かたいなか

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「タロットに『太陽』があるから、変わり種のネタ盛りだくさんだと思ったんよ」
台風情報と「いわゆる7号」の予想進路をスマホで確認しながら、某所在住物書きは弁明した。
「『子供』、『対立の融合』、『幸福』、『不調』、『忍耐力の欠如』。あと『気が置けない相手』。色々書ける、と、思ってたんだけどなぁ……」
なんでこんなに物語が閃かないんだか。加齢と己の程度である。物書きはため息を吐き、発想の不調を「太陽」逆位置のせいだとカードに押し付けた。

――――――

多くの都道府県で30℃以上が続く今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
暑い太陽が憎らしくなってくる夏の盛りに、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所。不思議なお餅を売り歩く、不思議な子狐がおりまして、
この子狐は週に1〜2回、某アパートに住むたったひとりのお得意様を、コンコン尋ねてくるのでした。

非現実的?気にしません。
防犯意識の強化が叫ばれる昨今?気にしません。
「この捻くれ者の部屋に、太陽の直射日光が苦手な植物の鉢植えがありまして」とか、
「タロットの『太陽』、実は場合によってこういう解釈もありまして」とか、
そんな物語をお送りするよりは幾分かマシです。
しゃーない。

さて。今日もコンコン子狐は、お餅を売りにアパートへ、しっかり人間に化けてお邪魔します。
右手にはお餅を入れた葛のカゴ、左手には赤いホオズキの明かり。それから透明な、ガラスか水晶か金剛石のような飾り玉。
サンキャッチャーといいます。室内に飾って、太陽の光を受けて、キラキラ小さな小さな虹をばら撒く「宝物」です。
キラキラが大好きな子狐は、この美しい宝物を、晴れた猫又の雑貨屋さんで手に入れました。

が、コンコン子狐、サンキャッチャーの「サンキャッチャー」たる仕組みがサッパリ分からない。
土曜日あたりまで朝はキラキラしてたのに、日曜の曇り空からパッタリ。光らなくなってしまいました。
電池が切れてしまったのかしら。
それとも風邪を引いてしまったのかしら。
色々物知りなお得意様に、コンコン子狐、サンキャッチャーを診察してもらうことにしたのでした。

「当分、東京は曇と雨だ」
理由を聞いたお得意様。サンキャッチャーをつまんで、一番大きいキラキラに、手のひらに収めた小さな四角で、光を当て始めました。
ハンディワークライトといいます。500ルーメンのUSB充電式で、なかなか明るいサムシングです。
「サンキャッチャーは、明かりが無いと光らない。くもりや雨の日も、キラキラ、させたいなら……
……光らないな。他のライトにしてみるか」

サムシングを、遠ざけたり、近づけたり。十数秒で諦めたお得意様は、光源を200ルーメンのスティックタイプに変更。
スイッチを入れてキラキラに近づけると、
あら不思議!サンキャッチャーが部屋のあちこちに、小さな虹と光を散らし始めたのです!

「治った、治った!」
コンコン子狐は大喜び。電池切れも、風邪も治ったサンキャッチャーの散らす光を、コンコン跳ねて、追いかけます。
子狐は宝物を救ってくれたお礼に、お得意様に不思議なお餅をひとつ、差し出しました。

「光を当てただけだ。他には何もしていない」
お得意様が、スティックタイプのライトを子狐に渡して言いました。
「USBの、マイクロB規格だ。たまに充電すれば数年は使える」
スマホの充電ケーブルと間違うなよ。付け足すお得意様ですが、コンコン子狐、お顔をコックリ。

「まいくろびー?」
どうやらこの子狐、ケーブルをビー玉と勘違いしているようです。

「太陽」のお題に苦し紛れな、サンキャッチャーのおはなしでした。
おしまい、おしまい。

8/7/2023, 4:42:21 AM