かたいなか

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「『明日世界が終わるなら』みたいなお題なら、先月書いたな。『明日終わる店』の話ってことで」
今回は何終わらせようか。某所在住物書きは過去投稿分の物語をスワイプで探しながら、ため息をつき、物語の組み立てに苦労している。
6月3日頃の「失恋」のお題から4日連続、「職場の先輩が昔酷い失恋したらしい」という物語を引っ張ってきた物書き。5日目も「明日終わる恋愛の世界で誰かと」などと書き始めては、きっと飽きるであろう。

「……ソシャゲの世界の終わり、サ終に、誰かと?」
そういえば某DiVEが世界終了発表してたな。
物書きは考えるに事欠き、別の話題に逃げた。

――――――

最近最近の都内某所、稲荷神社に住む子狐は、不思議なお餅を売り歩く不思議な子狐。たまに「誰か」の夢を見ます。
それは神社にお参りに来た誰かの祈り。お賽銭を投げ入れた誰かの願い。お餅を買った誰かの嘆き。
実在した過去の場合もあれば、いつか来てほしい未来のときもあります。
今夜の夢は、前者の方。中でも何かが「終わる」日の詰まった、欠片と欠片の夢でした。

『来月で、辞めたいと思っております』
ひとりの偉そうな人間が、こちらを向いているごっちゃとした部屋で、誰かがおじぎをしています。
偉い人の座る椅子の近く、テーブルの上には、何か封筒がちょこんと置いてありました。
『この世界で仕事させて頂いてまだ短いですが、私には合わないなと気付きまして。終わりにしようと』
難しい言葉ばかりで、小狐にはほぼバツバツマルマルの記号文字。それより窓の外の桜が気になります。
『今月いっぱいだけ、一緒によろしくお願いします』
きっと、フキの季節です。小狐はフキの肉詰めが食べたくなってきました。

『呟き見た?サ終の告知。9月だって』
場所も、時も「誰か」も変わって、初夏。
目の前のオバチャンが、寂しそうな顔をしています。
『あと3ヶ月で終わっちゃう。ホーム画面、ガチャで初めて引いたSSRの子にしようかなって』
子狐はオバチャンの近くに、しっとり汗をかいたコップと、その中を満たす何かの飲み物を見つけました。
きっと、甘い何かです。小狐は飲み物そっちのけで、かき氷も食べたくなってきました。

『本当に変えるのか。よくも、まぁ……』
またもや別の場所。窓の外はチラチラ散り落ちる紅葉と夕暮れ。どうやら秋のようです。
『手続きは前々からしていた』
秋は栗に魚にキノコ。美味しいものばっかりです。
『申立てが通れば、今までの「私」と、私の世界はそれで終わり。……終わったら、お前の職場にでも、世話になろうかな』
どこかに、美味しいの映ってないかな。人間同士の話などそっちのけ。小狐は食べ物探しに夢中です。

『あー。あと30分で今年が終わる。2022年の世界が終わっちゃうよ先輩』
最後は夜道。餅売り子狐のお得意様が、誰かとふたりして、どこかを目指して歩いています。
『今年が終わろうと来年が来ようと、さして変わらないだろう』
空からは、積もらぬ雪がチラリ、チラリ。
『今年も来年も先輩がおいしいごはん作ってくれるってコト?』
『私はお前のシェフか何かか』
どうやらこのふたり、何か食べに行く様子。
まだ知らぬ美味を見てやろうと、子狐はこの、終わった冬の断片に、トコトコついて行きました……

6/7/2023, 2:41:29 PM