曜日なんて14℃だって。
先月までの熱帯夜が、ウソみたい。

今日も、ほんのちょっとだけ涼しさを、感じるような気のせいっぽいような日没前、たそがれ時を、
その涼しさのせいで、微妙に崩れちゃった体調のために、同じ職場の先輩のアパートに向かってる。

体調だのメンタルだのの波でダウンな時とか、単純に食費節約したい時とか、
事情を話すと、先輩は5:5の割り勘想定な金額で、よほどの事情でも無い限りは、調理代行を引き受けてくれる。
なんなら防音設備の整ってる静かな部屋と、心落ち着くお茶なんかも、料理と一緒にシェアしてくれる。

近々東京から離れて、実家のある雪国の田舎に、戻っちゃうかもしれないのがアレだ。

「にしたって、悪いタイミングで来たな」
さて。
「今日のメシ、私のレパートリー開拓用の、試作品だぞ。同額でデリバリーでも頼んだ方が美味い」
秋は、夕暮れから暗くなるまでが短い。
私がダルい体を引きずって、先輩の部屋にたどり着いた頃には、もう「誰そ彼」どころか、照明ついて広告も光って、「彼」が簡単に特定できる頃になった。
ほぼ夜だ。
「それでも、良いのか」

「いい。先輩の部屋、落ち着くから」
ウェルカムドリンクで出された、ちょっと温かめのハーブティーを飲みながら、私はちまちま先輩の料理を突っついた。
今日のメインは、半額だったらしいカツオ。
担々麺の素、ポーションタイプのやつを、お刺身なカツオに絡めてサッと熱を通して、
伝家の宝刀「実家から送られてきたお米」にイン、からのお豆腐と一緒に混ぜ混ぜして、完成。

カツオは生臭さ等々を消すため、生姜のような薬味を使うだろう、って先輩。
カレーや担々麺の素なんかでも、臭み消しはできないだろうかと思ってな、だって。
こういう実験と、トライアンドエラーの積み重ねで、先輩の低糖質低塩分メニューは作られてるんだなぁ(たそがれ後のしみじみ)

「メシの後は?帰る気力は、残っているのか?」
「わかんない」
「変なことを聞くが、今日の睡眠時間は?」
「寝る時暑くて、寝たら夜中涼し過ぎて、結局ちゃんと寝れてない」
「少し寝ていけ。ベッドは貸してやるし、ホットミルクも必要なら作る」

「お砂糖5個入れて」
「糖質過多。ハチミツで我慢しろ」

ちまちまちま。
れんげスプーンでカツオの担々丼をすくって、お豆腐と一緒に食べる。
先輩は相当味に自信無いみたいで、「今日は割り勘の代金はいらない」とまで申し出てたけど、
別に、言うほどマズいとは、個人的には思わない。
「カツオってパスタ行けるのかな」
「なんだって?」
「先輩よくパスタ作るじゃん。ブリの進化前のクリームパスタおいしかった」
「イナダだ」

ハーブティーおかわり貰って、坦々丼にマヨネーズ追加してみて、たそがれ後の試食会はいつも通り、ほっこり進む。
仮眠前のホットミルクは結局ハチミツ少々になった。

9/30/2023, 12:40:29 PM

「『明日』はこれで、4例目よな」
5月の「明日世界がなくなるとしたら(略)」と「明日へのさよなら(略)」、それから8月の「明日、もし晴れたら」。
今日は「きっと明日も」らしい。某所在住物書きは配信の題目を目でなぞり、わずかな手ごわさを感じた。
大抵配信される題目は、この物書きにとって手ごわいものであった。それこそ、「きっと明日も」、難題のそれであろう。

「『明日』ねぇ……」
ニュースを観ながら、物書きが呟く。
10月1日はコーヒーの日らしい。きっと明日も、無糖のコーヒー牛乳を飲むだろう。

――――――

日中のくもり空が、数時間だけ抜けて、十六夜の月かかる都内の某所、某稲荷神社。
「無形民俗文化財の指定は、受けていないらしい」
この物語の主人公、宇曽野とその親友の藤森が、祭屋台で買ったウナギ入りのいなり寿司を食いながら、
ヒガンバナ咲く広場、その中央に作られた四角い木造舞台と、舞台の奥先に座る白無垢と黒紋付を、好奇の目で見ている。
「保存会も補助金も、宣伝サイトも無し。それでも今まで、こうして続いてきたんだとさ」

知名度が相当低いのであろう。
都内でのイベントにもかかわらず、見物客はさして多くもなく、200人居るか居ないかの程度。
ドレスコードとして、思い思いの場所にキツネの面と、フェイクの稲穂を一本つけて、
ある者はスマホで舞台の動画を撮ったり、ある者はその舞台に硬貨で浄財・賽銭をしたり。

「あの白無垢が、五穀豊穣・商売繁盛の神の、化身という設定だそうだ」
宇曽野が藤森に説明した。
「稲刈りの終了を見届けに来た神様は、黒紋付の男に正体を見破られ、求婚されて、豪勢なご馳走と最高の舞いで接待を受ける。
料理と舞いに満足した神様が、褒美に来年の商売繁盛と五穀豊穣を予祝するんだとさ」
で、白無垢が今食ってるのがその「豪勢なご馳走」、舞台上でやってるのが「最高の舞い」ってワケだ。
補足する宇曽野は己の分の寿司を食い終えると、ニヤリ笑い、藤森のプラ容器からひとつ、同じものをかっさらった。

「あっ。おまえ」
「キツネはイタズラするものだろう」
「自分のウナギは自分で獲れ。ごんぎつね」

ふたりの小突き合いを差し置いて、演目は続く。
豪華な衣装にキツネ面の2人が、飛んで跳ねて、観衆にちょっかい出す所作をして、
ダダン、ダダン、タン、タンタカタン!
木造舞台を力強く、軽やかに、踏み鳴らす。
高く跳び上がり、舞台が音をたてるたび、ギャラリーが小さく沸きたち、歓声が上がり、
舞台奥の白無垢はそれらを気に留めず、ただ目の前に出された肉に魚に野菜にキノコ、それから餅等々を、幸福に胃袋へ収めている。
白無垢役は、神社敷地内の一軒家に住まう家族の末っ子。食べ盛りの食いしん坊。
豪勢なご馳走に釣られて、大役を任されたのだろう。

「都会にせよ田舎にせよ、有形も無形も、」
宇曽野が言った。
「伝統は、今やどこも人手不足だ。残して次の世代に繋ぎたいのに、人が集まらないから機能不全を起こす。……『どうせ来年も』どころか、『きっと明日も』さえ」
意外と、数年先を作るより、数年前を残す方が、難しいのかもしれないな。
ぽつり付け足す宇曽野の言葉を、待っていたかのようなタイミングで、舞台の上の舞いが終わり、演者が深々と一礼する。
「そうだな。『きっと明日も』さえ」
東京を来月の終わり頃で静かに、密かに離れる予定の藤森。思うところがあって、言葉を繰り返した。

料理をもっちゃもっちゃ平らげていた末っ子白無垢はというと、予祝のセリフである「来年も、商売繁盛、五穀豊穣」を言うべきタイミングで、
どうも食欲に負けてしまったらしく、大きな声で元気いっぱいに、

「おかわり!!」

数秒後セリフを間違えたことに気付き、失敗と羞恥でわんわん泣きじゃくり始めた「狐のお嫁さん」を、
ギャラリーは最大の温かい拍手で許した。
末っ子白無垢はきっと明日も、わんわん泣いているに違いない。

9/29/2023, 3:11:05 PM

「6月頃に『狭い部屋』ってお題なら書いたわ」
エモい話を、書けないこともない。某所在住物書きはカキリ小首を鳴らし、ため息を吐いた。
静寂には複数の色が存在する。
痛い、気まずい、穏やかな、あるいは感動的な。
いずれにせよ、夕暮れの部屋を舞台に主人公ひとり、あるいは友人とふたりで、何か酷く悩ませれば良い。
沈黙はスパイスとなるだろう。

「でも不得意なのよ。エモネタ。納得行くハナシ書こうとすると投稿16時17時になっちまうし……」
ぽつり。物書きは弱点を吐露し、物語を組む。

――――――

中秋の名月の東京、都内某所、某アパートの一室。
部屋の主を藤森というが、18時頃は少なくとも月の見えていた窓を背に、
月見の餅を置いたテーブルを挟んで座って、
「げんせーな、シンサの結果、」
向かい側では、不思議な不思議な子狐が、コンコン、言葉を喋っている。
「今年の『狐のお嫁さん』は、おとくいさんに決定となりました」

テーブルの上の餅を、商品として持ってきた子狐は、ご利益豊かな稲荷神社の神使。
善き化け狐、偉大な御狐となるべく、餅を売り、人を学んでいる最中。
藤森はこの不思議な餅売りの、唯一の得意先である。
目の前で狐がものを言う珍事に、藤森はいつの間にか慣れてしまった。
しかしそれでも解せぬのが、今晩の新出単語。
「狐のお嫁さん」とは?

「……」
素っ頓狂な藤森の、開いた口は開きっぱなし。目はパチパチ、まばたきを繰り返す。
藤森の無言が、痛い静寂を部屋に呼び込んだ。

「ユイショ正しい、古くから伝わるギシキなの」
コンコンコン。
子狐の補足は相変わらず、分からない。
「狐のお嫁さんは、ウカノミタマのオオカミサマの化身役なの」
なんなら、下手をすれば本人、本狐もよく理解していないのだ。
小さなメモ帳の、明らかに大人が書いたであろう文字を、目で追いながらのコンコンであったから。
「稲刈りが終わりに近づく、9月最後か10月最初の満月の次の日、十六夜の夜に、キツネのととさんと、ケッコンするフリするの」
藤森の理解と状況把握を置き去りに、子狐はただ、しゃべる、しゃべる。

「稲荷神社で、ケッコンして、誓いのおさけ、イッコン傾けるの。ウカサマの化身役のお嫁さんは、たくさんのお料理と踊りで、オモテナシされるの。
お料理と踊りで満足したお嫁さん、ウカサマ役は、最後に満足して、『来年も、商売繁盛、五穀豊穣』って言うんだよ。
ととさん、ヨシュクゲーノー、『予祝芸能の一種』って言ってた」
理解が迷子。説明が為されているのに脳内が静寂。
藤森はただポカンであった。

「何故私なんだ」
「げんせーな、シンサの結果なの」
「狐の、『お嫁さん』だろう」
「ウカサマ、美人さんなの」

「私のどこが『美人さん』だって?」
「あのね、おとくいさん。
おとくいさんは、3月1日の1作目投稿から今日の最新作まで、たったの1回も『男』と明言されてないし、『女』とも断言されてないし、『彼』とか『彼女』とかも、一切特定されてないんだよ。
だからおとくいさんは、男かもしれないし、女かもしれないんだよ」
「は……?」

駄目だ。理解が追いつかない。
こういう時に振るという◯◯値チェック用のダイスとやらは何処だ。
藤森は完全に頭の中がパンク状態。
満月が雲で隠れている空を背負い、頭を抱えて、大きなため息を吐く。

「……謹んで、辞退させて頂く」
ただ選任拒否を述べ、再度息を吐いて、思考タスクの過負荷で重くなった頭と視線を子狐に向けると、
「じたい……?」
今度は子狐の方が、口をパックリ開け、固まった。
おいしいお料理、いっぱい、食べないの……?
驚愕に見開かれた狐の目が、声無く藤森に訴える。
双方無言が続き、藤森の部屋は再度静寂に包まれた。

9/29/2023, 1:01:13 AM

「5月頃に、『突然の別れ』ってお題は書いたわ」
お題に限らず、現代・日常ネタ、続き物の連載風で文章上げてるから、「別れ」そのものはチラホラ題材として出してるわな。某所在住物書きは録画済みだった某魔改造番組を見直しながら、それでもちょこちょこ、スマホの通知画面を確認している。
今回の題目は「別れ際に」。日常的な別れから、セーブデータ誤削除等による悲劇、恋愛沙汰、人生最大の際まで、執筆可能なネタは幅広い。
広いのだが。
「だって今回、S社参戦だもん……。いつかNも出てきて、リアル大乱闘魔改造兄弟ズとか、しねぇかなぁ」
当分、執筆作業は始まりそうにもない。

――――――

中秋の名月を数時間後に控えた都内某所、某アパートの一室、朝。
部屋の主を藤森というが、昨晩の夕食の余りをサッと加熱調理し直し、サンドイッチとして挟んで、ランチボックスに詰めていた。

ブリ大根の出世前の出世前、イナダ大根。その出汁を存分に吸った鶏の手羽元。アジフライならぬイナダフライ。それから、少しの栗にしめじ。
秋を取り入れたラインナップ、特に魚メニューの豊富さは、ぼっち生活では到底食いきれぬ秘技「一尾買い」によって、大幅なコスト削減を実現。
食費節約と仕事の効率化を理由として、昨晩まで職場の後輩が、藤森の部屋に来ていたのだ。
昨今急速に整えられた非出勤型。社外勤務である。

後輩は5:5の割り勘想定で藤森に現金を渡し、
藤森は金額に見合った昼食と夕食をシェアする。
在宅のリモートワークは、低糖質のスイーツと緑茶を伴い、順調に進んだ。
なにより理不尽な指示を飛ばすクソ上司や、妙な難癖をつけてくる悪しきクレーム客の機嫌取りをしなくて良いのは、非常に大きかった。

(で、……昨晩の「アレ」は、何だったのだろう)

薄くタルタルソースを塗ったパンでイナダフライを挟みながら、藤森は昨晩の後輩を思い返していた。
食後の茶を飲み終え、土産に弁当用の手羽元煮込みを持たせて、その日のリモート業務を終えた後輩。
別れ際に言われた言葉が意味深だったのだ。

『私、先輩がちゃんとハッキリ言ってくれるまで、待ってるから』
「何」を「ハッキリ言う」のだろう。
藤森はひとつ、心当たりがあった。

(バレているのだろうか。私が、この部屋を引き払って、田舎に戻ること)

雪降る田舎出身の藤森。13年前上京して、9年前初めて恋をして、その初恋相手が悪かった。
恋に恋する極度の理想主義者・解釈厨だったのだ。
縁切って8年、ずっと逃げ続けてきた筈が、今年の7月相手に見つかり、8月には職場に突撃訪問。
9月最初など、藤森の現住所特定のため、後輩が探偵に跡をつけられる事案が発生する始末。
自分が居ては、周囲に迷惑がかかる。
藤森はひとり、誰にも相談せず、10月末で離職し、アパートから出て、故郷へ帰る決心をした。
これ以上、初恋相手が己の職場を荒らさぬように。
初恋相手が、己の大事な後輩と友人を害さぬように。

『ハッキリ言ってくれるまで、待ってるから』
別れ際の後輩は、藤森の離職と帰郷について言及したのだろうか。

(そう言われてもなぁ)

初恋相手から縁切り離れる際も、藤森は誰にも言わず、相談せず、己個人の選択と責任のもと、職を辞し居住区を変えた。
今回もそのつもりであったし、今更どのツラで「実はな」と言えば良いのか。

「……はぁ」
仕方無い。 難しい。
藤森はひとり、ため息を吐き、首を小さく振って、サンドイッチを詰めたランチボックスを包んだ。

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