かたいなか

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「『子供のまま』。『ネオテニー』って単語を、昔々調べたことがあるわ」
きっかけは約20年前の某かくれんぼゲーム。SじゃなくAの、1作目な。某所在住物書きは過去を懐かしみ、カタカナ5文字を20年越しに再検索する。
「姿が子供のままで、大人になること、だったか」
アレじゃね?リアル見た目は子供頭脳は大人みたいな。正確には違うけど。物書きはクルリ振り返り、
「身に覚えが無いでもない」
積みゲーの2本をジト目で見つめた。

――――――

「子供のままで」。子供のまま「で良い」のか、子供のまま「ではいけない」のか。はたまた「自分は/彼は/彼女は」子供のまま「です」なのか。考えれば色々、幅の広がりそうなお題ですね。
こんなおはなしはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某アパートに住む、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者には、ひとりだけ、職場に3歳年上の、宇曽野という友人がおりました。
1年目に新人と教育係の立ち位置で知り合い、かれこれアレソレどったバッタ、色々ありました13年間。
今は部署も離ればなれですが、たまに会って話をして、時折ギャンギャン、喧嘩などしておるのでした。

「はぁ、疲れた!」
今日も何やらひと悶着、あってからの帰宅の様子。漫画かアニメのそれのように、顎に冷湿布を貼ったり、おでこにバッテン絆創膏をつけたり。
「後で謝っておかないと」
にしても何故私と宇曽野は喧嘩したんだったか。
片や体格差と力量でポコポコしてくる宇曽野、片や相手の力を利用してポンポン投げ飛ばす捻くれ者。
いっぱい体を動かして、体も心もお互いスッキリ。
おかげで何故ポコり、何故ドッタバッタしていたのか、経緯こそ記憶が有れど、何故あんな烈火のごとく互いに互いを怒ったのか、程度の意味がサッパリ。
どうせ、しょうもない何かでしょう。
どうせ些細な何かでしょう。
まるで心が子供のまま大人になってしまったような、純粋で、はたから見れば微笑ましい程度の、小さな小さな何かだったのでしょう。

『無事か?』
ピロン。ベッドで寝転がっていた捻くれ者のスマホに、グループチャットのメッセージが届きました。
『無駄に強く殴った。酷い怪我になってないか』
それはさっき喧嘩をしていた、宇曽野からでした。
何か思うところがあって、彼の方から先に、謝罪を送ってきたようです。

気にするな。私の方も悪かった。すまない。
と、ポンポン文章を編集していた捻くれ者。ですが送信一歩手前で、全消しして、打ち直して。
素直にごめんで良いものを、ついつい、捻くれた文章を、送り返してしまうのでした。

『私の絆創膏代と湿布代そっちの経費で落ちるか?』
『じゃあ俺の方の入院代はお前持ちだな?』
『そこまで強く投げた覚えはないぞ』
『実は今救急車の中で。娘も嫁も泣いてて』
『はいはいウソ野ジョーク』
『バレたか』

ピロン、ピロン。その後もあと少しだけ、ちょっと子供のまんまなふたりのメッセージ合戦は、続くったら、続くのでした。

5/13/2023, 2:45:35 AM