かたいなか

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6/8/2023, 2:57:14 PM

「岐路『に立つ』、岐路『に差し掛かる』、岐路『に直面する』。このあたりがメジャーか」
てっきり今日は「このお題で何を書けと……」的な爆弾が来ると予想してたが。ありがてぇ比較的書きやすいお題が来たわ。某所在住物書きは通知の文字に安堵し、それからため息を吐いた。
「岐路」といえば大抵何か大事な、あるいは思い2択である。
「……個人的な話をするなら、過去投稿分多くなってきたし、持ちネタのシリーズごとに完全自分用でポイピクにでもまとめ作るか、やめとくかの『岐路』には立っちゃいる」
まぁ、どうせ面倒だから作らんが。物書きはガリガリ首筋をかき、再度息を吐いて……

――――――

己の食事、嗜好品、消耗品等の世話を己自身でしている方なら、一度程度は経験済みであろうケース。
都内某所、茶葉専門店での一幕。

(あれ)
話の主人公たるこの寂しがり屋。
(ストック無くなってたの、どれだった?)
職場ではコーヒーを飲むわりに、根っこは大学の教授をきっかけとして茶を好む急須派ティーポット党。
味の違いで3種類程度緑茶の茶葉をストックしていたが、そのうちの1種類がじきエンプティー。
食料品の買い出しついでに、ひいきにしている茶葉屋を訪れたのだが。
無くなりそうなのはどの1種類であったか。選択と決断の岐路に直面している。

「たまにハーブティー冒険してみます?」
由緒あると思しき稲荷神社の近所に店を構える茶屋は、紅茶に台湾茶、漢方茶から玄米茶まで、なかなか豊富なラインナップ。
稲荷神社のイメージにあやかってか、髪の長い女店主は、たまに子狐を抱えて店頭に立つ。
「台湾茶は、個人的にはホットをおすすめしてます」
大抵子狐は寂しがり屋を見つけると、お前は犬かと言わんばかりにブンブンブンと尻尾を振り、くぅーくぅー鳴いてはべろんべろん寂しがり屋の唇を舐めようと、首を鼻先を伸ばしてくる。
「ほうじ茶は……あぁ、茶香炉お持ちでしたね。あれはほぼ、ほうじ茶製造器ですから」
「大事なお得意様」のことを、覚えているんですよ。店主は子狐のエキノコックスにも狂犬病にも冒されていない安全性を説明しつつ、寂しがり屋に全力で甘える子狐の頭をなでた。

(狭山は、先週買った。違う)
緑茶並ぶ商品棚の前に立ち、寂しがり屋は目を細め唇を固く結んで、可能な限りで己の所有する茶葉の記憶を引き出す努力をした。
(川根か知覧だ。どちらかが、丸々1袋残ってる)
正解を購入すればメデタシメデタシだが、逆を買っても手付かずのストックが増えるだけである。
己が今買うべきはどちらであったか。長考に寂しがり屋の額はシワが寄り、目は更に細められた。
(どっちだった……?)

いっそ、一度茶葉の在庫を確認してから、再度後日店に来るのも手。
寂しがり屋は購入すべき茶葉の特定をとうとう諦めて、何も買わず、店主に会釈だけして帰ろうとする。
それを許さぬのがニヨリ不敵に笑う店主である。
「お得意様」
季節もの特集の棚から茶葉の袋をひとつ取って、店主が慈愛とも勝利宣言ともとれる笑顔で言った。
「もうだいぶ暑いですし、川根か知覧かではなく、この水出し特化の茶葉、という選択もありますよ。

保存用のお茶缶が足りないようでしたら、せっかくですし、綺麗な物がございますからご一緒に。
お安くしますよ。お茶缶セットであれば。今日だけ」

6/7/2023, 2:41:29 PM

「『明日世界が終わるなら』みたいなお題なら、先月書いたな。『明日終わる店』の話ってことで」
今回は何終わらせようか。某所在住物書きは過去投稿分の物語をスワイプで探しながら、ため息をつき、物語の組み立てに苦労している。
6月3日頃の「失恋」のお題から4日連続、「職場の先輩が昔酷い失恋したらしい」という物語を引っ張ってきた物書き。5日目も「明日終わる恋愛の世界で誰かと」などと書き始めては、きっと飽きるであろう。

「……ソシャゲの世界の終わり、サ終に、誰かと?」
そういえば某DiVEが世界終了発表してたな。
物書きは考えるに事欠き、別の話題に逃げた。

――――――

最近最近の都内某所、稲荷神社に住む子狐は、不思議なお餅を売り歩く不思議な子狐。たまに「誰か」の夢を見ます。
それは神社にお参りに来た誰かの祈り。お賽銭を投げ入れた誰かの願い。お餅を買った誰かの嘆き。
実在した過去の場合もあれば、いつか来てほしい未来のときもあります。
今夜の夢は、前者の方。中でも何かが「終わる」日の詰まった、欠片と欠片の夢でした。

『来月で、辞めたいと思っております』
ひとりの偉そうな人間が、こちらを向いているごっちゃとした部屋で、誰かがおじぎをしています。
偉い人の座る椅子の近く、テーブルの上には、何か封筒がちょこんと置いてありました。
『この世界で仕事させて頂いてまだ短いですが、私には合わないなと気付きまして。終わりにしようと』
難しい言葉ばかりで、小狐にはほぼバツバツマルマルの記号文字。それより窓の外の桜が気になります。
『今月いっぱいだけ、一緒によろしくお願いします』
きっと、フキの季節です。小狐はフキの肉詰めが食べたくなってきました。

『呟き見た?サ終の告知。9月だって』
場所も、時も「誰か」も変わって、初夏。
目の前のオバチャンが、寂しそうな顔をしています。
『あと3ヶ月で終わっちゃう。ホーム画面、ガチャで初めて引いたSSRの子にしようかなって』
子狐はオバチャンの近くに、しっとり汗をかいたコップと、その中を満たす何かの飲み物を見つけました。
きっと、甘い何かです。小狐は飲み物そっちのけで、かき氷も食べたくなってきました。

『本当に変えるのか。よくも、まぁ……』
またもや別の場所。窓の外はチラチラ散り落ちる紅葉と夕暮れ。どうやら秋のようです。
『手続きは前々からしていた』
秋は栗に魚にキノコ。美味しいものばっかりです。
『申立てが通れば、今までの「私」と、私の世界はそれで終わり。……終わったら、お前の職場にでも、世話になろうかな』
どこかに、美味しいの映ってないかな。人間同士の話などそっちのけ。小狐は食べ物探しに夢中です。

『あー。あと30分で今年が終わる。2022年の世界が終わっちゃうよ先輩』
最後は夜道。餅売り子狐のお得意様が、誰かとふたりして、どこかを目指して歩いています。
『今年が終わろうと来年が来ようと、さして変わらないだろう』
空からは、積もらぬ雪がチラリ、チラリ。
『今年も来年も先輩がおいしいごはん作ってくれるってコト?』
『私はお前のシェフか何かか』
どうやらこのふたり、何か食べに行く様子。
まだ知らぬ美味を見てやろうと、子狐はこの、終わった冬の断片に、トコトコついて行きました……

6/6/2023, 11:23:24 AM

「『何の』最悪な話を書くか。なんなら、言葉付け足せば最悪『を回避する』話なんかもアリよな」
最近比較的書きやすいお題が続いてて助かる。某所在住物書きは19時着の今日の題目を見て、安堵のため息を吐いた。
短い単語のテーマは、言葉を足したり挟み込んだり、己のアレンジを加えやすい。物書きはそれを好んだ。
とはいえ「比較的」書きやすいだけである。

「……個人的に昔のアニメで育ったから、『最も悪』とか理由無しに悪なやつをバッキバキに成敗する話とか、ちょっと書いてみたいとは思うわな」
まぁ、実際にその話を組めるかって言われると多分無理だが。物書きは再度息を吐き、天井を見上げる。

――――――

「あいつがネット恋愛?『あいつ』が?!はぁ!」
時をさかのぼること1日前。メタい話をすると「前回投稿分」。どうも先輩は、先輩の心をズッタズタのボロッボロにしたクソな初恋のひとが夢に出てきて、週の始めからメンタルをごっそり持ってかれたみたい。
「俺よりあいつ本人に聞いてみろ。確実にまず『ネット恋愛とは』からだ。説明している間に、あいつ、きっとポカン顔で、……くくっ」

で、根掘り葉掘り先輩に、聞いてたらポロっと出てきた秘密がコレ。「初恋さんは先輩の『名前』にたどり着けない」。
名前を知らないってこと?結婚して名字変わったワケでもない先輩が?
それともマッチングアプリか何かでネット恋愛でもしてた?あの真面目で誠実な先輩が?
って悶々し過ぎて日が暮れて、朝が来て。
こっそり、先輩と初恋さんの大事件のことを知ってそうな、隣部署の親友さん、宇曽野主任に聞いてみた。
『先輩って初恋さんとネット恋愛でもしてたの?』

「安心しろ。『名前』にたどり着けないのは事実だが、かといって名前を伏せて風俗だの出会い系だの、ネットデートだのしてたワケじゃない」
バチクソにツボってる宇曽野主任。口元に手を置くなりパンパンパン膝を叩くなり。多分先輩がそういうことしてるの、想像中なんだと思う。
「あいつはただの純粋で誠実な生真面目だよ。今も昔も。お前の知ってるとおり」
ひとしきり笑った後、宇曽野主任は寂しそうな目で遠くを見た。

「『名前にたどり着けない』って、どゆこと」
「黙秘」
「今と昔で先輩の名前が違うとか?」
「黙秘だ」
「じゃあ、せめて先輩と初恋さんが別れた理由、」
「相性が最悪だった。それだけだ」
「『相性が最悪』?」
「相手に自分と同一の趣味を求めるか求めないか。自分に合わせることを望むか望まないか。恋人はアクセサリーか、自分の心を癒やした恩人か。相手への不満を裏垢で連投するか、その呟きに傷ついて折れるか」

ありきたりな失恋話さ。
片方は裏で毒吐いてでも恋を手放したくなくて、もう片方はその毒に耐性がマイナスだった。
相性最悪同士がくっついて離れた。それだけのこと。
宇曽野主任は淡々と、すごく淡々と語った。
「初恋さんは恋人を自分の鏡かアクセにするタイプで、先輩は恋人に恋人本人を見るタイプだったんだ」
初恋さんは飛び抜けた鬼畜でも酷いクズでもなく、普通にその辺にいる、「自分大好きで恋に恋してる系」だっただけかもしれない。
私がそれに気付いてポツリ言うと、宇曽野主任は小さく、肯定とも否定とも分からないため息を吐いた。

6/5/2023, 3:35:28 PM

「誰にも言えない『けど言いたくなる』秘密、誰にも言えない『けどガッツリバレてる』秘密、言えない『けど君には暴露する』秘密。言えない『まま時間が過ぎて時効になった』秘密ってのもあるだろうな」
拝啓✕✕様。アンタが俺の◯◯をバチクソにディスってもう△年ですが、俺はアンタの知らねぇ場所で、幸せに□□□しています。ざまぁみろ。
ひとつ思い当たるところのある某所在住物書き。中指を突き上げ、独善的な悪い微笑を浮かべている。
「……相変わらずネタは浮かべど文にならん」
ひとしきり自己中心的に勝ち誇った後、物書きは毎度恒例にため息をつき、物語組立の困難さと己の固い頭の岩石っぷりを嘆いた。

――――――

職場の先輩が、私と同じ時間に出勤してきた。
「今日の分の水出しを、仕込み忘れてな」
完全優等生な先輩には、ちょっと珍しいことだ。先週も先々週も先々月だって、先輩は大抵私の5分10分なんなら20分くらい前に席についてるのに。
「仕方ないからコンビニで氷とコーヒーを買って保冷ボトルに詰めてきた。それで時間のロスを」
自分はいつも平坦だって言ってる先輩の目も、口も、微粒子レベルで落ち込んで見えて、やっぱ珍しい。
「多分気温のせいだ。6月の頭に30℃とか、脳が茹で上がってしまう」
何か、よく分からないけど「何か」あったんだ。
そこそこ長い日数一緒に仕事してきた私には、その日の先輩は何か違って見えた。

「どしたの?」
「我らが仕事丸投げ係長様の思し召しで、先週の作業がガッツリ残っていてな。それを消化するのに手間取って、昨夜仕込みを忘れたまま寝てしまった」
「その話じゃなくて。朝しんどいことでもあった?」
「ちがう、別に朝何かあったわけでは」
「先輩痛い図星急に突かれると、まず『ちがう』って言うよね。寝坊した?」
「まぁ、結果としては、寝坊だな」
「先輩の心ズタズタにしたっていう鬼畜初恋相手さんでも夢に出てきた?」
「ちがっ、………所詮夢だ。現実であのひとが私の名前にたどり着ける筈がない」

「先輩の『名前』?」
「すまない。頼む。これくらいで勘弁してくれ」

あのひと。「あのひと」。先輩の「初恋さん」。
頭の中で繰り返す4文字は、なんとなく気分が悪い。
初恋さんのことを知ってるのは、多分先輩自身と、先輩の親友っていう隣部署の宇曽野主任だけ。
先輩の初恋のひとで、先輩の心を酷いくらいボコにして、それで、別れてそれっきりっていうひと。
名前も教えてくれない。どんな性格のひとだったかも分からない。ちょっとマニアックだけど男か女かすらヒントが無い。ただ、「先輩の心をズッタズタにしたひと」。それだけ。
その先を聞こうとすれば、先輩はいつも、なんやかんやで拒否をして、全部秘密のままにする。
(名前に、たどり着けないって、なに)

初恋さんは、「先輩の『名前』」に、たどり着けない。先輩自身がボロ出しした新情報が、頭の中をぐるぐる回って離れない。
(初恋さんと別れてから名字変わったとか?でも先輩独身だよ?バツイチですらないよ?
じゃあ名前伏せたまま恋愛してた?なにそのネット恋愛かどっかの組織のエージェントみたいな状況?)

先輩、実は2個ほど、宇曽野主任以外誰にも言ってない秘密が存在する説。
その日の私はついついソレが気になり過ぎて、クソ上司のクソ係長を呼ぶ時に危なく「初恋係長」って言いかけて心拍数が爆上がりした。

6/5/2023, 5:29:48 AM

「どんな言葉を足したり挟んだりするかで、なんか色々書けそうよな」
たとえば「狭い『とは決して言えない』部屋」なら、少々強引だがデカい部屋の話もできるし。なんなら「絶対『狭い』と発言できない部屋」の話も組める。
某所在住物書きは今日も今日とて、スマホを見ながらうんうん悩み、天井を見上げている。
問題は頭の固さである。「書けそう」から「書ける」にさっぱり移行せぬ。

「……一般に『狭い部屋』と言われているアパートも、実際住んでみるとむしろ狭い方が住みやすいとか、落ち着くとかってハナシ、あるよな」
しまいには共感者の多そうな一般論をポツリ呟き、強引な題目回収に逃げた。

――――――

都内某所、某アパートの一室。ぼっちで住んでいる、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者は、自分の悲鳴の小さな声で目を覚ました。
約8年前の大失恋、捻くれ者の心をズッタズタのボロッボロに砕き割った「初恋のあのひと」が、
夢に出て、「何故逃げたの」と追求し、追いかけて追いついて肩を掴み、
そこで目を覚まし、文字通り飛び起きた。
(ゆめ、)
寝起きのとっ散らかった精神は不安に弱い。コルチゾールが悪さでもしたのか、手を当てれば、心臓が明らかにはやく胸を叩いている。

(夢だ)
そうだ夢だ。小さく頷く捻くれ者は、それでも動悸がおさまらず、心的トラブルの解決を嗅覚野に求めた。
(週始めから酷いものを見たな……)
小さなティーキャンドルに火を灯し、日本版アロマポットとも言うべき茶香炉へ。
しばらくして香炉上部の皿まで熱が通り、茶葉が焙じられて香りを吐く。
煎茶や抹茶のそれとは違った穏やかさが、「お前が今住んでいるのは8年前の『あの狭い部屋』ではない」と、捻くれ者を優しく諭した。

職も、居住区も、スマホのキャリアもOSもすべて変えた。自分に繋がるものはすべて新しくした。
8年ずっと逃げおおせてきて、何故今頃居場所がバレようか。
そもそも表で笑顔を咲かせながら、呟きアプリの別アカウントで散々、ダメ出しとこき下ろしを吐き続けたひとが、わざわざそのダメ出し対象を8年追いかける筈があろうか。
(そうだよな。追いかける筈が、あるものか)
ようやく精神の落ち着いてきた、雪国の田舎出身であるところの捻くれ者は、深く長いため息を吐き、

「ところで今日最高30℃じゃなかったか?」
飛び起きたときと同じ慌てっぷりで振り返り、冷蔵庫を見た。
「いけない。昨日水出し仕込み忘れた。今日職場でどうやって暑さをしのぐ……?」
アイスティーを作るにも、起きた時刻が悪すぎる。
コンビニで氷と飲み物を必要量調達するしかないが、それにしたって通勤ラッシュ中の来店と購入と保冷ボトルへの詰め替えで時間がかかる。
捻くれ者は急いで支度と朝食を済ませ、折角夢に出てくるならもう少し早く起こしてくれれば良いものをと、昔己の心を壊し尽くした相手に胸中で愚痴った。

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