かたいなか

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5/25/2023, 4:37:31 AM

「お題の意図はだいたい予想できる。『不安だった私へ。何事も問題ありません。万事良い方向へ進み終わりました』みたいなハナシを想定してるんだろ」
昨日の俺へ。不安はガッツリ的中しました一旦寝ても起きても全然ネタが浮かびません。素直に何でも良いので書きましょう。某所在住物書きはため息を吐き、一向に進まぬ、今回の投稿分の文章を眺めた。

「『不安だったけどハッピーエンドで終わったよ!』なんてお約束展開、多分遭遇したことねぇよ……」
ガチでそろそろ、お題無視の投稿かお題パスでお休みあたり、考えたほうが良いかな。
ガリガリ。物書きは今日も頭をかき、天井を見る。

――――――

リアル法則ガチ無視のおはなしです。難解なお題に対する苦し紛れなおはなしです。
都内某所の稲荷神社に、不思議な不思議なお餅を売り歩く二足歩行の小狐が、神社敷地内の一軒家に、家族で住んでおりました。
そこの一家の大黒柱、人間に化け某病院に勤め納税までしている父狐が、どうにもこうにも料理下手。
母狐の家事負担が少しでも軽くなるよう、買い出しゴミ出し役所手続き、掃除洗濯にハーブガーデンのお手入れも、そつなくこなす家事パパですが、
天は父狐に料理スキルを与えなかったらしく、煮ては煮溶けて吹きこぼし、焼いては焼け焦げまれに炭。
そのたびカンカン母狐に、仁王立ちと畳に正座で、食材の大切さをよくよく教え諭されるのでした。

それを子供ながらに見てられなくなったのが子狐。

「ととさん、ととさん、おこげどう?」
「大丈夫だよ」
「ホントに?ホントに大丈夫?」
「大丈夫。ほら、見てごらん」

今日も自分のお弁当を、自分でつくる父狐。
子狐コンコン、今日は父狐が母狐の前で正座しなくて済むように、ずっと隣で見ています。
どうしても、父狐の料理が不安なのです。
先週も、先々週も、その不安を抱いて、結局見て見ぬふりをしたところ、火災報知器が鳴ったのです。
あの頃の不安を今日繰り返さないため、コンコン子狐は心を子鬼にして、しっかり父狐を監視するのです。

結構強火なコンロの上には、油が跳ねるフライパン。消費期限間近の半額お肉がじゅーじゅー鳴きます。
「ととさん、火が、ちょっと強いよ」
「そうかい?かかさんは、いっつもこれくらいで、バーっとやっているよ」
「それは、かかさんだから、できるんだよ」

尻尾も振らず、耳もピーンと立て、じっと、真剣に、父狐とお肉を見つめます。
(真剣な目と口、かかさんに似たなぁ……)
ずっと見ているつもりかな。
父狐は子狐の瞳に、母狐の面影をじっと再確認して、
「ととさん!ダメ!けむり!ダメ!」
ギャンギャンギャン。視線を外したその間に、お肉を少し黒くして、子狐に吠えられたその結果、
般若の顔で仁王立ちの、母狐と目が、あいました。

拝啓。先週と先々週、父狐の料理に不安を感じた子狐へ。「自分がちゃんと見てなかったから父狐は料理を失敗したんじゃないか」と数分自分を責めた子狐へ。
君が見ても見なくても、父狐は料理を焦がします。一切気にせず安心して、元気に遊び母狐のおいしいごはんを食べて、すやすや幸せにお昼寝なさい。
おしまい、おしまい。

5/24/2023, 1:30:08 AM

「呪縛、……じゅばく、ねぇ」
「逃れられない」と聞いて、真っ先に浮かぶのなんて「にげられない!」系のイベントバトルとかじゃね?
ポテチとチョコを口に放りながら、某所在住物書きはスマホの通知画面を、そこに示された題目を見た。
「本能も、『逃げられない』っちゃ逃げられないか。あと『いいね』の数とかガチャの収集欲求?」
あと花粉症?アレも逃げられたら幸せよな?
物書きははたと気付き、己の部屋にあるマスクとティッシュの箱を見て――

――――――

私達の職場は、限りなくブラックに近いグレー企業なんだけど、「ブラックに近い」と言い得る確固たる理由が「目標ポイント」だ。
年度最初に、細長い紙っぺらが渡される。自分の名前と3〜4桁の数字が書かれてる。
その数字は、自分が客に今年度売るべき「商品」。
これをこの金額で売れば何ポイント、それをその金額で契約すれば何ポイント。
年度内にポイント分売り切れば優秀。次の年度まで、この、「目標ポイント」の仕事からは開放される。
「『目標』ポイント」だ。名目上、別に達成できなくたって、これが「目標」の筈だ。

私の職場の正社員の半数はこのポイントを集めきれずに上司から呼び出され、アレコレ言われ、精神的に追い詰められて、サイレントで給料に響いて。
辞めるなり、自腹で商品を買うなりする。

職場の言い分はスマートだ。「我々は自腹は強要していません」、「彼が、彼女が、自分から『これを買います』と言ったのです」。
それが1年、1年、また1年。この職場に居る限り、ずっとずっと続いていく。
これこそいわゆる、逃れられない呪縛だと思う。
お客様の中に呪縛解除専門家はいらっしゃいませんか(切実)
なんなら除霊師(労基)とか祈祷師(法律)とかいらっしゃいませんか(わりと切実)

「諦めろ。ここで働く限り、状況は変わらない」
昼休憩、テーブル挟んで向かい側でスープジャーを突っついてる先輩が、文字通りの諦め顔で言った。
「ノルマの強要、パワハラ、自爆、借金。今まで何度この手の問題が取り上げられてきたと思ってる。そのたび上は『コンプラを徹底して参ります』だ。それだけ。それで終わりさ」
嫌なら今のうちに職を変えろ。お前の年齢と力量なら、確実にまだ間に合うし、他で上を目指せる。
応援はする。アドバイスもできると思う。先輩はそう付け足して、またスープジャーを突っついた。

「先輩だって、」
「ん?」
「私と、あんまり歳変わらないじゃん。次探さないの?先輩だって絶対他に良い職場あるよ?」
「……おまえ私を何歳と勘違いしてる?」
「タメ。同い年」

「おないどし、」
「え、」
「そういえば、宇曽野のやつも、たしか私を」
「え?」

年齢不相応も、いわば逃れられない呪縛か?
しょんぼりでも、嬉しいでもなく、なんか単純に軽い衝撃を食らっただけっぽい、ノーマルなポカン顔で、先輩が俯いて、スープジャーをつんつん。
「さすがに年下ではないでしょ?」
先輩の顔を覗き込みながら確認すると、当の先輩は唇をゆるく結んで、数度まばたきして、
「どうおもう?」
少し興味本位に、でも乾いたように、笑ってみせた。

5/22/2023, 11:00:16 PM

「なんだ、『今日』の日はサヨナラじゃなくて、『昨日』へのサヨナラか」
19時着の題目を、チラ見して早合点した某所在住物書き。一部界隈にとってトラウマソングですらあるところの曲名を、スマホの音楽ライブラリで検索し、無駄にボーカル無し版など再生して無事自爆している。

「で。――昨日にサヨナラして、今日と出会うんじゃなく明日? 明日と出会うのに、サヨナラするのは今日じゃなく昨日?」
このお題、対象は「どこ」に居るんだ?
無駄にあれこれ捻くれて、今日も物書きは長考する。

――――――

「昨日にサヨナラする人」と「明日と出会う人」の2本立てを書こうとして挫折した某物書きです。折角なので、こんな苦し紛れはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に住む、仲良し家族は化け狐の末裔。
人に化ける妙技を持ち、不断の努力でチョコもタマネギもナッツも克服した、古き御狐、善き化け狐です。
ネズミを食わず、毎日ちゃんとお風呂に入って、エキノコックスを克服した、安心安全なモフモフです。
その一家の末っ子は、徳を積み人間社会を知る修行のため、不思議なお餅を売り歩くやんちゃっ子。
防犯強化の叫ばれる昨今、お得意様はひとりだけですが、週に1〜2回、ラインナップ豊富な高コスパお餅を、コンコン、売ってキラキラ硬貨をもらいます。
今夜はちょっぴり高額収入。ヒラヒラ野口さん1枚の売上です。せっかくなので、最近都内に越してきた魔女のおばあさんの喫茶店で、おいしいココアとスコーンをご馳走になることにしました。

「あら子狐ちゃん。いらっしゃい」
チリンチリン。子狐が喫茶店のドアを開けると、いつもの暖炉の前で、おばあさんが揺り椅子に座り、
「いつものスコーン、丁度焼きたてがあるわよ」
泣きそうな、あるいは今まで泣いてた人間と、丁度売買取引を終わらせたところでした。
「あのおばちゃん、なに買ったの?」
人間が店から出たのを確認して、コンコン子狐、魔女のおばあさんに聞きました。
「あのひとに必要な物よ」
おばあさんは、子狐にスコーンとクリームとジャムの載ったお皿を差し出して言いました。

「必要なもの?ごはん?おあげさん?」
「昨日の記憶と引き換えに、今日をすっ飛ばして明日まで寝ちゃうお薬。最近の若い子は、『リアルスキップ機能』がどうとか、『昨日の記憶にさよならバイバイ、俺は明日と旅に出る』とか言うわねぇ」
「今日すっ飛ばしたら、今日のごはん、食べられないよ。おいしいお肉、食べられないよ」
「それどころか、昨日食べたごはんも忘れちゃうわ」
「なんで?なんで、そんなおくすり飲むの?」
「それが必要なひともいるの。苦しくて」
「ふーん」

なんで昨日のごはんと引き換えに、今日のごはん全部すっ飛ばしちゃうんだろう。
食いしん坊なコンコン子狐、首をこっくりこっくり、傾けて頑張って考えます。
世の荒波も、悪意もあまり知らない子狐を、魔女のおばあさんは愛おしそうに、微笑して、穏やかに見つめておりました。

5/22/2023, 2:04:11 AM

「先月は『無色』、今月最初は『カラフル』。で、今回は『透明』か」
さすがにもう色系のお題は来ねぇよな。某所在住物書きは、透明な水を湯に変えて、カップ麺に注いだ。
「色彩学じゃ無色と透明は別。それは覚えた」
無色のお題の方、バチクソ悩んだな。物書きは回想し、濁りを伴う透明スープから麺をつまむ。

「英語では『湯』が『茹でた水』程度の熟語表記で、単体定義としての単語は無いんだったっけ?」
湯→英語では湯も水も「Water」→酒は般若「湯」。
酒の話とか書けねぇのかな。物書きは麺をすすり、突発的な熱の痛みに悶絶した。

――――――

今日5月22日は抹茶新茶の日らしい。
インスタ不具合で一部界隈ほか大多数がメッチャ大変そうだけど、その大混乱のトレンドに隠れて、チラッとだけ、呟きにその話が流れてきた。
東京都内は本日最高気温28℃予想。お茶なんて、ホットは飲んでられなそうな暑さ。ただ明日はバチクソ冷え込んで、20℃未満まで急降下するらしい。
「明日は仕事がはかどる」って、雪国の田舎出身な先輩が言ってた。東京育ちの私としては今の時期の17℃前後は肌寒いくらいだ。
令和ちゃんそろそろ温度管理資格取って(切実)
で、そんな5月22の職場の、いち場面の話。

「やぶきた品種。川根の新茶だ」
耐熱のカップに、休憩室の冷蔵庫から氷を失敬して2個4個。それと自前の、おひとり用耐熱ガラス急須。
「一般的な緑茶より渋みがあって、鼻に抜ける余韻がとても甘い。好きなやつは好きな味だな」
昼休憩、休憩室のテーブルに一式並べて、お弁当と一緒に私と先輩での突発的お茶会が開催された。
「個人的に濃い甘さの菓子、生菓子とか生クリーム系とかと、相性が良い気がする」
蒸らし終わって濃い緑から薄緑に変わった茶葉に、少しだけ温度の下がった熱湯を、ひたり、ひたり。
ガラスの急須の中で、熱い水の無色透明が、明るい黄色味の差す黄緑な有色透明に変わる。

「いつも淹れてくれるお茶の色と違う」
私がぽつり言うと、
「産地と品種が違う」
先輩は、お茶成分のよくよく染み出した急須の中を少しの水でちょっとだけ冷ましてから、
「私の部屋でお前に出しているのは、埼玉県の狭山茶とか、あさつゆ品種の知覧茶。それと静岡の本山」
その、明るい黄々緑色の透明を、氷入りのカップに、静かに注ぎ入れた。
「あちらの方が、味として甘いし、優しい気がする」
カラリ、カラリ、カラン。カップの中の氷がお茶の熱で溶けて、踊って、少しだけ小さくなった。

「なんで今日に限って?」
「お前が朝に『今日抹茶新茶の日だって』なんて送ってきたからだろう」
「そうじゃなくて。なんで今日に限ってカワネ?」
「突然だったからな。いつものを切らしていた。それで少々渋いが、新茶だし、自分用を」
「自分用。……へー……」

先輩、いつもはこういうの飲んでるんだ。
差し出されたカップをクンカクンカしてから、私はおそるおそる「渋い」というお茶を舌にのせて、
「あっ……想像以上に渋……あれ……甘……?」
キリッとした渋さの後に来た味に、鼻から抜ける確実な甘さに、そこそこ混乱してた。
「悪い。嫌いだったか」
「違う違う。不思議なだけ。大丈夫」
「弁当の前に食うか?生クリームどら焼き?」
「たべる。好き」

5/21/2023, 12:37:57 AM

「『ひと』を書きたい。……とは常々思ってる」
昨日が昨日で今日も今日。19時着の題目に対して苦悩悶々安定な、某所在住物書きである。
「理想としてはドキュメンタリーよ。舞台の箱作って。設定持たせたキャラ置いて。当日のお題をテーマに動いて生活してもらって、そのシーンを撮影する感覚で文字に起こすの」
まぁ、所詮理想だから、結果はご覧の通りだけど。己の投稿作品を読み飛ばす物書きの視線は完全にチベットスナギツネであった。
「……理想の俺が遠過ぎて困難」

――――――

わたくし後輩、ただいま先輩に、居酒屋の個室で絵描き物書き用語を解説しております。
「特に女性に多いと思うけど、結構絵師や物書きは、心に理想の『The She』と『The He』がいるの」

スン。 先輩がメモの手をボールペンを止めて、短く、小さく息を吸った。
何か突発的に、気になる疑問とかが出てきたときの、先輩のひとつのクセだ。最上級になると息吸った後に「ん?」って吐き首を傾ける。
「『その』、『彼女』で、『その彼』なの」
私は補足した。
「たとえば、リバのツー様でも総受けのツー様でもなく、総攻めのツー様。『その』ツー様なワケ」
案の定先輩は短い声と一緒に小首をかしげた。

「先輩は『先輩』で、確かにココに居るでしょ?」
きっかけは都内某所の某最近青コンビニに商品コーナーができ始めてる四文字良品。私は百均後の寄り道で、先輩は文房具の買い足し中だった。
真面目な先輩が良品のシンプルでシックなグッズを使ってるのが解釈一致過ぎ。
それでつい「なんか解釈一致」って言ったんだけど、途端、先輩は少し苦しそうな顔をした。
解釈の二文字が諸事情で過敏なアレルギーらしい。
「絵描き物書きは、先輩に、先輩自身がそうでもそうじゃなくても、『先輩は実は漫画が大好き』とか、『先輩は料理がとても上手』とか設定付けるの」

その先輩が「解釈は、どのような意味で使っているんだ」って聞いてきて。急きょ一緒に居酒屋でごはん。
そんな大げさな話でもないのに、先輩は良品で買ったメモ帳に私の話をメモして静かに聞き始めた。
かわいい。

「私の部屋に娯楽書籍が皆無なことは、お前も知っているだろう」
「そうそこ。本人が、事実として、どうであるか、場合によっちゃ無関係なの。その絵師の世界では先輩は『漫画が好き』で、『昔レストランでバイトしてた』『実は昔やんちゃっ子』の、『元精神科医』なの」
「はぁ」
「この設定リストだのイメージだのが、『解釈』。『解釈一致』は『自分が考えてる○○のイメージと一緒』って意味で、『解釈不一致』はその逆ってこと」
「『地雷』は?」
「『自分にとってその設定とかイメージとかは精神的アレルギーなので受け付けません』って意味」
「そうか。……そう」

トン、トン。
ボールペンでメモを静かに叩き、頑張って内容を理解しようとしてる先輩は、数度頷き、ため息をついて、
「……アレルギーで不一致なら、すぐ捨ててくれれば良かったのに」
ぽつり、私に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、寂しげに呟いた。

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