かたいなか

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6/3/2023, 3:15:59 PM

「『何』に対する失恋か、失恋に至る『前』を書くのか失恋したその『後』を書くのか。いっそ失恋『した際に役立つかも知れない情報』でも公開するのか。今回もアレンジ要素豊富よな。ありがてぇ」
まぁぶっちゃけ俺ぼっちなので。恋とはちょっと縁遠いので。某所在住物書きは自慢でも自虐でもない、フラットなため息を吐き、長考に天井を見上げた。
チラリ見たのは己の財布。じっと見つめ、息を吐く。
「福沢諭吉に熱烈ラブコール送ってるが、物価高でフられ続けて全然貯まりゃしねぇ、ってのはベタ?」

――――――

星の数だけ恋があり、失恋もあろうかと思います。
お肉を食べてケロっと前を向けたひとも居れば、泣いて泣いて長く傷が残るひとも居るかと思います。
これからご紹介するのは昔々の失恋話。人間嫌いで寂しがり屋な捻くれ者の、若気の至りなおはなしです。

「珍しいな。こんな時間に会うとは」
年号がまだ平成だった頃の都内某所。宇曽野という男がおりまして、捻くれ者の友人でありました。
「何かあったのか。俺が聞いても構わん話か」
それは日付が変わって間もない時間帯。場所は自宅近所の深夜営業対応カフェ。
大きなキャリートランクと一緒に、頼んだコーヒーに口もつけず、額に組んだ手を当て深くうつむく捻くれ者を、宇曽野は見つけて、相席しました。

「宇曽野」
泣き出しそうな声で、捻くれ者がぽつり聞きます。
「お前も裏で、私を指さして、笑っているのか」
ただ事じゃない。宇曽野はすぐ気付きました。
どうやら重傷のようです。致命傷かもしれません。
「そう疑った経緯は?」
ひとまず話を聞こう。宇曽野は冷えきったコーヒーを一気飲みして、同じものを2個頼み直しました。

「分からなくなった」
「何が。俺が?」
「お前も。あのひとも。皆。みんな」
「『あのひと』ってあいつか。お前に一目惚れして、お前自身も惚れた初恋の。どうした」
「本心を見つけたんだ。呟きの、別アカウントを。
私に笑顔をくれた、『好き』と言ってくれた裏で、正反対の呟きをしていた。……『頭おかしい』だとさ」
「そうか」
「『地雷』って、なんだ。『解釈違い』って何に対する解釈だ。どうして、本心では嫌いなのに、私を好きな演技などするんだ」
「そうだな」
「もう、疲れた。もう恋などしない。もう……人の心など、良心など信じない。人間など……」
「疲れたか。だろうな」

要するに、失恋か。
新しく届いた、湯気たつコーヒーに口をつけて、宇曽野は理解しました。どうやらこの捻くれ者は、真面目で根の優しい雪国出身者は、遅い初恋の相手に心をズッタズタのボロッボロにされてしまったようです。
きっとアパートも職場も全部「清算」して、トランクひとつで区を越えて、夜逃げしてきたのでしょう。
「新しい部屋は?もう決めてあるのか?」
やめろ。優しいふりをするな。
宇曽野の気遣いの申し出に、捻くれ者は小さな小さな、悲しい声で懇願します。失恋が相当心に響いたらしく、少し触れば割れ砕けそうな気配でした。

その後なんやかんやあって、捻くれ者は新しい職場と新しい部屋で再スタートをきり、後輩に朝飯をたかられたり水出し緑茶をシェアしたり、そこそこ穏やかな失恋後ライフを送ることになるのですが、
その辺に関しては、過去投稿分参照ということで。
おしまい、おしまい。

6/2/2023, 10:14:59 PM

「ありがてぇ、エモ成分少なめの単語タイプか!」
てっきり今日は、もっと文章長めのバチクソエモエモなお題が来ると踏んでたんだが。
某所在住物書きはスマホの通知画面を、示されたその日の題目を目でなぞり、予測を外れた漢字2文字に安堵のため息を吐いた。
「『お金に』正直。正直『に試験の赤点申告』。
『怒らないから』正直『に挙手しなさい』。
アレンジし放題よな。シンプル万歳」
まぁ、アレンジが容易であることと、そこから物語を書くことが簡単であることは、イコールじゃないワケだが。物書きは再度息を吐き、頭をガリガリ掻く。

――――――

「正直」と聞いて、思い浮かぶひとがいる。
正直者という正直者ではない。でも確実に、誠実ではあるし、他者に優しさを持てるひと。
雪国の田舎出身だという職場の先輩だ。

「おい。起きろ。寝坊助」
私が働いてる部署に、自分のことを「人間嫌いの捻くれ者」って言う、真面目で優しい先輩がいる。
「朝メシの準備ができてる。レーダーでは11時付近には雨雲が薄くなるようだから、その頃を目安に帰れば比較的濡れない筈だ」
私が梅雨シーズンでメンタルダウンしてる時に、差し入れで、水出しのお茶と低糖質お菓子をサッと出してくれる先輩だ。
昨日みたいに雨が酷くて、かつクソ上司からの小さなハラスメント大量投下が重なって、自分のアパートまで帰る気力も失せちゃった時は、
少しの材料費と水道光熱費を払えば、ごはんとお茶とスイーツ付きで、泊めてくれる先輩でもある。
「こんなカタブツの部屋に、休日に長時間も居たくないだろう。道中気をつけて帰れよ」

面倒見が良くて、仕事もできる。なんならごはんも美味しいやつ作ってくれる。「人間嫌い」と言ってるくせに、やってることが真逆なひと。
噂ではこんな先輩の心を「解釈違い」だ「地雷」だってズッタズタにした贅沢な初恋さんがいたらしい。
きっとその初恋さんのズッタズタが深過ぎて、先輩自身、自分の優しさに正直になり切れないんだろうなと、個人的に推理してる。
根は善い人なんです(事実)
心の傷のせいで正直が怖いだけなんです(推測)

「朝ごはん何?」
「軽くオートミール入りのポトフを。食欲が無くても食えるように」
「それ『軽く』で作れるレシピじゃないと思う」
「重かったか?なら昼メシ用にでも持っていけ」
「そっちじゃなくて。手が込んでるってハナシ」

着替えて諸々整えて、座って、ポトフの静かな湯気を心の美顔スチーマーよろしくいっぱいに吸い込む。
自分の温かさに正直になれない、「自称」人間嫌いの捻くれ者な先輩が作ってくれたごはんは、舌にのせて喉に通すと優しい味がした。
「おいしい。普通におかわりできる」
「当店味変の追加オプションとして、チーズ卵胡椒等各種ご用意しております」
「チーズ万歳。チーズください」

6/1/2023, 1:46:09 PM

「北海道に梅雨入り発表が無いってのは、そこそこ有名なハナシよな」
ようやくエモネタ以外のお題が来た。某所在住物書きはため息を吐き、椅子に深く体重を預けた。
「あと梅雨といえば、何だ。アジサイ?てるてる坊主?ちょっと前バズった『カエル』?」
なんだかんだで自然系天候系の連想が多いけど、なんか変わり種になりそうな発想無いもんかな。
物書きはあれこれ考え、うんうん唸って、
「『つゆ』違いで『麺つゆ』……いや書けねぇ」
ひとりで勝手に飯テロを妄想し、勝手に自爆してグーと腹を鳴らした。
「明日の昼メシ、そうめんにでもするか……」

――――――

6月になった。
去年度まで部署内で猛威を振るってたオツボネ係長が去年度いっぱいで左遷になって、
かわりに来た新係長は課長にゴマスリして部下に大量に仕事を丸投げするようなゴマスリ係長で、
上記オツボネにいじめられた新人ちゃんが、5月いっぱいで辞めてった。
そんな私のとこの職場だ。新しい年度が始まって、やっと2ヶ月過ぎて、そして6月になった。
つまり梅雨だ。
東京はザ・6月、ザ・梅雨なスタートをきった。

「無事か」
梅雨シーズンは大嫌いで、ちょっと好き。
「無理をするな。つらいなら、少し私に回せ」
湿気で髪型がヤバくなるし、なにより雨で服が汚れる。それから気のせいかもしれないけど、気分がバチクソ沈む日が多くなる。大っ嫌いだ。
「私が手を付けても良い作業は?ソレとコレか?」
でも大抵この梅雨シーズンから、暑さ対策と称して、雪国の田舎出身という先輩が職場に水出しのお茶を持ってくる。それを私にシェアしてくれる。

「勝手に持っていくぞ。ミスが出たら私を恨め」
今日も休憩室のプラスチックグラスに氷を入れて、おやつの低糖質クッキーと一緒に差し入れしてくれた。
だから、梅雨シーズンはちょっと好きだ。

「今日のお茶なに?」
「あさつゆの、……緑茶のただの水出しだが」
「『あさつゆ』っていう品種?」
「そう。深蒸しだ。鹿児島産だったかな」
「この『つゆ』は好き。『梅雨』は嫌いだけど」
「お気に召して頂けて、何より」

気分が上がるまで、少しそれで休め。
付け足して私の仕事ちょっと取って、自分の席に戻る先輩。自分の水筒のフタを開けて、自分用の氷入りマグカップに、緑色の「つゆ」をとくとく注いでいく。
「お茶ありがと。飲んだら仕事戻るね」
ペットボトルのお茶と少し違う、先輩からシェアしてもらったお茶を、そのグラスの中の氷を少し揺らしてカラリ鳴らすと、
先輩は別段こっちを見ることなく、多分お礼不要の意図で、私に右手を小さくプラプラ振り返した。

5/31/2023, 1:38:49 PM

国内某所、住所不詳。とあるぼっちな一室で、事実と空想が半々なワンシーン。
架空の先輩後輩と、不思議な餅売る子狐と、元物書き乙女の日常を主に持ちネタとする物書きの、以下はいわゆる三度目の執筆裏話。

「エモが……エモが多過ぎる……!」
今日も難易度エクストリームハードの題目である。
某所在住物書きはこの手のジャンルが不得意であるがゆえに、この頃は物語を少し書いて消してまた書いて消してを数時間繰り返している。
「まずキャラAとBを用意します、Aが『天気』の話題をBに提示します、しかしBにとってこの話題は重要ではありません。さぁBが『僕が話したいのは』と突き付けてくる話題Cは何でしょう」
アレか?「てんき」違いで「転記」の話でもすりゃ良いのか?
うんうん唸り、悩み、苦しんで悶えた末に、物書きはため息をついていわく、
「……知らん」

もういい。今日はパス。
天気の話も転記ミスのエピソード披露もせず今日は寝る。『僕が話したいのは、何もない』。
匙を投げた医者、筆を放った物書き。
5月も残り1時間半を切ったところでアプリを閉じ、ベッドに乗って布団に潜り、部屋の照明を消す。
スマホで天気予報と地震発生履歴、それから僅かに夜のニュース等々を確認して、
「そもそも『天気の話なんてどうだっていい』ってセリフがでてくるシチュってどんなシチュ?」
結局、パスを決め込んだ筈の題目を引きずり、ダラダラ考察などを始めた。

悶々モヤモヤ。
今日も相変わらず、某所在住物書きは題目の高難度っぷりに頭を抱え、途方に暮れる。

5/30/2023, 1:47:44 PM

「何かから逃げる、『ように』、なんだな」
またまた今日も難問難題が飛んできた。某所在住物書きは恒例のごとく天井を見上げ、ため息を吐き、途方に暮れている。この頃のアプリの題目は難易度がエクストリームハードである。
「つまり、何かから逃げるように、『あるいは何かを追い立てるように』、みたいに逆のシチュエーションも執筆可能ってワケだ」
まぁ逃げるにせよ追うにせよ、遅刻に慌てて走るにせよ。物語の組み立てが至極面倒、もとい、困難であることに変わりは無いわけであるが。
物書きは首筋をガリガリ掻き、再度息を吐いた。

――――――

「ただ必死に走る」。これまた難しいお題ですね。
エモめに気取ったこういう物語はどうでしょう。
昔々のおはなしです。約8年前のおはなしです。
年号が平成だった頃の、夜の東京。終電間近の地下鉄目指し、大きなキャリートランクひとつを持ち、とある雪国出身の若者が、街を駆け抜けてゆきました。
目指すはその区の外の外。若者は5年ほど住み慣れた、ようやく慣れてきた土地に、その日限りで別れを告げるのです。

職場は今日で離職済み。
スマホはキャリアから電話番号まで総入れ替え。
今まで大事にしてきた食器も家電はすべて売却。
借りていたアパートも引き払い、若者が残したのは最低限の荷物と小さな花の鉢植えだけ。
トランクに収まるたったそれだけの荷物を持って、慣れぬ長距離を全速力で。

まるで、何かから逃げているようです。
事実として、実際に逃げているのです。
若者は魂の恩人と思っていたひとに、遅い遅い初恋を自覚した筈のひとに、心も魂も徹底的に打ち壊されて、底深い悲痛と苦しみを振り切るために、今日までのほぼ一切を捨てて離れるのです。

同い年。地方出身。転職を繰り返した寂しがり屋同士。都会の悪意と荒波に揉まれて擦り切れた若者に、そのひとは先に一目惚れして、その明るさで若者の傷を、少しずつ、確実に癒やしてくれた、筈でした。
人一倍真面目で誠実だった若者はある日見つけてしまったのです。そのひとの呟きアプリのアカウントを、いわゆる「裏垢」というものを。
「面白くない」、「解釈不一致」、「地雷」、「あいつ頭おかしい」。若者に対する本心からの評価を。
そのひとは若者に表で善良な明るい笑顔を咲かせながら、隠れて舌打ち毒を吐いていたのです。

(さようなら)
必死に走って走って、間に合った地下鉄に飛び乗り、若者は上がった息を整えて、夜逃げの相棒であるところのキャリートランクを抱きしめました。
もう恋などしない。もう、人の心など信じない。
それは雪国出身の若者が、心を氷点下に凍らせて、
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者となった瞬間でした。

そんな人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、8年後の現在、どんな職場の後輩を持ちどんな暑さにでろんでろん溶けているかは、メタい話をすると「過去投稿分参照」となるわけですが、
ぶっちゃけ辿るだけ面倒なので、「それはまた、別のおはなし」ということにしておくのです。
おしまい、おしまい。

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