かたいなか

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「5月頃に、『突然の別れ』ってお題は書いたわ」
お題に限らず、現代・日常ネタ、続き物の連載風で文章上げてるから、「別れ」そのものはチラホラ題材として出してるわな。某所在住物書きは録画済みだった某魔改造番組を見直しながら、それでもちょこちょこ、スマホの通知画面を確認している。
今回の題目は「別れ際に」。日常的な別れから、セーブデータ誤削除等による悲劇、恋愛沙汰、人生最大の際まで、執筆可能なネタは幅広い。
広いのだが。
「だって今回、S社参戦だもん……。いつかNも出てきて、リアル大乱闘魔改造兄弟ズとか、しねぇかなぁ」
当分、執筆作業は始まりそうにもない。

――――――

中秋の名月を数時間後に控えた都内某所、某アパートの一室、朝。
部屋の主を藤森というが、昨晩の夕食の余りをサッと加熱調理し直し、サンドイッチとして挟んで、ランチボックスに詰めていた。

ブリ大根の出世前の出世前、イナダ大根。その出汁を存分に吸った鶏の手羽元。アジフライならぬイナダフライ。それから、少しの栗にしめじ。
秋を取り入れたラインナップ、特に魚メニューの豊富さは、ぼっち生活では到底食いきれぬ秘技「一尾買い」によって、大幅なコスト削減を実現。
食費節約と仕事の効率化を理由として、昨晩まで職場の後輩が、藤森の部屋に来ていたのだ。
昨今急速に整えられた非出勤型。社外勤務である。

後輩は5:5の割り勘想定で藤森に現金を渡し、
藤森は金額に見合った昼食と夕食をシェアする。
在宅のリモートワークは、低糖質のスイーツと緑茶を伴い、順調に進んだ。
なにより理不尽な指示を飛ばすクソ上司や、妙な難癖をつけてくる悪しきクレーム客の機嫌取りをしなくて良いのは、非常に大きかった。

(で、……昨晩の「アレ」は、何だったのだろう)

薄くタルタルソースを塗ったパンでイナダフライを挟みながら、藤森は昨晩の後輩を思い返していた。
食後の茶を飲み終え、土産に弁当用の手羽元煮込みを持たせて、その日のリモート業務を終えた後輩。
別れ際に言われた言葉が意味深だったのだ。

『私、先輩がちゃんとハッキリ言ってくれるまで、待ってるから』
「何」を「ハッキリ言う」のだろう。
藤森はひとつ、心当たりがあった。

(バレているのだろうか。私が、この部屋を引き払って、田舎に戻ること)

雪降る田舎出身の藤森。13年前上京して、9年前初めて恋をして、その初恋相手が悪かった。
恋に恋する極度の理想主義者・解釈厨だったのだ。
縁切って8年、ずっと逃げ続けてきた筈が、今年の7月相手に見つかり、8月には職場に突撃訪問。
9月最初など、藤森の現住所特定のため、後輩が探偵に跡をつけられる事案が発生する始末。
自分が居ては、周囲に迷惑がかかる。
藤森はひとり、誰にも相談せず、10月末で離職し、アパートから出て、故郷へ帰る決心をした。
これ以上、初恋相手が己の職場を荒らさぬように。
初恋相手が、己の大事な後輩と友人を害さぬように。

『ハッキリ言ってくれるまで、待ってるから』
別れ際の後輩は、藤森の離職と帰郷について言及したのだろうか。

(そう言われてもなぁ)

初恋相手から縁切り離れる際も、藤森は誰にも言わず、相談せず、己個人の選択と責任のもと、職を辞し居住区を変えた。
今回もそのつもりであったし、今更どのツラで「実はな」と言えば良いのか。

「……はぁ」
仕方無い。 難しい。
藤森はひとり、ため息を吐き、首を小さく振って、サンドイッチを詰めたランチボックスを包んだ。

9/29/2023, 1:01:13 AM