かたいなか

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5/14/2023, 11:50:46 AM

「今のタイミングじゃ『風』っつったら、俺が12日投稿分でネタにしたあのゲームだろ」
どうすんの、コンビニで退魔剣ピックか両手剣ピック狙ってグミ買ったら「風」切羽ピックでしたって実話でも出す?某所在住物書きは、水色だの黄色だのの小さなグミを爪楊枝で刺し、舌に載せた。グミを購入するのは久しぶり。大抵チョコか、クッキーである。
「そういや某鳥族、初出『風』タクだったな」
懐かしい。海出て帆を張ったの何年前よ。物書きは題目そっちのけで、当時の記憶にイカリを下ろし……

――――――

「さようなら。お元気で」
2023年から遡ること、約8年前。春一番の風吹いた頃、ひとりの人間嫌いが、初恋のひとの前から完全に姿を消しました。
「どうぞお幸せに」
スマホは番号もアカウントもキャリアも総入れ替え。グループチャットアプリは完全消去。
居住区も仕事場も、遠い遠い場所へお引っ越し。部屋は引き払い家具は売却。手荷物は、トランクひとつ。

以下はこの人間嫌いが辿った、遅い遅い初恋と、ありふれた失恋話。その一端です。

…――まだ年号が平成だった頃。花と山野草溢れる雪国から、ひとりの真面目で優しい田舎者が、春風吹くに身をまかせ、東京にやってきました。
田舎と都会の速度の違いについて行けず、最初の職場は木枯らし吹く前に解雇となりました。
まずは都会の生活に慣れようと、挑んだ次の職場は人間関係と距離感の向かい風に吹き倒されました。
置き引き、スリ、価値観相違、過密な人口。
4年で5回転職してやっと生活に慣れてきた頃には、優しい田舎者は人間嫌いな田舎者になっていました。
都会の悪意と時間の嵐に、揉まれて擦り切れてしまったのです。

『元気無いね。具合でも悪い?』
その人間嫌いに、構わず声をかけてきたのが、薫風吹くに身を任せて流れ着いた、5度目の転職先の同期。他県出身の同い年でした。

『実家から送られてきたの。食べる?』
そのひとは、田舎者の顔が好きなようでした。
『大丈夫大丈夫。見た目地味だけどおいしいから』
そのひとは、田舎者に一目惚れしたようでした。
『他県民でしょ。どこ出身?』
田舎者がどれだけ平坦な対応をしても、話しかけて、一緒に食事して、休日は都内散策に誘ってきて。
『こっちも4回目の転職なんだ。なんか似てるね』
そのひとは、田舎者の擦り切れた心を、ゆっくり紡ぎ直してゆきました。
『大丈夫。今つらいだけだよ。いつか、良くなるよ』

『あの……!』
気がつけば田舎者も、そのひとに恋をしていました。
『もし、良ければ、……良ければでいい、』
心拍数の明らかな上昇と、前頭葉のブレーキの緩み具合と、報酬系及び大脳辺縁系の馬鹿具合から、田舎者は人生初めての、遅い遅い初恋を自覚しました。
『日本茶と和菓子の、美味い店を見つけたんだ。……良ければ、今週の……土曜日にでも』

自分の心を癒やしてくれたこのひとに、恩返しがしたい。この人が幸せになるなら、自分のすべてを差し出しても構わない。
優しさを取り戻し、人間嫌いの寛解しつつあった田舎者は、当時、この幸せな時間が今後ずっとずっと流れていくのだと、本気で思っておりました……

5/14/2023, 12:06:53 AM

「『おうち時間にやりたいこと』、大半が『やりたいこと』止まりで実行に移せてない説」
かく言う俺が実際そうなんだわ。某所在住物書きは素直に白状し、手元のメモ帳を見た。
「筋トレ」、「読書」、「積みゲー消化」等々。
達成できたものより手つかずの項目が多く並べられた紙切れの字は、お世辞にも、綺麗とは言えない。
「……今からでも何かやるか?」
ダイエットくらいはできそう。呟く物書きはそのくせして、相変わらずポテチとチョコをつまんでいる。

――――――

毎日配信のお題を、持ちネタである3〜4個の物語のテンプレに落とし込み、ひとつの大筋として編み上げる。そんなスタイルの中の、おはなしのひとつ。
いつ回収されるとも、そもそも実際に回収できるかも分からぬ、以下は未来のお題へ向けた伏線です。

最近最近の都内某所。昨今のコロナ禍で空いた時間を利用して、人探しをする者がおりました。
それは、8年前突然失踪した、初恋の次に恋したひと。田舎出身という同い年。
話題が花やら心理学やら、堅苦しいネタばかりだったものの、以降3回恋した中で、最も誠実で、真面目で、自分に多くを捧げてくれたひとでした。
そこに気付くのがあまりにも遅かった。

「なんで見つからないんだろう」
在宅勤務の休憩時間、呟きアカウントを開いては人探しのハッシュタグを見たり、ウェブ検索にポンポン打ち込んだり。
「会いたい。もう一度、会いたいのに」
失踪当初、探偵に依頼も出しましたが、頼った事務所が悪かったか、そのひとを撮った写真が一枚も無かったせいか、足取りは掴めず調査も打ち切り。
以降、いつか本人の呟きアカウントに行き当たることを願って、あるいはどこかでバッタリ顔を合わせることを祈って、
再会と再縁を強く求め始めた3年前から、おうち時間をそのひとの捜索に割いてきました。
「附子山さん……」

珍しい名字のひとでした。
堅苦しい話ばかりの、不器用なひとでした。
「面白くない」、「解釈不一致」、「あいつ頭おかしい」。あまりの人付き合いの下手っぷりを、呟きアプリの別垢で愚痴ったこともありました。
よもやそれがバレたか、まさか。
不器用な生真面目は突然姿を消して、二度と、会うことがありませんでした。
グループチャットは退会済み。電話も解約したらしく不通。住んでいたアパートはもぬけの殻。
珍しい名字です。どうせすぐ足がつくだろうと、探して挫折して、あれから8年経過しました。

「もう一度、今度こそ、最初からやり直したい」
なんだかんだで、あのひとが一番無難で、一番正直だった。
短い短い恋を思い出しながら、今日もそのひとは、おうち時間でかつての恋人を探すのでした。

5/13/2023, 2:45:35 AM

「『子供のまま』。『ネオテニー』って単語を、昔々調べたことがあるわ」
きっかけは約20年前の某かくれんぼゲーム。SじゃなくAの、1作目な。某所在住物書きは過去を懐かしみ、カタカナ5文字を20年越しに再検索する。
「姿が子供のままで、大人になること、だったか」
アレじゃね?リアル見た目は子供頭脳は大人みたいな。正確には違うけど。物書きはクルリ振り返り、
「身に覚えが無いでもない」
積みゲーの2本をジト目で見つめた。

――――――

「子供のままで」。子供のまま「で良い」のか、子供のまま「ではいけない」のか。はたまた「自分は/彼は/彼女は」子供のまま「です」なのか。考えれば色々、幅の広がりそうなお題ですね。
こんなおはなしはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某アパートに住む、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者には、ひとりだけ、職場に3歳年上の、宇曽野という友人がおりました。
1年目に新人と教育係の立ち位置で知り合い、かれこれアレソレどったバッタ、色々ありました13年間。
今は部署も離ればなれですが、たまに会って話をして、時折ギャンギャン、喧嘩などしておるのでした。

「はぁ、疲れた!」
今日も何やらひと悶着、あってからの帰宅の様子。漫画かアニメのそれのように、顎に冷湿布を貼ったり、おでこにバッテン絆創膏をつけたり。
「後で謝っておかないと」
にしても何故私と宇曽野は喧嘩したんだったか。
片や体格差と力量でポコポコしてくる宇曽野、片や相手の力を利用してポンポン投げ飛ばす捻くれ者。
いっぱい体を動かして、体も心もお互いスッキリ。
おかげで何故ポコり、何故ドッタバッタしていたのか、経緯こそ記憶が有れど、何故あんな烈火のごとく互いに互いを怒ったのか、程度の意味がサッパリ。
どうせ、しょうもない何かでしょう。
どうせ些細な何かでしょう。
まるで心が子供のまま大人になってしまったような、純粋で、はたから見れば微笑ましい程度の、小さな小さな何かだったのでしょう。

『無事か?』
ピロン。ベッドで寝転がっていた捻くれ者のスマホに、グループチャットのメッセージが届きました。
『無駄に強く殴った。酷い怪我になってないか』
それはさっき喧嘩をしていた、宇曽野からでした。
何か思うところがあって、彼の方から先に、謝罪を送ってきたようです。

気にするな。私の方も悪かった。すまない。
と、ポンポン文章を編集していた捻くれ者。ですが送信一歩手前で、全消しして、打ち直して。
素直にごめんで良いものを、ついつい、捻くれた文章を、送り返してしまうのでした。

『私の絆創膏代と湿布代そっちの経費で落ちるか?』
『じゃあ俺の方の入院代はお前持ちだな?』
『そこまで強く投げた覚えはないぞ』
『実は今救急車の中で。娘も嫁も泣いてて』
『はいはいウソ野ジョーク』
『バレたか』

ピロン、ピロン。その後もあと少しだけ、ちょっと子供のまんまなふたりのメッセージ合戦は、続くったら、続くのでした。

5/12/2023, 4:25:42 AM

「前回は3月11日あたりの『愛と平和』だった」
恋と愛、ちょこちょこお題で見かける説。某所在住物書きは過去の投稿記事をスマホ画面で辿っている。
世間いわく「愛情ホルモン」のオキシトシンネタは、3月7日の「絆」の投稿で使っちまってるしなぁ。物書きは頭をかき、天井を見上げた。
「愛、……あい……?」
頭の固さに見合わず、捻くれてエモい題目にゼロエモで対抗しようとしている物書き。
今日も相変わらず途方に暮れ、ネタを探す。

――――――

職場で一番の体育会系、隣部署の田井伊久課長が、某ゲーム休暇をとった。
仕事のミスを指摘するとき、そのミスのデカさに比例して、最終的にフロアいっぱいにそこそこの音量で、
お前はお客様への愛が足りない!
なんて叫ぶ課長。その割に面倒見が良いから、嫌うひとは嫌うけど、そこそこ慕ってるひとも多い。

隣部署情報だと、同部署で、同じゲーム予約した人の引換券を任意で預かって、代わりに受け取ってきて、終業時刻前に、職場に届けてくれる予定とのこと。
代金も後払い先払い選択可。なんなら次の給料日まで待ってくれるとか。
なにその有能上司ウチと代わって(なお体育会系)

「タイイクのアンチ、さっそく『客への愛が足りない』とか『仕事への愛が足りない』とか言ってる」
そんな職場の昼休憩。
ゲームもアニメもドラマも範囲外の先輩と一緒に、休憩室のテーブルで、お弁当広げてコーヒー置いて。
テレビモニターでは、マイナカード保険証がどうとか、別人の情報とどうとか、入力ミス云々かんぬん。
タイイク課長が観れば、それこそフロアいっぱいに「仕事への愛が足りない」ってクソデカボイスで叫びそうなニュースが報道されてる。

「愛ねぇ……」
自称人間嫌いの先輩は、愛なんてオキシトシンと報酬系と、なんとかかんとかな脳科学派。
「私にその話題は悪手だぞ。ただでさえ『愛の足りない』職場で、素人の、いわゆる『愛情ホルモン』豆知識など。もう聞き飽きただろう」
つんつんつん。スープジャーの中の肉だんごを突っつきながら、先輩が言った。

「じゃあ『そこに愛は』の話でもする?」
「なんだそれ」
「ドラマ観なくてたって、CMは分かるでしょ」
「ネタは推測できる。だが、何故その話を?」
「なんとなく。先輩生真面目だからイジると可愛い」
「はぁ……」

イジると可愛いって。私は愛玩動物じゃないぞ。
つんつんつん。肉だんごを突っつく先輩は、困ってるような少しあきれたような顔で、ともかく、小さなため息を吐いた。

「ポチ、お手!」
「拒否」
「ポチおかわり!砂糖5個とミルク!」
「糖質過多。2個だ」

5/11/2023, 12:30:36 AM

「生物植物系少なめなこのアプリとしては珍しい」
3月からアプリ入れてるが、今まで生物植物ネタっつったら4月17日付近の「桜散る」程度だし。
某所在住物書きはスマホの画面を指で流しながら、過去出題分の題目を確認している。
「どうハナシに組み込もうかねぇ。第一印象としては無難に『あっ、蝶々』だろうが、他は蝶柄の小物とか、『バタフライ』エフェクト?」
モンシロだと思ったら別の蝶だった、なんてのもアリかねぇ。物書きはメモ帳アプリを開き……

――――――

今朝は酷い地震があったようですね。皆様いかがお過ごしでしょうか。今日は今朝の揺れとモンシロチョウを、ひとつふたつ、テーマにしたおはなしです。
都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、ひとに化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしていて、その内末っ子の子狐は、星とお花とキレイな物が大好き。
ふかふかお布団にふかふか枕、お気に入りの小さな宝箱と一緒に、今朝もすーすー、寝ておりました。
ところが例の、4時16分。床がトンと跳ねました。

「地震だ、じしんだ!」
夢の中で母狐自慢のおいなりさんを、もう少しでパックリ食べられる筈だった子狐。突然揺れて、起こされて、びっくり。ぐるぐる部屋の中を走り回ります。
「どうしよう!どうするんだっけ?!」
机の下に隠れましょう、頭をひとまず守りましょう。コンコン子狐、いっちょまえに人間の言葉は話せるものの、狐なので、避難訓練の習慣がありません。
揺れがおさまってからもぐるぐるぐる。しばらくの間、子狐は部屋の中を走り回っておりました。

『あら、ご無事?』
子狐の部屋の窓から、1匹のモンシロチョウが、ヒラヒラ入ってきて言いました。
『そんなに走り回っては、落ちてくる物に頭をぶつけるし、きっと転んでしまうわ。落ち着かなきゃ』
ヒラヒラヒラ。モンシロチョウは子狐の、小ちゃなおはなに下りてきて、羽を広げて言いました。
「チョウチョさんが、しゃべってる」
自分のことは棚に上げて、コンコン子狐、白い羽をキラキラおめめで見つめました。

『怖い裂け目に吸い込まれて、別の世界から落ちてきたの。その矢先の地震だから、踏んだり蹴ったりね』
「チョウチョさん、踏んだり蹴ったりしたら、死んじゃうよ。危ないよ」
『そういう意味じゃないの。あなた、さては「蝶よ花よ」なんかも言葉そのまんまで受け取るタイプね。
いいわ。蝶は不死と復活、開放の象徴。少しだけ、あなたを無知の束縛から開放してあげましょう』

まず地震が起きる理由、それから揺れた時に起こり得る事故。なるべく日頃から準備をしておくべき根拠。
私も昔々、とても大きな揺れに巻き込まれてね。
息子はすごく大きくなって、「被災者を一人でも救いたい」って、今救助隊をしているのよ。
父狐が子狐の部屋にやって来て、モンシロチョウを美しい虫かごに入れ、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』と書かれた黒穴に送り出すまで、
子狐は言葉を話すモンシロチョウから、地震と防災、それから歴史のおはなしを、時折居眠りしながらも、お行儀よく、聞いておりました。

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