かたいなか

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「『おうち時間にやりたいこと』、大半が『やりたいこと』止まりで実行に移せてない説」
かく言う俺が実際そうなんだわ。某所在住物書きは素直に白状し、手元のメモ帳を見た。
「筋トレ」、「読書」、「積みゲー消化」等々。
達成できたものより手つかずの項目が多く並べられた紙切れの字は、お世辞にも、綺麗とは言えない。
「……今からでも何かやるか?」
ダイエットくらいはできそう。呟く物書きはそのくせして、相変わらずポテチとチョコをつまんでいる。

――――――

毎日配信のお題を、持ちネタである3〜4個の物語のテンプレに落とし込み、ひとつの大筋として編み上げる。そんなスタイルの中の、おはなしのひとつ。
いつ回収されるとも、そもそも実際に回収できるかも分からぬ、以下は未来のお題へ向けた伏線です。

最近最近の都内某所。昨今のコロナ禍で空いた時間を利用して、人探しをする者がおりました。
それは、8年前突然失踪した、初恋の次に恋したひと。田舎出身という同い年。
話題が花やら心理学やら、堅苦しいネタばかりだったものの、以降3回恋した中で、最も誠実で、真面目で、自分に多くを捧げてくれたひとでした。
そこに気付くのがあまりにも遅かった。

「なんで見つからないんだろう」
在宅勤務の休憩時間、呟きアカウントを開いては人探しのハッシュタグを見たり、ウェブ検索にポンポン打ち込んだり。
「会いたい。もう一度、会いたいのに」
失踪当初、探偵に依頼も出しましたが、頼った事務所が悪かったか、そのひとを撮った写真が一枚も無かったせいか、足取りは掴めず調査も打ち切り。
以降、いつか本人の呟きアカウントに行き当たることを願って、あるいはどこかでバッタリ顔を合わせることを祈って、
再会と再縁を強く求め始めた3年前から、おうち時間をそのひとの捜索に割いてきました。
「附子山さん……」

珍しい名字のひとでした。
堅苦しい話ばかりの、不器用なひとでした。
「面白くない」、「解釈不一致」、「あいつ頭おかしい」。あまりの人付き合いの下手っぷりを、呟きアプリの別垢で愚痴ったこともありました。
よもやそれがバレたか、まさか。
不器用な生真面目は突然姿を消して、二度と、会うことがありませんでした。
グループチャットは退会済み。電話も解約したらしく不通。住んでいたアパートはもぬけの殻。
珍しい名字です。どうせすぐ足がつくだろうと、探して挫折して、あれから8年経過しました。

「もう一度、今度こそ、最初からやり直したい」
なんだかんだで、あのひとが一番無難で、一番正直だった。
短い短い恋を思い出しながら、今日もそのひとは、おうち時間でかつての恋人を探すのでした。

5/14/2023, 12:06:53 AM