「『星が溢れる』、『星空の下で』、『流れ星に願いを』。4度目の星ネタよな」
あともう1回くらい「星」は来るんだろうな。たとえば「星座」とか。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながらガリガリ首筋をかき、天井を見上げた。
そろそろ、ネタも枯渇する頃である。
「溢れる星は、『星みたいなフクジュソウ』が花畑に溢れてるってことにして、星空の下の話は夜のオープンテラスでの飯ネタ。流れ星は桜の5枚花を星に見立てて桜吹雪のハナシ書いたわ」
王道の星空ネタに、星を別の物に例えた変化球。他に何を書けるやら。物書きは今日もため息を吐き、固い頭でうんうん悩んで物語を組む。
――――――
いつもの職場、いつもの昼休憩、休憩室のテーブルと広げたお弁当、それからアイスコーヒー。
向かい合って座る雪国の田舎出身な先輩が、すごく懐かしそうな顔して、自分のスマホの画面を見てた。
「何見てるの?」
私の疑問の声に、顔を、目を上げた先輩は、ほんの少し穏やかな顔して、小さく首を振った。
「別に。お前が見て面白いものではないと思う」
それでも私がちょっと席から身を乗り出して、先輩のスマホを見ると、すごくキレイな緑の木と、文字通り、本当の色として「青い」湖が、微っ妙に粗い解像度で写ってた。
雨の日に撮ったっぽい。湖にポツポツ当たってる雨が白い粒になって、まるで青い星空みたいだ。
「粗いのは仕方無い」
先輩は言った。
「昔の画像だ。8年前。もうじき9年になる」
「どこの写真?」
「当ててみるか?明日のコーヒー代でも賭けて?」
「アイス代込みで行こうよ。3回で当てるから」
「乗った」
「北海道の、び、み……」
早速自分のスマホ使って、「青い湖」で検索してみる。真っ先に出てきたのは北海道の、「美瑛町」とかいう所だけど、読み方が分からない。
「『ビエイちょう』だな。残念」
そうそう簡単に答えられるものかって、先輩はちょっと勝ち誇ってるようにニヤリしてる。
「じゃあコレ!びらとり町」
次にサジェスト検索を頼ることにした私は、「青い湖 美瑛」の下、「平取」に回答権2回目を託した。
「平取」って書いて、「びらとり」って読むらしい。日本の地名って難しい。
「残り1回だな」
ここでもなかったらしく、先輩はまたニヤリ笑った。
「ん〜……」
サジェストは「青い湖 群馬」、「青い湖 世界」、「青い湖畔」に「青い紅茶」、他多数。残る回答権は1回。先輩はやっぱりバレないと思ってるみたい。
検索候補の「世界」が不穏。下手をしたら、先輩が余裕こいてるのは、この画像が日本じゃないからかもしれない。だとすれば、ぶっちゃけお手上げだ。
「ボケていい?」
自前の冷茶口に含んでる先輩に、「降参」って言うのが悔しいから、絶対あり得ない回答で、いっそ自爆しちゃうことにした。
「火星とか」
「……」
先輩は目をパチクリして、数秒フリーズしてから、
「っ、ぐ、……がッは!ゲホッげほっ!」
時間差で変にツボっちゃったらしく、盛大にむせてバチクソ咳込んだ。
「あの、多分ごめん、多分ごめんって」
「おま、ゲホッ、わたしのこと何だと、げほげほ!」
「大丈夫冗談、冗談だって。どしたの何がツボっちゃったの」
「ごほっごほっ、……っが、かはッ……!」
7/5/2023, 12:29:48 PM