かたいなか

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9/26/2023, 10:52:01 AM

「『春爛漫』、『夏』に続いて、ダイレクトな季節ネタのお題か」
春はスミレの砂糖漬け、夏は虫刺されの薬とホタル見に行く話書いたっぽいな。某所在住物書きは過去作を辿り、昔々の記事へのアクセスがアプリ内では相当困難になってきていることを再認識した。
インストールが春である。現在秋だ。
4月11日投稿の「春爛漫」など、何度ページを移動する必要があろう。
「で、明後日猛暑の予報がある時期に、何だって?」
ため息ひとつ。秋まだ浅く、過去投稿分は酷く深い。

――――――

秋だ。 秋の筈だ。
東京もようやく、天気予報とかで、最低気温20℃以下を見かけるようになってきた。
10月最初は今のところ、最高23℃予想らしい。
なんなら来週火曜日、最低気温17℃だって。
なのになんで明後日が猛暑、35℃予報なんだろう。

「今のうちに言っておくが、」
職場の昼休憩、休憩室。
「万が一億が一、申請が通らなかったら、きっと私は明後日、熱中症で終日ダウンだ。頼るなよ」
朝イチでリモートワークの申請を出した、雪国出身の暑さ耐性マイナスな先輩が、スープジャーの中身を突っつきながら言った。

熱中症。熱中症だってさ。
秋だよ。9月下旬、もうすぐ10月だよ。
アレなの。たまに呟きックスで見かける「◯◯大量発注しちゃいました」の気温版で、猛暑日の在庫、全然捌ききれてないの。
勘弁してよ。いい加減棚卸しして、ちゃんとシーズンに見合った気温に入れ替えてよ。
季節外品は服とかイベント系とか等々で十分だよ。

なんで明後日が35℃予報なんだろう(重要二度)
なんなら、「秋」って、何だろう(根源的問答)

「大丈夫。私も明日と明後日リモートの予定だから」
9月末の灼熱地獄に、在宅ワークの制度整ったこのご時世で、わざわざ汗水垂らして職場に通勤してやるほどの義理、私無いし。
一足早く承認貰ったリモートワークの申請書をピラピラさせて、私も先輩に言った。
「『明日ワクチン接種なので、明後日、副反応で休みます』ってことにした。先輩明後日、部屋にごはんたかりに行って良い?」

その手があったか。
先輩は口を小さく開けた。

「飯のリクエストは?」
食費と料理代、5:5想定でこっちがお金を出すと、低糖質低塩分の料理を作ってシェアしてくれる。
「何もなければ、多分、最近安いワラサだのカツオだのを使った、タルタルだの、カレー粉だのの何かになると思うが」
お互い、経費節約になるから、べつに恋人同士ってワケでもないのに、先輩宅へ行ったり来たり。
「『秋』が食いたいなら、キノコや栗も考慮する」

明後日は、何が食べられるかな。
「あと何回」、先輩のごはん食べられるかな。
明後日のことだけど、今日からもう、先輩のごはんが気になって、少し顔が綻んだ。

「ワラサ is 何?」
「ブリの前だ。メジロとも言うらしい」
「ブリの前はイナダでしょ?先週水曜日、20日、クリームパスタで食べた」
「そのイナダ、あるいはハマチの次がワラサだ」

「はまちが、ぶり……?」
「なんだその、えぇと、銀河猫顔は」
「うちゅうねこ……」

9/25/2023, 11:30:04 AM

「7月2日に投稿したお題が『窓越しに見えるのは』で、あの日は『狐の窓』の話書いたわ」
さすがにもう、これっきりで「窓」は来ないよな。某所在住物書きは窓越しに、夜の暗い景色を見た。
隣家はカーテンを閉め切り、明かりが漏れている。
時間帯が時間帯である。これといって、物語のネタとなり得る何かは見えなかった。
「車窓、ホテルの窓、学校、自宅に空気窓、等々。シチュエーションは選び放題なんよ。うん」
問題は、それらが書きやすいか、ネタが浮かぶか。
ため息を吐いた物書きは、ただ窓の外を見た。

――――――

最近最近の都内某所。未だ暑さの残る頃。
この物語の主人公、宇曽野というが、
職場の屋上、ヘリポートを兼ねたそこで、秋である筈のところの風に当たりながら昼飯を食おうとして、
ドアを開けて早々、先客がいるのを見つけた。
背もたれ無きベンチに腰掛け、落下防止用のフェンス越しに階下を見ながら、小さめのサンドイッチに口をつける親友。
藤森だ。珍しく、今日は一人らしい。
かたわらには、何か料理を入れていると思しき箱と、スープボトルが置いてある。

「おい」
箱の右隣に腰掛けた宇曽野は、持ち込んだレジ袋を置き、イタズラな笑みをこぼす。
ビル風が少々強いらしく、袋の取っ手がピリピリなびいて、音をたてる。
道路を挟んだ向かい側のビル、1〜2階程度下の大きな窓からは、別業種の誰かと誰か、知らぬ女性と男性が、淡々と仕事をしている景色が見えた。

「よこせ」
なにせ今日は職場近所の800円と、自販機の200円の予定だったのだ。

「昼飯買って来なかっ、……あるだろう、自分の」
宇曽野が推測した通り、箱の中は小さめのサンドイッチ数種類と、数切れのフレッシュで低塩分のナチュラルチーズ。
卵にビーフに野菜、それから少しの甘味と、サンドイッチはラインナップ豊富。
ローストビーフ入りをつまんだ宇曽野は、更にチーズを挟んで、藤森の承諾も待たず口に放り込んだ。

「肉は、美味い」
「そりゃどうも」
こんなもんか。と宇曽野。
チーズがビーフの熱で意図した通りに溶けた、わけではないが、
それでも、柔らかめの食感のそれは、グレイビーソースに控えめに絡み、
チーズ & ビーフの、そこそこ不思議な歯ざわりを生み出した。

「チーズが溶けない」
「そりゃな」

「溶けた方が美味い」
「挟むなら、そうだろうな」

そもそも挟んで食う前提ではなかったんだが。
ため息を吐き、宇曽野のレジ袋を覗く藤森。
中身が職場近くで売られている800円であることに気付き、ため息をついて、ワラサのフィッシュカツサンドを手に取った。
「それ買ってきたのか。よりによって、美味くはないと不評なものを」

それは、「栄養『だけは』豊富」、という総評の大豆ミートパイであった。
都民の偏食と栄養バランスを改善すべく、近所の惣菜屋が、どこぞの栄養コンサルタントやアドバイザーと共同で開発・商品化したもので、
有機野菜由来の栄養素と、申し訳程度の調味に定評があり、
藤森の部署内では、「飲み物無いとパッサパサ過ぎて無理」と酷評であった。
あるいは「これより、同じ店で売られてるいつものベジカレーの方が数千倍美味い」と。

「サンドイッチの礼に、先に1個やるよ」
「毒見狙い、バレてるぞ」
「なら食え」
「断る」

その後宇曽野は、ミートパイの水気の無さに悪戦苦闘しつつも、それを見事に完食せしめたわけだが、
最後の一口を食道へ押し込むまでに、
藤森のサンドイッチ2個とチーズ3切れ、そしてボトルの中の野菜スープの援助を要した。

例の階下の大窓、別業種の誰かが、窓越しに向かい側の職場の屋上を見れば、
昼の景色として、パイに苦戦して胸をトントン叩く宇曽野が見えただろう。

9/24/2023, 11:36:13 AM

「『無形』文化財、『無形』資産、『無形』商材、それから仏教用語の『無形(むぎょう)』。
……意外と『形』が『無い』って多いのな」
ぶっちゃけ「目に見えないもの」も「無形」と定義するなら空気も無形だし、液体は確実に形無いし。
自由度は、高いわな。某所在住物書きは、「無形」の検索結果を辿りながら、どれが書きやすいだろうと首を傾けた。
「仏教用語ネタは4月頃、『無色の世界』ってお題を『ムシキの世界』って読んで一回使ったわ」
二番煎じが無難だろうか。「形を持たぬ」と「形が定まらぬ」は異口同音であろうか。
物書きは云々悩み、今日もネタ探しを開始した。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
近々最高30℃台が再来する予報ながら、ようやく最低気温の予測に20℃以下が登場し始めた頃。

寒い。
と感じて覚醒した部屋の主、藤森は、ベッドから薄手の毛布が1枚、落ちていることに気が付いた。
今藤森を包んでいるのは、やや厚手のタオルケットだけ。枕元のスマホ、天気予報ウィジェットは珍しく外気温18℃を示している。
窓を開けているため、ほぼ同温の周囲であろう。
20℃未満の数字は、彼に秋の到来を予告していた。

真冬の8℃や10℃、それどころか最高零下でさえ、どうということもないのに、
この時期、暖から寒へ変わろうとしている転換期の冷涼、15℃だの16℃だのは、幼少時を雪国で育った藤森とて、苦手としているところである。
ましてや朝のタオルケットの中とあっては。

(朝飯、どうしよう)
毛布が床に落ちているとはいえ、タオルケットの中は快適な温度を、すなわち涼しさと温かさの中間を保持していた。
外に出たって寒々しいだけだよ、中にいなよと誘惑するが如きそれは、藤森を二度寝のまどろみへと押しやる。
せっかくの休日なのだから、わざわざ寒い時間帯から活動せずとも良いじゃないかと。

(どうせこれから、日中は暖かくなる。
シリアルで十分か?それとも、久しぶりにこの室温だし、温かい茶を淹れて、茶漬けでも?)

タパパトポポトポポ。
ティーポットから、茶香と湯気たつ不定形の、確固たる形持たぬ、80℃90℃程度の平和が、
低糖質にして炊飯の手間無きオートミールで代用されたカップと、海苔茶漬けの素の上に注がれる想像。
きっと至福であろう。
それを食うためであれば、眠気に抵抗し、微妙な寒さを跳ね除けて、タオルケットの外へ出てゆくのも、やぶさかでない。

「……」
勇気を出して、タオルケットから右手を、肩を出す。
頭上の枕をつかみ、僅かに外へ体を出してみる。
「さむい」
しつしつしつ、と下りてきた19℃が、適温の安全地帯から逸脱した手を、腕を、何より背中を包んだ。
藤森はそれに抵抗することなく、もそもそ、ぬくもりの中へ退却した。
無条件降伏であった。
(なぜこの時期の20℃未満はこんなに寒いんだ)

そういえばエアコンのスイッチはどこだったか。
藤森はベッドの上から周囲を見渡した。
眠気酷い目に映るのは、綺麗サッパリ片付けられた室内。
目標物はテーブルの上で無造作に鎮座している。

テーブルまでは少々距離があり、
それはすなわち、室内をすぐに温めたいなら一度寒い思いをしなければならないという、世の不条理を示していた。

不条理に異を唱えるか、
寒気に身を晒すか、
タオルケットの温かさに服従するか。
「……」
悶々5分ほど毛布の中で悩んで、
最終的に、藤森はそのまま意識を手放してしまった。

その日の無形・不定形の平和は、結局80℃90℃のほうじ茶ではなく、5℃10℃程度の冷茶となった。

9/23/2023, 1:39:36 PM

「『そもそも都会の公園で、ジャングルジムにせよ何にせよ、遊具自体少なくなった』ってのは、気のせい、……じゃ、ないよな?多分?」
俺がガキの頃通ってた小学校の校庭は、いつの間にか遊具っつー遊具がほぼ消えて、鉄棒とブランコ程度の更地になってたわ。
某所在住物書きは時代の流れを思いながら、しかし更地ゆえに、遊具無しで楽しめる遊びも何か有ろうと、個人に解釈する。
雲梯が消えた。登り棒も無くなった。代わりに校庭はサッカーができる程度に広くなり、子どもたちが歓喜の叫び声とともに走り回っているようである。

「で。……『ジャングルジム』?」
何書けって?
物書きはまず、対象の画像検索から始めた。

――――――

そもそも最近ジャングルジムを、見た記憶が無い気のする物書きです。今日はこういうおはなしを、苦し紛れでお送りします。
最近最近の都内某所、某星リンクな衛星鉄道が、東京の夜の空を横切ったころ。
暗い公園で、妻子持ちの既婚とその親友が、ジャングルジムの上に乗っかって、コンビニで購入した唐揚げ棒片手に、
ふたりして、空を見上げておりました。

東京生まれで妻子持ちの野郎を宇曽野、その親友で雪国出身のぼっちを藤森といいます。

「見えた」
ちびちび1本目の2個目をかじっていた藤森が、まず最初に衛星列車を見つけました。
「意外と速いんだな」
1本ぱくぱく平らげた宇曽野が、2本目1個目を食べ終えた直後、ようやくそれらに気付きました。
はっきり明るい白の点が、一直線に5個6個7個、たくさん並んで右から左へ。
なかなかの速度で、空を横切ってゆきます。

『18時45分頃、衛星列車が見えるらしいから』
子供の消えた公園、近々の撤去が噂されているジャングルジムに、18時半頃から居座っていた、花と雨と空の好きな心優しきぼっち、藤森。
宇曽野は近場のコンビニで、揚げたて唐揚げ棒を4本買って、藤森の観測に付き合うことにしたのです。

「にしても何年ぶりだ?ジャングルジムに登るなど」
「私は初めてだ」
「お前外で遊ばない優等生だったのか。藤森」
「私の田舎にジャングルジムが、たしかそもそも当時無かった」

「それじゃ、何して遊んでたんだ」
「田んぼで泥パック」
「お前が?冗談だろう?」
「公園走り回ってキノコ踏んづけたり狐探したり」
「狐居るのか?」
「リスの方がエンカウント率は高かった」

フクロウ云々花云々。ジャングルジムの上で空を見上げて、子供時代の話をしている間に、
衛星列車は次々スイスイ、右から左、右から左。
現れては、通り過ぎてゆきます。

「……次の衛星列車も、この公園で見る予定か」
2本目の唐揚げ棒も食べ終えた宇曽野。空を見上げたまま、意味深に、藤森の何かを察しているように、
淡々と、乾いた声で尋ねます。
というのも藤森、割愛しますが不運な諸事情持ちで、来月あたり雪国の田舎に帰る予定でいるのを、誰にも話さず胸に秘めておるのです。

「さぁ。分からない」
3個目の唐揚げをちまちま食べている藤森は、一生懸命知らんぷり。いつも通り、平静を装います。
「そもそも次がいつか分からない」
妻子持ちと、ぼっちの、そんなささやかで寂しい駆け引きを、衛星列車は別にじっと観察することもなく、
ただ計算通りの軌道に従い、静かにスイスイ、通り過ぎてゆくのでした。
おしまい、おしまい。

9/23/2023, 5:53:45 AM

「何の『声』が聞こえるか、ってハナシよな」
久しぶりに書きやすそうなお題が来た。某所在住物書きは題目の通知画面を見ながら、安堵のため息を吐いた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』がこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、

「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回の題目配信まで4時間プラス数分となった。

――――――

今年はなかなか、秋の近づく声が、聞こえづらいような気がしますが、皆様如何お過ごしでしょう。

最近最近の都内某所は、ようやく少しだけ気温が下がって、ほんの少しだけ夏の終わる気配。
とはいえ月末にまた30℃超の真夏日が来るらしく、一進一退の残暑と晩夏が続きます。
このおはなしの主人公、雪国出身の藤森といいますが、暑さ涼しさの乱高下と、諸所のトラブル事情で、少々お疲れ気味の様子。
どんより暗い雲の下、自分のアパートの近くにある、森深き稲荷神社にやって来ました。

「はぁ」
坂を登って、鳥居をくぐって、阿吽(あうん)な狐の石像を通り過ぎ、賽銭箱に小銭をチャリン。
大きなため息ひとつ、階段に座り、神職さんが手入れをしているのであろう花畑を見つめました。
「東京だろうと田舎だろうと、花はキレイだな」

丁度、ヒガンバナの咲き始めるシーズンでした。
満開にはちょっとだけ遠いものの、ポツポツ、狐の神社に赤い花が少しずつ顔を出して、フォトジェニックスポットを絶賛形成中。
ひとり、ふたり、狐の石像とヒガンバナを同時に写真に収めては、満足そうに去ってゆきました。

「ここのヒガンバナも、見納めか」
藤森は来月末、東京を離れて、田舎に帰る予定でおりました。
理由はカクカクシカジカ、まるまるチョメチョメ。
要するに、過去の恋愛トラブルが尾を引いて、今になって藤森の周囲に、藤森が都内に居るせいで、小さな迷惑の火の粉が降りかかったのです。
藤森はそれが悲しくて、悔しくて、色々疲れてしまって、神社の花に癒やしを求めに来たのです。

「……キレイだな」
ポツリ。藤森が再度呟きます。
パトカーのサイレン、ドクターヘリのローター音、電車の通過音に何かのデモ活動の合唱。
それらはすべて神社の森によって少し低減され、
藤森の周囲には、ただ、大型ビオトープたる泉と小川のせせらぎと、風に戯れる枝葉のささやきだけがありました。
「さて。……いい加減、レンタルロッカーの整理を終わらせないと」

そろそろ、作業に戻ろう。現実に帰ろう。
藤森が階段から腰を上げて、もの哀しげに背伸びをした、その時でした。

ギャン!ギャン!
ここでようやく今回のお題回収、神社の拝殿の下から、狐の吠える声がしたかと思うと、
稲荷神社在住のコンコン子狐が跳び出して、藤森のズボンの裾をかじり、ぐいぐい一生懸命引き留めにかかったのです!
行っちゃダメ、行っちゃダメ!
不思議な不思議な子狐の声は、必死に藤森に叫んでいるようです。
何事だろう。
首を傾けた藤森に、まさしく丁度のタイミングで、
ポツリ、ポツリ、大粒の雨が落ちてきました。

「雨か」
藤森はなんとなく、理解しました。
「しまった。傘を持ってきていない」

ヒガンバナ咲き、狐の石像が見守る稲荷神社を、バラリバラリ、秋雨が濡らします。
雨降って、気温が下がり、木の葉が色付き始める。
東京もそろそろ、秋、……の筈です。

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