「たそがれ、たそがれ……ねぇ」
「黄昏」、「誰そ彼」とか書くらしいが、LEDだの液晶だの大量展開してる東京じゃ「誰そ」なんて言うこと少ねぇ気がするわな。某所在住物書きは言った。
似た題目として、4月の最初頃に「沈む夕日」なら遭遇していた物書き。同名でBGM検索をして、「沈む夕陽」、某有名探偵アニメがヒット。無事爆笑した経緯がある。
「アレの劇場版第一作目、たしか環状線の爆弾回収、たそがれ時だったな」
実際、現実世界じゃ有り得ないシチュエーションで、管制室のシーンも観る人が観れば指摘箇所満載らしいが、俺はああいうの、好きだったよ。
物書きは昔々に思いを馳せ、今日もため息を吐く。
――――――
10月だ。
最高気温はまだ数日、夏日が続くみたいだけど、最「低」の方がやっと下がってきた。
明日の21℃予報を区切りに、向こう1週間以上、都の最低気温はずっと20℃未満の予想。
来週3連休の最後、月曜日なんて14℃だって。
先月までの熱帯夜が、ウソみたい。
今日も、ほんのちょっとだけ涼しさを、感じるような気のせいっぽいような日没前、たそがれ時を、
その涼しさのせいで、微妙に崩れちゃった体調のために、同じ職場の先輩のアパートに向かってる。
体調だのメンタルだのの波でダウンな時とか、単純に食費節約したい時とか、
事情を話すと、先輩は5:5の割り勘想定な金額で、よほどの事情でも無い限りは、調理代行を引き受けてくれる。
なんなら防音設備の整ってる静かな部屋と、心落ち着くお茶なんかも、料理と一緒にシェアしてくれる。
近々東京から離れて、実家のある雪国の田舎に、戻っちゃうかもしれないのがアレだ。
「にしたって、悪いタイミングで来たな」
さて。
「今日のメシ、私のレパートリー開拓用の、試作品だぞ。同額でデリバリーでも頼んだ方が美味い」
秋は、夕暮れから暗くなるまでが短い。
私がダルい体を引きずって、先輩の部屋にたどり着いた頃には、もう「誰そ彼」どころか、照明ついて広告も光って、「彼」が簡単に特定できる頃になった。
ほぼ夜だ。
「それでも、良いのか」
「いい。先輩の部屋、落ち着くから」
ウェルカムドリンクで出された、ちょっと温かめのハーブティーを飲みながら、私はちまちま先輩の料理を突っついた。
今日のメインは、半額だったらしいカツオ。
担々麺の素、ポーションタイプのやつを、お刺身なカツオに絡めてサッと熱を通して、
伝家の宝刀「実家から送られてきたお米」にイン、からのお豆腐と一緒に混ぜ混ぜして、完成。
カツオは生臭さ等々を消すため、生姜のような薬味を使うだろう、って先輩。
カレーや担々麺の素なんかでも、臭み消しはできないだろうかと思ってな、だって。
こういう実験と、トライアンドエラーの積み重ねで、先輩の低糖質低塩分メニューは作られてるんだなぁ(たそがれ後のしみじみ)
「メシの後は?帰る気力は、残っているのか?」
「わかんない」
「変なことを聞くが、今日の睡眠時間は?」
「寝る時暑くて、寝たら夜中涼し過ぎて、結局ちゃんと寝れてない」
「少し寝ていけ。ベッドは貸してやるし、ホットミルクも必要なら作る」
「お砂糖5個入れて」
「糖質過多。ハチミツで我慢しろ」
ちまちまちま。
れんげスプーンでカツオの担々丼をすくって、お豆腐と一緒に食べる。
先輩は相当味に自信無いみたいで、「今日は割り勘の代金はいらない」とまで申し出てたけど、
別に、言うほどマズいとは、個人的には思わない。
「カツオってパスタ行けるのかな」
「なんだって?」
「先輩よくパスタ作るじゃん。ブリの進化前のクリームパスタおいしかった」
「イナダだ」
ハーブティーおかわり貰って、坦々丼にマヨネーズ追加してみて、たそがれ後の試食会はいつも通り、ほっこり進む。
仮眠前のホットミルクは結局ハチミツ少々になった。
10/1/2023, 2:44:12 PM