「考えてみりゃ当然のことなんだろうが、今更、日本のどの地域に居るかで、日の出と日の入りの時刻が違うって知ったんだわ」
今回の題目、「日差し」の3文字をどう自分の投稿スタイルに落とし込むか。苦悩して葛藤してネタが浮かばず、己の加齢による頭の固さを痛感した某所在住物書きである。
「スマホの天気予報見たんよ。例えば今日は、札幌なら4時丁度に日が昇って19時18分に沈む。対して東京は4時半日の出、19時1分日の入り。沖縄は5時40分に19時26分だとさ。同じ7月3日でも、日差しの出る時間こんな違うのな」
日の出時刻、日の入り時刻の違いで、何かハナシのネタが降りてきたりしないかって。少々期待したんだがな。どうにも難しかったわな。
物書きはうなだれて、窓の外を見た。
――――――
7月初週、最近の都内某所、朝の某職場屋上。
早朝の、気温だけは比較的快適な曇天を、焼き払いにかかる直前の直射日光の下。
7時過ぎで既に26℃、最高気温34℃予報の日差しは、「熱線」の語感が相応しく感じられる気配。
「あっはっは!お前、おまえ、狐の窓?!」
パンパンパン。暑さ払うサイダー味のアイスバーを片手に、明るく笑い飛ばす男が、親友たる寂しがり屋な捻くれ者の背中を叩いた。
「狐の窓で、人間の本性なんぞ、分かるかよ!それこそお前お得意の脳科学と心理学の出番だろう!」
分からなかったのか、分からなかったんだろうな!笑いのツボに入ったらしい男、宇曽野は、捻くれ者の生真面目と堅物と、治癒遅い失恋の傷を再認識した。
「それで、それでお前、結局どうしたんだ昨日。その後輩とは。『面白くもない捻くれ者の自分に引っ付く後輩の本性が怖い』って、狐の窓の真似事したら、逆にその窓越しに目が合って?見えたのは何だった?」
「……なにも。ただのいつもの後輩だ」
「だろうな!あいつにはハナから、お前を害する気など無いから!」
「そんな筈はない。『あのひと』がそうだった。あいつも同じく、きっとどこかで私のことなど、」
「忘れろ。『あっち』はお前と相性が最悪だっただけだ。そろそろ自分のこと許してやって、次に行け」
「次など無い。私はもう、恋などしない」
じりじりじり。空気沸かす日差しにそろそろ耐えられなくなる捻くれ者が、自分のアイスバーを早々に処理して、屋内へ続く扉に手をかける。
「狐の窓で本性を正直に開示するだけ、化け物の方がまだ誠実だろうさ」
取り残された宇曽野は、大きなため息をひとつ吐き、親友の背中を見送った。
「なかなか治らんなぁ。あいつの傷」
宇曽野が言った。
「次の恋でもすれば、いずれ癒えると思ってたが。あの堅物クソ真面目のお人好しめ」
あいつの初恋が「あっち」ではなく、あの後輩の方だったら、どれだけマシだったことか。
再度ため息を吐く彼を、夏の日差しはただただ刺し続けた。
7/2/2023, 10:38:33 PM