かたいなか

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「『そもそも都会の公園で、ジャングルジムにせよ何にせよ、遊具自体少なくなった』ってのは、気のせい、……じゃ、ないよな?多分?」
俺がガキの頃通ってた小学校の校庭は、いつの間にか遊具っつー遊具がほぼ消えて、鉄棒とブランコ程度の更地になってたわ。
某所在住物書きは時代の流れを思いながら、しかし更地ゆえに、遊具無しで楽しめる遊びも何か有ろうと、個人に解釈する。
雲梯が消えた。登り棒も無くなった。代わりに校庭はサッカーができる程度に広くなり、子どもたちが歓喜の叫び声とともに走り回っているようである。

「で。……『ジャングルジム』?」
何書けって?
物書きはまず、対象の画像検索から始めた。

――――――

そもそも最近ジャングルジムを、見た記憶が無い気のする物書きです。今日はこういうおはなしを、苦し紛れでお送りします。
最近最近の都内某所、某星リンクな衛星鉄道が、東京の夜の空を横切ったころ。
暗い公園で、妻子持ちの既婚とその親友が、ジャングルジムの上に乗っかって、コンビニで購入した唐揚げ棒片手に、
ふたりして、空を見上げておりました。

東京生まれで妻子持ちの野郎を宇曽野、その親友で雪国出身のぼっちを藤森といいます。

「見えた」
ちびちび1本目の2個目をかじっていた藤森が、まず最初に衛星列車を見つけました。
「意外と速いんだな」
1本ぱくぱく平らげた宇曽野が、2本目1個目を食べ終えた直後、ようやくそれらに気付きました。
はっきり明るい白の点が、一直線に5個6個7個、たくさん並んで右から左へ。
なかなかの速度で、空を横切ってゆきます。

『18時45分頃、衛星列車が見えるらしいから』
子供の消えた公園、近々の撤去が噂されているジャングルジムに、18時半頃から居座っていた、花と雨と空の好きな心優しきぼっち、藤森。
宇曽野は近場のコンビニで、揚げたて唐揚げ棒を4本買って、藤森の観測に付き合うことにしたのです。

「にしても何年ぶりだ?ジャングルジムに登るなど」
「私は初めてだ」
「お前外で遊ばない優等生だったのか。藤森」
「私の田舎にジャングルジムが、たしかそもそも当時無かった」

「それじゃ、何して遊んでたんだ」
「田んぼで泥パック」
「お前が?冗談だろう?」
「公園走り回ってキノコ踏んづけたり狐探したり」
「狐居るのか?」
「リスの方がエンカウント率は高かった」

フクロウ云々花云々。ジャングルジムの上で空を見上げて、子供時代の話をしている間に、
衛星列車は次々スイスイ、右から左、右から左。
現れては、通り過ぎてゆきます。

「……次の衛星列車も、この公園で見る予定か」
2本目の唐揚げ棒も食べ終えた宇曽野。空を見上げたまま、意味深に、藤森の何かを察しているように、
淡々と、乾いた声で尋ねます。
というのも藤森、割愛しますが不運な諸事情持ちで、来月あたり雪国の田舎に帰る予定でいるのを、誰にも話さず胸に秘めておるのです。

「さぁ。分からない」
3個目の唐揚げをちまちま食べている藤森は、一生懸命知らんぷり。いつも通り、平静を装います。
「そもそも次がいつか分からない」
妻子持ちと、ぼっちの、そんなささやかで寂しい駆け引きを、衛星列車は別にじっと観察することもなく、
ただ計算通りの軌道に従い、静かにスイスイ、通り過ぎてゆくのでした。
おしまい、おしまい。

9/23/2023, 1:39:36 PM