かたいなか

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7/8/2023, 10:56:30 AM

「なかなかに、アレンジのムズいお題よな……」
街の明かりって。「ド田舎は街灯が少ないので夜暗い」とか、「店の明かりを見ると◯◯を思い出す」とか、そういう系想定のお題かな。某所在住物書きはガリガリ頭をかきながら、天井を見上げ息を吐いた。
固い頭の物書きには、少々酷な題目であった。
「花火とか工事中の火花とか、今は法律等々が絡むだろうけど焚き火とかも、『街の明かり』、か?」
わぁ。考えろ考えろ。強敵だぞ。物書きはポテチをかじりながら、懸命に頭を働かせる。

――――――

「ふんふん。天の川は、2025年の、9月8日丑三つ時がねらいめ。おぼえた!」

昨日は七夕でしたね。せっかくなので、こんなおはなしをご用意しました。
「天の川、あまのがわ。たのしみだなぁ」
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、その内末っ子の子狐は、花とお星様がとっても大好きでした。
「きっと、すごく、すごくキレイなんだろなぁ」
でも子狐、「満天の星」を知りません。天の川も、見たことがないのです。
子狐にとって、夜の明かりは街の明かり。建物の照明に街灯のLED。それから標識にスマホのライト。
絶えず光の溢れる東京から、一歩も出たことのない子狐。真っ暗を必要とする星空を、その極地と言える天の川を、写真や絵本でしか見たことがないのです。

そこに「天の川が見られるかもしれない」と重要情報をブチ込んできたのが、母狐経営の茶葉屋さんに昨日お茶っ葉を買いに来たお得意様。
カイキゲッショクは地球が太陽の光を云々で、かんぬんで、モニョモニョなので、場合によっては天の川が見られるかもしれないらしいのです。
真っ暗な場所、可能なら山の上が望ましいとのこと。
子狐はこの情報を、お気に入りのクレヨンで、小さなメモ帳にぐりぐりぐり。すぐさま書き込みました。
「でも、まっくらな場所ってどこだろう?」

コンコン子狐、2025年の場所探しのため、人間にしっかり化けて夜の東京を巡回します。
「ビルの屋上は、ニンゲンが怖いから行けないや」
7月の熱帯夜続く東京。今夜は雨の予報です。
「お店のスキマは、くらいけどお空が見えないや」
アジサイのデフォルメをあしらった水色の傘に、同じ水色のかわいい長靴。絵になりますね。
「お寺も神社も、意外と、らいとあっぷ」
どこもかしこも、LEDに液晶モニタ。たまに悪い車のイジワルハイビーム。
街に明かりがあちこち溢れて、コンコン子狐、暗い東京を見つけられません。
しまいに子狐疲れてしまって、大狸の和菓子屋さんで、七夕あられの値引き品を3袋買ってから、お家に帰ってゆきました。

「東京で、くらいところ探すの、むずかしいなぁ」
1袋は自分用、残り2袋は大好きな父狐と母狐と、おじいちゃん狐とおばあちゃん狐へのお土産、
の筈だったのですが、道中子狐、あられがおいしくておいしくて、全部食べてしまいました。
「ととさんと、かかさんなら、知ってるかも。ととさんとかかさんに、聞かなくちゃ」
かわりに最近越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、お星様のクッキーボックスをお買い上げ。花咲きキノコ並ぶ、森深い夜の神社に帰ってゆきました。
神社はいつか昔の東京をうつして、涼しく、暗く、優しく、子狐を待っておりました。
おしまい、おしまい。

7/7/2023, 10:12:24 AM

「天の川、織女牽牛、織姫彦星、夏の大三角に笹の葉、短冊、願い事。あと何だ?」
そういや小学生の頃、七夕ゼリーみたいなの食ったような、虚偽記憶のような、気がするなぁ。某所在住物書きはソーダ味のアイスをかじり、冷えた黄金色を飲みながら、扇風機の快風に浸っていた。
久方ぶりの年中行事ネタだ。2月はきっとバレンタインで、3月は事実としてひなまつり。5月の子どもの日は別の題目であった。
「『7月7日』という日付についてのハナシを書くか、七夕からイメージする単語の方を重点的に書くか。伝説系に天文学、欲望に恋愛。切り口は、まぁ、そこそこ複数、有るっちゃ有るのか」
ま、俺はぼっちだから、七夕に誰かと予定なんざねぇけど。物書きは小さく息を吐き、アイスをかじる。

――――――

7月7日だ。七夕だ。
天の川を見に行こうとか、七夕の天の川イベントに行こうとか、天の川な七夕そうめん食べに行こうとか。そんな提案が浮かばない程度には酷い熱帯夜だ。
それもその筈。今日は最高気温が35℃で夜の気温も29℃前後。あつい(ふぁっきん熱帯夜)
七夕がもうちょっと秋寄りとか、なんなら4月あたりの涼しい頃なら、天の川も見に行きやすかったのに。
あつい(大事二度宣言)

「つまり、天の川が見たいんだな?」
穏やかな白さの甚平で、晩ごはんの準備をしながら、先輩が私に声をかけてきた。
諸事情で、風邪でもコロナでも何でもないけどダルくて、ごはん作る気力も体力も無くて、長い付き合いな職場の先輩のアパートに避難中。
お金とちょっとの食材をリリースして、先輩に晩ごはんとお茶を自動召喚してもらってる。
今日のお茶はハーブティー。先輩がわざわざ、いきつけの茶葉屋さんから、私の具合の悪いのに合わせてブレンドしてもらってきてくれたらしい。
「2年後の9月、2025年9月8日が狙い目だと思う。どこか街の光から遠い、暗い場所、可能であれば山の上が望ましい。皆既月食だ」
お茶はほんのり温かくて、ちょっと生姜が効いてるみたいで、飲むと体の芯からポカポカしてくる感じ。
ナントカって漢方を参考にしたハーブティーだって聞いたけど、その「ナントカ」は忘れた。

「月食?」
「天の川はとても光が弱い。街灯や、月の光でも、見えづらくなる。皆既月食は、月を光らせる太陽の光を、地球全体が遮ってくれるわけだ」
「織姫と彦星の通せんぼしてるのに、弱いんだね」
「私も不勉強だからよく理解してないが、この月食のときに、一緒に天の川が見られることがあるらしい。見頃は、午前2時半付近から3時50分頃までだな」
「ふーん」

天の川って七夕オンリーなイメージあったけど、別に、七夕じゃなくても見られるんだ。
少しだけ感動しながら、またハーブティーを飲む。
「織姫と彦星も、七夕以外の日にこっそり会ってたりするのかな」
「なんだって?」
七夕と皆既月食が重なる日をネットで調べたけど、2047年らしいから急にスン……てなってやめた。

「だって天の川だって七夕以外の日に出てくるんだもん。織姫彦星も七夕以外に会ってたり、って」
「天の川が見られるのは天文現象で、織姫と彦星が会うのは伝説だろう」
「民間信仰はたまに後世によって書き換えられるって昔授業で聞いた。今の二人実は時々会ってる説」
「随分、随分な新説だな……?」

7/6/2023, 10:44:52 AM

「あのな。全員が全員、友人がいると、思うなよ」
ぼっち万歳。19時着の題目を確認した某所在住物書きは、開口一発、孤独への讃歌を呟いた。
「『自分の』、自分と友達との思い出。無い。
『友達の立場からの』、友達との思い出。知らん。
女友達だの男友達だの、『恋人未満』、あるいは『フられて友達に戻った相手としての』、友達の思い出。……ぼっち万歳」
ところで、本来存在しない筈の「思い出」を、事実として存在したようにガチで錯覚させる、「虚偽記憶」を作成することは可能だそうだな。
物書きはハタと閃き、「友達に虚偽の思い出を植え込む」という物語を考えて、結局うまくいかず諦めた。

――――――

最近最近の都内某所、某職場の日の入り間近。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、残業を終え、ロッカールームで帰宅の準備をしている。

「青森県。十二湖の青池」
そこにやって来たのが、同じく残業で居残りしていた友人。隣部署の主任の宇曽野。
ニヤリイタズラ顔で、右手を差し出し、ちょいちょい人さし指を振って何かを催促している。
「なんだ突然」
宇曽野の言った県と場所の名前に心当たりはあったが、捻くれ者は敢えて知らぬ素振り。淡々とロッカーを開け、蚊除け用の薄いサマーコートを取り出した。

「昨日の『賭け』の回答だ。例の『星空』の」
「お前と賭けをした記憶は無い」
「お前のとこの後輩とはしただろう。コーヒーとアイス代。3回で当たるかどうか」
「彼女は当てられなかった」
「らしいな」

カタンカタン。物を戻し取り出す静けさと、遠くでどこかの部署が言い争っている喧騒の中で、宇曽野がロッカールームの入口を、チラリ見遣る。
「懐かしい。あれからもう、9年か」
少しだけ大きな声で、宇曽野が言った。
「夏の北国。森と池と、デカい岩の海岸。波が岩と岩の隙間を叩いて、間欠泉のようになってた」
「『濡れるぞ』と忠告したのに、面白がって覗いて。その間欠泉の直撃を食らっていたのがお前だ」
返す捻くれ者は宇曽野が声量を張った意図も、部屋の入口を見た理由も気付いていないようであった。

「俺だけ完全に、びしょ濡れになってな。お前が車にバスタオルと着替えを積んでいたから助かった」
「どうせやらかすだろうと思ったんだ。あの冬もそうだった。函館行きの船で女の子の飛んだ帽子を取ろうとして海に落ちかけるわ、私の実家の庭で雪にダイブするわ、その雪の上に2階から飛び降りるわ……」
「3、4年前のアレか。そもそも2階のハナシは、お前が『ガキの頃やった』と聞いたからでだな。『ここは冬ともかく大量に雪が積もるから』と」
「だ、ま、れ」

はっはっは!軽く笑い飛ばす宇曽野は、捻くれ者に背を向け、プラプラ右手を振り、部屋を出ていく。
「またな。藤森」
明日も暑いらしいが、溶けるなよ。からかいの言葉は、しかしながら穏やかで、気遣いがにじむ。
「お疲れ様。宇曽野」
捻くれ者が友人を見送り、己の支度も終えてロッカーの鍵を閉めると、
宇曽野と入れ替わりに、「妙に絶妙なタイミングで」、耳のあたりをわずかに朱に染めた己の後輩が、ロッカールームに入ってきた。

7/5/2023, 12:29:48 PM

「『星が溢れる』、『星空の下で』、『流れ星に願いを』。4度目の星ネタよな」
あともう1回くらい「星」は来るんだろうな。たとえば「星座」とか。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながらガリガリ首筋をかき、天井を見上げた。
そろそろ、ネタも枯渇する頃である。
「溢れる星は、『星みたいなフクジュソウ』が花畑に溢れてるってことにして、星空の下の話は夜のオープンテラスでの飯ネタ。流れ星は桜の5枚花を星に見立てて桜吹雪のハナシ書いたわ」
王道の星空ネタに、星を別の物に例えた変化球。他に何を書けるやら。物書きは今日もため息を吐き、固い頭でうんうん悩んで物語を組む。

――――――

いつもの職場、いつもの昼休憩、休憩室のテーブルと広げたお弁当、それからアイスコーヒー。
向かい合って座る雪国の田舎出身な先輩が、すごく懐かしそうな顔して、自分のスマホの画面を見てた。
「何見てるの?」
私の疑問の声に、顔を、目を上げた先輩は、ほんの少し穏やかな顔して、小さく首を振った。
「別に。お前が見て面白いものではないと思う」
それでも私がちょっと席から身を乗り出して、先輩のスマホを見ると、すごくキレイな緑の木と、文字通り、本当の色として「青い」湖が、微っ妙に粗い解像度で写ってた。
雨の日に撮ったっぽい。湖にポツポツ当たってる雨が白い粒になって、まるで青い星空みたいだ。
「粗いのは仕方無い」
先輩は言った。
「昔の画像だ。8年前。もうじき9年になる」

「どこの写真?」
「当ててみるか?明日のコーヒー代でも賭けて?」
「アイス代込みで行こうよ。3回で当てるから」
「乗った」

「北海道の、び、み……」
早速自分のスマホ使って、「青い湖」で検索してみる。真っ先に出てきたのは北海道の、「美瑛町」とかいう所だけど、読み方が分からない。
「『ビエイちょう』だな。残念」
そうそう簡単に答えられるものかって、先輩はちょっと勝ち誇ってるようにニヤリしてる。
「じゃあコレ!びらとり町」
次にサジェスト検索を頼ることにした私は、「青い湖 美瑛」の下、「平取」に回答権2回目を託した。
「平取」って書いて、「びらとり」って読むらしい。日本の地名って難しい。
「残り1回だな」
ここでもなかったらしく、先輩はまたニヤリ笑った。
「ん〜……」
サジェストは「青い湖 群馬」、「青い湖 世界」、「青い湖畔」に「青い紅茶」、他多数。残る回答権は1回。先輩はやっぱりバレないと思ってるみたい。
検索候補の「世界」が不穏。下手をしたら、先輩が余裕こいてるのは、この画像が日本じゃないからかもしれない。だとすれば、ぶっちゃけお手上げだ。

「ボケていい?」
自前の冷茶口に含んでる先輩に、「降参」って言うのが悔しいから、絶対あり得ない回答で、いっそ自爆しちゃうことにした。
「火星とか」

「……」
先輩は目をパチクリして、数秒フリーズしてから、
「っ、ぐ、……がッは!ゲホッげほっ!」
時間差で変にツボっちゃったらしく、盛大にむせてバチクソ咳込んだ。

「あの、多分ごめん、多分ごめんって」
「おま、ゲホッ、わたしのこと何だと、げほげほ!」
「大丈夫冗談、冗談だって。どしたの何がツボっちゃったの」
「ごほっごほっ、……っが、かはッ……!」

7/4/2023, 1:46:38 PM

「4月13日のお題が『神様へ』だったわ」
なんとなく、もう1回くらいは神様系のお題来そうな気が、しないでもないわな。某所在住物書きは今日もぽつり呟き、相変わらず途方に暮れている。
己の執筆スタイルがエモ系スピリチュアル系の題目と微妙に、至極微妙に相性が悪いのである。
「まぁ、日本にはいろんな神様がいるからな。赤い隈取の白狼とか、お客様は神様系神様とか、神絵師神字書きとか、御神木御神体もギリセーフか?」
東京都立川在住で聖姓の、「あのお二人」は、バチクソ厳密には「『神』様」じゃないんだっけ?物書きは不勉強ゆえに仏教とキリスト教の根本が分からなくなり、スマホでまず釈迦を調べ始めた。

――――――

そういえば神道では、迷惑かけたり悪いことしたりした「神様」が、懲らしめられ、やっつけられたりしていますね。という小ネタは置いといて、「神様」をお題に、物書きがこんなおはなしを閃きました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、
その神社の敷地には、とてもとても大きな1本のヒノキが、御神木として生えておりました。
このヒノキはとても不思議なヒノキで、花粉をちっとも出さず、寄せ付けもしない、善いヒノキでした。
花粉知らずな実らずのヒノキは、神社に来る人間を見守り続け、いろんなことを知っておりました。

ある時ヒノキは稲荷神社に、若い人間ふたりが来るのを見つけました。
チャリチャリお賽銭してガラガラ鈴を鳴らして、「願い事叶うといいね」と笑いあい、帰ってゆきました。
でもヒノキは知っています。どちらの願いも叶わないのです。
ひとりは「この人とずっと一緒に居られますように」と願い、もうひとりは「早く次の恋が見つかりますように」と願ったのですから。

またある時ヒノキは稲荷神社に、お年をお召しのおじいさんが来るのを見つけました。
神社のひとに許可を貰って、お礼を渡して、花畑の花を仏花用に少し切って。「死んだばあさんが花好きだったんだ」と、嫁さんの自慢話を始めました。
ヒノキはよくよく知っていました。おじいさんの隣で、おじいさんの目には見えないけれど、嫁さんが顔も耳もまっかっかにして居るのでした。
「世界で一番綺麗だった」、「一番料理が美味かった」と涙を浮かべて話すおじいさんに、『もうやめて照れちゃう』と、でも少し嬉しそうでした。

それからある時ヒノキは稲荷神社に、寂しがり屋の捻くれ者が来るのを見つけました。
捻くれ者が神社の花を愛でて、写真を撮っていると、神社に住む子狐が飛び出して、尻尾をビタンビタン振り叩き、捻くれ者の鼻をベロンベロン舐めました。
ヒノキは未来も知っていました。この捻くれ者は明日、自分の職場でお茶にむせる運命にありました。
自分の後輩の発言が変にツボって、笑うのを必死に我慢した結果、口に含んでいたお茶が気管にちょっと入ってしまうのです。

人の願い、人の涙と照れと笑顔、それから人のご愁傷様な未来。化け狐住まう稲荷神社の御神木は、実らずのヒノキは、それらをじっと見届けて、
そのいずれも、ヒノキだけが知っているのでした。
おしまい、おしまい。

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