「今回のお題が『終点』で、配信日の列車トピックの謎事件が『JRの某トンネルで謎の緊急停止信号』。これはなかなか、ファンタジーな偶然よな?」
アレかな、誰か帰ってきたのかな?某所在住物書きは呟きックスアプリに関するリアルタイム検索で、ポスられた言葉や記事を追っていた。
存在しない列車からの防護無線。お盆直前。今回配信の題目が「終点」。先祖の「帰省ラッシュ」の物語でも組めば、数時間たらずでひとつ投稿できよう。
が。
「あっ、『謎』の原因解明されてる。しかも同トンネルで過去に事故。センシティブ……」
物書きは悟った。「そっとしておいた方がいい」。
――――――
スマホの予報を見る限り、東京の太陽は来週の水曜日まで当分お盆休み。
熱帯夜確定の、じめじめして、でも気温としてはまだマシな筈の、くもり&雨ざんまい。
仕方ないといえば仕方ない。だって台風が来るから。
8月に梅雨が戻ってきたみたいな酷い週間天気のこの頃は、外に出るのも何するにも、モチベが必要だ。
ごはん作りたくないのを雲のせいにしたり、
買い出しに出て、その買ってきた物を整理するのが面倒なのを雨と気圧のせいにしたり。
全部全部、HPだのMPだの、あとAPとかも。暗い天気はそういうのを、ゴリゴリ削ってくる。
今月5日に新しく部屋に仲間入りした、金魚と花火の風鈴を、外に飾る勇気無くてデスク近くに場所作って吊り下げてあるそれを、
手動でツンツンして、チリンして、頑張って重い腰上げて――、
「で、その雨とじめじめを嫌うお前が、何故わざわざ曇り空のなか、私の部屋に?」
「たまに来ないと先輩いつの間にかどっかに失踪しちゃいそうだから」
「はぁ」
金曜日のお昼。
風鈴をお留守番させて、頑張って外に出て、職場の先輩のアパートへ。
長い付き合いの先輩は、5:5の割り勘想定で、お金なり食材なりを持参すれば、
エアコンのよく効いた快適な部屋を、低糖質低塩分なランチとお茶とスイーツ付きで、シェアしてくれる。
今日のメインは鶏のトマト煮雑炊。
先輩が防災用の非常食ってことでローリングストックしてる白がゆと、常温保存可能な鶏ささみのレトルト、それからトマトポタージュの粉スープをお鍋にブチ込んで、それを温めるだけ。簡単な防災メシだ。
白がゆの賞味期限が4ヶ月後なのと、今朝先輩の故郷近くで大きめの地震があったから、せっかくだし、だって。
おかゆが「低糖質」?って驚いて、先月、白がゆのパケを見せてもらったことがある。
お一人様分250gで炭水化物20gだった。
ふーん(白がゆ+ポタージュ+肉≒ポテチ)
「備えて、使って、補充して備えて」
雑炊を1〜2人用鍋、通称ぼっち鍋からお椀によそって、チーズを振って、それを渡してくれた先輩。
「この国で暮らす限り、防災はどこまで行っても終点が無いな」
自分の分もよそって、2個のグラスに冷たい緑茶注いで、ふたりしていただきます。
「それ言ったら、仕事とお金も終点無いよ」
だって貯めて出てって、仕事して貯めて出てってだもん。反論でもないけどポロリ言ったら、先輩もちょっと同意して、小さく何回か頷いた。
「ダイエットもきっと終点無い」
続けて言ったポツリにはご賛同頂けなかったみたい。
短く疑問の息を吸って、首を傾けて、
「極論食わなければ痩せる」
それができりゃ苦労しないよ的な、バチクソ極論のド正論を呟いた。
「手強いお題、最近、ちょっと来過ぎだろ……」
前回は「蝶よ花よ」、前々回は「最初から決まっていた」、その前は「太陽」に「鐘の音」。
さぁ面白くなってまいりました。エモ系の題目を不得意とする某所在住物書きは、ひとつため息を吐き、己の引き出しと構築力の無さを嘆いた。
「そろそろ箸休めというか、筆休めと言うか、ラクに書けるお題が欲しいんよ」
でもきっと、この2時間後に配信されるお題も、その次のお題も、「何をどう書けってよ」だぜ。
物書きはうなだれ、題目配信から22時間後にようやく仕上がった文章を投稿する。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、職場の上司からデータで送られてくる膨大な量のタスクを確認しつつ、気象情報などをスマホで確認していた。
名前を藤森という。
台風、降雨災害、フェーン現象による日本海側の猛暑酷暑。故郷であるところの某雪国も、クーラー保有率下位地域とは思えぬ高温。すなわち灼熱の予報。
縮まってきた東京と北国の気温差に、藤森は晩夏の足音を聞いた気がして、すぐ勘違いと断じた。
最高気温≦体温が晩夏であってたまるか。
『お久しぶりです』
雪国ってなんだっけ。
故郷の今日の最高気温をスマホで見て、段々己の認識が揺らいでくる藤森。
『覚えてますか?3ヶ月くらい前までお世話になってた新人です』
久しく見ていなかった相手からダイレクトメールが届いたのには、少々だけ、驚いた様子。
それは5月いっぱいで離職した新人。メタい話をすれば5月25日、藤森に辞める旨を伝えてきた、「たまたま一瞬人生が交差しただけの誰か」であった。
『新しい職場が決まりました。8月から少しずつ、頑張ってます』
『それは良かった』
わざわざ前職の人間に報告するようなことでもあるまいに。藤森は形式的なメッセージを返しながら、しかし3ヶ月前までの仲間の再起を喜んだ。
『仕事はどうだ?上司や先輩には恵まれているか?』
『まだよく分かりません。頑張ってはいますけど、「また上手に、完璧に仕事をしないと上司にいじめられる」って思って、どうしても怖くなります』
『まだ2週間も経っていないんだろう?完璧を目指す必要は無いし、上手くいかなくても良いと思う。
何か心配事でも?今の職場の人間に相談は可能か?』
『違うんです。職場に変な人がいて、その人が藤森さんのことを「ブシヤマさん」って呼んで、しつこく勤務先と住所聞いてくるんです』
『私をブシヤマと呼んで勤務先聞いてくる変な人?』
『ストーカーみたいな執着で怖かったので、ブシヤマじゃなくて藤森ってことも、勤務先も教えてません』
藤森は己の舌先から、そして唇から、さっと血の気が引いていくのを知覚した。
藤森を「附子山(ブシヤマ)」と呼ぶ人物に心当たりがあったのだ。
詳しくは過去作7月18日〜20日投稿分に説明を丸投げするものの、要約するに、藤森は過去散々な目に遭わされ、ゆえにずっとこの人物から逃げ続けていたのである。
『藤森さん、気をつけてくださいね』
かつての新人のメッセージは、それで終わった。
藤森は今後の己の逃亡劇が上手くいくように、
仮に上手くいかなくとも、最悪の事態だけは回避できるように、誰となく、天井を見上げ祈った。
「『蝶よ花よ』って、『親が子供を』、『蝶や花を人間が慈しみ愛でる、それと同レベルに、格別にかわいがり』、『愛をもって大切に育てること』なのな」
てっきり「子供自身が」、「『ほら蝶々、ほらお花』と、綺麗な物・綺麗事100%の『無菌』な環境に置かれて」、「下品下劣・世俗を知らない、ガチのピュアっ子に育つこと」だと思ってたわ。
某所在住物書きは題目の意味を調べ、己の誤った解釈に気付き、数度頷いて純粋に知識を改めた。
「意外と、『実は間違って覚えてました』っていう言葉とかことわざとか、多そうよな」
ため息ひとつ、物書きは額に手を当てる。
「で、……『蝶よ花よ』で何をどう書けと?」
――――――
8月8日は世界猫の日だそうですね。それにちなんだワケでもありませんが、ネコ目イヌ科キツネ属のおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、不思議な不思議なお餅を売り歩く、不思議な不思議な子狐が住んでおりました。
「ただいまもどりました!」
今日もコンコン子狐は、ホオズキの明かりを右手に、葛で編んだカゴを左手に、ウカノミタマのオオカミさまのご加護でしっかり人間に化けて、たったひとりのお得意様のアパートへ。
ウカノミタマのオオカミさまのご利益厚い、心の中の悪いものを少し落としてくれるお餅を売って、
「ととさん、かかさん!今日もおとくいさん、買ってくれた!」
ほら、キレイ!
仁王立ちする母狐と、母狐の前で畳に正座し、小ちゃくなっている父狐に、己の労働の対価を見せました。
「まあ、まあ!なんて素晴らしい!」
奥の台所のあたりから、チラチラチラ、細くて白い煙が、強いお焦げの香りと共に、部屋に入ってきます。
「かかさんに、もっとよく見せてちょうだい。お前の頑張ってきたものを、よく、見せてちょうだい」
どうやらまたまた父狐、自分の職場に持っていくお弁当を、自分で作ろうとして失敗して、お肉をすぶすぶ焦がした様子。
なんということでしょう。
コンコン子狐の父親は、都内の某病院に漢方医として勤務して、労働し納税し昨今の悪しき病魔に立ち向かう40代既婚(※戸籍上)で、
コンコン子狐の母親は、神社近所の茶葉屋店主として店を営み、ハーブとお茶っ葉と少しの軽食メニューで客の心と魂を癒やす40代(※同上)だったのです!
かかさんのごはん美味しいから、かかさんにお願いして、お弁当作ってもらえばいいのに。
ととさん、かかさんのお仕事減らしてあげたいのは分かるけど、お料理だけは、絶対かかさんに任せた方がいいのに。
子狐は、父狐がお肉を焦がして正座させられるたび、こっくりこっくり頭をかしげるのでした。
「今日は、おっきいキラキラ1個と、ちいちゃいキラキラ3個貰った」
500円硬貨1枚に、100円硬貨が1、2、3枚。
「かかさんに、いちばんおっきいキラキラ、あげる」
とてとてとてと、コンコン子狐が近づくと、
優しい顔に戻った母狐は、子狐をそれはそれは愛おしく、ぎゅっと、抱きしめてやりました。
「いいえ。500円玉は、その大きいのは、お前がお持ちなさい。お前が、頑張って頑張って、お餅を売って、貰ったご褒美なのですから」
ああ、こんなに立派になって。こんなに優しい子に育って。
まだ気まずそうに、ちんまり正座する父狐をしり目に、母狐は子狐を、幸せと少しの感涙で、撫でて抱きしめて頬を擦り寄せ、ただただ、愛してやりました。
おしまい、おしまい。
「昨日といい一昨日といい、随分、強敵難題なお題ばっかり続くな……」
「最初から」って。何のネタをいつから、どういう風に決まってたことにするよ。一難去ってまた一難の某所在住物書きは、ガリガリ頭をかき、ひとつため息を吐いた。
「『あらかじめ全部決まってた』、『最後の尻尾から頭に向けてではなく、最初の頭から尻尾に向けて決定していった』、『最初から、それが簡単に予測可能で、決まっているも同然だった』。あとは……?」
明日もきっと、エクストリームハードなお題が来るんだろうな。物書きは今日も悩み、書き、途中でそれを白紙に戻す。
――――――
「今年も私の部屋に来るのか」
「食費と水道光熱費は払ってる。構わんだろう」
「何故お前も一緒に行かない?家族だろう、愛していないのか?」
「藤森。夫婦円満の秘訣は、3個ある」
「?」
「妥協する。自分の悪い部分と、相手の嫌がったり苛立ったりすることを知っておく。それから、たまに離れることだ」
都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者の部屋。
唯一の親友たる既婚が暇を潰しに来ており、夕食後の茶を飲んでは、冷やしたタケノコ型のチョコを楽しんでいる。名前を宇曽野という。
宇曽野の嫁と娘は、3、4年ぶりの遠い遠い遠出。5泊6日旅行。娘は猛暑酷暑届かぬ地に夏休みの宿題を持ち込み、イッキカセイに終わらせて、残った1日2日を観光と娯楽と買い物と食事、すなわち魂のデトックスに使うという。
家族唯一の異性、父親たる宇曽野は、夏のデトックスには同行しない。それはほぼ毎年のことであった。
「何故離れる必要がある?」
「お前、お前の部署のあの後輩と、毎年毎月毎週、毎秒一緒に居るの想像してみろ」
「宇曽野。毎日から毎分までが抜けている」
「そこに突っ込むのか。後輩じゃなくて」
ぽりぽりぽり。
宇曽野の行動と家族への配慮がよく分からない部屋の主。藤森という。首を傾けて推理推測しては、キノコのチョコをつまみ、ぱくり。
「……で、」
最終的に、「夫婦円満」は己の理解の外にあるのだろうと結論づけて、話題を強引にズラした。
「今日のお説教は?どうせ、それも兼ねて私の部屋に来たんだろう」
「『説教』とは人聞きの悪い。『提案』だ」
親友からの、いちアドバイスに過ぎないが。付け足す宇曽野はタケノコをひとつ、ふたつ。
「お前が7月18日か19日あたりに例の失恋相手とバッタリ会ってから、そろそろ1ヶ月だろう」
ポイポイ口に放り、ポリポリ砕いて茶を含む。
「お前を旧呟きアプリでディスって、お前の心を壊したのに、傷つけられた当の本人は仕返しもせず、ただ縁切って遠くに離れた。
そこからの、先月18日19日だ。また逃げるのか。そろそろ仕返しに転じても、良いんじゃないか」
タケノコをとり尽くした宇曽野は、次の標的をキノコへと柔軟に移し、
「所詮、最初から決まっていたようなものだ」
伸ばした手を、パシリ。藤森に掴まれた。
「私のキノコを食うな」
「『最初から』?『決まってた?』」
「都内の範囲で恋をして、都内の範囲に逃げたんだ。向こうが私を探し続けていたのなら、いずれ足が付くのは当然だろう」
「よもや自分から縁切るきっかけ作った相手が、お前の失踪後にお前を探し続けるとはなぁ」
「だから。私のキノコを食うな。お前自分のタケノコ廃村廃里にしただろう」
「お前のキノコも禿山にしてやる」
「や、め、ろ」
「タロットに『太陽』があるから、変わり種のネタ盛りだくさんだと思ったんよ」
台風情報と「いわゆる7号」の予想進路をスマホで確認しながら、某所在住物書きは弁明した。
「『子供』、『対立の融合』、『幸福』、『不調』、『忍耐力の欠如』。あと『気が置けない相手』。色々書ける、と、思ってたんだけどなぁ……」
なんでこんなに物語が閃かないんだか。加齢と己の程度である。物書きはため息を吐き、発想の不調を「太陽」逆位置のせいだとカードに押し付けた。
――――――
多くの都道府県で30℃以上が続く今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
暑い太陽が憎らしくなってくる夏の盛りに、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所。不思議なお餅を売り歩く、不思議な子狐がおりまして、
この子狐は週に1〜2回、某アパートに住むたったひとりのお得意様を、コンコン尋ねてくるのでした。
非現実的?気にしません。
防犯意識の強化が叫ばれる昨今?気にしません。
「この捻くれ者の部屋に、太陽の直射日光が苦手な植物の鉢植えがありまして」とか、
「タロットの『太陽』、実は場合によってこういう解釈もありまして」とか、
そんな物語をお送りするよりは幾分かマシです。
しゃーない。
さて。今日もコンコン子狐は、お餅を売りにアパートへ、しっかり人間に化けてお邪魔します。
右手にはお餅を入れた葛のカゴ、左手には赤いホオズキの明かり。それから透明な、ガラスか水晶か金剛石のような飾り玉。
サンキャッチャーといいます。室内に飾って、太陽の光を受けて、キラキラ小さな小さな虹をばら撒く「宝物」です。
キラキラが大好きな子狐は、この美しい宝物を、晴れた猫又の雑貨屋さんで手に入れました。
が、コンコン子狐、サンキャッチャーの「サンキャッチャー」たる仕組みがサッパリ分からない。
土曜日あたりまで朝はキラキラしてたのに、日曜の曇り空からパッタリ。光らなくなってしまいました。
電池が切れてしまったのかしら。
それとも風邪を引いてしまったのかしら。
色々物知りなお得意様に、コンコン子狐、サンキャッチャーを診察してもらうことにしたのでした。
「当分、東京は曇と雨だ」
理由を聞いたお得意様。サンキャッチャーをつまんで、一番大きいキラキラに、手のひらに収めた小さな四角で、光を当て始めました。
ハンディワークライトといいます。500ルーメンのUSB充電式で、なかなか明るいサムシングです。
「サンキャッチャーは、明かりが無いと光らない。くもりや雨の日も、キラキラ、させたいなら……
……光らないな。他のライトにしてみるか」
サムシングを、遠ざけたり、近づけたり。十数秒で諦めたお得意様は、光源を200ルーメンのスティックタイプに変更。
スイッチを入れてキラキラに近づけると、
あら不思議!サンキャッチャーが部屋のあちこちに、小さな虹と光を散らし始めたのです!
「治った、治った!」
コンコン子狐は大喜び。電池切れも、風邪も治ったサンキャッチャーの散らす光を、コンコン跳ねて、追いかけます。
子狐は宝物を救ってくれたお礼に、お得意様に不思議なお餅をひとつ、差し出しました。
「光を当てただけだ。他には何もしていない」
お得意様が、スティックタイプのライトを子狐に渡して言いました。
「USBの、マイクロB規格だ。たまに充電すれば数年は使える」
スマホの充電ケーブルと間違うなよ。付け足すお得意様ですが、コンコン子狐、お顔をコックリ。
「まいくろびー?」
どうやらこの子狐、ケーブルをビー玉と勘違いしているようです。
「太陽」のお題に苦し紛れな、サンキャッチャーのおはなしでした。
おしまい、おしまい。