かたいなか

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7/3/2023, 2:06:03 PM

「歩道の先、サイクリングロードの先、ロードマップの先、柔道茶道等々の先。『道』にも色々あるわな」
その計画の先には云々、信じた道の先には云々。なんか壮大な物か書けそうで、己の頭が固いゆえに無理。
某所在住物書きは19時着の題目を見つめて言った。
「……そういや今でも、ナビを信じて進んだ道の先が難易度エクストリームハード、なんて例とか」
いや、俺は経験、無いことにしとくがな。物書きは過去の「『道』路案内」のその先を思い出し、物語にできないかと画策するも、結局挫折してため息を吐く。

――――――

変な夢を見た。
都内の別の区。夜。私の職場の先輩が、私の知ってるより数年若いくらいの姿で、大きなキャリートランクひとつ持って、全力で走ってる。
視界の端にはテレビクルーみたいに、「5月30日22時投稿分参照」ってカンペ持ってる、二足歩行の不思議な子狐。多分この子は別にどうでもいい。
ともかく、若先輩だ。私の知らない、夢の中の先輩が、すごくリアルな夜道を走ってる。
この道の先にあるのは駅だ。地下鉄だ。

風みたいにICカードをタッチして改札抜けて、多分終電に飛び乗って、座席に座って。息を整えてキャリーを抱きしめる先輩は、夢の妄想の賜物と言える。
それから、それから先輩は――

「お客様、お乗りの列車、終点です」
……しゅうてん?
わたし、「どこ」で、ゆめみてるんだっけ?


「――わっ!ごめんなさい降りま!……す?」
「降りる必要は無い。職場の中だ。相当お疲れのようだな寝坊助さんめ」
「へ、……へ?」

お客様、終点ですよ。
確かにハッキリ聞こえたその声で、一瞬にして「乗り過ごした!」って起きた。
心臓がバックバックいってる中で、周囲を見渡すと、そこは帰りのバスの中でも列車の中でもなくて、自分の職場、自分のデスク。現代の年齢まで戻った先輩が、ちょっと心配そうに私を見てる。
時計を見ればもう終業10分前。太陽が少しだけ、傾いて見えた。

「係長には、『具合が悪そうだったので敢えて寝かせている』と言ってある」
先輩が言った。
「お前の今日の作業なら、私が分かるものだったから消化しておいた。ミスは無いと思うが、万が一出てきたら、『先輩が勝手にやった』と言っておけ」
月曜早々居眠りとは。先月の疲れが残っているのか?
先輩はため息を吐きながら、USBメモリを、私が本来今日終わらせる予定だった作業が入ってるだろうメモリを、私に差し出した。

「ごめん」
「大丈夫か?ストレスが溜まっているとか、自分のキャパ以上の仕事で眠れていないとか?」
「それはちょっと有るけど、私より先輩の方が仕事もストレスも多いでしょ」
「私と比べるな。特にストレス耐性は人それぞれだ。お前にとってデカいストレスが続き過ぎるようなら、本当に、一旦休むなりいっそ転職を検討するなりした方が良いと思う。……無理して体と心を削ったところで、その道の先は崖とか滝とかだぞ」

ほら。ひとまずコレでも飲んで目を覚ませ。
事前に準備してくれてたっぽい、小さな缶のアイスコーヒーを、先輩は渡してくれた。
「ねぇ、先輩……」
昔、キャリー持って終電に飛び乗ったことある?
私はなんとなく、自分の夢のシチュを先輩に聞こうとしたけど、
「……なんでもないや。気にしないで」
完全自前の妄想の、フィクションを先輩に真顔で聞くとか絶対寝ぼけ案件だから、やめといた。

「?」
先輩はそんな私の顔を見てキョトンと首を傾けた。

7/2/2023, 10:38:33 PM

「考えてみりゃ当然のことなんだろうが、今更、日本のどの地域に居るかで、日の出と日の入りの時刻が違うって知ったんだわ」
今回の題目、「日差し」の3文字をどう自分の投稿スタイルに落とし込むか。苦悩して葛藤してネタが浮かばず、己の加齢による頭の固さを痛感した某所在住物書きである。
「スマホの天気予報見たんよ。例えば今日は、札幌なら4時丁度に日が昇って19時18分に沈む。対して東京は4時半日の出、19時1分日の入り。沖縄は5時40分に19時26分だとさ。同じ7月3日でも、日差しの出る時間こんな違うのな」
日の出時刻、日の入り時刻の違いで、何かハナシのネタが降りてきたりしないかって。少々期待したんだがな。どうにも難しかったわな。
物書きはうなだれて、窓の外を見た。

――――――

7月初週、最近の都内某所、朝の某職場屋上。
早朝の、気温だけは比較的快適な曇天を、焼き払いにかかる直前の直射日光の下。
7時過ぎで既に26℃、最高気温34℃予報の日差しは、「熱線」の語感が相応しく感じられる気配。
「あっはっは!お前、おまえ、狐の窓?!」
パンパンパン。暑さ払うサイダー味のアイスバーを片手に、明るく笑い飛ばす男が、親友たる寂しがり屋な捻くれ者の背中を叩いた。
「狐の窓で、人間の本性なんぞ、分かるかよ!それこそお前お得意の脳科学と心理学の出番だろう!」
分からなかったのか、分からなかったんだろうな!笑いのツボに入ったらしい男、宇曽野は、捻くれ者の生真面目と堅物と、治癒遅い失恋の傷を再認識した。

「それで、それでお前、結局どうしたんだ昨日。その後輩とは。『面白くもない捻くれ者の自分に引っ付く後輩の本性が怖い』って、狐の窓の真似事したら、逆にその窓越しに目が合って?見えたのは何だった?」
「……なにも。ただのいつもの後輩だ」
「だろうな!あいつにはハナから、お前を害する気など無いから!」
「そんな筈はない。『あのひと』がそうだった。あいつも同じく、きっとどこかで私のことなど、」
「忘れろ。『あっち』はお前と相性が最悪だっただけだ。そろそろ自分のこと許してやって、次に行け」
「次など無い。私はもう、恋などしない」

じりじりじり。空気沸かす日差しにそろそろ耐えられなくなる捻くれ者が、自分のアイスバーを早々に処理して、屋内へ続く扉に手をかける。
「狐の窓で本性を正直に開示するだけ、化け物の方がまだ誠実だろうさ」
取り残された宇曽野は、大きなため息をひとつ吐き、親友の背中を見送った。
「なかなか治らんなぁ。あいつの傷」
宇曽野が言った。
「次の恋でもすれば、いずれ癒えると思ってたが。あの堅物クソ真面目のお人好しめ」
あいつの初恋が「あっち」ではなく、あの後輩の方だったら、どれだけマシだったことか。
再度ため息を吐く彼を、夏の日差しはただただ刺し続けた。

7/2/2023, 6:05:37 AM

「まず1回、その日のお題のハナシ投稿するじゃん」
パリパリパリ。某所在住物書きは己の自室で、ポテチをかじり窓の外を見た。
「バチクソ悩んで投稿すんの。もっと良いネタ書けるんじゃねーのとか、もっと別の切り口とか角度とかあるんじゃねーのとか考えてさ。
長いこと修正して削除して追加して、新規で書き直して。それから投稿すんのに、終わった後で『こっちの方がイイんじゃね?』ってネタがポンと浮かぶの」
俺だけかな。皆一度は経験してんのかな。物書きは首を傾け、ため息を吐く。
窓越しに見えた景色は心なしか、気だるげであった。
「ドチャクソ時間かけて頑張ったハナシより、その後パッと出てスラスラ書いたハナシの方が良く見える現象、なんなんだろな……」

――――――

「先輩どうしたの。指なんか組んで」
「『狐の窓』だ」
「どゆこと」
「私のような捻くれ者に、懲りもせず引っ付いてくる。そんなお前の本性が、これで見えやしないかと」

今日で、1年の半分が終わったらしい。
例の呟きアプリがぐっちゃぐちゃの大惨事になってて、ろくにTLサーフィンもできないから、
昨日に引き続き、雪国の田舎出身っていう職場の先輩のアパートに、ちょっと時間を潰しに行った。
先輩の部屋は家具が少ない。かわりに堅っ苦しい本と、ひとつだけの底面給水鉢と、低糖質低塩分の手作りスイーツにお茶がある。
仕事の手伝いをすれば、あるいは材料費とか手間賃とか食材とか渡せば、先輩はスイーツとお茶を、たまにお昼ごはんや晩ごはんも、分けてくれる。
なにより防音防振の部屋だから、とっても静かだ。

「窓なら、私に向けないと見えなくない?」
「そうだな」
「見ないの?」
「見なくたってお前がアイスティーにシロップ4個入れたのは分かる」

「ゼロカロリー万歳」
「適量にしておけ」

明日使う資料を作って、誤字脱字の確認を手伝って、今日の手伝いはそれで終わり。
お礼に貰ったのは、小麦ブランのチョコクッキーと、オーツブランのアーモンドクッキー。それから台湾茶の茶葉で作ったアイスのモロッカン風ミントティー。
砂糖を入れて飲むんだって。
「……やはり分からない」
先輩は優秀だから、ひとりで仕事をパッパとこなせる。それを、ゴマスリと仕事の丸投げに定評があるゴマスリ係長に学習されちゃって、毎度毎度仕事を押し付けられてる。
私が居なくたって、先輩はその大量の仕事を、顔色ひとつ変えず捌いてしまう。それは知ってるけど、私が何か手伝うことで、先輩の負担が少しでも、減ったら良いな、とか。ちょっと思う。
「私より優しいやつも、面白いやつも、楽しいやつも。いくらだって居るだろうに」

「それは先輩の解釈でしょ?」
先輩は相変わらず、指と指を組んで、人さし指と中指の隙間から、私でも自分でもなく、どこかを見てる。
「私は先輩のこと、一番お人好しで真面目で、誠実だと思ってるし。引っ付いてて落ち着くけど」
ちょっとイタズラして、先輩の手首をとって指の隙間を――狐の窓とかいうのを私に向けると、つられて、先輩の顔がこっちに向いた。
「どう?見えた?先輩の言ってる『本性』とやら?」
狐の窓越しに見えた先輩は、キョトンとしてて、もしくは大型犬が驚いて思考停止してるみたいで、
ちょっと、かわいかった。

7/1/2023, 5:37:21 AM

「中国の『足首の赤縄』、ユダヤの『左手首の赤い毛糸』、ベツレヘム近郊の『墓所に巻いた赤糸』、ギリシア神話の『迷宮攻略の赤い糸』。それから日本の『藤原道長の指と阿弥陀如来像を繋いだ五色の糸』にシャーロック・ホームズの『無色の糸束の中に交じる緋色の糸』。『赤糸こん』てコンニャクまである」
恋愛だけじゃなく、お守りとしての赤糸もあるのか。某所在住物書きは本棚の本とスマホの画面を行き来しながら、「赤い糸」のネタを探していた。
「赤い糸ラーメンに、赤い糸ビール、赤い糸入りペアジュエリーまであるぜ。何でもあらぁな」
赤糸唐辛子の画像を見ながら物書きはため息を吐く。
――で、どれをネタにして書こうか。

――――――

アリアドネの糸【アリアドネ―の―いと】
困難な問題・状況に対して、それを解決する正しい道しるべとなるもの、その比喩。
ギリシア神話において、アテナイの王子テセウスが大迷宮ラビュリントスを攻略する際、ミノスの王女アリアドネが、大迷宮攻略の道しるべとして、彼に一振りの剣と、麻の糸玉を手渡したことにちなむ。

なお一説には赤い糸。大迷宮攻略後、アリアドネは恋焦がれたテセウスと共にアテナイへ向けて船に乗ったが、デュオニュソスに激しく見初められてしまう。
テセウスとの恋は実らず、アリアドネはデュオニュソスの妻となった。

「ダメじゃん!『赤い糸』機能してないじゃん!」
「いや、すべての赤い糸が恋愛成就を意図した物というワケではないと思うが」

職場で長い付き合いの先輩が、レンタルで借りてるロッカールームに本を取りに行くって言うから、ついていってみた。
先輩のロッカールームは図書館だ。本専用倉庫だ。
「赤い糸は全部赤い糸だよ先輩。小指に結んで、運命のひとまで繋がってて、いつか出会わなきゃだよ」
「……お前『緋色の糸』って知ってるか」
「弾丸なら観た」
先輩のアパートの部屋は、ほぼほぼ全部が最低限だ。テレビも冷蔵庫も小さいし、ソファーもクッションも無い。最近オーブンレンジが増えたけど、大型家具っていう大型家具が全然無い。
まるで突然「明後日あたり夜逃げします」って言っても、ガチで可能そうな少なさだ。

その先輩が、それでも好きで集めてるらしいのが、いろんな学術書とか専門書とか、難しい系の図鑑とか。
「恋愛など、ドーパミンとコルチゾールと、頭のブレーキの鈍化が引き起こす本能だろう」
一番読みたい本だけ部屋に置いて、残りはこうやって、大きい大きいロッカールームに預けてるみたい。
「脳科学的に、恋は衝動だ。運命のようにあらかじめ、予約されているものではないと思う」
哲学、心理学、法律、犯罪心理学、科学、医学。
先輩の読む本は、娯楽が無い。私がいつも読んでる本と、先輩がいつも読んでる本は、どこも重ならない。

そんな娯楽皆無の大型ロッカールーム図書館に、『世界神話辞典』なんて本があったから、パラっと適当に開いて出てきたのが「アリアドネの糸」だった。
一説には赤い糸って。アリアドネはテセウスに恋をしてたって。それで別の神様が横取りしちゃったって。
おい赤い糸仕事しろ(※素人の意見です)

「赤い糸。あかいいと、ねぇ」
目当ての本をスポスポ抜いて、かわりに戻す本をポスポス戻して。用事が終わったらしい先輩が言った。
「……私の糸は首絞め糸だったんだろうな」
ほら、帰るぞ。私の背中を押す先輩が、すごく小さな呟きを吐いたけど、
多分それは先輩の心をズッタズタにしたって噂の、初恋の人の話だったんだと思う。

「それこそ『緋色の糸』だったんじゃない?」
「えっ?」
「赤じゃないもん。緋色だもん」
「……それだと元ネタ的には私多分殺されるが?」
「なにそれ先輩死んじゃダメ」

6/30/2023, 2:22:26 AM

「入道雲、あるいは雷雲。積乱雲の別名らしいな」
積雲、わた雲が発達して、バチクソ高いとこまで達しちまった雲で、上部が小さい氷の結晶でできてるんだとさ。某所在住物書きは自室の本棚の一冊を取り出し、パラ見して言った。
「真夏に多い夕立ちの、前兆として稲妻が光りだすのは、雨降らせてるのも稲妻光らせてるのも、同じ『入道雲』だからっぽい、と」
で、この「入道雲」のお題の何がてごわいって、俺みたいなその日の天候とか出来事とかリアルタイムで追っかけて、続き物風の投稿してるタイプの場合、投稿日に丁度良くその雲が出てない可能性があるってアクシデントよな。物書きは空を見上げ、息を吐き、
「入道雲『っぽい形』で、何かで代用するか……」

――――――

前回投稿分から続く、ありふれた日常話。
都内某区、某職場休憩室。どんより曇天に、鬱陶しいまでの湿度を伴った6月最終日の始業前。
雪国出身の捻くれ者と、その親友であるところの宇曽野という男が、ぐるぐる巻きの低糖質ソフトクリーム片手に語り合っている。

「お前のこと、一昨日あの稲荷神社で見たぞ」
「稲荷神社のどこで。証拠は」
「あそこのデカいビオトープのホタル。見て感動して後輩から電話が来て。ビビって飛び上がってた」
「ちがう」
「痛い図星を突くとお前は必ず、まず『ちがう』だ」

自分のようなカタブツが、夏の光の数十数百に、少年少女の如く感激するのは「解釈に相違がある」。
昔々の酷い失恋、初恋相手に刺された傷が、未だに捻くれ者の魂と心の深層を蝕んでいる様子。
チロリチロリ。ソフトクリームを舐めては、懸命に友人の証言を否定しようと努力している。
捻くれ者の健気な照れ隠しと懸命な抵抗が、親友として痛ましくも少々微笑ましく、宇曽野は笑った。

「面白い話を教えてやろう」
宇曽野が言った。
「あの神社、噂ではキツネに一千万渡すと、神社の祭神のウカノミタマが降りてきて、『何か』、例えば予言だのご利益だのを授けてくれるんだとさ」
実際、その予言目当てと思われる政治家の目撃情報が、たまに呟きに上がってるぞ。
ニヤニヤ。笑いながら話す彼を、捻くれ者はジト目で凝視して、白いソフトクリームをチロリ。
「『いっせんまんえん』?」
どこかで聞いたフレーズだ。メタな発言が許されるなら、おそらく「6月19日」の「13時02分」。
潰れたクリームのツノは平坦に広がり、その形は今日見当たらぬ夏の積乱雲――入道雲のようであった。
「『キツネ』?」

「所詮根も葉もないゴシップだが、あそこが由緒正しい古神社なのは事実だ。10円でも100円でも突っ込んで、何か願掛けしてくれば良いんじゃないか?」
「何かって、たとえば」
「無病息災。商売繁盛。良縁祈願。『職場の後輩と近々パートナーとして結ばれますように』」
「何故そこでウチの後輩を出す。そもそも彼女、私のことなど、何とも」
「にぶいなぁ。お前もお前の後輩も」

式には呼べよ。スピーチくらいは引き受けてやる。
軽く笑い飛ばす宇曽野は自分の白を片付けて、じき始業開始であるところの己のデスクに戻っていく。
「誰がもう恋などするか」
予想外に量の多かった入道雲を、なんとか短時間で解消しようとした捻くれ者。
大口で塊を崩し、強引に喉に通して、
「……ァ、がっ……、つめた……!」
それが食道を通り胃へ落ちる過程で、地味な氷冷に苦しんだ。

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