かたいなか

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「4月13日のお題が『神様へ』だったわ」
なんとなく、もう1回くらいは神様系のお題来そうな気が、しないでもないわな。某所在住物書きは今日もぽつり呟き、相変わらず途方に暮れている。
己の執筆スタイルがエモ系スピリチュアル系の題目と微妙に、至極微妙に相性が悪いのである。
「まぁ、日本にはいろんな神様がいるからな。赤い隈取の白狼とか、お客様は神様系神様とか、神絵師神字書きとか、御神木御神体もギリセーフか?」
東京都立川在住で聖姓の、「あのお二人」は、バチクソ厳密には「『神』様」じゃないんだっけ?物書きは不勉強ゆえに仏教とキリスト教の根本が分からなくなり、スマホでまず釈迦を調べ始めた。

――――――

そういえば神道では、迷惑かけたり悪いことしたりした「神様」が、懲らしめられ、やっつけられたりしていますね。という小ネタは置いといて、「神様」をお題に、物書きがこんなおはなしを閃きました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、
その神社の敷地には、とてもとても大きな1本のヒノキが、御神木として生えておりました。
このヒノキはとても不思議なヒノキで、花粉をちっとも出さず、寄せ付けもしない、善いヒノキでした。
花粉知らずな実らずのヒノキは、神社に来る人間を見守り続け、いろんなことを知っておりました。

ある時ヒノキは稲荷神社に、若い人間ふたりが来るのを見つけました。
チャリチャリお賽銭してガラガラ鈴を鳴らして、「願い事叶うといいね」と笑いあい、帰ってゆきました。
でもヒノキは知っています。どちらの願いも叶わないのです。
ひとりは「この人とずっと一緒に居られますように」と願い、もうひとりは「早く次の恋が見つかりますように」と願ったのですから。

またある時ヒノキは稲荷神社に、お年をお召しのおじいさんが来るのを見つけました。
神社のひとに許可を貰って、お礼を渡して、花畑の花を仏花用に少し切って。「死んだばあさんが花好きだったんだ」と、嫁さんの自慢話を始めました。
ヒノキはよくよく知っていました。おじいさんの隣で、おじいさんの目には見えないけれど、嫁さんが顔も耳もまっかっかにして居るのでした。
「世界で一番綺麗だった」、「一番料理が美味かった」と涙を浮かべて話すおじいさんに、『もうやめて照れちゃう』と、でも少し嬉しそうでした。

それからある時ヒノキは稲荷神社に、寂しがり屋の捻くれ者が来るのを見つけました。
捻くれ者が神社の花を愛でて、写真を撮っていると、神社に住む子狐が飛び出して、尻尾をビタンビタン振り叩き、捻くれ者の鼻をベロンベロン舐めました。
ヒノキは未来も知っていました。この捻くれ者は明日、自分の職場でお茶にむせる運命にありました。
自分の後輩の発言が変にツボって、笑うのを必死に我慢した結果、口に含んでいたお茶が気管にちょっと入ってしまうのです。

人の願い、人の涙と照れと笑顔、それから人のご愁傷様な未来。化け狐住まう稲荷神社の御神木は、実らずのヒノキは、それらをじっと見届けて、
そのいずれも、ヒノキだけが知っているのでした。
おしまい、おしまい。

7/4/2023, 1:46:38 PM