「一応、自分の持ちネタとしてシリーズにしてるハナシに、『初恋で心ズッタズタにされた先輩』っつー設定仕込んであるキャラは居る」
なお俺の初恋は失恋でクソで、いつの間にか始まってブッツリ終わったので、初恋の「日々」は分かるが「初日」がいつかは知らん。
某所在住物書きは想起し、吐き捨てる。
「初期初期の初期からの伏線よ。初出は確か3月2日頃だったかな。」
2ヶ月前から仕込んでたネタだが、回収しようかな。それとも、もう少し引っ張れるかな。
うんうん悩む物書きは、ガリガリ頭をかいて息を吐き、天井を見上げて……
「ところでこのアプリ、次のお題ってまさか……」
――――――
「『一年後』?」
「うん。予約しときたい」
「何故?」
「今年はもう散ってそうだから」
世はゴールデンウィーク明け。呟きアプリは「仕事行きたくない」とか「雨で臨時休校」とか、「今日から5類」とか。
東京は別に、雨は降ってるけど警報級でもないから、普通に学校あるし仕事あるし。
私もダルい土日明けの体と心を引きずって、電車に乗ってバス乗って、ブラックに限りなく近いグレー企業な自分の職場に来た。
「呟きでバズってた青森県の桜見に行ったら、もう散ってて、かわりに林檎の花見てきた」ってアラサーかアラフォーあたりの話をチラ聞きして。
そういえば林檎の花、見たことないなって。
なお、あんまり関係無いかもだけど、10月30日は「初恋の日」で、島崎藤村の「初恋」の詩が元ネタで、その詩に何回も林檎が登場するらしい。
林檎の木の下で、恋する人と待ち合わせって。
大昔コレをネタに黒歴史書こうとしたけど挫折した。
「林檎……リンゴ……?」
職場の向かい側の席、数年一緒に仕事してる先輩は、偶然にも、詳細不明だけど雪国の田舎出身。
調べてみたら林檎は、生産量1位は言わずもがな、上位10位までを、雪国な道県が独占してるっぽい。
だから、先輩に今から予約をしておけば、きっとベストな花盛りがピンポイントで見られる。
そう考えて先輩に、「来年、故郷の林檎の花見連れてって」って。
軽い気持ちで、なんならぶっちゃけ拒否られても別に気にしないかなって。ちょっと言ってみたのだ。
「そう。林檎」
「私の故郷に林檎畑があると推理した過程は?」
「林檎の生産量で検索したら上位がほぼ雪国だった」
「それで?」
「先輩、どこか知らないけど、雪国出身ってのは聞いてたから。高確率で先輩の故郷は林檎生産地」
「はぁ、」
「なんなら10月30日でも良いよ。島崎藤村。林檎の木の下で待ち合わせ。『初恋の日』」
「はつこいのひ……?」
初恋の日って。なんだ突然。
スマホを取り出しポンポンポン、タップ&フリックし始めた先輩。十中八九、10月30日か初恋の日あたりで検索してるんだろう。
あるいは自分の故郷でちゃんと林檎畑があるかどうか、確認してくれてるとか。
「予約しといていい?林檎の花?来年?」
「私が来年もココでお前と働いていればな?あと忘れていなければ?」
目を点にして、素っ頓狂な表情で、それでも色々確認だけはしてくれるあたり、先輩って、やっぱり真面目だと思う。
「『明日世界が無くなる』って事実と、『世界を無くさず存続させてください』って願いが、どう衝突してバグるか見たい、ってのはある」
まぁそもそも願いが必ず叶うって確約されちゃいないだろうから、多分前者が普通に勝つんだろうけど。
某所在住物書きはポテチをつまみながら、今日の題目にどのような物語を装飾できるか、固い頭をなんとか働かせる努力を続けていた。
「ところでアプリの投稿、ブラウザで読めるのな」
話題急転。無論理由は、題目に対して良いネタが思いつかないからで……
――――――
雨降る週末にちょっとお似合いな、ブルーでちょいエモのおはなしです。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ、化け狐の末裔が暮らしており、その内の末っ子の子狐は、キラキラキレイなものが大好き。
不思議なお餅を売って得たお金で、コロコロビー玉を買ったり、チャリチャリおはじきを買ったり。
お気に入りの小さな宝箱を、美しいものでいっぱいにして、楽しんでおりました。
そんなある日。人間たちが定める大型連休最終日、雨降るちょっと寂しい日曜日のこと。
「今日で閉店なの」
雨音を聴きながら家の縁側でお昼寝していた子狐を、都内の某病院で漢方医として労働し納税している父狐が、起こしてお外に連れ出しました。
「客は減ったし、最近どこもカメラの目ばかりで」
父狐が連れてきたのは、今日を限りに店を畳むという大化け猫の駄菓子屋さん。
もう歳だから、いつ防犯カメラの前でうっかり化けの皮剥げちゃうか、怖くてねぇ。
穏やかに笑う、おばあちゃんに擬態した大化け猫は、しかし少しだけ寂しそう。
「明日には静かな、福島に向かう予定よ」
防犯用、スマホの標準装備、それらの普及。今や都内は、カメラの監視で溢れています。
少し化ければ拡散され、術を使えば晒される。
この大化け猫のように、肩身の狭い都会から、僅かでも秘匿と神秘の残る田舎へ、多くの物の怪が逃れてゆきました。
「フクシマ?ヘイテン?」
コンコン子狐、まだまだ子供なので、ヘイテンの意味が分かりません。
「明日来ても、ここでお菓子もビー玉も、買えなくなってしまうんだよ」
「あさっては?来週は?」
「明後日も来週も、買えないんだ。だから今日は、お前の好きなものを、全部貰っていきなさい。ととさんが買ってあげるから」
「好きなモノもらう!全部もらう!」
父狐が説明しても、ちんぷんかんぷん。「ととさんが、欲しいものを全部買ってくれる」その一点だけ、理解して、キラキラおめめを輝かせるのでした。
「明日で、ここはもう無くなってしまうけど、」
おはじきと、ビー玉と、ビーズと飴玉と金平糖。
「お元気で。悲しまないでね。たまに、『こんな場所があった』って、思い出して」
他にもたくさんカゴに詰めて、大満足のお会計。
「向こうで落ち着いたら、桃が有名らしいから、いっぱい送ってあげるわ」
大化け猫が頭を撫でてくれた、その手の優しさと温かさを、子狐はいつまでも、いつまでも多分、覚えておりました。
「個人的に、いつのタイミングで誰と出逢ったか、ここ意外と重要だと思うんだ」
ぼっち用鍋と出逢ってから、私はメシの幅が広がりました。小さなグリルパンで肉を焼いていた某所在住物書き。行儀悪くもスマホで見るのは、某防災アプリの地震発生タイムラインである。
「そこがひとつズレるだけで、人生なんざ簡単に崩れるしその逆も然り、じゃないかな、ってさ」
皆様、思い当たる節あるんじゃない?ふとした弾みの人生転落劇とか成功譚とか?物書きはニヤリ笑って、
「……ただそれを傑作に物語化できる頭が俺に無い」
設定構築、物語組立の面倒を避け、ひとまず前回投稿分の話を引き伸ばして、少々楽をすることに決めた。
――――――
昨日も昨日の都内でしたが、今日も今日な都内です。
すなわち最高28℃、最低だって19℃。ほぼ1日中夏日な土曜日です。
そんな都内某所、某アパートに、住んでいますは雪国の、田舎出身の独りぼっち。暑いのが大の苦手です。
職場のたったひとりの友人や、一緒に仕事をする後輩に、暑さ耐性マイナスがガッツリバレており、
今朝も、「仕事はバリバリ優秀なのに、炎天下ではデロンデロン」のギャップ見たさに、
友人の宇曽野が、アイスの手土産片手に、ぼっちの部屋を訪ねておりました。
「今年の冬は、帰省、」
「お前は連れて行かない」
「まだ何も言ってないだろう。俺はただ」
「どうせ、『またあの大量に積もった雪の上にダイブしたい』だろう。連れて行かない。せめて春にしろ」
「変わったな」
「頑固でケチになった?何を今更」
「違う。少し氷が溶けた」
「は?」
「『せめて春』。昔は駄目なら『駄目』一択だった」
ぱらり、ぱらり。バニラ味のミニカップアイスに一味を振りながら、友人が言いました。
「それが、『こっちなら許す』だろう。変わったよ」
きっかけは初恋からの、「あの」クソな失恋だな。友人はそう続けて、朱とクリーム色をかき混ぜました。
「恋して他人とのすり合わせを覚えて。その恋人に心ズタズタにされて。今まで順調に溶けてた氷が逆に分厚くなった頃、お前のとこの、あの後輩と出逢った」
「宇曽野、」
「あいつの教育係で面倒見て。振り回されて。助けて助けられて。たまにメシにも行ってるんだろう?」
「宇曽野。……何が言いたい?」
「あいつを大事にしてやれ。って話だ」
あの後輩は、きっとお前の「傷」をもう少し治せる。
手放すなよ。友人はそう結んで、アイスをひとくち。
辛さが足りなかったらしく、再度一味を振りました。
「私は、」
人間なんて皆自己中、優しさなんて物語の中だけの絵空事、が信条だった筈のぼっちですが、
「わたしは……、彼女と、出逢ってから、」
友人に言われた言葉が心の隅に引っかかり、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、具合が良くありません。
「かわった、のか?」
ただ即座に反論できないのが悶々で、黙々、友人が持ってきた手土産を、ミニカップアイスを、突っついてすくって、その過程で少し周囲が融けて、
黙々。なめらかな甘さを舌にのせ、喉に通しておりました。
「イイね!こういうお題こそ、抜け穴探しが楽しい」
前回に引き続き、長文の出題である。
曲解別解、揚げ足取りを大好物とする某所在住物書きは、新たな獲物に舌舐めずり。
今回はいかなる「違う、そうじゃない」を錬成し得るか、捕らぬ狸の皮算用的薄笑いを浮かべる。
「まぁ、まぁ。こういうのはまず、お題を丹念に確認して、強烈な第一印象を崩していくのが大事だ」
画面をスワイプ。通知画面の文章を再度確認する。
「何が未指定か。どれが曲解可能か。どの順序を逆にできるか。どこに別の文章を差し込めるか」
ただ、スラスラ書けるかっていうと、別なワケよ。
物書きは思考し、何も浮かばず、小さく息を吐いた。
――――――
雲が流れる空の下で、大地に寝転がり目を閉じる。
素直に読めばこの光景、少し捻くれてもこの設定。
そのことごとくを崩して捻って、逆にしたかっただけのおはなしです。
最近最近の都内某所。某アパートの一室へ、汗しっとり、意識朦朧一歩手前な部屋の主が、小さめの保冷バッグを片手に、命からがら帰ってきました。
「……あつい」
雪国の田舎出身、人間嫌いと寂しがり屋を併発したその捻くれ者は、帰ってきて早々、バッグの中身を、小さな冷蔵庫の冷凍室へ。
ガサガサガサ。それはサイダー味の氷菓子であり、バニラ味のミニカップアイスであり、小さめの棒アイスをチョコレートでコーティングした6本入りでした。
令和5年5月5日。東京は最高気温が27℃予報。
それは捻くれ者の故郷の、7〜8月相当です。
「向こうは明日17℃か……」
スマホで天気予報を見れば、上は10℃、下も8℃低い5月の故郷。きっと今頃、ようやく公園でアケビの花が、林道でぽつぽつガマズミの仲間が、道端ではオダマキの紫色が、咲き始めている頃でしょう。
目を閉じて、捻くれ者は思い浮かべます。
花と山野草溢れる街。コロナ禍前、最後に帰省したのは2019年。職場の隣部署の友人が「観光したい」と強引にゴネたので、実家に連れて行きました。
そうだ。あれは風だけ強い、冬の晴れた夜のこと。
最大瞬間風速30mで視界を奪う地吹雪と、地上の惨事も意に介さぬ満月の、対比を珍しがった友人が、
外に出て、
寒さと風の強さと夜空の美しさに叫び、
庭に広がる雪積もる大地にダイブして寝転がって、
その間雲は月光に照らされ、風に流れてゆきました。
結果友人は寒さで歯も指も震え、即座に捻くれ者が沸かしておいた、ちょっとぬるま湯なお風呂の中へ。
『さむいな』
『当たり前だ!今外気温何度だと思ってる、マイナス5℃だぞ、マイナス5℃!』
『ぱうだーすのーだった』
『だろうな!昨日の最低が最低だったから!』
それらすべてを、明るい月と流れる雲が、空から見守っておりました。
「……」
そういえば同部署の後輩が先日「先輩の故郷に行ってみたい」と言っていた。
「春にしよう。冬は駄目だ」
首を横に振る捻くれ者。きっとあの後輩も、氷点下の雪原にダイブする人種です。
帰省への同行は断固お断りで、最悪強引にゴネられても、冬の観光は絶対に阻止しよう。4年前の積雪の大地の記憶に、捻くれ者は固く、かたく誓うのでした。
「第一印象を、いかに崩すか。そのお題に何個別解釈を用意できるか。最近心がけてるわな」
つまるところ、「ありがとうを伝えたかった対象Aが居る」と、「文章Bは、Aを思い浮かべて紡いだ言葉Cを内包している」が満たされていれば、
文章Bは対象A本人である必要は無いし、言葉Cは「ありがとう」そのものでなくても良い。
よって感謝成分少なめのC≠Aが執筆可能である。
題目の、重箱の隅を数時間突っつき続けた某所在住物書き。辿り着いた歪曲解釈は、出題者に「違う、そうじゃない」と頭を抱えさせるかもしれなかった。
「つまり感謝を伝えたかった職場の先輩を思い浮かべて山菜蕎麦のハナシを書くことができる」
具体例をご覧頂こう。物書きは、捻くれた笑顔で文章(ことば)を紡ぎ始め……
――――――
職場に、ロクにありがとうを伝えられてないけど、仕事でしょっちゅう助けられてる先輩がいる。
先々月が特に、だった。今は別部署に飛ばされてるけど、当時のオツボネ係長に、私は仕事の重大ミスの責任を全部押し付けられたことがあった。
あの時そばに居て、話を聞いてくれたのが、雪国の田舎出身だという先輩だった。
その先輩の故郷では、今街のあちこちで山菜が大量に顔を出してるという。
山の中じゃない。林の中でもない。庭の中、公園の片隅、道路に少しある土の上。ありとあらゆる場所で、山菜が顔を出してるという。
どんな状況?って聞いてみた。「地元スーパーの駐車場にフキの群生が、公園の原っぱにアサツキの草原が、川の土手一面に菜の花畑があるのに、誰ひとりそれを採っていかない状況」って言われた。
よく分かんない。
なお公園に生えてるギョウジャニンニクとカタクリとアマドコロは、誰かが毎年毎年ごっそり採るせいで、増えず、下手すれば数が減ってるかもしれないとか。
山菜ごっそり独り占めで採ってくやつは、特定されて晒されて大炎上すれば良いと思う。
いいな私もタダで山菜採って山菜蕎麦食べたい。
フキ、フキノトウ、ワラビ、アサツキ、タラの芽。
東京のスーパーに並ぶ山菜はすごく高いけど、その山菜のパックを見かけるたび、
ロクにありがとうを伝えてなかった先輩の故郷っていう、どの都道府県とも知れない雪国の、きっと道端にポツンと生えてるであろう小さなフキやワラビなんかを、それに手を伸ばし優しく触れる先輩を、解像度低めで思い浮かべてる。
いいなぁ。私も公園で山菜採りしたい。それでフキの肉詰めとかワラビの辛子醤油和えとか、山菜蕎麦とか自分で作って食べたい。
なんてヨダレじゅるりしながら。