かたいなか

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5/13/2023, 2:45:35 AM

「『子供のまま』。『ネオテニー』って単語を、昔々調べたことがあるわ」
きっかけは約20年前の某かくれんぼゲーム。SじゃなくAの、1作目な。某所在住物書きは過去を懐かしみ、カタカナ5文字を20年越しに再検索する。
「姿が子供のままで、大人になること、だったか」
アレじゃね?リアル見た目は子供頭脳は大人みたいな。正確には違うけど。物書きはクルリ振り返り、
「身に覚えが無いでもない」
積みゲーの2本をジト目で見つめた。

――――――

「子供のままで」。子供のまま「で良い」のか、子供のまま「ではいけない」のか。はたまた「自分は/彼は/彼女は」子供のまま「です」なのか。考えれば色々、幅の広がりそうなお題ですね。
こんなおはなしはどうでしょう。

最近最近の都内某所、某アパートに住む、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者には、ひとりだけ、職場に3歳年上の、宇曽野という友人がおりました。
1年目に新人と教育係の立ち位置で知り合い、かれこれアレソレどったバッタ、色々ありました13年間。
今は部署も離ればなれですが、たまに会って話をして、時折ギャンギャン、喧嘩などしておるのでした。

「はぁ、疲れた!」
今日も何やらひと悶着、あってからの帰宅の様子。漫画かアニメのそれのように、顎に冷湿布を貼ったり、おでこにバッテン絆創膏をつけたり。
「後で謝っておかないと」
にしても何故私と宇曽野は喧嘩したんだったか。
片や体格差と力量でポコポコしてくる宇曽野、片や相手の力を利用してポンポン投げ飛ばす捻くれ者。
いっぱい体を動かして、体も心もお互いスッキリ。
おかげで何故ポコり、何故ドッタバッタしていたのか、経緯こそ記憶が有れど、何故あんな烈火のごとく互いに互いを怒ったのか、程度の意味がサッパリ。
どうせ、しょうもない何かでしょう。
どうせ些細な何かでしょう。
まるで心が子供のまま大人になってしまったような、純粋で、はたから見れば微笑ましい程度の、小さな小さな何かだったのでしょう。

『無事か?』
ピロン。ベッドで寝転がっていた捻くれ者のスマホに、グループチャットのメッセージが届きました。
『無駄に強く殴った。酷い怪我になってないか』
それはさっき喧嘩をしていた、宇曽野からでした。
何か思うところがあって、彼の方から先に、謝罪を送ってきたようです。

気にするな。私の方も悪かった。すまない。
と、ポンポン文章を編集していた捻くれ者。ですが送信一歩手前で、全消しして、打ち直して。
素直にごめんで良いものを、ついつい、捻くれた文章を、送り返してしまうのでした。

『私の絆創膏代と湿布代そっちの経費で落ちるか?』
『じゃあ俺の方の入院代はお前持ちだな?』
『そこまで強く投げた覚えはないぞ』
『実は今救急車の中で。娘も嫁も泣いてて』
『はいはいウソ野ジョーク』
『バレたか』

ピロン、ピロン。その後もあと少しだけ、ちょっと子供のまんまなふたりのメッセージ合戦は、続くったら、続くのでした。

5/12/2023, 4:25:42 AM

「前回は3月11日あたりの『愛と平和』だった」
恋と愛、ちょこちょこお題で見かける説。某所在住物書きは過去の投稿記事をスマホ画面で辿っている。
世間いわく「愛情ホルモン」のオキシトシンネタは、3月7日の「絆」の投稿で使っちまってるしなぁ。物書きは頭をかき、天井を見上げた。
「愛、……あい……?」
頭の固さに見合わず、捻くれてエモい題目にゼロエモで対抗しようとしている物書き。
今日も相変わらず途方に暮れ、ネタを探す。

――――――

職場で一番の体育会系、隣部署の田井伊久課長が、某ゲーム休暇をとった。
仕事のミスを指摘するとき、そのミスのデカさに比例して、最終的にフロアいっぱいにそこそこの音量で、
お前はお客様への愛が足りない!
なんて叫ぶ課長。その割に面倒見が良いから、嫌うひとは嫌うけど、そこそこ慕ってるひとも多い。

隣部署情報だと、同部署で、同じゲーム予約した人の引換券を任意で預かって、代わりに受け取ってきて、終業時刻前に、職場に届けてくれる予定とのこと。
代金も後払い先払い選択可。なんなら次の給料日まで待ってくれるとか。
なにその有能上司ウチと代わって(なお体育会系)

「タイイクのアンチ、さっそく『客への愛が足りない』とか『仕事への愛が足りない』とか言ってる」
そんな職場の昼休憩。
ゲームもアニメもドラマも範囲外の先輩と一緒に、休憩室のテーブルで、お弁当広げてコーヒー置いて。
テレビモニターでは、マイナカード保険証がどうとか、別人の情報とどうとか、入力ミス云々かんぬん。
タイイク課長が観れば、それこそフロアいっぱいに「仕事への愛が足りない」ってクソデカボイスで叫びそうなニュースが報道されてる。

「愛ねぇ……」
自称人間嫌いの先輩は、愛なんてオキシトシンと報酬系と、なんとかかんとかな脳科学派。
「私にその話題は悪手だぞ。ただでさえ『愛の足りない』職場で、素人の、いわゆる『愛情ホルモン』豆知識など。もう聞き飽きただろう」
つんつんつん。スープジャーの中の肉だんごを突っつきながら、先輩が言った。

「じゃあ『そこに愛は』の話でもする?」
「なんだそれ」
「ドラマ観なくてたって、CMは分かるでしょ」
「ネタは推測できる。だが、何故その話を?」
「なんとなく。先輩生真面目だからイジると可愛い」
「はぁ……」

イジると可愛いって。私は愛玩動物じゃないぞ。
つんつんつん。肉だんごを突っつく先輩は、困ってるような少しあきれたような顔で、ともかく、小さなため息を吐いた。

「ポチ、お手!」
「拒否」
「ポチおかわり!砂糖5個とミルク!」
「糖質過多。2個だ」

5/11/2023, 12:30:36 AM

「生物植物系少なめなこのアプリとしては珍しい」
3月からアプリ入れてるが、今まで生物植物ネタっつったら4月17日付近の「桜散る」程度だし。
某所在住物書きはスマホの画面を指で流しながら、過去出題分の題目を確認している。
「どうハナシに組み込もうかねぇ。第一印象としては無難に『あっ、蝶々』だろうが、他は蝶柄の小物とか、『バタフライ』エフェクト?」
モンシロだと思ったら別の蝶だった、なんてのもアリかねぇ。物書きはメモ帳アプリを開き……

――――――

今朝は酷い地震があったようですね。皆様いかがお過ごしでしょうか。今日は今朝の揺れとモンシロチョウを、ひとつふたつ、テーマにしたおはなしです。
都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、ひとに化ける妙技を持つ化け狐の末裔が暮らしていて、その内末っ子の子狐は、星とお花とキレイな物が大好き。
ふかふかお布団にふかふか枕、お気に入りの小さな宝箱と一緒に、今朝もすーすー、寝ておりました。
ところが例の、4時16分。床がトンと跳ねました。

「地震だ、じしんだ!」
夢の中で母狐自慢のおいなりさんを、もう少しでパックリ食べられる筈だった子狐。突然揺れて、起こされて、びっくり。ぐるぐる部屋の中を走り回ります。
「どうしよう!どうするんだっけ?!」
机の下に隠れましょう、頭をひとまず守りましょう。コンコン子狐、いっちょまえに人間の言葉は話せるものの、狐なので、避難訓練の習慣がありません。
揺れがおさまってからもぐるぐるぐる。しばらくの間、子狐は部屋の中を走り回っておりました。

『あら、ご無事?』
子狐の部屋の窓から、1匹のモンシロチョウが、ヒラヒラ入ってきて言いました。
『そんなに走り回っては、落ちてくる物に頭をぶつけるし、きっと転んでしまうわ。落ち着かなきゃ』
ヒラヒラヒラ。モンシロチョウは子狐の、小ちゃなおはなに下りてきて、羽を広げて言いました。
「チョウチョさんが、しゃべってる」
自分のことは棚に上げて、コンコン子狐、白い羽をキラキラおめめで見つめました。

『怖い裂け目に吸い込まれて、別の世界から落ちてきたの。その矢先の地震だから、踏んだり蹴ったりね』
「チョウチョさん、踏んだり蹴ったりしたら、死んじゃうよ。危ないよ」
『そういう意味じゃないの。あなた、さては「蝶よ花よ」なんかも言葉そのまんまで受け取るタイプね。
いいわ。蝶は不死と復活、開放の象徴。少しだけ、あなたを無知の束縛から開放してあげましょう』

まず地震が起きる理由、それから揺れた時に起こり得る事故。なるべく日頃から準備をしておくべき根拠。
私も昔々、とても大きな揺れに巻き込まれてね。
息子はすごく大きくなって、「被災者を一人でも救いたい」って、今救助隊をしているのよ。
父狐が子狐の部屋にやって来て、モンシロチョウを美しい虫かごに入れ、『世界線管理局 密入出・難民保護担当行き』と書かれた黒穴に送り出すまで、
子狐は言葉を話すモンシロチョウから、地震と防災、それから歴史のおはなしを、時折居眠りしながらも、お行儀よく、聞いておりました。

5/10/2023, 2:26:10 AM

「『忘れられない』。……わすれられないか」
コロナ禍初期、封鎖された公園と、一台も駐車場に車が無い大型ショッピングセンターは、強烈過ぎて今でも覚えてるわな。当時を想起する某所在住物書きは、茶を飲みチョコを口に放って、小さく息を吐いた。
「少なくとも2通りある気がすんの。
バチクソ強烈で消したくても頭から消えないか、
覚えて忘れそうになって再発して覚えて忘れそうになって再発してをずっと繰り返すか」
ガチャ爆死の事例は、前者後者双方あるだろな。物書きは唇を噛みしめ、忘れ得ぬ○万円の散財を思う。

――――――

忘れそうになった頃に思い出す香りがある。
職場の先輩のアパートで、先輩がたまに焚いてる香りだ。アロマポットみたいな焼き物から出る香りだ。
それが何か昔聞いたことがある。先輩は、ほうじ茶製造器と言いかけてすぐ、茶香炉、と言い直した。
キャンドルの熱で茶葉――主に緑茶の茶葉を温めて、ほうじ茶にするついでに香りが出るとか。
大抵甘くて、たまに甘くなくて、そのいずれも優しくて。要するにほうじ茶製造器だ。
先輩の家にご飯をたかりに、ゲホゲホ!……食事ついでに仕事の手伝いをしに行くと、数回に1回エンカウントするので、いつまでも覚えてる。
別に、嫌いでもない、穏やかな香りだ。

大抵その香りがする日は先輩低糖質スイーツとお茶出してくれるから、良い香りとして記憶してる。

「先輩今日茶香炉キメる予定無い?」
「『キメる』……?」
職場でクッタクタに疲れることがあったりすると、数回に1回、無性にあの香りを思い出す。
正確に言うならあの香りと先輩のご飯を。
「例の課長にゴマスリしてばっかりの、ゴマスリ係長から仕事丸投げされたの。頑張って終わらせたの」
多分、香りが優しくて、珍しいからだ。
ミントでもサンダルウッドでもない、グリーンティーのオイルともちょっと違う香りが、優しいからだ。
あと多分先輩の塩分&糖質控えめご飯が心と健康の味方だから。
「いつでもまず相談しろと、言っているだろう」
「先輩ゴマスリから別件押し付けられてるでしょ」
「それは、……まぁ。ごもっとも」

「私お肉とお野菜出すから。なんなら先輩の仕事手伝うから。今日茶香炉キメる予定無い?」
「肉も野菜もこっちにある。……少しだけ、こちらの案件を手伝ってもらえれば」
「やった先輩愛してる」

香って、覚えて、おぼろげになって忘れかけて、
また香って覚えて、おぼろげになる。たまにこっちから香りを迎えに行く。
それが繰り返される、先輩の部屋の茶香炉の香り。
「パスタと豚肉の何かと、実家から届いた根曲がり竹の予定だったが。変更のリクエストは?」
「ネマガリダケ?」
「ホイル焼きで、一味か七味にマヨネーズを」
「ねまがりだけ、いず、なに……?」
これからもきっと、思い出して忘れかけてが続くだろうから、多分いつまでも忘れられない、と思う。

5/8/2023, 2:59:13 PM

「真面目な話すると、一年後には、いい加減コロナ禍完全収束するか、特効薬だの治療薬だのがメッチャ行き渡って、インフル程度の怖さになってくれりゃあ、とは思うねぇ」
もしかして俺が不勉強なだけで、実はもう、そういうのしっかり確立してたりすんのかな。
19時のニュースを確認しながら、某所在住物書きは茶を飲み、チョコを舌にのせている。
「あとアレよ。なんかこう、宝くじ当たったりとか『コロナ頑張りました給付』で50万ポンとか、ガチャが最高レア大盤振る舞いとか」
特にガチャはな。大事よな。物書きは過去の爆死を想起し、唇を噛みしめた。
「……まぁ、ひとまず、前回投稿分に繋げて今日もハナシ書くか」

――――――

都内某所の某アパート。諸事情で人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、自分の部屋で次の仕事の整理と準備をしながら職場の後輩とのグループチャットに応じている。
室内には穏やかな茶香炉の香り。加熱された緑茶の茶葉の甘さが漂う。

『イングランドがエンデミックかも?だって』
ピロン。捻くれ者のスマホが、後輩からのメッセージの着信を告げた。
『向こうは80パー感染してて、日本40しか感染してなかったんだね。向こうヤバくない?エグいよ』
有名漫画のスタンプと一緒に送られてきたのは、その日報道されていた、新型コロナウイルスの動向に関するいち見解。
カキリ。捻くれ者が首を傾けると、小気味よく、骨が小さな音を立てた。

『今日のニュースを観たのか』
『みたみた。5類移行と決壊と、銀座の強盗』
『珍しいな?「ニュースどころかテレビ自体観ない」と言っていたのに?何故?』
『先輩観てるから最近観始めた〜』

先輩(わたし)が観ているから、観始めた?
キーボードを滑る手が止まる捻くれ者。
届いたメッセージをどう受け取り、どう返すべきか、目を細め唇に指を添え熟考している。
やがて2分3分経過した頃、再度首を傾けて、自信無さげに返信を編集し、
『「一年後」のための、ポイント稼ぎか?』
送信して、ガリガリ頭をかいた。

『そんなことをしなくても、来年お前も私も残っていれば、記憶に残っている限り善処する。安心しろ』
捻くれ者は今朝の職場で、後輩から妙な願いを託されていた。
「一年後故郷の林檎の花見に連れて行け」。
ゴールデンウィーク明けの通勤途中、知らぬ誰かが旅行で林檎の花を見に行って、その話を小耳に挟んだがために、
「自分も見たい」と、この後輩が、雪国の田舎在住である捻くれ者にダメ元で話したのが発端であった。
『なんなら「一年後」の先取りで、去年撮ったもので良ければ送ろうか?バラ科リンゴ属の花?』

『ポイント稼ぎ関係無いです〜
そんなんじゃないです〜』
私先輩ほど捻くれちゃいませーん。
即座に文章は既読され、秒の早さで返事が届く。
『でも貰えるなら画像ちょうだい(貪欲)
一年後の予習しとかなきゃ』

何に対するそれとも知れず、捻くれ者は浅い、小さなため息をひとつ吐き、送信用の画像選びをゆるゆると始めた。

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