かたいなか

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「昨日といい一昨日といい、随分、強敵難題なお題ばっかり続くな……」
「最初から」って。何のネタをいつから、どういう風に決まってたことにするよ。一難去ってまた一難の某所在住物書きは、ガリガリ頭をかき、ひとつため息を吐いた。
「『あらかじめ全部決まってた』、『最後の尻尾から頭に向けてではなく、最初の頭から尻尾に向けて決定していった』、『最初から、それが簡単に予測可能で、決まっているも同然だった』。あとは……?」
明日もきっと、エクストリームハードなお題が来るんだろうな。物書きは今日も悩み、書き、途中でそれを白紙に戻す。

――――――

「今年も私の部屋に来るのか」
「食費と水道光熱費は払ってる。構わんだろう」
「何故お前も一緒に行かない?家族だろう、愛していないのか?」

「藤森。夫婦円満の秘訣は、3個ある」
「?」
「妥協する。自分の悪い部分と、相手の嫌がったり苛立ったりすることを知っておく。それから、たまに離れることだ」

都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者の部屋。
唯一の親友たる既婚が暇を潰しに来ており、夕食後の茶を飲んでは、冷やしたタケノコ型のチョコを楽しんでいる。名前を宇曽野という。
宇曽野の嫁と娘は、3、4年ぶりの遠い遠い遠出。5泊6日旅行。娘は猛暑酷暑届かぬ地に夏休みの宿題を持ち込み、イッキカセイに終わらせて、残った1日2日を観光と娯楽と買い物と食事、すなわち魂のデトックスに使うという。
家族唯一の異性、父親たる宇曽野は、夏のデトックスには同行しない。それはほぼ毎年のことであった。

「何故離れる必要がある?」
「お前、お前の部署のあの後輩と、毎年毎月毎週、毎秒一緒に居るの想像してみろ」
「宇曽野。毎日から毎分までが抜けている」
「そこに突っ込むのか。後輩じゃなくて」

ぽりぽりぽり。
宇曽野の行動と家族への配慮がよく分からない部屋の主。藤森という。首を傾けて推理推測しては、キノコのチョコをつまみ、ぱくり。
「……で、」
最終的に、「夫婦円満」は己の理解の外にあるのだろうと結論づけて、話題を強引にズラした。
「今日のお説教は?どうせ、それも兼ねて私の部屋に来たんだろう」

「『説教』とは人聞きの悪い。『提案』だ」
親友からの、いちアドバイスに過ぎないが。付け足す宇曽野はタケノコをひとつ、ふたつ。
「お前が7月18日か19日あたりに例の失恋相手とバッタリ会ってから、そろそろ1ヶ月だろう」
ポイポイ口に放り、ポリポリ砕いて茶を含む。
「お前を旧呟きアプリでディスって、お前の心を壊したのに、傷つけられた当の本人は仕返しもせず、ただ縁切って遠くに離れた。
そこからの、先月18日19日だ。また逃げるのか。そろそろ仕返しに転じても、良いんじゃないか」
タケノコをとり尽くした宇曽野は、次の標的をキノコへと柔軟に移し、

「所詮、最初から決まっていたようなものだ」
伸ばした手を、パシリ。藤森に掴まれた。
「私のキノコを食うな」

「『最初から』?『決まってた?』」
「都内の範囲で恋をして、都内の範囲に逃げたんだ。向こうが私を探し続けていたのなら、いずれ足が付くのは当然だろう」

「よもや自分から縁切るきっかけ作った相手が、お前の失踪後にお前を探し続けるとはなぁ」
「だから。私のキノコを食うな。お前自分のタケノコ廃村廃里にしただろう」
「お前のキノコも禿山にしてやる」
「や、め、ろ」

8/7/2023, 2:36:36 PM