かたいなか

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「『蝶よ花よ』って、『親が子供を』、『蝶や花を人間が慈しみ愛でる、それと同レベルに、格別にかわいがり』、『愛をもって大切に育てること』なのな」
てっきり「子供自身が」、「『ほら蝶々、ほらお花』と、綺麗な物・綺麗事100%の『無菌』な環境に置かれて」、「下品下劣・世俗を知らない、ガチのピュアっ子に育つこと」だと思ってたわ。
某所在住物書きは題目の意味を調べ、己の誤った解釈に気付き、数度頷いて純粋に知識を改めた。
「意外と、『実は間違って覚えてました』っていう言葉とかことわざとか、多そうよな」
ため息ひとつ、物書きは額に手を当てる。
「で、……『蝶よ花よ』で何をどう書けと?」

――――――

8月8日は世界猫の日だそうですね。それにちなんだワケでもありませんが、ネコ目イヌ科キツネ属のおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、不思議な不思議なお餅を売り歩く、不思議な不思議な子狐が住んでおりました。
「ただいまもどりました!」
今日もコンコン子狐は、ホオズキの明かりを右手に、葛で編んだカゴを左手に、ウカノミタマのオオカミさまのご加護でしっかり人間に化けて、たったひとりのお得意様のアパートへ。
ウカノミタマのオオカミさまのご利益厚い、心の中の悪いものを少し落としてくれるお餅を売って、
「ととさん、かかさん!今日もおとくいさん、買ってくれた!」
ほら、キレイ!
仁王立ちする母狐と、母狐の前で畳に正座し、小ちゃくなっている父狐に、己の労働の対価を見せました。

「まあ、まあ!なんて素晴らしい!」
奥の台所のあたりから、チラチラチラ、細くて白い煙が、強いお焦げの香りと共に、部屋に入ってきます。
「かかさんに、もっとよく見せてちょうだい。お前の頑張ってきたものを、よく、見せてちょうだい」
どうやらまたまた父狐、自分の職場に持っていくお弁当を、自分で作ろうとして失敗して、お肉をすぶすぶ焦がした様子。
なんということでしょう。
コンコン子狐の父親は、都内の某病院に漢方医として勤務して、労働し納税し昨今の悪しき病魔に立ち向かう40代既婚(※戸籍上)で、
コンコン子狐の母親は、神社近所の茶葉屋店主として店を営み、ハーブとお茶っ葉と少しの軽食メニューで客の心と魂を癒やす40代(※同上)だったのです!

かかさんのごはん美味しいから、かかさんにお願いして、お弁当作ってもらえばいいのに。
ととさん、かかさんのお仕事減らしてあげたいのは分かるけど、お料理だけは、絶対かかさんに任せた方がいいのに。
子狐は、父狐がお肉を焦がして正座させられるたび、こっくりこっくり頭をかしげるのでした。

「今日は、おっきいキラキラ1個と、ちいちゃいキラキラ3個貰った」
500円硬貨1枚に、100円硬貨が1、2、3枚。
「かかさんに、いちばんおっきいキラキラ、あげる」
とてとてとてと、コンコン子狐が近づくと、
優しい顔に戻った母狐は、子狐をそれはそれは愛おしく、ぎゅっと、抱きしめてやりました。
「いいえ。500円玉は、その大きいのは、お前がお持ちなさい。お前が、頑張って頑張って、お餅を売って、貰ったご褒美なのですから」

ああ、こんなに立派になって。こんなに優しい子に育って。
まだ気まずそうに、ちんまり正座する父狐をしり目に、母狐は子狐を、幸せと少しの感涙で、撫でて抱きしめて頬を擦り寄せ、ただただ、愛してやりました。
おしまい、おしまい。

8/8/2023, 1:21:58 PM